幸町IVFクリニック 院長と培養士のIVFこぼれ話

幸町IVFクリニックの院長と培養士の、役に立つような、立たないようなブログです。 (主に院長の文句?)

2019年01月

凍結胚移植vs.新鮮胚移植

幸町IVFクリニック院長 雀部です。
IVF
幸町IVFクリニック


今回は、凍結胚移植と新鮮胚移植、どちらの方が妊娠しやすいかという話題です。

基礎知識として、凍結胚移植と新鮮胚移植それぞれのメリット、デメリットをおさらいしておきましょう。

①凍結胚移植は、卵巣過剰刺激症候群(OHSS)発症のリスクを回避できる。これは、凍結胚移植の最大のメリットです。
②新鮮胚移植は、同じ周期に卵巣刺激ー採卵を行うため、着床の時期にエストロゲン高値が持続したり、クロミッドを使用した場合に内膜が薄くなるなど、卵巣刺激が着床に関して不利な方向に影響することがある。
③凍結胚移植の方が、異所性妊娠の発症が少ない。
④新鮮胚移植は、胚移植ー妊娠判定まで1周期で終わりますが、凍結胚移植は、最低でも2周期必要になります。その分、時間、通院回数、費用などが、余分に掛かります。
⑤ホルモン補充周期で凍結融解胚移植を行った場合の話ですが、胚と内膜のタイミングを簡単に合わせることができます。また、ERA検査などで、着床ウィンドウがずれていることがわかった場合、簡単に補正できます。

細かいものは他にもありますが、主にこの5つを押さえておけば十分だと思います。

前置きが長くなりましたが、凍結胚移植と新鮮胚移植、どちらが生児獲得率が高いかを検討した論文を紹介します。今月発表されたばかりの最新の論文です。

Bosdou, J. K., et al. (2019). "Higher probability of live-birth in high, but not normal, responders after first frozen-embryo transfer in a freeze-only cycle strategy compared to fresh-embryo transfer: a meta-analysis." Hum Reprod.

「卵巣刺激に対して高反応する患者さんは、新鮮胚移植と比較して、凍結胚移植の方が生児獲得率が高い」

8つのランダム化比較試験、総患者数5265人のデータを、メタアナリシスという方法で解析した論文です。8つのランダム化比較試験のうち、4つは卵巣刺激に高反応する患者さん、残りの4つは正常反応する患者さんを対象としています。

新鮮胚移植と全胚凍結後に行われた最初の融解胚移植の成績を、生児獲得率で比較しています。

卵巣刺激に高反応する患者さんは、新鮮胚移植と比較して、凍結胚移植の方が、生児獲得率が高いことがわかりました(RR:1.18、95%CI: 1.06-1.31)。

卵巣刺激に正常反応する患者さんは、新鮮胚移植と凍結胚移植の生児獲得率に有意差はありせんでした(RR: 1.13、95%CI: 0.90-1.41)。

卵巣過剰刺激症候群は、両群とも凍結胚移植の方が有意に低い発症率でした。

卵巣刺激の方法、卵子を最終成熟させる方法、凍結方法など、背景条件が補正されていないため、エビデンスレベルはあまり高くありませんが、卵巣刺激に高反応する患者さんに関しては、凍結胚移植に軍配が上がるようです。

当院では、卵巣過剰刺激症候群のリスクが低く、内膜厚が十分な患者さんには、新鮮胚移植を行います。新鮮胚移植で良好胚を戻しているにも関わらず、妊娠に至らない患者さんは、次からは凍結胚移植を検討します。

良好胚を凍結胚移植しても妊娠しない患者さんは、内膜側に何か原因がないかどうかを調べます。必要に応じて、子宮鏡、子宮内膜組織診、Trio検査などを行っていきます。

患者さんの状況を診ながら、新鮮胚移植と凍結胚移植を使い分けていくことが重要です。


 

ていねいな顕微授精

幸町IVFクリニック院長 雀部です。
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今回は、顕微授精の話題です。

顕微授精は、卵子が第2減数分裂中期(MetaphaseⅡ)の時期に行われます。いきなり小難しい医学用語が出てきましたが、要するに採卵で取れてきた卵子がすべて顕微授精の対象となるわけではなく、十分に成熟し、適した時期に到達した卵子でないと顕微授精の対象にならないということです。

卵子が第2減数分裂中期(MetaphaseⅡ)かどうかを判断するには、通常第1極体が放出されているかどうかを指標とします。しかし、この指標だけで判断すると、第1極体が放出された直後など、第1極体が放出されているにも関わらず成熟度が十分でないことがあります。卵子の成熟度が十分でない時期に顕微授精を行うと、当然受精率が悪くなってきます。

卵子の成熟度を正確に評価できる、もう少し精度の高い指標がないかということで、最近卵子の紡錘体が見えるか見えないかを、もう一つの指標として加えてみるという試みが行われています。

紡錘体について少し解説を追加しておきます。紡錘体とは、細胞分裂の際に染色体を娘細胞に分配する細胞内の構造物です。通常の顕微鏡では見えませんが、紡錘体を可視化する特殊な装置を使うと見ることができます。

2つの指標(第1極体の放出プラス紡錘体が見えること)を用いて卵子の成熟度を評価し、顕微授精を行った成績を報告した論文を紹介します。今月発表されたばかりの最新の論文です。

Holubcova, Z., et al. (2019). "Egg maturity assessment prior to ICSI prevents premature fertilization of late-maturing oocytes." J Assist Reprod Genet.

234人の患者さんから得られた916個の卵子が研究対象です。
第1極体が放出されているにも関わらず、紡錘体が見えなかった卵子は32.64%でした。第1極体の放出が遅れた卵子の38.86%、採卵時に成熟していた卵子の89.84%に紡錘体が確認できました。紡錘体が見えないために顕微授精が延期された卵子のうち52.39%が追加培養にて紡錘体が確認できました。紡錘体が確認できた卵子は有意に発生能が高く、紡錘体の確認は胞胚期到達を予測する指標として優れていました。加えて、紡錘体が確認できた卵子は、着床率、妊娠満期まで到達する率が高いことがわかりました。それから、通常では廃棄されてしまう、成熟が遅い卵子に対して、適切な時期に顕微授精を行うことにより、11人の児が出生に至ったことが報告されました。

結論として、紡錘体の確認は、卵子成熟の判定に有用であること、未熟な卵子でも、この方法を用いて適切な時期に顕微授精を行うことにより、生児獲得に繋がる可能性があることを報告しています。

当院でも、10年ほど前から紡錘体を可視化する装置を使って顕微授精のタイミングを決めています。よって、内容的にはあまり目新しい話ではないのですが、きちんとデータを提示して、その有用性を証明したという意味で、価値のある論文だと思います。

一定の時間帯に顕微授精をやってしまえば、培養室の仕事の効率は上がりますが、成熟が遅延している卵子を救うことはできません。それから、ただ上手に顕微授精ができるだけではダメで、いつ顕微授精をやればいいかを見極める力も含めて、培養室の技術力になってきます。手間は掛かりますが、ていねいな顕微授精を積み重ねることにより、1個でも多くの正常受精胚を作る努力が重要だと考えています。



ご主人の年齢・BMI・精液所見が成績に影響?

幸町IVFクリニック院長 雀部です。
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今回は、ご主人側の因子が体外受精の成績、分娩結果に及ぼす影響についての話題です。

一般に妊活というと、年齢が若い内に妊娠の計画、妊娠し易い身体作り、体質改善など、どうしても女性側に焦点を当てて話しをすることが多いと思います。では、男性側の因子はあまり体外受精の成績、分娩結果に影響しないのでしょうか?

その疑問を実際に検証した論文を紹介します。昨年10月に発表された論文です。

Capelouto, S. M., et al. (2018). "Impact of male partner characteristics and semen parameters on in vitro fertilization and obstetric outcomes in a frozen oocyte donor model." Fertil Steril 110(5): 859-869.

アトランタで2008-2015年に行われた後ろ向き研究です。凍結ドナー卵子を用いた体外受精、胚盤胞移植を行った949症例が対象です。

なぜ凍結ドナー卵子を用いた体外受精症例を研究対象にしたかというと、ドナー卵子は20代の健康な女性から提供を受けるものなので、一律良好卵子であることが多く、卵子の質のばらつきを最小限にすることができる。つまり、男性側の因子の影響を検討するには理想的な研究モデルということができます。

男性の年齢、BMI、精液所見が、着床率、臨床妊娠率、生児獲得率、単胎妊娠における2500g以下の体出生体重児率、妊娠37週未満の早産率に及ぼす影響を検討しました。

背景情報の補正後、男性の年齢、BMI、精液所見は、着床率、臨床妊娠率、生児獲得率に影響を及ぼしませんでした。素データでは、年齢51歳以上、BMI 35kg/m2以上の男性において、早産率が高値を示しましたが、補正後に有意差は無くなりました。男性の年齢35歳より上、BMI 25kg/m2より高値であることは、低出生体重児率に影響しませんでした。異常精液所見は、早産率、低出生体重児率に影響しませんでした。

結論は、ドナー卵子を用いた体外受精において、男性の高年齢、BMI高値、異常精液所見は、体外受精の成績、分娩結果に影響を及ぼさないというものでした。顕微授精の技術と卵子の質が良好であることが、男性側のマイナス因子を緩和しているのではないかと考察しています。

卵子の力は偉大ですね!
多少精子の質に問題があっても、卵子の質が良ければ、その問題を吸収してしまうだけの力があるということです。でも、卵子の質が微妙だったらどうなるでしょうか?その場合は、精子の質の問題をカバーできずに、体外受精の成績、分娩結果に影響してくる可能性は、”ある”と思います。

卵子に比べると精子の影響は限定的なようですが、だからといって男性側はノーケアでOKということではありません。男性もなるべく年齢が若い内に妊活する、たばこを吸わない、食事・運動に気をつけて体型を保つ、などの努力は必要だと思います。




胚の凍結保存は何年ぐらいまで大丈夫?

新年明けましておめでとうございます。

幸町IVFクリニック院長 雀部です。
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忙しさにかまけて、しばらくさぼってしまいましたが、心機一転また役立つ情報を届けていきますのでよろしくお願いいたします。

今回は、凍結胚の保存期間に関する話題です。

皆さん、凍結胚ってどのように保存されているかご存じですか?
患者さんの中には、業務用の冷凍庫の様なものに保存されているとイメージされている方がいらっしゃいます。理化学向けのディープフリーザーという超低温フリーザーがありますが、それでもせいぜいマイナス80℃程度までしか温度を落とせません。マイナス80℃で保管したら、あっと言う間に劣化が進んで、多分1年持たないのではないかと思います(試したことがないので、推測です)。

実際には、タンクに入れた液体窒素(マイナス196℃)の中に保存します。マイナス196℃で保存すると、理論上半永久的に保存が可能です。しかし、理論上大丈夫なこと=医療における安全ではありませんので、これを実際に証明する研究がおこなわれることになります。

前置きが長くなりましたが、12年以上凍結保存された胚の臨床成績を報告した論文を紹介します。今月発表されたばかりです。

Yuan, Y., et al. (2019). "What was the fate of human embryos following long-term cryopreservation (>/=12 years) and frozen embryo transfer?" Hum Reprod 34(1): 52-55. 

中国にて2016年3月~2017年4月に行われた後方視的研究です。
過去に体外受精または顕微授精による出産歴がある20人の患者さんと128個の凍結胚が対象です。凍結保存期間は12.0~17.1年、平均13.9年、凍結時の女性の年齢は、平均28.7歳(25-38)、凍結方法は、slow freezing法です。(ちなみに、slow freezing法は、昔の凍結技術です。現在は、vitrification法という新しい凍結技術が主流です。)115個の胚が融解され、融解の成功率は74%でした。60個の胚が、追加培養に供され20個(33%)が胞胚に到達しました。21個は分割期、13個は胞胚期に胚移植が行われました。その結果、化学的流産1症例、初期流産1症例、異所性妊娠2症例、単胎妊娠3症例、双胎妊娠1例でした。臨床妊娠率は、3日目胚移植25%、5日目胚移植36%でした。生児獲得率は、3日目胚移植17%、5日目胚移植27%でした。

少し成績が悪い気がしますが、その原因がslow freezing法で凍結した胚だからなのか、長期凍結保存による劣化によるものなのかは、判断が難しいと思います。いずれにせよ、12年以上凍結保存しても、一定の臨床成績は期待できそうです。

少しずつこのような論文が発表されるようになってきましたが、凍結胚の長期保存の安全性は、まだ十分に証明されていません。ただし、5年以内の保存期間であれば、一般にひろく行われている通常診療の範囲内であり、安全性は十分に確立されていると考えていいと思います。当院でも、凍結保存期間は最長5年とし、凍結から5年以内に胚移植をするつもりで、治療の計画を立てるように勧めています。



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