幸町IVFクリニック 院長と培養士のIVFこぼれ話

幸町IVFクリニックの院長と培養士の、役に立つような、立たないようなブログです。 (主に院長の文句?)

2018年09月

1個胚移植がやっぱり安全

幸町IVFクリニック院長 雀部です。

IVF
幸町IVFクリニック


Vanishing twinというのを、ご存じですか?「消える双子」という意味ですが、妊娠12週以前の妊娠初期に生じた双胎1児死亡をvanishing twinといいます。文字通り、死亡した児は、消えて見えなくなってしまいます。

一般に、vanishing twinが起きても、残った児に対する影響はないと言われています。ところが、体外受精妊娠に関して検討してみると、まったく影響が無いとは言い切れないようです。

9月に発表されたばかりの最新の論文です。

Kamath, M. S., et al. (2018). "Perinatal outcomes of singleton live births with and without vanishing twin following transfer of multiple embryos: analysis of 113 784 singleton live births." Hum Reprod.

 イギリスにて1991年~2011年の間に行われた新鮮胚移植508,410例の結果妊娠した単胎妊娠95,779例、融解胚移植131,157例の結果妊娠した単胎妊娠18005例が対象です。

主要評価項目は、妊娠37週未満の早産と2500g未満の低出生体重児の率です。

まず、新鮮胚移植症例です。1個胚移植の妊娠例と比較して、2個以上の胚移植後のvansihing twin症例は有意に早産率が高く(補正後オッズ比2.70、95%信頼区間2.37-3.05)、低出生体重児率も高い(補正後オッズ比2.76、95%信頼区間2.44-3.13)ことがわかりました。2個以上の胚移植後でも最初から単胎妊娠の症例は、1個胚移植の妊娠例と比較して、早産率、低出生体重児率に有意差はありませんでした。

次に融解胚移植症例です。1個胚移植の妊娠例と比較して、2個以上の胚移植後のvansihing twin症例は有意に早産率が高く(補正後オッズ比2.13、95%信頼区間1.55-2.93)、低出生体重児率も高い(補正後オッズ比2.61、95%信頼区間1.87-3.64)ことがわかりました。2個以上の胚移植後でも最初から単胎妊娠の症例は、1個胚移植の妊娠例と比較して、早産率、低出生体重児率に有意差はありませんでした。

2個以上の胚移植後の妊娠において、vanishing twinと早産、低出生体重児のリスクには関連性があると結論づけています。

やっぱり体外受精は1個胚移植に限ります。当院では、10年前より全例1個胚移植を行っています。目先の妊娠率に惹かれて2個胚移植せずに、1個胚移植で安全な妊娠を目指してください。

【関連記事】

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これだけ、2個胚移植の危険性が言われているのに、いまだに2個胚移植を行い、2卵性双胎を量産しているクリニックが一部あります。正しい知識を持って、ご自身の意思で、2個胚移植にNOと言いましょう!



着床率向上の秘策?ー子宮内膜スクラッチ法ー

幸町IVFクリニック院長 雀部です。

子宮内膜を傷つけて着床率を上げる子宮内膜スクラッチ法というのをご存知ですか?子宮内膜を傷つけるとなぜ着床率が上がるのか不思議ですよね。着床率が上がる機序はまだはっきりとは解明されていませんが、着床不全対策としてすっかり定番の方法となりつつあります。

子宮内膜スクラッチ法のランダム化比較試験もたくさん発表されています。今回紹介するのは、いくつものランダム化比較試験をメタ解析という方法でまとめて解析した論文です。今月発表されたばかりの最新の論文です。

Vitagliano, A., et al. (2018). "Endometrial scratch injury for women with one or more previous failed embryo transfers: a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials." Fertil Steril 110(4): 687-702 e682.

対象患者は、体外受精(顕微授精)-胚移植法 において、1回以上着床不全の既往がある方です。子宮内膜スクラッチ法の介入を行ったグループとコントロールのグループ(偽の介入または介入なし)を比較しています。10の研究についてメタ解析を行い、対象患者数は延べ1,468人(子宮内膜スクラッチ法を行った733人とコントロール735人)です。

生児獲得率は子宮内膜スクラッチ法のグループの方が有意に高く(リスク比1.38、95%信頼区間1.05-1.80)、多胎妊娠率、流産率、異所性妊娠率に有意差はありませんでした。

胚移植の前周期の高温相に2回子宮内膜スクラッチを行ったグループで特に効果が高く、生児獲得率(リスク比1.54、95%信頼区間1.10-2.16)、臨床妊娠率(リスク比1.30、95%信頼区間1.03-1.65)ともに有意に高い結果でした。

着床不全の既往回数との関係は、2回以上の患者さんには効果がありましたが、1回の患者さんには効果がありませんでした。

凍結融解胚移植の患者さんには、効果がありませんでした。

子宮内膜スクラッチ法は、着床不全の既往が2回以上ある患者さんの新鮮胚移植において、結果を改善する可能性があると結論づけています。

凍結融解胚移植の患者さんには効果がないというのは、意外ですね。私の経験では、患者さんによっては効果があると思うのですが・・・

論文のディスカッションでは、凍結融解胚移植の患者さんに効果がない理由として、凍結融解胚移植周期はすでに正確に内膜の準備ができている可能性が高く、排卵誘発剤などによる早発子宮内膜成熟(premature endometrial maturation)のリスクが低いためと推測しています。

まだまだ議論の余地のある方法ですが、着床不全を繰り返しているご夫婦は、試してみる価値のある方法だと思います。



体外受精児の学業成績

幸町IVFクリニック院長 雀部です。

体外受精児と自然妊娠児の学業成績を比較した論文を紹介します。8月に発表されたばかりの論文です。

Norrman, E., et al. (2018). "School performance in singletons born after assisted reproductive technology." Hum Reprod. 

1985年~2001年、スウェーデンにて、体外受精の結果生まれた8,323人、自然妊娠によって生まれた1,499,667人の学業成績を比較した後ろ向き研究です。

主要評価項目は、小学校9年生の16科目の点数の合計(320点満点)です。副次評価項目は、数学、スウェーデン語、英語、体育の成績、中学校への入学資格、小学校9年生の16科目の点数の合計が160点未満の成績不良者割合です。

小学校9年生の16科目の点数の合計(320点満点)の平均は、体外受精児230.2点、自然妊娠児209.7点と体外受精児の方が有意に優秀でした。しかし、対象者の背景情報(子供の性別・生まれた年、母親の年齢・出産歴・喫煙、父親の年齢、両親が生まれた地域・教育・社会経済的階層)を補正して比較すると自然妊娠児の方が、わずかですが有意に優れていました。

副次評価項目に関しては、自然妊娠女児のスウェーデン語の成績が、わずかですが有意に優れていました。男児の数学、スウェーデン語、英語、体育の科目ごとの成績、女児のスウェーデン語以外の科目ごとの成績に有意差はありませんでした。男児と女児を合わせて解析すると、科目ごとの成績に有意差はありませんでした。中学校への入学資格、成績不良者割合も有意差ありませんでした。

結論として、体外受精児の学業成績に関しては、概ね問題なしとのことでした。

体外受精児の周産期リスクについては、いろいろな論文が出ていますが、学業成績を比較した論文は非常にめずらしいですね~。素データでは、体外受精児の方が優秀というのがおもしろいです。何が影響しているのでしょう?興味のあるところです。




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