幸町IVFクリニック 院長と培養士のIVFこぼれ話

幸町IVFクリニックの院長と培養士の、役に立つような、立たないようなブログです。 (主に院長の文句?)

2017年11月

障害のある子が生まれてきませんか?

幸町IVFクリニック院長雀部です。

診察室にてよく遭遇する患者さんの疑問や誤解第9弾です。「体外受精や顕微授精で、障害のある子が生まれてきませんか? 」という質問を受けることがあります。体外受精、顕微授精、胚の体外培養、凍結や融解が児に何か悪い影響を及ぼさないかと心配されての質問だと思います。

この安全性の問題、実はまだ結論が出ていないんです。「えっ!」て驚かれる方が多いと思いますので、どういうことなのかを説明していきます。

一般に、ある技術が危険であることを証明するのは比較的簡単ですが、安全であることを証明するのは長い年月と膨大な労力がかかります。体外受精など生殖医療の場合、さらにややっこしい特殊な事情がもう一つ加わります。

それは、生殖細胞を対象とした医療だということです。身体の細胞には、体細胞と生殖細胞の2種類があります。体細胞は、その個体1代限りの細胞、生殖細胞は、世代を超えて受け継がれる細胞です。体細胞を対象とした医療(ほとんどの医療がこれに該当)は、その個体に対する安全性を確認すればいいのですが、生殖細胞を対象とした医療は、次世代、次々世代まで安全性を確認しないと本当の意味の安全とはいえません。

世界初の体外受精成功例が1978年、その結果生まれた女児ルイーズ ブラウンが結婚して次の世代を出産したのが2006年です。ヒトの体外受精の歴史は、まだ浅いのです。そして、その本当の意味での安全性を確認するためには、まだ長い時間がかかります

我々が患者さん向けの説明書を作成する際に、「体外受精の安全性に関しては、児の長期予後を含め、まだ判明していない点もあるので、安全と言い切らない表現にしてください。」という日本産科婦人科学会の指導が入ります。この指導は、日本で生殖医療を実施している全施設に及んでいますので、すべての施設の説明書でこれに沿った文言が入ってるはずです。

ちなみに、当院の説明書では、「早産・低出生体重児・先天異常などの周産期異常の発生率は、自然妊娠と比較して若干増加すると報告されています。その要因は、技術自体に依るものではなく、この治療を受ける集団の特性に依るものと考えられています。しかし、現時点では明確な結論は出ていませんので、今後さらなる検証が必要です。また、児の長期予後や児の次の世代に対する影響についてはまだ不明な点が多く、医学的にこれからの検討課題となっています。」という表現になっています。

冒頭の「体外受精や顕微授精で、障害のある子が生まれてきませんか? 」という質問に対しては、当院の説明書のようななんとも歯切れの悪い答えになってしまいます。白黒でいうと、だいたい白だけど、まだ解明されていないグレーの部分がありますよという微妙な状況です。こんな説明を聞くとかえって心配になってしまう方もいらっしゃるかと思いますが、現時点では過剰に心配する必要はありません。ただし、技術の運用に際しては、「必要最小限の治療に留める」、「目先の妊娠率に惹かれて過剰医療を行わない」など、慎重な姿勢が必要です。医者任せにしないで、治療を受ける側のご夫婦も安全性について十分に認識して治療を進めることをお勧めします。

私、双子希望なんです!

幸町IVFクリニック院長
​ ​
雀部です。

今回も多胎妊娠の話の続きです。重要なテーマなのでもう少しお付き合いください。

患者さんに1胚移植の説明をしていると「私、双子希望なんです。先生、双子にしてください!」と話される方がいらっしゃいます。双子出産を夢見るのは結構なことなのですが、ほとんどの方が双胎妊娠のリスクについて理解されていません。

そこで今回は双胎妊娠のリスクについて話をします。双胎妊娠のリスクはたくさんありますので、今回は2胚移植の結果発生することの多い双胎(
​正確には、​
二絨毛膜二羊膜性双胎)のリスクに絞って話をします。

​早産になりやすい
本来1児が入るべき子宮に2児が入りますので、その分子宮が大きくなり、子宮壁
​​
が伸びすぎることになります。その結果、双胎妊娠の約半数が早産になると言われています。早産になると言う事は、児が未熟な状態で生まれてくるということです。これが、双胎妊娠の周産期死亡率を引き上げる要因の1つになっています。

​その他の産科合併症
妊娠すると母体の循環血液量が、非妊時より増えます。双胎妊娠では、単胎妊娠よりもさらに増えることが知られています。その結果、妊娠性高血圧症
​、HELLP症候群
などの母体合併症の発生頻度が高くなり、かつ発症時期が早くなります。
​他にも、血栓塞栓症、胎児発育異常(胎児発育不全、​両児の発育差)、産後の過多出血などの発症リスクが高くなります。

C 分娩時に事故が起きやすい
施設の方針にもよりますが、両児とも頭位の場合、​
経腟分娩
​が行われることがあります。その際に、​
特発性微弱陣痛、胎位異常、臍帯脱出、胎盤早期剥離、子宮収縮不全、分娩後大量出血
​が起きることがあります​
。特に、先進第一児の分娩後から後続第二児分娩までの間が最も事故が起きやすい時期であることが知られています。

わざわざ双子を作ることのリスクがいかに高いか、ご理解いただけたでしょうか?双胎妊娠は、1胚移植を行うことにより大幅に減らすことができます。​​
妊娠・分娩は安全という根拠のない思い込みを捨てて、
ご夫婦の意思でより安全性の高い選択肢である1胚移植を選びましょう。​
​​
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​​

なぜ胚移植は1個?続き

幸町IVFクリニック院長 雀部です。

今回は、前回の胚移植数の話の続きです。これは非常に重要な問題なので、もう少し話を続け
​ます

今回は
​、​
この胚移植数に関してとても興味深い論文を紹介します。
これは2個の胚を1個ずつ2周期に分けて移植した場合と、2個とも1周期で移植した場合を比較した論文です。 不妊原因、年齢、BMIごとに、妊娠率、多胎妊娠率を比較しています。

例えば、排卵障害、年齢35
​​
歳、BMI30 の女
​​
性の妊娠率は、1胚移植54.4%(2周期の累積)、2胚移植46.5%、年齢40歳、PMI 30 の女性の妊娠率は、 1胚移植31.3%(2周期の累積)、2胚移植28.9%
​した​
。一方、多胎妊娠率は、 2胚移植を行った
​​
35歳女性32.8%、40歳女性20.9%、1胚移植を行った35歳女性2.7%、40歳女性1.6%(2周期の累積)でした。(この1胚移植の多胎妊娠は
​、​
一卵性双胎と考えられます。)

どうでしょう?意外な結果だったのではないでしょうか?
一般に、​1つの周期に限ると、2胚移植の方が1胚移植より妊娠率が高くなります。​ところが、胚の個数を揃えて1胚移植、2周期累計の妊娠率で比較すると、1
胚移植の方が
​2​
胚移植より妊娠率が高くなります。
​つまり、
2個の胚があるときは
​、​
1個ずつ2周期に分けて移植した方が、
2個の胚をまとめて1周期で移植するより高い妊娠率になる可能
性があ
​るということです​
。そして重要なポイントは、
1胚移植の多胎妊娠率が圧倒的に低いことです。この論文は、後方視的研究のためエビデンスレベルは低くなりますが、注目すべき内容だと思います。

皆様の目的は、ただ妊娠することではなく、安全な妊娠
​・​
分娩をすることだと思います。そのためには、目先の妊娠率に惹かれて2個の胚を移植せずに、妊娠後を見据えて1個の胚を移植する冷静さが必要です。正しい知識を持っ
​​
て、安全な妊娠
​・​
分娩を目指してください。

なぜ胚移植は1個?

幸町IVFクリニック 院長 雀部です。

診察室でよく遭遇する患者さんの疑問や誤解第8弾です。今回は胚移植の際に子宮に戻す胚の個数(以下胚移植数)の話です。

胚移植数が1個でも2個でもたいした問題じゃないと考えている方いらっしゃいませんか?実はこの胚移植数が、安全な妊娠・分娩をするための重要なポイントなのです。

一般に胚移植数を増やすと妊娠率が上がりますが、多胎妊娠(双胎以上の妊娠)率も高くなります。多胎妊娠は早産になる頻度が高く、早産になると児が未熟な状態で生まれてきます。現在は新生児医学が発達しておりますので、治療によって問題なく発育できる児がいる一方で、後遺症を残す児も出てきます。また、多胎妊娠は、妊娠高血圧症候群、HELLP症候群、血栓塞栓症、胎児発育異常(胎児発育不全、両児の発育差)、産後の過多出血などの産科合併症の発症率が高いことが知られています。

体外受精が急速に発展した時期(1990年代から2000年代にかけて)は、とにかく妊娠率を上げることが至上命題で、多胎妊娠率を下げるという安全性まで手が回っていませんでした。しかし、近年は技術が成熟し、その精度が高まってきたため、妊娠率と安全性の両立が求められるようになってきました。

A 日本産科婦人科学会の会告
このような背景のもとに、2008年、日本産科婦人科学会より「生殖医療における多胎妊娠防止に関する見解」という会告が出されました。

「生殖補助医療の胚移植において、移植する胚は原則として単一とする。ただし、35歳以上の女性、または2回以上続けて妊娠不成立であった女性などについては、2胚移植を許容する」
この会告を実施した成果が論文にまとまっています。
「 1胚移植は2007年52.52%から2012年82.6%まで増えた。一方多胎妊娠率は10.7%から4.1%に減少した。早産、低出生体重児、妊娠週数に比して小さい児、周産期死亡率は有意に減少した。」

日本産科婦人科学会が毎年発表している体外受精・胚移植等の臨床実施成績によると、2015年は新鮮胚移植の79.7%、凍結融解胚移植の81.76%が単一胚移植だったそうです。

本当に1個しか戻さなくて妊娠するのか?
このように日本産科婦人科学会の会告を機に、一気に1胚移植が普及しました。でも本当に1個しか戻さなくて妊娠するのでしょうか?

当院では、全例1胚移植を行っています。最近の妊娠率をまとめてみました。
当院の成績

 












2胚移植の成績に比べるとやや低くなりますが、ほぼ同等の成績を出すことができます。

C まとめ
当院では妊娠率と安全性の両立を目指して、10年前より全例1胚移植を行っており、10年間二卵性双胎ゼロを達成しています。残念ながら、いまだに二卵性双胎を量産しているクリニックが、ごく一部あります。二卵性双胎は、防ぐことができます。治療を受ける側の皆様も、正しい知識を持って安全な妊娠を目指してください。

※2胚移植=悪ではありません。緻密な計算の基に選択的に2胚移植を行い、低い多胎妊娠率を維持しているクリニックもありますので、誤解の無いように。

 


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