幸町IVFクリニック 院長と培養士のIVFこぼれ話

幸町IVFクリニックの院長と培養士の、役に立つような、立たないようなブログです。 (主に院長の文句?)

2018年06月

低反応卵巣の卵巣刺激法

幸町IVFクリニック 院長 雀部です。

今回は、低反応卵巣と診断された女性に対する卵巣刺激法の話です。

低反応卵巣の定義として有名なのが、Bolognaクライテリアです。正確を期すために原文も載せておきます。

At least two of the following three features must be present:
 以下の3つの特徴の内、少なくとも2つが存在すること
(i) Advanced maternal age (≥40 years) or any other risk factor for POR;
 女性が40歳以上または低反応卵巣に関係する他のリスク因子
(ii) A previous POR (≤3 oocytes with a conventional stimulation protocol);
 ロング法やアンタゴニスト法後の採卵で卵子3個以下だった既往
(iii) An abnormal ovarian reserve test (i.e. AFC ,5–7 follicles or AMH ,0.5–1.1 ng/ml).
 胞状卵胞数 5-7個以下またはAMH 0.5-1.1ng/ml以下

この低反応卵巣に対する卵巣刺激法は、薬剤をあまり使わない低刺激がいいのか、または普通に薬剤を使用する通常刺激がいいのかを検証し、アメリカ生殖医学会のガイドラインとしてまとめた論文を紹介します。今月発表されたばかりです。

Practice Committee of the American Society for Reproductive Medicine. Electronic address, A. a. o. (2018). "Comparison of pregnancy rates for poor responders using IVF with mild ovarian stimulation versus conventional IVF: a guideline." Fertil Steril 109(6): 993-999.

ガイドラインのサマリーを以下に示します。

HMGまたはFSH150単位以下の注射を連日打つ低刺激法と通常量(225単位以上)を連日打つ通常刺激法を比較した結果、臨床妊娠率に実質的な差はない。

経口剤と150単位以下の注射を併用する低刺激法と通常量(225単位以上)を連日打つ通常刺激法を比較した結果、臨床妊娠率に実質的な差はない。

経口剤のみの低刺激法と通常量(225単位以上)を連日打つ通常刺激法の比較に関しては、十分なエビデンスが得られていない。

完全自然周期と通常量(225単位以上)を連日打つ通常刺激法を比較した結果、臨床妊娠率に実質的な差はない。

つまり、低反応卵巣の女性に対しては、マイルドな刺激を行っても、注射をガンガン打っても、成績はあまり変わりませんよという内容です。それなら、コスト的にも安く、身体の負担の少ないマイルドな刺激法がいいですよね。

私も、低反応卵巣の患者さんには、低刺激法を勧めています。注射をガンガン打つ方法は、ただでさえ弱り気味の卵巣にさらにムチを打つようなもので、あまりお勧めできません。

この様な話をすると、低刺激法が優れた方法、通常刺激法は劣った方法のように勘違いされる方がいますが、そうではありません。通常刺激法は、卵巣に十分余力がある(卵巣予備能が十分にある)患者さんに対しては、優れた方法です。卵巣刺激法の選択に際しては、患者さんの卵巣の状況をよく見極めることが重要です。



慢性子宮内膜炎による着床不全

幸町IVFクリニック院長 雀部です。

今回は、慢性子宮内膜炎の話です。

着床不全の原因には、いろいろとありますが、そのひとつとして慢性子宮内膜炎が、最近注目を集めています。診断方法は、子宮鏡検査、病理組織検査、培養検査などがありますが、ゴールドスタンダードは、病理組織検査です。子宮内膜生検を行い、病理検査に提出します。病理検査では、免疫染色という方法で、炎症細胞のひとつである形質細胞を診断します。

今月発表されたばかりの論文を紹介します。
Vitagliano, A., et al. (2018). "Effects of chronic endometritis therapy on in vitro fertilization outcome in women with repeated implantation failure: a systematic review and meta-analysis." Fertil Steril.

メタ解析という方法で、5つの研究をまとめて解析しています。5つの研究の計796人の女性が対象です。慢性子宮内膜炎を治療した群は、未治療の群と比較して、継続妊娠率/生児獲得率(オッズ比6.81)、臨床的妊娠率(オッズ比4.02)、着床率(オッズ比3.24)が改善することがわかりました。慢性子宮内膜炎が治癒すると、慢性子宮内膜炎が無い方と同等の継続妊娠率/生児獲得率、臨床的妊娠率、着床率が得られることがわかりました。流産率については、各群間に有意差はありませんでした。

結論として、慢性子宮内膜炎の治療は、反復着床不全の患者さんの体外受精の成績を改善する可能性がある(may improve)と述べています。

当院でも、良好胚を2回以上移植しても妊娠しない方に、この慢性子宮内膜炎の検査を勧めています。

患者さんの状況によっては有効な検査ですが、欠点は少し痛いことです。「どのくらい痛いですか?」とよく聞かれます。痛みを表現するのって難しいですが、「子宮卵管造影検査程度の痛みです。」と説明しています。希望の方は、鎮痛目的の座薬を使用することも可能です。

ブラックボックス状態だった着床不全も、解決の糸口がいろいろと見えてきました。近い将来、着床不全が克服される日が来るかも知れません。このブログでも、生殖医療の新しい知見をわかりやすく紹介していきますので、また読みに来てください。



レスベラトロールで卵の質改善

幸町IVFクリニック院長 雀部です。

今回は、レスベラトロールの話です。

レスベラトロールとは、赤ワインに含まれているポリフェノールの1種で、強力な抗酸化作用があります。長寿遺伝子と言われているサーチュイン遺伝子を活性化させる可能性が報告されています。他にも、脂質・糖代謝の改善、認知症予防、抗癌作用などが期待されています。

不妊治療への応用も検討されています。5月に発表されたばかりの論文です。
Liu, M. J., et al. (2018). "Resveratrol improves in vitro maturation of oocytes in aged mice and humans." Fertil Steril 109(5): 900-907.

38-45歳、ICSIによる治療中の女性64人から回収した未熟卵75個と48-52週齢(高齢)のマウスから得られた1,138個の未熟卵が研究の対象です。ヒト卵子は、2つのグループに分けて、レスベラトロール含有(1.0μM)の培養液と含有していない培養液でそれぞれ培養しました。マウス卵子は、4つのグループに分けて、レスベラトロール含有(0.1、1.0、10μM)の培養液と含有していない培養液でそれぞれ培養しました。

卵子核の成熟、受精、ミトコンドリアの免疫蛍光強度、紡錘体と染色体の正常形態率などについて比較検討した結果、レスベラトロールは、マウス卵子において卵子成熟と胞胚形成を誘起し、ヒト卵子において卵子成熟と質を改善することがわかりました。

この論文は体外培養系の実験ですが、レスベラトロールが卵子成熟に良い影響を与えている可能性が示されました。実際にレスベラトロールのサプリを摂取することにより、卵子の成熟や質が改善するかどうかは、さらなる研究成果を待たなくてはなりませんが、卵の成熟や質改善への有望な手がかりのひとつと言えそうです。

当院のオリジナルサプリ「幸町IVFオリジナルサプリNeo」に、このレスベラトロールが含まれています。ご希望の方は、診察室にて相談してください。

禁欲期間って何?

幸町IVFクリニック院長 雀部です。

今回は、ご主人の禁欲期間の話です。

体外受精や顕微授精の治療周期に入ると、「ご主人の禁欲期間を調節してください。」という話がでます。我々は普段当たり前のように使っている表現なのですが、患者さんの中には「ご主人の禁欲期間」と言われても何のことかわからない方がいらっしゃいます。

ご主人の禁欲期間とは、射精から次の射精までの期間を指します。WHOのガイドラインでは、この期間を2-7日に調節するのが望ましいとしています。精液検査、精子凍結、人工授精、体外受精、顕微授精などを目的とした採精は、すべてこの基準で禁欲期間を調節して行います。

一般に、禁欲期間が短すぎると精液量、精子濃度が減り、長すぎると運動性が低下するといわれています。そして、丁度いい落としどころが、禁欲期間2-7日になります。

当院では、患者さんに禁欲期間3-7日と伝えています。禁欲期間2日でも大丈夫と伝えると、射精の時間帯によっては禁欲期間48時間を下回ってしまう可能性があるためです。例えば、深夜に射精した後、1日はさんで2日後の早朝に再度射精すると、禁欲期間24-36時間になってしまいます。48時間を下回ってしまうと、症例によっては、精液量、精子濃度が低下してしまうことがあります。実際には、48時間が確保できていれば、禁欲期間2日でも大丈夫です。

この禁欲期間が、体外受精の成績に及ぼす影響を検証した論文を紹介します。
Periyasamy, A. J., et al. (2017). "Does duration of abstinence affect the live-birth rate after assisted reproductive technology? A retrospective analysis of 1,030 cycles." Fertil Steril 108(6): 988-992.

2011-2015年の間に実施された生殖補助医療1,030周期を、後ろ向きに検討した研究(前向きの研究に比べると信頼性が落ちます)です。禁欲期間2-7日間のグループと7日以上のグループを比較してた結果、禁欲期間2-7日のグループの方が、生児獲得率、臨床妊娠率が有意に高い結果でした。受精率、流産率は、有意差ありませんでした。

禁欲期間2-7日間に調節した方が、体外受精の成績がいいようです。「皆さん、禁欲期間を調節しましょう」で、話を終わりたいところなのですが、臨床の現場ではそんなに簡単にはいきません。どういうことかと言いますと、精液検査や精子凍結の場合は、あらかじめ日程が決まっているので、禁欲期間の調節が容易です。ところが、体外受精や顕微授精の場合は、採卵の日程が2-3日前まで確定しないため、禁欲期間の調節が難しくなってきます。

そこで、だいたいの見当をつけて禁欲期間の調節することになります。当院では、卵巣刺激開始日を1日目と数えて10-14日目に採卵日が当たることが多いので、卵巣刺激7日目に1度射精しておいてもらいます。そうすると、だいたい禁欲期間が3-7日になります。もちろん、採卵日が前後にずれると上手くいきませんが、だいたいこのやり方で調節可能です。

禁欲期間の調節について、理解していただけたでしょうか?

最後に、このような話をすると、禁欲期間を過度に気にする方が必ずでてきます。禁欲期間はあくまでも目安であり、体外受精の成績はこれだけで決まるわけではありません。他にも重要なポイントがたくさんあります。1つのことにあまり神経質になり過ぎないように注意しましょう。




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