幸町IVFクリニック 院長と培養士のIVFこぼれ話

幸町IVFクリニックの院長と培養士の、役に立つような、立たないようなブログです。 (主に院長の文句?)

2018年08月

培養液のメーカーが9歳時の発育に影響

幸町IVFクリニック院長 雀部です。

私が体外受精の診療に携わるようになった1990年ごろ、体外受精に用いる培養液は、自分たちで成分から作成していました。今はそんな手間の掛かることをしなくても、良質な培養液がいくつものメーカーから販売されています。各メーカーは、独自の組成の培養液を開発し、その特色をセールスポイントとして販売しています。我々クリニックは、何種類もある培養液のそれぞれの特色や組成をよく検討し、選定して臨床に用いることになります。

ところで、この培養液、どのメーカーの培養液を使うかによって、生まれた後の発育が異なってくると聞いたらびっくりしますよね? 今年の7月に発表されたばかりの論文を紹介します。

Zandstra, H., et al. (2018). "Association of culture medium with growth, weight and cardiovascular development of IVF children at the age of 9 years." Hum Reprod.

比較したのは、Vitrolife社とCook社の培養液です。たくさんある培養液の中で、最もメジャーな2社です。

2003年7月から2006年12月までの間に、体外受精、分割期胚移植を行った結果、単胎妊娠、出産に至った児294人のうち、136人の9歳児が研究に参加しました。体外受精の際に用いた培養液は、Vitrolife社75人、Cook社61人でした。この136人に対して、2時間半かけて発育や心血管系などについて検査を行いました。

その結果、体重は1.58kg、BMIは0.84kg/m2、Vitrolife社の方が重いことがわかりました。身長は、有意差ありませんでした。ウエスト周囲は3.21cm、Vitrolife社の方が長く、ウエスト/ヒップ比は0.03大きいことがわかりました。体幹の皮下脂肪の厚みを4ポイント測る検査は3.44cm、Vitrolife社の方が皮下脂肪が多いとの結果でした。血圧、空腹時グルコース、空腹時インシュリン、総/LDL/HDLコレステロール、中性脂肪、TSH、毛髪中のコルチゾール/コルチゾン濃度、心血管系の検査では、有意差なしでした。

【注意!】どちらの培養液が優れているか、優劣をつけることを目的とした研究ではありませんので誤解のないように

分割期胚移植なので胚が培養液に暴露されていたのは、わずか2-3日間程度ですが、生まれて9年後の発育に影響してくるとは驚きですね!培養液重要です!

ところで、この重要な培養液、日本では、国が認可している培養液がひとつもないというか、認可するシステムそのものがないということご存じでしたか?すべての市販の培養液が、日本国内では研究用試薬です。つまり、人体に使用することが認められていません。

ちなみに、アメリカやヨーロッパは、ちゃんと国が培養液を評価して認可するシステムがあります。治療を受ける方々の医療安全のために、国が責任を持って審査し、認可しているのです。日本は野放し状態ですので、どこの国の認可も得ていない培養液も普通に流通しています。医療安全を気にする医師は、やむを得ずアメリカなどで認可されている培養液を選んで、自分の責任の下に使用することになります。(当院ではアメリカのFDAの認可を受けている培養液を採用していますので、ご安心ください。)

日本では培養液に起因すると考えられる問題が起きた場合、研究用試薬を臨床に使っていた医者が悪いという理屈になります。問題を放置していた国は、責任を問われません。この現状っておかしいと思いませんか?私はおかしいと思います。でも、この問題、医師の間でも問題意識が希薄で、当面変わりそうにありません。残念なことです。





男も妊活下着で勝負!

幸町IVFクリニック 院長 雀部です。

今回は、男性の下着のタイプと妊娠力の関連についてです。

以前より、ボクサータイプの下着の方が精巣の温度が下がるので、精子形成に有利と言われてきました。それを実際に検証した論文を紹介します。

今月発表されたばかりの最新の論文です。
Minguez-Alarcon, L., et al. (2018). "Type of underwear worn and markers of testicular function among men attending a fertility center." Hum Reprod.

2000-2017年に不妊治療施設を訪れた656人の男性を対象とした横断研究です。

普段身につけている下着のタイプを自己申告してもらった後に、精液検査、ホルモン検査、精子DNAダメージ検査を実施しました。

年齢の中央値35.5、BMIの中央値26.3でした。53%の男性が日常的にボクサータイプの下着を着用していました。

精液検査では、ボクサータイプ着用男性の方が、精子濃度が25%高く、総精子数が17%高いことがわかりました。

ホルモン検査では、ボクサータイプ着用男性の方が、FSHが14%低いことがわかりました(精巣機能が低下するとFSHが高くなる)。

他の検査項目と下着のタイプには、関連性がありませんでした。

ボクサータイプの下着の方が、精子形成に関しては有利と考えて良さそうです。これは以前より言われてきたことですが、それをしっかりデータで裏付けてくれた論文でした。

妊活中のご夫婦は、まずご主人の下着を見直しましょう。もし、ご主人がタイトな下着を日常的に着用しているようでしたら、すぐにボクサータイプに変えましょう。下着を変えるだけで、妊娠力がアップすると思います。


内膜症性囊胞の手術は慎重に

幸町IVFクリニック 院長 雀部です。

前回の記事にて、卵巣に内膜症性囊胞があると卵巣予備能が低下するという話をしました。だったら、手術して卵巣内膜症性囊胞を取っちゃおうと考えている方いらっしゃいませんか?

ちょっと待って下さい。慌てて手術をする前に、今回紹介する論文を読んでみてください。

Alborzi, S., et al. (2014). "The impact of laparoscopic cystectomy on ovarian reserve in patients with unilateral and bilateral endometriomas." Fertil Steril 101(2): 427-434.

卵巣内膜症性囊胞の腹腔鏡下卵巣嚢腫摘出術が、卵巣予備能に及ぼす影響を検討した論文です。

卵巣内膜症性囊胞の腹腔鏡下卵巣嚢腫摘出術を行った193人の女性を対象とした前向き研究です。卵巣予備能の指標として抗ミューラー管ホルモン(AMH)を、術前、術後1週間、3ヶ月、9ヶ月に測定しています。

術前のAMH3.86±3.58ng/mlが、術後1週間1.66±1.92ng/ml、3ヶ月2.06±2.5ng/ml、9ヶ月1.77±1.76ng/mlと有意に低下しました。特に両側卵巣に内膜症性囊胞がある女性、38才以上の女性は、術後の低下率がより大きいという結果でした。

つまり、卵巣に内膜症性囊胞がある方は、手術をすると卵巣予備能が低下し、9ヶ月待ってもほとんど回復しないということです。

よって、内膜症性囊胞の摘出術をやるかやらないかは、慎重に考える必要があります。不妊治療を担当する立場としては、内膜症性囊胞は原則手術をやらずに経過をみることをお勧めします。

大きい内膜症性囊胞など、妊娠前に摘出した方が良いとの判断の場合は、先に採卵して胚を凍結保存してから手術、術後に融解胚移植という手もあります。

ただし、卵巣内膜症性囊胞はまれに悪性化することがあります。経過観察する場合は、定期的に腫瘍マーカーや画像診断を行い、万が一悪性化が疑われる場合は、手術を含めた対応が必要になってきます。

【注意!】
良性・悪性の最終診断は、手術で摘出した組織を病理診断してもらわないとつきません。手術をしない状態での腫瘍マーカーや画像診断による良性・悪性の診断精度には限界がありますので注意して下さい。

経過観察するにしても、手術をするにしても、それぞれのメリット、デメリットを十分に理解して治療方針を決定する必要があります。単純に悪いものは取ってしまえという話ではないことを理解していただけたでしょうか?


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