幸町IVFクリニック 院長と培養士のIVFこぼれ話

幸町IVFクリニックの院長と培養士の、役に立つような、立たないようなブログです。 (主に院長の文句?)

2017年08月

40代だけどAMHが高いからまだ大丈夫?

こんにちは 幸町IVFクリニック 院長 雀部です。

 

診察室でよく遭遇する患者さんの疑問や誤解の第4弾です。

今回は、抗ミューラー管ホルモン(AMH)の続編です。前回分AMH=卵巣年齢って本当?」を一読してから、お読みください。

 

前回は20-30代なのにAMHが低い症例についてでしたが、今回はその逆パターンです。

40代だけどAMHが高いと言われたので、私はまだ大丈夫!」

これもよく遭遇するパターンですが、本当に大丈夫なんでしょうか?

 

この患者さんの頭の中では、AMH高値=卵巣年齢が若い=その年齢の人と同じように妊娠するはず、だから私はまだ大丈夫と考えているのではないかと思われます。その結果、延々と一般不妊治療を続けたり、体外受精を受けて卵子の質が悪いと言われて納得がいかなかったり、といったことが起きてきます。

 

前回分をお読みいただいた方は、この患者さんの「AMH高値=卵巣年齢が若い」が根拠のない思い込みであることがわかるかと思います。そうです、「AMHは量的指標なので、卵子の質まではわからない」でしたね。AMHが高い40代の方に体外受精を行うと、卵巣刺激によく反応して卵子がたくさん取れるのですが、卵子の質は年齢相当であることが多いようです。極端な症例ですと、卵子はたくさん取れてくるのに、全部質が悪く1個も妊娠に結びつきそうな受精卵が得られないこともあります。

 

年齢が若いほど卵子の質は高い傾向にあり、卵子の質が高いほど妊娠しやすい傾向にあります。妊娠しやすさの指標としては、AMHより年齢の方が優れています。よって、40代の方は、AMHが高くても低くても、すぐに体外受精を検討してください。

 

最後に、AMHの読み方を簡単に説明しておきます。

AMHの値を読む際に注意しなければいけないのが、測定誤差です。もともと、AMHは測定誤差の大きい検査です。AMHが普及し始めの頃は、臨床経過とAMH値が一致しない症例がよくありましたが、最近はかなり改善されてきました。それでも、測定誤差は、常に念頭に置いておく必要があります。例えば、AMH0.9ng/mlだった方が、少し期間をおいて測ったら、1.2ng/mlに上昇したとします。これを、AMHが高くなったと判断すべきか、測定誤差と判断すべきか、は難しいところです。臨床的にはあまり意味が無いことの方が多いと思います。AMHはざっくり読むがコツです。

 

次に、AMHには基準値や正常値がありません。AMHは、卵巣刺激をどの方法で、どのぐらいの強さで実施するかを決める際に役立つのですが、医師は各々の経験に基づいて数値を読んでいます。私は、4以上は高め、24が適度な値(正常値という意味ではありません)、1.5以下はやや低い、1.0以下は低い、0.5以下はかなり低いと読んでいます(単位はすべてng/ml)。この読み方は、他の医師と多少ずれがあるかもしれませんので、ご了承ください。

 

AMHについて2回にわたって書きましたが、ご理解いただけたでしょうか。それでは、また読みに来てください。

 

AMH=卵巣年齢って本当?

こんにちは 幸町IVFクリニック院長の雀部です。

 

診察室でよく遭遇する患者さんの疑問や誤解の第3弾です。今回は抗ミューラー管ホルモン(AMH)の話題です。

 

AMHが低く卵巣年齢○○歳(実年齢よりかなり上の年齢)なので、すぐに体外受精をやらないと、一生子供をあきらめなければならなくなりますよ」

 

前の病院の先生からこのように言われたと、悲壮な顔をして話す20代後半~30代の患者さんがいます。誰でも卵巣年齢が実年齢よりもかなり年を取っていますと言われたらショックですよね。中には精神的に追い詰められた状態になって、診察室で話ながらぼろぼろ泣き出す方もいらっしゃいます。最近このパターンが非常に増えています。果たして、このAMH=卵巣年齢というのは本当なのでしょうか?

 

結論を先に言います。AMH=卵巣年齢ではありません。できるだけわかりやすく解説していきます。

 

AMH=卵巣年齢でない理由

①AMHは卵巣に残存している卵子数を表す指標ではない

②AMHは量的指標であり、卵子の質まではわからない

 

①AMHは卵巣に残存している卵子数を表す指標ではない

残念ながら臨床レベルで卵巣に残存している卵子数を測る方法は存在しません。AMHを測っても残存卵子数はわからないのですが、なぜかAMHが残存卵子数の指標という間違った認識が一般に広まってしまいました。これが、AMH=卵巣年齢という誤解の原因です。

 

それではAMHは何を測っているのでしょうか?卵胞は、原始卵胞  一次卵胞  二次卵胞 → 前胞状卵胞  胞状卵胞  卵胞  排卵の順番で育っていきます。AMHは、主に前胞状卵胞より分泌されるホルモンです。つまり、AMHは「卵胞として育つ準備が整った卵胞の種」がどのくらいあるかを診る指標なのです。よってAMHが低値の方は、体外受精で卵巣刺激を行った際に、年齢が若くても取れてくる卵子数が少ない傾向にあります。しかし、AMHでは「卵胞として育つ準備が整う前の卵胞の種」がどのぐらいあるかについてはわからないのです。

 

②AMHは量的指標であり、卵子の質まではわからない

もし仮にAMHが同じ値、かつ低値(1.0ng/ml)30歳と45歳の女性がいたとします。現実にはありえませんが、二人とも年齢以外の条件はすべて同じと仮定します。この二人がそれぞれ体外受精を受けた場合、二人とも取れてくる卵子数は少ないのですが、卵子の質は30歳女性の方が高い傾向にあります。当然、30歳女性の方が妊娠は成立しやすいことになります。つまりAMHはあくまでも量的指標であり、質的なものは評価できません。

 

次に、年齢が若いのにAMHが低値だった場合の対応についてです。

年齢が若いのにAMHが低値だった場合、2つのことが考えられます。

1)何らかの原因で残存卵子数が少ないために、前胞状卵胞も少ない場合

2)残存卵子数はまだ十分あるのに、たまたま前胞状卵胞が少なかっただけの場合

前者の場合、直ちに体外受精をやる必要がありますが、後者の場合、状況に依ります。ただし、前述の通り残存卵子数を測る手段がありませんので、年齢が若いのにAMHが低値だった方は、“半分”検査(「体外受精は、“半分”検査、“半分”治療」を参照してください)のつもりで体外受精をやることをお勧めします。

 

最初の医師の言葉に戻ります。

AMHが低く卵巣年齢○○歳なので、すぐに体外受精をやらないと、一生子供をあきらめなければならなくなりますよ」

前半のAMH=卵巣年齢という説明は正確ではないので、これによって心に傷を負う必要はまったくありません。聞き流してください。しかし、後半の「すぐに体外受精をやった方がいいですよ」は耳を傾ける価値があります。

 

ご理解いただけたでしょうか。皆様の妊活に役立つ内容を書いていきますので、また読みに来て下さい。


 


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体外受精から顕微授精へステップアップ???

こんにちは 幸町IVFクリニック 院長の雀部です。

 

診察室でよく遭遇する患者さんの疑問や誤解の第2弾です。

 

まずは、診察室での会話からです。

ご夫婦「先生、体外受精から顕微授精へステップアップしたいんですが」

医 者「○○さんご夫婦は、通常の体外受精で普通に正常受精しているので、顕微授精は必要ないですよ」

ご夫婦「そうなんですが、なかなか妊娠しないので、そろそろステップアップしようかと思って・・・」

医 者「今、○○さんご夫婦に必要なのは、顕微授精ではなくて、いつもお話ししている受精卵(胚)の質を上げるための対策ですよ」

ご夫婦「?????」

 

これは、よくある誤解の典型例です。

多分、このご夫婦の頭の中には、

 

タイミング指導  人工授精  体外受精  顕微授精

 

というステップアップの順番があり、今「体外受精」のところにいるので、「顕微授精」にステップアップすれば違った展開が期待できるのではと考えているのだと思います。

 

このような誤解を招く原因として、医療提供側の用語の使い方に問題があると、以前より考えていました。我々は、「体外受精」を、広い意味と、狭い意味の二通りの使い方をしています。広い意味の「体外受精」とは、体の外で卵子と精子を受精させて、受精卵を子宮に戻す技術全般を指しますので、「顕微授精」もその中に含まれてきます。狭い意味の「体外受精」は、媒精(同じ培養液中に精子と卵子を置いて、自然の受精を期待する方法)で授精することを指し、「顕微授精」と対になる技術のような使い方をします。実は、広い意味の「体外受精」が正式な使い方で、狭い意味の「体外受精」は便宜的な使い方です。「媒精」という用語がわかりにくいため、患者さんへの説明の際に便宜的に狭い意味の「体外受精」が多用されたため、いつのまにか「体外受精」と「顕微授精」は別の技術のようなイメージが普及してしまったのです。そこから一歩踏み込んで「体外受精」から「顕微授精」へステップアップという発想になってしまったのではないかと思います。(ちなみに、私が患者さんに説明する際には、「媒精」の代わりに「通常の体外受精」という言葉で説明しています。)

 

正しい用語の使い方をすると、(広い意味の)「体外受精」には、「媒精」と「顕微授精」という二通りの授精方法があります。そして、「媒精」で正常受精するご夫婦に「顕微授精」は必要ありません。前回の「体外受精は、“半分”検査、“半分”治療」のスライドを参照してください。冒頭のご夫婦は、「媒精」で正常受精が成立しているので、「③胚が発育していない可能性」、または「④着床が傷害されている可能性」に対する対策を執らなくてはならないのに、「②受精が成立していない可能性」に対する対策を執ろうとしているのです。治療のポイントがずれている上に、時間・費用・労力の無駄です。そして、過剰医療です。

 

最後に、顕微授精が必要無い患者さんに顕微授精をやっても意味がありませんよという内容の論文を2本挙げておきます。

Grimstad, F. W., et al. (2016). "Use of ICSI in IVF cycles in womenwith tubal ligation does not improve pregnancy or live birth rates." HumReprod 31(12): 2750-2755.

男性因子が無い(顕微授精が必要ない)、卵管結紮の既往があるカップルに対して、通常の体外受精(媒精)を行った集団と顕微授精を行った集団を比較しています。受精率は有意差無し、妊娠率と生児獲得率は顕微授精を行った集団の方が低い結果でした

 

Tannus, S., et al. (2017). "The role of intracytoplasmic sperminjection in non-male factor infertility in advanced maternal age." HumReprod 32(1): 119-124.

男性因子が無い(顕微授精が必要ない)、女性が40歳以上のカップルに対して、通常の体外受精(媒精)を行った集団と顕微授精を行った集団を比較しています。受精率、受精失敗率、臨床妊娠率、生児獲得率すべて有意差無しでした。

 

またまた、専門的な内容になってしまい申し訳ありません。なるべくわかりやすく書きますので、これに懲りずにまた読みに来てください。

 


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体外受精は、“半分”検査、“半分”治療

こんにちは 幸町IVFクリニック 院長の雀部です。

今回は前回の「原因不明なのになぜ体外受精?」の続きを書きます。前回分を一読してから読んでいただけると分かり易いかと思います。

 

そもそも検査は、2種類に分けることができます。

①現状をそのまま把握する検査

各種血液・尿検査など

対象の患者さんにある介入をして、その介入の結果をみる検査

例えば糖負荷試験の場合、糖75gを飲んでもらい、その前後の血糖値を比較するなど

 

体外受精は、後者のタイプになります。体外受精という治療(介入)を行った結果を見ていく検査なのです。体外受精を行うとその過程でたくさんのデータが集まってきます。それらを解析してその患者さんの不妊原因を探っていきます。具体的にどのようなことが分かるのでしょうか。


20170810

 
妊娠は、まず精子と卵子が出会って、受精して、受精卵(胚)が発育し、子宮に着床し、着床後もさらに胚発育していきます(スライド左側)。そして、妊娠しづらいご夫婦は必ず①~⑤のどこかで引っかかります(スライド右側)。どの段階でどのように引っかかったかにより、不妊原因の見当をつけることができます。

順番に見ていきます。


①時間的・空間的に精子と卵子が出会っていない可能性
体外受精を行うと(顕微授精なしで)一発で妊娠するご夫婦は、これに該当している可能性があります。不妊原因の中では、最も頻度が高く、体外受精をやるだけで解決できます。


受精が成立していない可能性
精子または卵子に問題がある、または抗精子抗体陽性のため、受精が上手く成立しないご夫婦が該当します。なかには、精液検査ではまったくの正常所見なのに、実際に体外受精をやってみると受精しないご夫婦もいます。多くの症例が顕微授精を行うことにより解決できます。顕微授精を行っても正常受精しない場合は、精子または卵子の質を改善する対策が必要になってきます。


胚が発育していない可能性
正常受精が成立しているのに、その後の胚発育が不良なご夫婦が該当します。胚発育が停止、または大きく遅延している場合は、胚移植がキャンセルになります。原因については、卵子または精子の質まで遡って検討する必要があります。頻度的には卵子側の因子であることが多いようです。


着床が阻害されている可能性
胚移植まで到達できたのに、着床が上手くいかない症例が該当します。原因については、胚側の因子と内膜側の因子を分けて検討する必要があります。頻度的には、胚側の因子が多く、さらに辿ると卵子の質の問題に行き着くことが多いです。内膜側の因子のうち、子宮奇形、内膜ポリープ、粘膜下筋腫については、事前または治療中の超音波検査にてスクリーニング可能です。


着床後、胚が発育していない可能性
着床したのに、その後の胚発育に問題が発生する症例です。これも、胚側の因子と母体側の因子を分けて考える必要があります。母体側の因子の検索は、不育症の領域になってきます。ただし、いきなり不育検査に飛びつくのではなく、胚の質に改善の余地がないかどうかについては十分に検討する必要があります。

 


このように、体外受精を通じて、鳥の目で妊娠全体を俯瞰する視点が非常に重要です。不妊原因の当たりがついたら、そこを集中的に掘り下げていきます。枝葉の原因にとらわれて時間を無駄にしている場合ではありません。もちろん、原因と対策を考えていくのは、我々生殖医療専門医ですが、治療を受けるご夫婦もその視点を理解しておく必要があります。


専門的な内容になりましたが、皆様の妊活に少しでもお役に立てれば幸いです。

 


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