幸町IVFクリニック 院長と培養士のIVFこぼれ話

幸町IVFクリニックの院長と培養士の、役に立つような、立たないようなブログです。 (主に院長の文句?)

障害のある子が生まれてきませんか?続き

幸町IVFクリニック院長 雀部です。

今回も体外受精の安全性の話の続きです。

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障害のある子が生まれてきませんか?

権威ある臨床系医学誌として知られているThe New England Journal of Medicine の論文を紹介します。

Davies, M. J., et al. (2012). "Reproductive technologies and the risk of birth defects." N Engl J Med 366(19): 1803-1813.

この論文は、南オーストラリアにおいて出産した児(少なくとも妊娠20
​週​
以上、または児の体重400g以上)を、生殖補助医療による妊娠の集団と自然妊娠の集団に分けて、先天異常(脳性麻痺、胎児異常を理由に妊娠中絶した症例を含む)の発生率を比較したものです。

308,974出産の内、6163出産が生殖補助医療後でした。先天異常の発生率は、生殖補助医療後8.3%、自然妊娠後5.8%、オッズ比1.47 (95%信頼区間 1.33 to 1.62、有意差有り)、統計学的手法で2つの集団の患者背景を揃えてもオッズ比1.28 (95%信頼区間 1.16 to 1.41、有意差有り)でした。技術別に先天異常の発生率をみますと、体外受精7.2%、オッズ比1.26 (95%信頼区間 1.07 to 1.48、有意差有り) 、患者背景を揃えると1.07 (95%信頼区間  0.90 to 1.26、有意差無し)、顕微授精9.9%、オッズ比1.77 (95% 信頼区間 1.47 to 2.12、有意差有り) 、患者背景を揃えると1.57 (95%信頼区間 1.30 to 1.90、有意差有り)でした。

※オッズ比の95%信頼区間が、1をまたぐと「有意差無し」、1をまたいでなければ「有意差有り」です。

「顕微授精危ないじゃん!」と早ガッテンしないでください。この研究は、後方視的研究のためデータの信頼性が低いのです。「ここまで話を引っぱっといて、データの信頼性が低いとはどういうこと?」と怒らないで、もう少しお付き合いください。

一般に、研究方法には後方視的研究と前方視的研究があり、前方視的研究の方がデータの信頼性が高くなります。特に、前方視的研究の中でもランダム化
​比較​
試験という方法で
​出
されたデータの信頼性が
(バイアスを
​​
排除できるため)
最も高い
​​
と言われています。最近、
The New England Journal of Medicineのような一流誌は、ランダム化
​比較​
試験による研究でないと掲載されない傾向にあります。では、なぜこの研究は
​、​
後方視的研究にかかわらず掲載されたのでしょうか?

それは、体外受精
​・顕微授精​
の技術自体が先天異常を増やすかどうかを検証する研究
で、ランダム化
​比較​
試験を行うのが非常に困難だからです。
​なぜ困難なのか?​
その理由①、今回紹介した論文が示すように、たくさんの症例を集めてやっと
​有意​
差が出るテーマのため、
​大​
規模なランダム化
​比較​
試験を行
​う必要があります。そのためには、たくさんの人員と予算が必要です​
。その理由②、患者背景によるバイアスを完全に除くためには
、自然妊娠することが証明されているご夫婦(例えば、自然妊娠
​・​
出産後2年以内
​かつ奥様が35才未満​
のご夫婦)を集めて、次の妊娠する際に、このご夫婦は自然妊娠、あのご夫婦は体外受精、とランダムに割り当ててその結果を見る必要があります。そうすると、自然に妊娠することがわかっているご夫婦に体外受精を行うという倫理的な問題が発生します。

​このように​ランダム化比較試験の実現が難しいテーマに関しては、後方視的研究でも大規模なものであれば一流誌に掲載されることになります。しかし、いくら一流誌に掲載されたとしても、結局は後方視的研究ということで、もし適切な設計のランダム化比較試験を行ったら、有意差は無くなってしまうのではという疑念が常につきまとうことになるのです。

このような状況下で、我々はどのように対応したらいいのでしょうか?
後方視的研究なので、結論にはなり得ませんが、参考データとして尊重はする必要があります。最近、受精しないとイヤだからという理由で、適応のない顕微授精が気軽に行われる傾向にあります。顕微授精の適応は、「受精障害」と「男性因子」のみです。
前回の記事でも書いたように、技術の運用に際しては、「必要最小限の治療に留める」、「目先の妊娠率に惹かれて過剰医療を行わない」など、慎重な姿勢が必要です。

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 体外受精から顕微授精へステップアップ???


 


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障害のある子が生まれてきませんか?

幸町IVFクリニック院長雀部です。

診察室にてよく遭遇する患者さんの疑問や誤解第9弾です。「体外受精や顕微授精で、障害のある子が生まれてきませんか? 」という質問を受けることがあります。体外受精、顕微授精、胚の体外培養、凍結や融解が児に何か悪い影響を及ぼさないかと心配されての質問だと思います。

この安全性の問題、実はまだ結論が出ていないんです。「えっ!」て驚かれる方が多いと思いますので、どういうことなのかを説明していきます。

一般に、ある技術が危険であることを証明するのは比較的簡単ですが、安全であることを証明するのは長い年月と膨大な労力がかかります。体外受精など生殖医療の場合、さらにややっこしい特殊な事情がもう一つ加わります。

それは、生殖細胞を対象とした医療だということです。身体の細胞には、体細胞と生殖細胞の2種類があります。体細胞は、その個体1代限りの細胞、生殖細胞は、世代を超えて受け継がれる細胞です。体細胞を対象とした医療(ほとんどの医療がこれに該当)は、その個体に対する安全性を確認すればいいのですが、生殖細胞を対象とした医療は、次世代、次々世代まで安全性を確認しないと本当の意味の安全とはいえません。

世界初の体外受精成功例が1978年、その結果生まれた女児ルイーズ ブラウンが結婚して次の世代を出産したのが2006年です。ヒトの体外受精の歴史は、まだ浅いのです。そして、その本当の意味での安全性を確認するためには、まだ長い時間がかかります

我々が患者さん向けの説明書を作成する際に、「体外受精の安全性に関しては、児の長期予後を含め、まだ判明していない点もあるので、安全と言い切らない表現にしてください。」という日本産科婦人科学会の指導が入ります。この指導は、日本で生殖医療を実施している全施設に及んでいますので、すべての施設の説明書でこれに沿った文言が入ってるはずです。

ちなみに、当院の説明書では、「早産・低出生体重児・先天異常などの周産期異常の発生率は、自然妊娠と比較して若干増加すると報告されています。その要因は、技術自体に依るものではなく、この治療を受ける集団の特性に依るものと考えられています。しかし、現時点では明確な結論は出ていませんので、今後さらなる検証が必要です。また、児の長期予後や児の次の世代に対する影響についてはまだ不明な点が多く、医学的にこれからの検討課題となっています。」という表現になっています。

冒頭の「体外受精や顕微授精で、障害のある子が生まれてきませんか? 」という質問に対しては、当院の説明書のようななんとも歯切れの悪い答えになってしまいます。白黒でいうと、だいたい白だけど、まだ解明されていないグレーの部分がありますよという微妙な状況です。こんな説明を聞くとかえって心配になってしまう方もいらっしゃるかと思いますが、現時点では過剰に心配する必要はありません。ただし、技術の運用に際しては、「必要最小限の治療に留める」、「目先の妊娠率に惹かれて過剰医療を行わない」など、慎重な姿勢が必要です。医者任せにしないで、治療を受ける側のご夫婦も安全性について十分に認識して治療を進めることをお勧めします。

私、双子希望なんです!

幸町IVFクリニック院長
​ ​
雀部です。

今回も多胎妊娠の話の続きです。重要なテーマなのでもう少しお付き合いください。

患者さんに1胚移植の説明をしていると「私、双子希望なんです。先生、双子にしてください!」と話される方がいらっしゃいます。双子出産を夢見るのは結構なことなのですが、ほとんどの方が双胎妊娠のリスクについて理解されていません。

そこで今回は双胎妊娠のリスクについて話をします。双胎妊娠のリスクはたくさんありますので、今回は2胚移植の結果発生することの多い双胎(
​正確には、​
二絨毛膜二羊膜性双胎)のリスクに絞って話をします。

​早産になりやすい
本来1児が入るべき子宮に2児が入りますので、その分子宮が大きくなり、子宮壁
​​
が伸びすぎることになります。その結果、双胎妊娠の約半数が早産になると言われています。早産になると言う事は、児が未熟な状態で生まれてくるということです。これが、双胎妊娠の周産期死亡率を引き上げる要因の1つになっています。

​その他の産科合併症
妊娠すると母体の循環血液量が、非妊時より増えます。双胎妊娠では、単胎妊娠よりもさらに増えることが知られています。その結果、妊娠性高血圧症
​、HELLP症候群
などの母体合併症の発生頻度が高くなり、かつ発症時期が早くなります。
​他にも、血栓塞栓症、胎児発育異常(胎児発育不全、​両児の発育差)、産後の過多出血などの発症リスクが高くなります。

C 分娩時に事故が起きやすい
施設の方針にもよりますが、両児とも頭位の場合、​
経腟分娩
​が行われることがあります。その際に、​
特発性微弱陣痛、胎位異常、臍帯脱出、胎盤早期剥離、子宮収縮不全、分娩後大量出血
​が起きることがあります​
。特に、先進第一児の分娩後から後続第二児分娩までの間が最も事故が起きやすい時期であることが知られています。

わざわざ双子を作ることのリスクがいかに高いか、ご理解いただけたでしょうか?双胎妊娠は、1胚移植を行うことにより大幅に減らすことができます。​​
妊娠・分娩は安全という根拠のない思い込みを捨てて、
ご夫婦の意思でより安全性の高い選択肢である1胚移植を選びましょう。​
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