The Heart of The Matter

佐賀大学医学部国際医療学講座臨床感染症学分野 青木教授のコラム

Japan Society for Medical English Education


7月19日、20日に東京で開催された第17回日本医学英語教育学会学術集会(17th  JASMEE Academic Meeting)に参加し、「語学教育と専門教育との統合」のセッションで佐賀大学医学部でのPBLとEMPのコンビネーション教育について20分間の発表を行いました。「HarrisonやMandelなどの教科書を日頃から読み,自ら知識体系を発展させることのできる医師を多く育てたいこと、そのためには学生と教師がそれぞれの立場で何をしなければいけないか」と言う持論を、佐賀の教育システムや自身の教育資材(EMP)を紹介しながら述べました。二年前にもこの学会に参加(発表なし)しましたが、本会の出席者は医学部での英語教育に関わる語学専門の先生およびnative speakerの方々が大半なので、流石に今回は英語発表の原稿(notes)を前夜に書いてから臨みました。

発表後の会場や懇親会で、多くの先生方から質問を受けました。Tajima and Associates・Hiroko Tina Tajima先生、北海道薬科大学・梅田純代先生、浜松医科大学・Christine Kuramoto先生、島根大学・岩田淳先生、岡山大学・片岡英樹先生、徳島大学・Bukasa Kalubi先生,東京歯科大学・柴家嘉明先生、日本大学・押味貴之先生、Daniel Salcedo先生、愛知医科大学・山森孝彦先生、久留友紀子先生、等、皆さん医学生の教育を真剣に考えていらっしゃる方ばかりで感銘を受けました。来年第18回のJASEMEE  Academic Meeting をご開催になる岡山大学脳外科の伊達勲教授および黒住和彦先生にもご挨拶を差し上げ、お話をさせて頂きました。

感染症・化学療法は後進育成も含めた自分の最重要の領域ですが、後進の教育をどのように行うかというdiscussionを非常に大切にするJASMEEの学術集会も、自らの足場として行きたいと思います。

 

An adverse reaction to a medication given to treat an adverse reaction. A teachable moment. JAMA 174, 1035,2014

咽頭

 COPDを有する70歳の女性が気管支肺炎のため入院加療中に心房細動を発症しました。Class III 抗不整脈剤であるsotalolを投与されましたが、気分不快(詳細不明)のため同系薬のamiodaroneに変更され,継続されました。二年後、易疲労感と体重減少を認め、甲状腺機能亢進症と診断され,amiodaroneの副作用と考えられました。このため、メルカゾール30mgの投与が開始されたものの、一月後も症状に改善がないため60mgに増量されました。更にその二か月後、高熱と咽頭痛で再度受診し、今度はメルカゾールによる無顆粒球症と診断されました。

アミオダロンの副作用としての甲状腺機能亢進症を治療するために投与されたメルカゾールによる無顆粒球症の発症である訳ですが、このarticleでは頻拍性心房細動の治療について以下のように考察されています:

「アミオダロンはrhythm controlのために投与されたが、不整脈による生命予後は本法と変わらないrate controlをまず試みるべきであった。COPDがあるためβブロッカーは使用しにくいかも知れないが、アミオダロンよりは副作用の少ない心選択的β遮断薬、あるいはカルシウムチャンネル阻害剤を用いることもできたのではないか。副反応の対価を払ってrhythm controlを選択することの妥当性の検証が足りなったことが、結果として無顆粒球症に繋がった」

10年程前に甲状腺機能亢進症に対して投与されたメルカゾールにより無顆粒球症となり、緑膿菌血症を発症して入院した40歳代の女性患者さんを診療した経験があります。この患者さんのhyperthyroidismは確かBasedow病であったと記憶していますが、本事例は感染症の患者を診る場合に、その発症に至った要因を可能な限り遡ることが大切であることを教えてくれます。

drug
投薬の連鎖によると考えられる
28歳の重症感染症の患者さんを最近経験しました。僧房弁の感染性心内膜炎で原因菌はHACEK groupの菌でした。歯科治療の既往がありましたが、経緯を調べると、二次性高血圧に対して長期投与されていたnifedipineの副反応による歯肉腫脹があり、このために歯周囲炎を来し歯科治療に通っていらっしゃいました。教科書で読んだことはありましたが、ニフェジピンで歯肉腫脹を来した(結果としてIEを発症した)患者さんは初めて経験しました。

 今回のJAMAreportは、薬剤を投与する際には惹起される可能性のある重篤な副反応を考慮すること、目前の患者さんの疾患の上流には除去可能な何らかの原因が潜んでいないか考えてみること、の二つの点を認識させてくれました。

=文責:青木洋介=


8月25日,NHKSuperpresentationでスタンフォード大学医学部のDr. Abraham Vergheseによる“A doctor’s touch”を視聴しました。このTED (Technology Entertainment Designというグループ名)talk自体は2011年7月に収録された模様ですので,早2年以上前のpresentationになります。しかし,診療と臨床教育に携わる医師には必見のメッセージです。

「(ITが縦横無尽に駆使される現在,)臨床のカンファレンスはPC(電子カルテ)の中の患者について熱心なdiscussionが行われるが,実際の生身の患者が構われることは少ない」ということが冒頭の事例を通じて紹介されていました。Dr. Verghese(カタカタ読みをすればバルギーズ)は電子カルテ上の患者のことをi-patient(icon-patientの略です)と呼んでいたのが印象的です。

乳癌治療のために紹介された高度先進医療センターから紹介元の病院への通院に戻ってきた女性患者が,“あそこは素晴らしい医療センターです。大きな検査機械も,ロビーのピアノ演奏や院内コンシェルジュ(よろず承り係り)も何でも揃っているけど,誰も私の胸を触って診察してくれません”と言ったエピソードも紹介されていました。

“私はcutting-edgeの医療機器も使う医療機関の臨床医だが,医師が患者の着衣を脱がして診察を行うことは,現代医療においても最も重要である医師-患者間の儀式(ritual)である,儀式により,信頼関係が生まれるのみでなく,実際に患者と対面し,手を触れて診察することで(a doctor’s touch)病態把握が初めて可能になる”,と言っています。

“問診や診察もろくにしないで検査ばかりしていると,治すことでできる時に病気をみつけることもなく手遅れになる”という言葉も聞き逃してはいけません。

発熱があると速やかに全身CTを撮る,そのCT画像を見て,「膿瘍などの感染源は無い」とi-patientの診断を下すという事はどこの医療機関でも少なからず起きている事です。

We are lulled into inattention.(我々は実際の患者に無関心でいることを何とも思わなくなる)と言うDr. Vergheseの警鐘を胸に刻んでおこうと思いました。

20130830

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