前回の記事が著作権保護期間の延長問題を考える国民会議|参考記事―国民会議に対するネット上の反応に捕捉されました。いやはや畏れ多い(汗
そんなこんなで続編です。

3.他にもいくつか気になる人物・団体について取り上げてみます。

(1)読売新聞
朝日に比べて読売はあまりこの問題を取り上げてこなかったと思うのですが、延長賛成に舵を切ったようです。
11月21日付・読売社説(2)
[著作権延長]「作品の流通を損なわない工夫も」
 現状では、日本の小説や絵画は国内と同様、海外でも、日本の法律に合わせて死後50年までしか保護されない。これを過ぎるとタダで利用されてしまう。

 国際的にも、肩身が狭い。死後70年まで保護された国の著作物が、日本では20年早く、許可を得ずにタダで使えるようになるためだ。

 新訳による出版が相次いだサンテグジュペリの「星の王子さま」は、その好例だ。本国のフランスでは著作権が生きているが、日本では保護が切れたことが、出版を後押しした。

 得をしているように見えるが、海外から、日本は他国の知的財産にタダ乗りしている、と批判されかねない。

「肩身が狭い」とか「批判されかねない」とかあまりに杜撰な理由付けで呆れました。社説の筆者は『中央公論』掲載の福井健策弁護士の記事を読んでいないのか? 読売はせっかく中公を傘下に入れたのに、とんだ宝の持ち腐れですね(嫌味
 「欧米が七〇年への延長を決めた以上それに従うことが国際協調だ」という意見がある。しかし、ほとんど特定国の国益のためだけに発せられた要求に無条件で従うことが国際協調であるとは筆者には思えない。本当の国際協調のために我々に一層求められることは、利害の異なる相手と腰をすえてじっくり交渉できる力ではなかろうか。

「エンドユーザーの見た著作権」さんがこの社説を手厳しく批判しています。
読売社説:著作権延長問題を全く理解できずにトンチンカンな高説をタれる大企業の痛い論理
 著作権の保護期間を満了した作品は、自由利用できて当たり前なのです。「タダ乗り」などというものとは明らかに異なる利用態様です。ベルヌ条約という国際ルールに則って保護を外れたものであって(例として挙げられた『星の王子さま』などは戦時加算まで受けています)、パブリックドメイン化について他国から非難される筋合いなどありません。
 いや、この基本ルール自体は(保護期間を延長した)欧米においても同じであって、パブリックドメインを利用することをさも恥ずかしいことであるかのように表現するのは おそらく日本の権利者と読売新聞くらいなものでしょう。ここに常識の欠如というものが見えます。
 私はむしろ、こんな日本の現状の方が恥ずかしく思えます。

同じ日に載った大手町博士のゼミナール:著作権の保護期間を含め、他の主張も悉く論破されていますのでぜひご一読を。

読売新聞には政治力で文字・活字文化振興法をゴリ押し成立させた「実績」がありますからね。二匹目のドジョウ(新聞特殊指定維持も含めれば三匹目か)を狙っているんじゃないでしょうか。
ちなみに文字・活字文化振興法の施行に伴う施策の展開には「著作者及び出版者の権利保護の充実」もあったりします。

さらに余談ですが、かつて読売新聞は著作権違反で高額の支払命令を受けたことがあるそうです。これこそ「タダ乗り」なのでは?
日本ユニ著作権センター/判例全文・1998-02-20
日本写真家協会のサイトにある「引用」に名を借りた著作権侵害[PDF]の解説が分かりやすい。
この事件の原告はピカソの相続人の代表者。原告は、被告読売新聞社が、バーンズ・コレクション展の開催に伴って原告の許諾なしに行った次の行為がピカソ作品(計7点)の著作権を侵害すると主張し、損害賠償などを請求する訴訟を提起した。
〔中略〕
3.次の新聞記事への複製掲載
(1)1992年12月2日付(開催決定の報道)
(2)1993年11月3日付(社告)
(3)1993年11月5付(談話記事)
(4)1994年1月1日付(元旦特集)→(図5)
(5)1994年1月22日付(連載記事)
【判決】→(1)を除く(2)〜(5)については「引用」及び「事件報道」(著作権法41条)に当らず不適法。
4.額入り複製絵画(定価\45,000〜\150,000)の製作、販売(曲芸師と幼いアルルカン)
【判決】→定価の三分の二の価格を基準とする高額の損害賠償を命じた。

これらの判例は、他人の著作物の新聞への掲載が、著作権法32条(報道目的の引用)、同法41条(事件報道のための利用)によって大幅に認められている著作権法上の免責を、安易に主張する新聞社に対して、裁判所が発した警告と受けとめることができるであろう。

マスコミは―むろんマスコミに限らないけど―自らが著作権者であると同時に、他人の著作物を引用することが不可欠です。そんな彼らの主張が「お前のものは俺のもの、俺のものも俺のもの(別名ジャイアニズムw)」というエゴではないか警戒すべきでしょう。

以下はさらに著作権から遠ざかりますが、国民会議発起人のなかで気になる人をピックアップ。

(2)佐野眞一(続き)
佐野氏は個人情報保護法案反対運動の中心人物の一人でもありました。
インタビュー「メディア規制」 ノンフィクション作家 佐野眞一さん(02/04/30 東京新聞)
ただ、私は当時の運動に今でも強い不信感を抱いています。
というのも、「法案の廃案または抜本的見直し」を掲げていたはずの運動が、「報道目的は法の適用除外とする」という小手先の修正で法律が成立した途端あっという間に収束したからです。「メディア規制ではなく国民全体の問題」などといっていたのも、所詮ポーズに過ぎなかったのではないか。
#そうしたマスコミ・ジャーナリストの主張に同調した政治家の一人が民主党の細野豪志だったわけですが…

彼が当時の活動をどう省みて今回の発起人に加わり、どのような行動をしようとしているのか興味がありますね。

(3)烏賀陽弘道
専門が音楽ということで加わったんでしょうか。ただ最近の烏賀陽氏といえば…
みなさん、さようなら。ブログ連載から降ります。
 ぼくが書いているのは「きょうはウチのニャンコちゃんがカツブシ食べてニャー」みたいな身辺雑記とは違う。AFPの写真を使うという制約のもと、ロックやポピュラー音楽のおもしろい話題に斬り込めないか、何か切り口はないか、あれこれ知恵を絞るのです。雑誌の連載記事としても通用するくらいのクオリティは維持している自負があります。

 これはけっこうしんどい作業です。料理は食べるのは簡単だがつくるのは大変だ。それと同じです。それへの対価が月X万円というのは、いくらなんでもあんまりだ。

…呆れた。「ものの値段はどうやって決まるか」というのを中学生レベルから勉強し直したほうがいいと思う。
こんな態度で国民に対するアピールができるんでしょうか。『朝日ともあろうものが』はそこそこ面白かったのにがっかりです。

同じく発起人である、竹熊健太郎氏の見解。フリーにとって原稿料とは何か(1)

4.外圧?
著作権の強化に反対してきたローレンス・レッシグ・スタンフォード大学ロースクール教授も国民会議発起人に加わっています。
国民ではないのでオブザーバーらしい。個人的にはそんなに神経質にならなくてもいい気がしますが…

これに対し、なにかと話題のアメリカの対日規制改革要望書にはこんな一節があります。
[PDF]日米規制改革および競争政策イニシアティブに基づく日本国政府への米国政府要望書 (2005年12月7日)
II. 知的財産権保護の強化

日本は現在2007年度までに終了すべく著作権法の広範な見直しを行っている。日本の知的財産推進計画に掲げられた目標や日米両国の相互利益に合致するよう米国は日本政府に以下の提言を採用するよう要望する。

II-A. 著作権保護期間の延長 一般的な著作物については著作者の死後70年、また生存期間に関係のない保護期間に関しては著作物発表後95年という、現在の世界的傾向と整合性を保つよう、音声録音および著作権法で保護されるその他の著作物の保護期間を延長する。

もちろん決めるのは日本の国民ですからね。

逆に、権利の活用という点ではアメリカに見習うべき点も多いのではないでしょうか。たとえばこちら。
グーグル、歴史情報をカバーする新たな記事検索サービスを開始(Computerworld.jp)
日本ではたいてい1週間、ひどい場合は1日でネットから記事が消えてしまいますからね。
まあ日本で同種のサービスをやったら、新聞の無節操ぶりや先見の明のなさが次々と暴露されそうですけど(毒

…というわけで何だかとっちらかってしまいましたが、今後も「国民会議」を勝手に応援しつつこの問題を追っていきたいと思います。