「選択」2000.2月号
企業研究シリーズ 日販 「出版危機」が大手取次まで
前回より続く

日販がシェア拡大に突っ走るようになったのは三代目社長・杉浦俊介の時代である。戦則の総動員体制下で、日本の出版物の取次業は日本出版配給(日配)一社に統合されていた。戦後、GHQの「集中排除」方針によって同社が解体され、誕生したのが日販とトーハンだった。「出版業界のパーティーで上座はトーハンと決まっていた。日販は、常に格下の扱いをされてきた」(出版業界の長老)。苦汁をなめ続けてきた日販の合い言葉は、「トーハンをいつか追い抜くぞ」となった。この一点に執念を燃やしたのが杉浦だ。彼は一九〇九(明治四十二)年の生まれ。京大経済学部を卒業。三井信託銀行などを経て五四(昭和二十九)年取締役として日販に入社。七四年に社長に就任した。八二年に代表権のある会長につき、名誉相談役に退く九○年までの十六年間、経営トップとして君臨、九七年四月、八十七歳で亡くなっている。

この杉浦俊介こそ、長銀破綻の「超A級戦犯」とされる元長銀頭取・杉浦敏介の実兄だ。弟の敏介は「長銀のドン」といわれ、俊介は「日販の天皇」と呼ばれた。俊介は社員の前では「賢弟愚兄」と謙遜してみせたというが、弟に負けず劣らず、ワンマンだった。

日販が遮二無二に拡大路線を走ってこられたのは、長銀との「特別な関係」があったからにほかならない。杉浦俊介が実権を掌握して以来、長銀からの借入金が急増し、ついには創業当時からのメーンである住友銀行を抜いた。あの豪腕、住銀がメーンから転落し、長銀がそれにとって代わったケースは産業界では、日販以外には皆無である。こうした離れ業ができたのも杉浦兄弟の「血の繋がり」があったればこそ。杉浦兄弟の企業の私物化の罪は万死に値する。

杉浦兄弟の「負の遺産」が命とり?

日販は、九六年に「ねりま流通センター」、九八年に「王子流通センター・第二ハイテクセンター」といった近代的な「巨大コンピューター倉庫」を建設した。この二つの巨大倉庫の設備投資や、強引な「帳合変更」を資金的に支えたのが、長銀からの「情実融資」だった。長銀からの借入金は最盛期には、子会社分も含め三百億円に達したとされる。

長銀と日販が八五年に共同で設立した総合リース会社がカルチャーリース(東京千代田区、椎名恒雄社長)だ。書店が導入するPOSレジや本棚などの店内の什器をパッケージでリースするのが主な業務だった。長銀は設立時点では直接出資せず、系列ノンパンクの日本リースに出資させていた。日本リースが九八年十月に倒産した後は、持ち株を長銀が引き継いだ。日販がカルチャーリースを重要視していたことは、設立当初から杉浦俊介が代表取締役会長になったことからもうかがえる。同社を「卜ーハンを追い抜くための戦略子会社」(大手取次の長老)と位置付けたからだ。「巨大倉庫などの主要設備は、カルチャーリースの所有。それを日販がリースバックしてもらっている」(前出、大手取次の長老)。

日販はリース子会社を噛ませることで、表面上は大きな借入れをせずに済んだ。カルチャーリースは、日販本体のバランスシートを悪化させないための「かくれみの」だったと言い換えることができる。「帳合変更」にも、カルチャーリースは重要な役割を果たした。トーハン系を日販ルートに切り替えさせるには、それまでの負債をトーハンに一括返済しなくてはならない。こうした際にカルチャーリースが書店に低利の資金を供給したとされる。

九九年三月期のカルチャーリースの売上高は一一四億円、経常利益は一億二千万円しかない。借入金をみると長・短合わせて三五三億円。借金が年間売上高の三倍以上に膨らんでいる。「カルチャーリースは不良債権のかたまり。文字通り杉浦兄弟の“負の遺産”です。連結決算時代を迎え、カルチャーリースは日販の屋台骨を揺るがす致命的な病巣になる」。こう指摘する日販の元幹部もいる。

「日販危機」に青ざめる大手出版社

長銀のバックアップで悲願の業界トップの座に就いた日販だが、長銀の破綻で、それも束の間の夢と消えた。それどころか「特別な関係」が清算される過程で、さまざまな「異常事態」が発生した。その極め付きが、一昨年の株主総会直後の役員会で起きた「事件」だ。九八年六月二十九日、日販の株主総会が開かれ、その直後の役員会で、「社長解任クーデター」が起こった。代表取締役社長の座にあった五十嵐一弘社長が、他の役員陣の「反乱」にあって、相談役に引きずり下ろされてしまったのだ。株主総会で続投を正式に認められた社長が、直後の役員会で解任されるとは、前代未聞の珍事だ。

五十嵐は経営畑出身で、「日販の天皇」杉浦俊介の右腕として、ずっと「金庫番」を務めてきた。杉浦の指名で、八六年に社長に就任。杉浦の「卜ーハンに追いつき、追い越せ。総合文化商社」路線を踏襲してきた。クーデター事件は「長銀の凋落でメーンに返り咲いた住友銀行が、再建支援の条件として解任要求を出した」と銀行筋では解説されている。

だが、大手取次の役員は、もう少し突っ込んだ見方をする。「五十嵐さんの社長末期は、歩けないくらい体調が悪く、業務にも悪影響が出始めていた。その一方で、秘書室長を兼ねる女性常務の恣意がまかり通り、役員たちがこうした事態に危機感を募らせ、辞任を迫ったのです」。

より興味深いのは、この後だ。「いわゆる『クーデター』といわれるものの核心は、五十嵐社長の解任にあるのではない。その後の社長に、後継者の下馬評にものぽらなかった菅(徹夫)副社長が決まったところにある」。

「『クーデター』の首謀者は伊藤(茂樹)専務。住銀と組んで、小関(道賢)会長―菅社長の新体制を作った。次期社長は伊藤専務で決まりですよ」。伊藤の評価は、「経理畑一筋の財務のプロ。最年少で役員になったホープ。住銀の信頼は厚い」(日販の幹部)で一致する。五十嵐と一緒に、「女帝」と呼ぽれた沢田豊子常務も降格された。秘書として歴代トップに取り入り、異例の出世を果たした人物だ。
「クーデター事件」後、メーンバンクに復帰した住銀主導で、経営再建がこれから本格化する。俊介の子飼いの人脈は一掃されたが、住銀には長銀の「負の遺産」を引き継ぐ気などさらさらない。住銀流のドラスティックなリストラは不可避。有力金融筋の本音は「出版不況が続いており、まさかの事態を想定しておいた方がいい……」だ。

日販は社内に革新委員会をつくり、本体と関連子会社の大リストラにより、今期発生した赤字を三年間で解消し、財務体質の改善を急ぐとしている。

日販の大株主には講談社(発行済株式の五・八%を保有)をはじめ、小学館、光文社、文藝春秋、秋田書店、平凡社、旺文社が顔を揃えている。講談社など出版大手は日販の危機に青ざめている。

だからといって、日販を経営支援する余裕はない。まさに日販は崖っぷちに立たされている。
(敬称略)


その後の日販はというと、
・カルチャーリースは清算したらしい
・アマゾンの新刊委託を他社から強奪(60坪書店日記
・CCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)やブックオフとの関係強化
出版状況クロニクル 6 小田光雄
株主構成からすれば、第10位までに集英社も入っていると思われるので、日販は音羽グループと一ツ橋グループが大株主ということになる。トーハンもほぼ同様である。しかしトーハンが講談社の野間佐和子や小学館の相賀昌宏を監査役にしていることに比べ、日販は新潮社の佐藤隆信を迎えているだけで、大株主出版社に対して、距離感があるように思われる。実際にコミュニケーション不足だと大株主出版社から聞いたこともある。その理由は明らかだ。子会社とせざるを得なかった書店はリブロを除き、すべてがTSUTAYAのFCとなり、CCCとの関係が大株主出版社よりも密接になってしまったからだ。その結果が日販における増田の社外取締役就任であり、今年の「株主報告書」でも「増田宗昭氏は、社外取締役としての在任年数は3年となります。同氏につきましては、経営者としての豊富な経験から、経営管理、新規事業等についての意見交換、助言を行っていただいており、引き続き社外取締役としての選任をお願いするものであります」という異例の文言が入っている。日販とCCCの抜き差しならぬ関係を浮かび上がらせ、その結果が日販51%、CCC49%の株式比率からなるMPDの成立へと必然的に向かったのであろう。

結果として「第三の商品」について一定の地位を確保し、売上でトーハンを上回っているものの厳しい批判も受けています。
自著を語る その32『ブックオフと出版業界』小田光雄(日本の古本屋メールマガジン
 今回明らかになった構図は次のようなものです。CCCのフランチャイズメニューはCD・ビデオレンタルのTSUTAYA、雑誌書籍販売のTBN、古本リサイクルのブックオフの三本立てであり、CCCルートでブックオフのかなりの出店展開が行われたと見て間違いないでしょう。したがってCCCは一方で書店を、もう一方で古本屋をターゲットにして成長し、上場企業へと躍進したのです。

 しかもCCCのフランチャイズによる成長を支えたのは日販であり、日販こそがCCCの金融と物流を担ったのです。この両者の関係も謎に包まれています。

 そして当然のことながら、日販はCCCがブックオフの出店を兼ねていたことを知っていたことになります。このような事実からすれば、ブックオフとCCCと日販が三位一体になって、書店と古本屋つぶしを行ったと考えざるを得ません。まったく溜息の出るような話です。

そして今回のブックオフ買収劇(参照:6/8 毎日新聞)。こういうことですか?分かりません!
日販・ブックオフなどの出資関係

「日販CCC連合」と「DNP出版社同盟」がどのような関係に立つのかがよく読めない。鍵を握る人物は小城武彦(元CCC常務、現丸善社長)らしいのですが…
他方で日販のライバル、トーハンは大日本印刷傘下の丸善と図書館流通センターの第二位株主でもある(米坪.comより)。一次市場の対立が二次市場に持ち込まれたということなのでしょうか。

そして蚊帳の外に置かれたまま朽ち果てていく他の書店と出版社。不毛な再販維持キャンペーンに明け暮れた彼らにも同情の余地はないですけどね。その労力を他に向けていればこの先生きのこる道もあったのかもしれませんが、もはやすべては手遅れです。