2012年07月26日

『神の黒き恩寵の書』・8

庭の瓦礫に混ざり、神々の像が

横たわる。黒髪の少女よ――

お前の愛が捉えるものを並べ、

よく見てみるがよい。一体これらの

何が果たして、神の彫塑を越えて、

お前に安堵を与えるか。そうだ、

震えなければならぬ。目を見開いて。

 

あまりにも像が、白いということ、

そして大きさが、お前の黒い

逆十字を呑みこむ。それに目が、

あらゆる閉鎖を放とうとする。だが

夜が来る。それはあまりにも

甘く囁くのだ。死の恐怖と、

生の虚構を。お前は凛と強がり、

 

闇に隠れて泣いている。存在を。

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2012年05月20日

『神の黒き恩寵の書』・7

この空気の届く限りを、人々は

当然のように歩き回る。だが、

その内の火の存在を、

誰が意識し、呼吸のなかで

燃やすだろうか。今、全ての人は

閉じている。そして同じく世界の

扉を閉じ、自らを閉め出している。

 

そこに降りる心を、死者だけが

知っている。もしくは不具の者や、

あなたの形姿を追う者だけが。

それらは言葉を使わない。それらが

発する時、すると境のない

己が開かれ、心の真の音色が

反響する。しかし今、言葉は、

 

泥のようにわたしを塞ぐのです。

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2012年05月19日

『神の黒き恩寵の書』・6

いいえ、そこに、あなたはいます。過去、

ではなく、未来として。目に触れる

ものへ、少女は手を伸ばします。

しかしわたしが手を伸ばす時、

その背後には指があります。

あなたの指です。燃えるものへの(いざな)い、

そして零度への導きが。

 

あらゆる準備が呼吸を通ります。

不確かにして絶対の現実が、

世界という、あなたの檻なのです。

そこを、わたしの靴が踏みしめ、早朝の

青白い露を付けて帰宅します。

ですがこの、凝縮や遍在をあの少女()

笑うのです。傷みに爪を立て、

 

――全ては幻、あの木のように、と。



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2012年05月14日

『神の黒き恩寵の書』・5

涙が、草木(くさき)のざわめきを濡らします。

これはわたしの、いいえ、あなたの、いいえ、

人々のものなのです。だが誰も、

己の目から何が落ちているのか、

知る由もなく、また、知ろうともしない。

十字の秘蹟は遥かな話で、復活は、

もはや、ただの寓話なのです。今や!

 

わたしはそれでも、荒れ果てた庭を歩く。

かつて、あの少女()と、あなたを最も近く

感じた、この道を。遠く、人々は

忘れ去る。あなたの癒しや、時の

回し方、星々の畏敬も残酷も、

夢の向こうへ――少女は、

手に触れるものだけを、愛し、

 

残りは闇に渡す。生贄として。

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2012年05月10日

『神の黒き恩寵の書』・4

こんなにも、ああ、破壊が力強く!

あなたはやはり偉大でした。自然の

込めた輝きを、自然以上に純粋に、

この庭へ、投げかけたのですから。

しかし今、暴徒が押し寄せています。

あなたの教えとまなざしを、濁った

血のもとに、踏みにじる者達が。

 

空はいつまでも曇っています。雷鳴が、

あなたの声ならよかったのに。そして、

木が、あなたの木が、倒されます。

ああ、あの少女()まで、テラスに現れ、

――全て壊してしまいなさい。全て!

手には黒い逆十字。それを、

黒い唇で、赤い舌で、

 

舐めているのです、恍惚に!

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2012年05月06日

『神の黒き恩寵の書』・3

わたし達はどこへ行けば。大木の

滴る雨水(うすい)に羽を休める、そんな

蝶のように、不安と共にあれと?

知っています。あなたは決して、そう、

消えたわけではないのだと。それでも、

巷では騒ぎがあります。あなたは、

死んでしまったのだと。()()潰され。

 

この壁の向こう、耳の奥で、

あなたは今も、笑われる。ただ、

あなたの存在が、今はもう、

はるか彼方にあるのです。ああ、

この少女()を見て下さい。鳥や花の

彩りに、輝かせた目は、

ひとつの夜に留まり続け、すでに、

 

光を拒みはじめています――



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2012年05月05日

『神の黒き恩寵の書』・2

庭に立つ一本の木、風に

吹かれ、たわむれに笑う木、

かつてあなたが触れた幹、少女は、

世界に幕を降ろし、広間の奥に

座っている。長いまつ毛に隠れ、

あなたの手を、今でも思っている。

音が消える時、庭の、あの木!

 

夜が我がもの顔でやってくる。

わたしの灯す火は、揺れる願い。

だが、あの少女()に背を向け、夜を通す。

夜のビロードが床をすり、近付く。

――さあ、あなたの神は、いないのです。

差し出される手に触れて、冷たい

逆十字の黒い深淵を握る

 

少女、もはや、椅子から崩れ落ちて。



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2012年05月04日

『神の黒き恩寵の書』 1

ああ、あなたは行ってしまわれた。

どこへ? わたし達は見捨てられて。

正午の鐘が響く空へ、飛んで。

鉄の格子が光を浴びる。ここへ、

わたし達は繋がれて。お屋敷、

全ての財と、絡まる薔薇と、あなたの

不在、黒く波打つ逆十字。

 

しかし、わたしは追うのです。あなたの

残した光の数々、足跡、抱擁を。

不完全な一致があります。ここに、

わたしの筋肉が、真に震える

感覚の清澄、直感の黎明、そして、

この少女()の黒髪、黒い瞳が、今、

あなたの影に囚われ、赤い褥で、

 

静かに滅んでいくのです――



sai_bizarre at 07:23|PermalinkComments(0)TrackBack(0)