すでに多くのブログで取り上げられているのでいまさら私が書くこともないのですが、とりあえずメモ代わりに。
ちなみに私は延長には反対の立場です。たとえば「今ある新聞や雑誌が戦前・戦中に何を書いていたか」を検証することは、保護期間延長でより困難になるのではないでしょうか。

1.11月8日、「著作権保護期間延長問題を考える国民会議」が発足しました。12月11日にはシンポジウムも開催するそうです。
既存マスコミよりもIT系、ネット上のメディアのほうが大きく取り上げていたようです。
クリエイターら、著作権保護期間延長の議論を呼びかける国民会議発足(Internet Watch)
【短期連載】識者・クリエイターの声を聞いて、著作権保護期間の延長を考えてみよう(前編)同(中編)同(後編)(ascii24)

国民会議のサイトでは、Copy & Copyright Diary - 著作権保護期間延長について考える上で必読の記事で紹介されている弁護士の福井健策氏(国民会議世話人)の中央公論の記事も転載されています。
「著作権保護延長」は文化を殺すのか―――クリエイターにとっての損と得(『中央公論』2006年10月号)
論点が大変分かりやすくまとまっていますね。

このほか、「Copy & Copyright Diary」さん推薦記事。これだけは読んで欲しい
そらもよう 著作権保護期間の70年延長に反対する
http://www.aozora.gr.jp/soramoyou/soramoyou2005.html#000144

asahi.com :朝日新聞 be-business
保護期間延長で、埋もれる作品激増? 著作権は何を守るのか
http://www.be.asahi.com/20050716/W13/0040.html

白田秀彰の「インターネットの法と慣習」
第24回 著作権保護期間延長を擁護してみる・・
http://hotwired.goo.ne.jp/original/shirata/051129/
第25回 やっぱり著作権保護期間延長を批判する
http://hotwired.goo.ne.jp/original/shirata/060111/

白田氏の文章は面白いですね。もちろん内容もすぐれているのですが。

2.国民会議の発起人に名を連ねた人々や、それ以外でもこの問題について発言している作家等はすでに多数に上ります。
そうした人々の過去の言動を調べていくといろいろ議論が錯綜してくるようです。不適切な表現かもしれないけど、誰が敵で誰が味方か分からないというか。

(1)松本零士と別役実
OTO-NETA:著作権保護期間の延長問題を考える国民会議
中でも筆頭に意見が取り上げられている別役実氏の『「銀河鉄道の夜」を戯曲にしたくて、許可を求めていたがなかなか許可を得られなかった。死後50年の保護期間が切れて許諾なしで使えることになり、最初はアニメのシナリオだったが、関連の戯曲も何作か書くことができた。』という話が興味深い。
真相は知りませんが、これは保護機関の延長を求めている権利者団体の宣伝塔的役割を松本零士氏が果たしていることに対する明らかなカウンターパーソンとして、別役実氏が人選されたんじゃないのでしょうか。何せ松本氏の代表作には「銀河鉄道の夜」からインスパイアされたとしか考えられない「銀河鉄道999」がありますからね。

松本零士と著作権といえば槇原敬之とひと悶着起こしてますね。国民会議世話人・津田大介氏のブログより。
音楽配信メモ:槇原敬之×銀河鉄道999のパクリ疑惑問題の件
今回の一件は文句を言った松本零士が例の著作権保護期間延長問題で文化庁に要望出している日本漫画家協会の代表として記者会見していることと無関係ではないように思える。ある種の啓発、スポーツ紙とかが取り上げることで、こういう著作権問題自体に注目が行き、我田引水しやすくなるみたいな思惑もあるのかな。わからんけど。

しかしかえって延長賛成派のイメージを悪くしたような…

いっぽうで延長に慎重な別役実氏には、こんな顔もあるそうです。
エンドユーザーの見た著作権:「著作権保護期間の延長問題を考える国民会議」雑感経由、入試過去問と著作権を考えるblog:別役実氏「著作権保護期間の延長、議論を尽くせ」
この著作権保護期間の問題については、入試問題での文章使用に対して比較的柔軟な日本文芸家協会が「70年」派、入試問題での文章使用に対して厳しい立場を取っている別役氏の方が「50年」派というわけだ。

(2)佐野眞一と津田大介
佐野氏も「国民会議」発起人ということで『だれが「本」を殺すのか』と『だれが「音楽」を殺すのか』の著者が揃い踏みかー、としょうもないことに感動していたんですけどね。
こちらも上記「エンドユーザーの見た著作権」経由でCopy & Copyright Diary:元気のある出版社から。
「本コロ」検死編では、ダイソー文学シリーズが「青空文庫」のデータを使っていながら裏表紙に「本書の無断複写、複製、転載を禁じます」と書いてあることを、「盗っ人猛々しい」と一刀両断し、さらに
しかし、ダイソー「本」が零細書店の売り上げを奪っているとするなら、無償のわかちあいというその善意こそが、零細書店をじりじりと廃業に追い込んでいるともいえる。

(新潮文庫版 下巻 p.344-345)
と青空文庫までも批判している。

「本コロ」は読んですごいと思ったんですが、どうも身内(著者・出版社・取次・書店)と外(図書館・新古書店など)との間に差別意識がある気がしました。

いっぽう津田氏の主張が私にとっては一番支持できるかな、と考えています。
論点「著作権の保護期間延長を問う」(9/23 毎日新聞)より。
「知財立国」とは別方向

そもそも現状の著作権法で作品の著作権は著作者の死後50年間保護される。これが70年に延長されたところで、直接的なメリットを樽られるのは著作者の子孫か、古い作品の権利で収入を得ている団体もしくは企業だ。著作者本人が直接利益を得られない状況で「保護期間延長が創作のインセンチィプになる」と主張されても説得力に欠ける。筆者も著作権でメシを食っている著作者の端くれだが、死後50年が70年に延長されたところで、まったくそれをありがたいとは思えない。

(3)三田誠広
これに対し、延長推進派の三田氏。これまでも著作権絡みの発言でネット上ではかなり批判に晒されている(あるいは馬鹿にされている?)人です。
ふたたび毎日新聞「論点」から。
世界標準に合わそう

日本における五十年という保護期間は短すぎる。なぜなら、作家の妻が生きているのに保護期間が切れてしまう例が少なくない。子供の場合はなおさらである。世界標準が七十年であるのに、特別の理由もなく日本の保護期間が五十年のままに据え置かれているのは、ニ十年ぶんの権利の剥奪だとわたしは考える。

やはり国民会議発起人である、仲俣暁生氏による三田批判。
【海難記】 Wrecked on the Sea:著作権保護期間の延長問題について考える
そもそも「著作権は子孫2世代にわたり保護されるべき」という考え方には、なんら合理性はないはず。百歩譲って遺族の生活保障を考えたとしても、その財産権が著者の「孫」に相続され、その世代が晩年を迎えるまで保護されるべきであるということを、どのようなロジックで三田氏は正当化なさるのだろう。

かつて三田氏は、「例えばサンテグジュペリは欧米では権利が続いているが、日本では勝手に翻訳が出せる。野蛮な国と見られているだろう」とも発言したことがある。倉橋由美子の遺作となった『新訳・星の王子さま』ISBN:4796653074はすばらしい訳だったが、それも「野蛮」な行為だと氏は本当に考えているのだろうか。倉橋由美子が生きていたら、三田氏のような人間が文藝家協会を代表していることに、いったいなんと言っただろうね。

06/11/20 毎日他方、こちらも毎日新聞より。

著作権:保護期間、「50年から70年に」 調和探る延長論議(11/20)

 2国間で保護期間が異なる場合、短い方が適用される。死後70年が適用されている国の小説も、日本では死後50年で自由に利用できるが、相手国でも日本の小説は50年しか保護されない。

 例えばサンテグジュペリの「星の王子さま」の著作権はフランスでは生きているものの、日本では保護期間が終了し、05年から新訳の出版ラッシュが続く。倉橋由美子さんや三田さんらも翻訳を手掛け、さまざまな解釈を楽しめる。

えー、何だよそれって感じです。
なんだか頭が混乱してきますが、やっぱり延長には反対ですね私としては。