2012年05月

2012年05月26日

源氏物語の中の寝殿空間

先回に引き続きまして源氏物語の舞台となった寝殿はどんな空間であったのでしょうか。下記の平面図で説明いたします。寝殿の中心部分を母屋といい、寝室(塗籠 ぬりごめ)などがありプライバシーが最も強い生活空間であります。母屋を囲むように、その四方に庇という空間があります。この「庇」は今の庇と意味が違い、完全な内部です。いろいろな日常生活がされるところです。さらにその外側に簀子が取り巻きます。ここは屋根がありますが、壁がない外部空間です。
このように寝殿造りの内部空間は母屋、庇、簀子の三重構造になっています。そして、簀子と庇の境に格子(蔀戸 しとみど)があり、庇と母屋の境には襖障子があり開閉や施錠することができるようになっています。断面的に見ると奥に行くほど床が上がります。また各部の明るさは簀子が一番明るく、庇は少々暗く、母屋は大変暗い場所になります。
当時の寝殿の雰囲気を伝える例として、もうひとつ京都御所の清涼殿があります(下写真)。清涼殿は天皇が日常の生活をする場で、再建されたのは江戸時代ですが、平安時代のころから大きな変更なくつくられています。手前の簀子や庇のあたりは明るいが、中央に見える奥の方(母屋)は真っ暗です。
寝殿造りには、このように母屋、庇、簀子という三つの空間のグレード、つまり、空間的階層差が存在します。源氏物語の作者である紫式部はそれをたくみに利用し、男女関係の親密さをその空間のグレードに対応させて語っていきます。
たとえば光源氏などの男性からみれば、はじめは、女性をこっそりと外から垣間見ることから始まり、次は簀子で、その次は庇で、そして最後に母屋に入り込むということになります。そのあたりプロセスを情景描写も豊かに、品よく描いているのが、この源氏物語、ということでございます。参考図書 安原盛彦著「源氏物語空間読解」    つづく  才本

源氏物語平面図(家具なし)(300P)
御所 清涼殿IMG_3869(300P)




2012年05月18日

源氏物語の世界

今日は平安時代の貴族が過ごした住まいについてお話します。
紫式部日記絵詞(上の写真)の絵をみますと寝殿造りの外部の様子がわかります。手前にある外部の床を簀子(すのこ)といいます。そして内外を仕切るのが格子と呼び、このように上下に分かれ、上を回転で外に開き、下の部分を引き抜いて全開放できる扉を蔀戸(しとみど)といいます。
また源氏物語の「竹河」の段の絵(二枚目の写真)を見てください。屋根や天井や格子を一切取り去って、上からの視点で描いています。簀子と内部の間には御簾(みす)をおろして中があまり見通せないようにしています。
この二つの絵の雰囲気を現在に伝える建築が京都に残っています。以前ここで取り上げた宇治上神社の拝殿です(下の写真)。国宝であり世界遺産でもあります。建築年代は鎌倉時代の初期ですが、平安時代の住宅の雰囲気をもっています。
この拝殿と先程の源氏物語の「竹河」の絵は高欄などのディテールや、中央の扉が板戸でその他の扉を格子にしているところなど大変似ています。また御簾や几帳(きちょう)が置かれて、部屋の雰囲気も絵巻と大変よく似ています。
内側から御簾を通して外を見ると(下写真)、平安朝の室内の雰囲気が納得できます。 才本

紫式部日記2(300P)
竹河2-2(300P)
宇治上神社 内部2(300P)


2012年05月06日

鳳凰堂はなぜ翼廊の壁を吹き放しにしたのでしょうか?

翼廊の列柱は屋根を持ち上げ、壁を設けず吹き放ちの渡り廊下のようになっています。この姿が、まさに鳳凰が飛び立とうとしている姿として、鳳凰堂と呼ぶ所以でありましょう。(屋根の上に鳳凰が載っているのもその名の所以でありますが)
それではなぜ翼廊を吹き放ちにしたのでしょうか。
当麻曼荼羅やこの平等院中堂の壁画にも、この鳳凰堂と同じような建物の絵が描かれており、翼廊が吹き放ちになっています。これらの絵のイメージが先行し、それを実際の建築で表現しようとしたものと考えられます。
また来迎図に見られる浮遊感も演出できます。

当時の建築関係者は、これらの理由とは別に、壁を吹き放ちにすることのさまざまな利点を知っていたと考えます。
翼廊の列柱は吹き放ちのために、空間(視線)は透過し、向こうにある景色が見通せます。向こうの景色が見えることで、鳳凰堂の、庭の中での位置関係がより明瞭に理解できます。もし翼廊に外壁が付加されて向こうが見通せないと、正面だけの姿がより強調されることになります。そして庭園はその建物で前後に二分割されてしまうでしょう。一つの浄土庭園としてのまとまりを欠いてしまうことになります。
また人間本来の感覚として、建物を透過して向こうまで(より広く)見えることで気持ちよさを感じるし、とくに向こうに明るいものが見えることで安堵感が生まれると感じています。また日本の風土・気候による湿気を含んだ風が、この吹き放ち部分を吹き抜けることで湿気を滞留させないというメリットもあります。
また、デザイン的には翼廊の吹き放ちの列柱は存在感がありません。これに対して、翼廊の屋根には強いヴォリューム感が感じられます。この翼廊の屋根が、中心建築である中堂を引き立たせ、バランスよくサポートする役割を担い、全体ですばらしい構成美を造りだしています。さらに、この屋根が吹き放ちの列柱によって持ち上げられることにより浮遊感を演出しています。この屋根が宙に浮いているような感覚です。それは遥かかなたにあると考えられる西方浄土のイメージを具現化するものではないでしょうか。  才本

IMG_6631(トリミング500P)
IMG_6633(トリミング500P)
IMG_6647(トリミング500P)