幸町IVFクリニック 院長と培養士のIVFこぼれ話

幸町IVFクリニックの院長と培養士の、役に立つような、立たないようなブログです。 (主に院長の文句?)

2018年03月

胚移植するなら分割期?胞胚期?

幸町IVFクリニック院長 雀部です。

今回は、胚移植を行う時期の話です。

体外受精を経験された方はご存知だと思いますが、胚移植を行う時期として、分割期と胞胚期があります。一般に、分割期移植は2または3日目、胞胚期移植は4~6日目に行うことが多いと思います(採卵日が0日目です)。そして、胞胚期移植の方が、分割期移植より妊娠率が高いことが知られています。

なぜ、胞胚期移植の方が妊娠率が高い?

2つの理由が考えられています。

① 培養期間を延長することにより、弱い胚は脱落し、強い胚のみが胞胚に到達することができます。よって、妊娠率の分母から、弱い胚を移植する周期が除かれますので、相対的に妊娠率は高くなります。

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大きな声ではできない妊娠率の話

② 自然妊娠では、分割期胚はまだ卵管にいます。胞胚になるころに子宮に降りてきて着床します。マウスの体外受精では、正確に分割期胚は卵管に、胞胚は子宮に移植しないと妊娠しません。ところが、ヒトの体外受精では、卵管にいるべき分割期胚を子宮に移植しても妊娠します。

以前(1990年代)、培養技術(特に培養液)がまだ未成熟だった時代は、ヒト胚を胞胚期まで体外培養することが困難だったため、やむを得ず分割期胚を子宮に戻していました。それでも妊娠するのですが、本来卵管にいるべき分割期胚を子宮に戻していることが、妊娠率を下げる原因になっているのではないかと考えられてきました。

しかし、近年は主に培養液の改良により、簡単に胞胚まで体外培養することが可能になりました。それに伴い、子宮にいるべき時期の胚(つまり胞胚)を子宮に移植することができるようになりました。これによって妊娠率が向上するのではないかという考え方です。

2つの理由の内、①に関しては確実に妊娠率向上に貢献していますが、②に関しては、本当に妊娠率向上に貢献しているかどうか、まだ証明されていません。ヒトの場合、実はあまり関係ないのではという意見もあります。

臨床の現場では、3日目の時点で良好胚が複数ある場合、①の効果により妊娠率向上を見込むことができます。しかし、3日目の時点で良好胚が1個しかない場合、①の効果は期待できませんので、②の効果を見込んで培養期間を延長するかどうかは悩ましいところです。なぜなら、培養期間延長に伴う胚へのストレスのことも考慮しなくてはならないからです。どんなに技術が進んでも、完全に体内と同じ環境を体外に再現することは困難です。実は、子宮内の方が体外環境より優れているということがあり得ます。

妊娠・分娩に及ぼす影響

妊娠・分娩に及ぼす影響も考えておく必要があります。

2つ論文を紹介しておきます。

まず、胚移植の時期と分娩結果の関係を考察した論文です。
Martins, W. P., et al. (2016). "Obstetrical and perinatal outcomes following blastocyst transfer compared to cleavage transfer: a systematic review and meta-analysis." Hum Reprod 31(11): 2561-2569.

胞胚期移植は、分割期移植と比較して、37週未満の早産、32週未満の早期早産、妊娠週数より大きい児、周産期死亡数が増加するとのことです。一方、胞胚期移植は、分割期胚移植と比較して、妊娠週数より小さい児、vanishing twin(妊娠早期の双胎1児死亡)が減少するとのことです。

生殖補助医療における一卵性双胎の発生について検討した論文です。

胞胚期移植では、分割期移植と比較して、一卵性双胎発症のリスクが高くなる(オッズ比: 
2.18, 95%信頼区間: 1.93-2.48 )ことが報告されています。


診察室でお会いする患者さんの中に、胞胚期移植を、着床率を高くする魔法の方法のようにイメージされている方がたまにいらっしゃいます。そのような魔法の方法は存在しません。目先の妊娠率だけでなく、培養期間延長が胚に及ぼす影響、妊娠・分娩後なども考慮して胚移植の時期を決める必要があります。





○○をよく食べる人は内膜症になりにくい?

幸町IVFクリニック院長 雀部です。

今回は、日々の食べ物と子宮内膜症の関連についてです。

〇〇をよく食べる人は内膜症になりにくい?

何をよく食べると内膜症になりにくいのでしょうか?さっそく論文を紹介します。

Harris, H. R., et al. (2018). "Fruit and vegetable consumption and risk of endometriosis." Hum Reprod.

Human Reproductionという雑誌は、生殖医学領域では定番の医学誌です。

この論文は、1991年から2013年まで22年間かけて、70,835人の閉経前の女性について、果物や野菜の摂取と子宮内膜症の関係を前方視的に研究しています(以前の記事でも書きましたが、前方視的研究は、後方視的研究よりデータの信頼性が上です)。

子宮内膜症の診断は腹腔鏡にて行い、2609症例で子宮内膜症と診断されました。

研究の結果、果物の消費量と子宮内膜症のリスクは負の相関があることが分かりました。特に、柑橘類の果物との関係が顕著でした。1日に1人前以上の柑橘類を摂っている女性は、週に1人前以下の女性と比較して、22%子宮内膜症のリスクが低くなりました。ところが野菜に関しては予想に反して、1日に1人前以上のアブラナ科の野菜を摂っている女性は、週に1人前以下の女性と比較して、13%子宮内膜症のリスクが高くなりました。栄養素別の検討では、β-クリプトキサンチン(体内でビタミンAに変換されるプロビタミンA)の摂取が、子宮内膜症のリスクを下げることが分かりました。

ということで、タイトルの〇〇は、「果物」でした。

子宮内膜症は、不妊の原因になります。柑橘類の果物をよく摂り、アブラナ科の野菜を控えて予防しましょう。既に子宮内膜症を発症している方が、これによって軽快するかどうかについては、新たな研究の成果を待たなくてはなりませんが、普段の食事のことなので心掛けておいた方が良いと思います。



着床しやすい内膜とは?

幸町IVFクリニック 院長 雀部です。

今回は、子宮内膜の評価についての話です。

凍結融解胚移植周期では、胚移植前に子宮内膜評価のための診察が組まれます。その診察では、超音波検査とホルモン検査で子宮内膜の評価を行います。
​超音波検査で診ているのは、子宮内膜の厚みとパターンです。​以前より、子宮内膜の厚みは8mm以上、パターンは木の葉状(下図)が妊娠し易いと言われています。この基準を満たす症例はOK、満たさない症例は患者さんと相談の上で実施するか、または見送るかを決めることになります。


内膜1

​​










この厚みとパターンの基準を満たす症例が本当に妊娠し易い
​か​
どうか
​について​
​、
以前よりたくさんの論文が発表されていて、厚み、パターンは内膜の胚受容能と関係がある、またはないの議論が盛んに行われています。​ しかし、
未だに結論が出ていません​

ひとつ論文を紹介しておきます。
今年の1月に発表された
​ばかりの​
最新の論文です。



Medicineは、PubMedにおいてCore Clinical Journalsに指定されている権威ある医学誌です。

凍結融解胚移植周期における子宮内膜の厚み、パターンと妊娠率、生児獲得率、流産率との関係を後方視的に研究 ています (後方視的研究は前方視的研究より信頼性が落ちます)。その結果、厚み8mm以上、木の葉状パターンの基準を満たす症例は、満たさない症例と比較して、妊娠率については有意に高かったのですが、生児獲得率と流産率については有意差がありませんでした。

つまり、子宮内膜の厚みやパターンは、目先の妊娠率には影響するけれども、最終的な結果である生児獲得率までみると影響は少なく、むしろ胚の質の影響の方が大きいのではないかとのことです。

胚の形態的評価と同じで、超音波検査による子宮内膜の評価は、精度に限界があります。最終的には、ERA検査のような遺伝子レベルで診る検査をやらなければ、正確な胚受容能については評価できないということでしょう。

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超音波検査による子宮内膜の評価は、 あくまでも参考情報であり、絶対的なものではありません。評価が低いと、どうしても気になるものですが、生児獲得率はこれだけでは決まりません。内膜側の因子と胚側の因子それぞれに、バランスの良い目配りが大切です。





DHEAサプリは着床にも効く?

幸町IVFクリニック 院長 雀部です。

今回はDHEAサプリの話題です。

DHEAとは?

DHEAは、​
Dehydroepiandrosterone(デヒドロエピアンドロステロン)
​の略称で、テストステロンやエストロゲンなどの前駆体です。DHEA自体は、弱い男性ホルモンの働きをします。このDHEAは、サプリで簡単に摂取できます。卵巣予備能低下女性に投与することにより、生産率の改善が期待でき、​ 
Cochrane Database Syst Revでは、中等度のエビデンスとされています。当院でも大活躍のサプリです。

DHEAは着床にも効く? 

通常、DHEAサプリというと卵子や受精卵に対する効果が話の中心ですが、今回は、子宮内膜への効果の話です。


​​「
マウス
​にDHEAを投与して多囊胞性卵巣症候群(PCOS)状態を誘起した結果、子宮内膜の胚受容能と脱落膜化に有害な影響が認められた。」という内容です。
​​
​​
​​
​​
​​
この論文を根拠に、「胚移植後は、DHEA を投与しない方がいい」という意見が
​ネットで流れているそうです。それを見て不安に感じている患者さんがいらっしゃいましたので、解説しておきます。

​結論から言いますと、この論文の内容を直ちにヒトに当てはめるのは少々無理があります。

まず、マウスへのDHEA投与量が、体重100g当たり6mgという非常に高用量だということです。ヒトに当てはめると、毎日サプリ1本分(当院のDHEAサプリは1本に90カプセル入っています)を服用している状態に相当します。次に、実験動物のマウスは、背景条件を揃えるため個体差が生じないように作られており、卵巣機能に関しては均一に良好な状態です。ヒトに当てはめると、20代の卵巣機能良好な女性のみを選んで実験を行っているようなものです。

つまり、この論文の内容をヒトに置き換えると、​ 「20代の卵巣機能良好な女性のみを集めて、DHEAサプリを毎日まるまる1本分服用してもらった結果、多囊胞性卵巣症候群を誘起することができました。そして、子宮内膜を調べた結果、有害な影響がありました。」という内容なのです。

​DHEAサプリは、卵巣予備能低下女性を対象として、通常1日2~3カプセルを投与します。よって、DHEAサプリを通常量服用した程度で、子宮内膜に有害な影響がでるレベルの多囊胞性卵巣症候群状態が誘起されるとは考えにくいと思います。

​そして、こんな論文も出ています。

生殖年齢としては比較的高い女性​(平均年齢44.7±2.3歳)より採取した子宮内膜を体外で培養しています。DHEAを添加した群と添加しなかった群を比較した結果、DHEAによって子宮内膜の脱落膜化が増強されたという内容です。結論として、DHEAサプリを胚の受容期に投与することにより、子宮内膜の機能を増強し、妊娠率を改善する可能性があると述べています。

この論文も、体外培養系の実験なので直ちにヒトの臨床に当てはめるわけにはいきません。しかし、注目すべき内容だと思います。

このようにDHEAサプリの子宮内膜に対する影響は、まだ結論が出ていません。最終的には、ランダム化比較試験の論文を待つ必要があります。現時点では、通常の用量であれば、胚移植後も服用して大丈夫だと思います。



タイムラプス de 性別診断?

幸町IVFクリニック 院長 雀部です。

前回、タイ
​​
ムラプスシステムの導入によって胚の形態的評価の精度が上がる可能性について書きました。タイムラプス関連の論文を探している最中に、面白い論文を見つけました。

タイムラプス動画より得られる胚の発育に関するパラメーターと胚の性
​別​
の関連を調べています。たくさんのパラメーターについて調べていますが、そのうち2つのパラメーター
​が​
関係
​している​
とがわかりました。s2(3細胞期から4細胞期に至る時間)、tM(桑実胚に至る時間) です。s2が2時間以上かつtMが80.8–90.9時間の胚は、女性胚である可能性が高いらしいです。この2つの条件を両方とも満たす胚は71%が女性胚、両方とも条件を満たさない胚は42%が女性胚で、統計的に有意差を認めたというものです。

「男性胚と女性胚は、発育のしかたが微妙に違う」と以前より言われていましたが、それをデータで裏付けた論文です。

胚の性
​別​
は精子で決まる


ここで、胚の性
​別​
が決まるしくみをおさらいしときましょう。(知っている方は飛ばしてください)

卵子は、X染色体を1つ持っています。精子は、X染色体を1つ持った精子とY染色体を1つ持った精子がいます。X染色体を持った精子が卵子と受精すると女性胚、Y染色体を持った精子が卵子と受精すると男性胚になります。X染色体を持った精子とY染色体を持った精子の比は、理論的には1:1です。よって、人為的な操作が加わらなければ女性胚と男性胚の比は1:1になります。

体外受精で性比のバランスが崩れる?

その人為的操作の最たるものが生殖補助医療です。
​「​
人為的に精子、卵子、胚を扱うことによって、知らないうちに性比バランスが崩れるのではないか
​?」​
という懸念が
​、
前より
専門家の間では​
​ありました​

その懸念を検証した論文を紹介しておきます。


2000年から2010年まで、イギリスにおいて、生殖補助医療の結果生まれた106,066人の
​児の​
性比を調べています。体外受精の結果生まれた
​児のうち​
男児の比率は0.521(つまり男児の方が多い)、顕微授精
​では​
0.493(つまり女児の方が多い)でした。体外受精、顕微授精ともに、胞胚期胚移植
​による
男児の比率の方が、分割期胚移植による男児の比率よりも約6%多かったそうです。

極端な影響ではありませんが、影響はあるようです。

X精子とY精子は見分けられる? 

ところで、顕微授精を行う際、胚培養士が良好精子を目視で選びます。医学的にこのような形またはこのような動きをする精子は良好な精子というある程度の基準があります。しかし、最終的な精子の選択は、胚培養士の判断に任されています。

(ここから先の話は、都市伝説レベルの話で、エビデンスは全くありません。)

以前より、X精子とY精子には、顕微鏡でちょっと見た程度ではわからないレベルの微妙な形の違いがあると言われています。この人間の目では見分けることの難しいレベルの違い
​が​
長年にわたり毎日精子を見ているベテランの胚培養士に
​は​
なんとなく
​わかるらしいです。​ 
強者の胚培養士になると、こ
の精子はX精子っぽいとか、Y精子っぽいとかいうのが感覚的にわか
​り、​
​顕微授精の際に
結構な確率でX精子とY精子を打ち分けることができるとかできないとか
​・・・。
以上、都市伝説でした。

※ 本記事は、男女産み分けを推奨するものではありません。また、当院において男女産み分け、性別診断等の診療は行っておりません。
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