幸町IVFクリニック 院長と培養士のIVFこぼれ話

幸町IVFクリニックの院長と培養士の、役に立つような、立たないようなブログです。 (主に院長の文句?)

2019年02月

体外受精 vs. 顕微授精

幸町IVFクリニック院長 雀部です。
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幸町IVFクリニック


今回の話題は、授精方法の選択についてです。

体外受精の授精方法には、媒精と顕微授精があります。媒精とは、同じ培養液中に卵子と精子を置いて自然の受精を期待する方法です。顕微授精は、主に男性不妊のご夫婦に行う方法で、卵細胞質内精子注入法(ICSI)を行うのが一般的です。

媒精、顕微授精両方とも(広い意味の)体外受精なのですが、媒精のことを、顕微授精と対比させて、(狭い意味の)体外受精と呼ぶことがあります。正確には「媒精 vs. 顕微授精」なのですが、「体外受精 vs. 顕微授精」の方が患者さんにはわかりやすいかと思います。

この体外受精と顕微授精ですが、選択を間違えると受精卵ゼロ→キャンセルという悲惨なことになります。事前に精液検査を行いある程度の見当はつけておくのですが、実際には判断に迷う症例が多く存在します。

判断に迷う症例対策としては、①最初から顕微授精をやる、②スプリット(採卵した卵子を2群に分けて、それぞれ体外受精と顕微授精に割り当てる)、③レスキューICSI(最初体外受精を行い、受精しなかった卵子についてのみ顕微授精を行う)の3つがああります。

今回は、②スプリットを行った症例を後方視的に検討し、授精方法の違い(体外受精または顕微授精)が、胞胚期到達率や生児獲得率など成績に影響を及ぼすかどうかを検討した研究を紹介します。今年1月に発表されたばかりの論文です。

Speyer, B., et al. (2019). "In assisted reproduction by IVF or ICSI, the rate at which embryos develop to the blastocyst stage is influenced by the fertilization method used: a split IVF/ICSI study." J Assist Reprod Genet.

スプリットを行った症例のうち、体外受精と顕微授精両方で受精卵が得られている症例136例を対象としています。両群の受精後の発育と成績を後方視的に検討しています。

その結果、体外受精由来胚の方が、顕微授精由来胚と比較して、有意に早く胞胚期に到達しました。体外受精由来胚の胞胚到達率、生児獲得率は、顕微授精由来胚と比較して、それぞれ有意差はありませんでした。

タイミング指導→人工授精→体外受精とステップアップしてきて、体外受精で受精はするけれども、妊娠が成立しなかった場合、次は顕微授精にステップアップするものだと考えている患者さんがたまにいらっしゃいます。それは、勘違いです。この論文が示すように、体外受精で受精する患者さんが、顕微授精をやっても生児獲得率は上がりません。

当院では、③レスキューICSIをやっています。この方法は、受精判定の難易度が高く、全般的に手間がかかるため、敬遠するクリニックが多いのですが、非常にいい方法です。この方法が軌道に乗っていると、受精しないと怖いからという理由だけで、顕微授精を選択する必要がなくなります。そして、本当に顕微授精が必要な卵子に対してのみ顕微授精を行う効率の良い方法です。

①最初から顕微授精をやるクリニックもあります。受精しないと怖いから迷ったら顕微授精というクリニックから、信念を持って最初から顕微授精と言っているクリニックまであります。個人的には、現時点では(将来的にはわかりませんが)体外受精と比較して、顕微授精の方が優れているという明らかなエビデンスはないと思います。体外受精で受精するご夫婦に対して、あえて顕微授精を行うというのは、過剰医療を強いている気がします。顕微授精の費用も、患者さんには大きな負担になると思います。

クリニックによって考え方に差がありますが、重要な部分なので、クリニックの考え方をよく聞いて、十分に納得した上で治療を受けることが重要だと思います。



 

夜勤シフトは閉経を早める?

幸町IVFクリニック院長 雀部です。
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今回は、夜勤の多い職業と妊活の関係についての話題です。

夜勤の多い職業に就かれている方、本当にご苦労様です。

夜寝ないで仕事をするのは、身体的にきついですよね。私自身も、以前はお産もやっていましたので、夜勤のつらさは身にしみてわかります。若い内は、まだ体力がありますので、一晩ぐらい寝なくてもなんとかなるのですが、年齢を重ねると段々きつくなってきます。

この体力を消耗する夜勤シフトが閉経年齢に及ぼす影響を検討した観察研究を紹介します。今月発表されたばかりの最新の論文です。

Stock, D., et al. (2019). "Rotating night shift work and menopausal age." Hum Reprod.

22年間(1991~2013年)、80,840人の看護師を対象に行った大規模な研究です。

22年間の観察期間中に、27,456人(34%)が自然閉経を迎えました。

その結果、2年間に20ヶ月以上、ローテーションで夜勤シフトこなしている女性は、夜勤シフトの無い女性と比較して、早期閉経のリスクが高いことがわかりました(MV-HR=1.09, 95%CI: 1.02-1.16)。

2年間に20ヶ月以上の夜勤シフトは、45歳未満で閉経または観察が打ち切られた女性において、特に早期閉経のリスクが高いことがわかりました(MV-HR=1.25, 95%CI: 1.08-1.46)。

同様に、累積10年以上の夜勤シフトは、45歳未満で閉経または観察が打ち切られた女性において、早期閉経のリスクが高いことがわかりました(累積10-19年 MV-HR=1.22, 95%CI: 1.03-1.44)(累積20年以上 MV-HR=1.73, 95%CI: 0.99-3.35)。

夜勤シフトは、閉経を早め、生殖可能な期間を短くする可能性があります。妊活を考える時期がきたら、夜勤シフトの多い方は、仕事を見直す必要があるかもしれません。


 


体外受精児の小児癌リスク

 幸町IVFクリニック院長 雀部です。
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体外受精などの生殖補助医療は、概ね安全ということで世界中で広く行われていますが、実は体外受精児の長期予後についての研究はほとんど進んでいないのです。インプリンティング疾患や小児癌が増えるなどの報告もありますが、今だに結論は出ていません。

今回は、体外受精児の小児癌リスクについて、平均観察期間21年かつ大規模な研究が発表されましたので紹介します。今月発表されたばかりの最新の論文です。

Spaan, M., et al. (2019). "Risk of cancer in children and young adults conceived by assisted reproductive technology." Hum Reprod.
「生殖補助医療によって生まれた児の小児癌リスク」

オランダにて1980年~2001年に不妊治療の結果生まれた児を対象とした前向き観察研究です。児の総数47.690人、その内体外受精児24,269人、自然妊娠13,761人、体外受精以外の一般不妊治療妊娠児9,660人です。

平均観察期間21年間、体外受精児の平均観察期間はやや短く20年間、自然妊娠児の平均観察期間24年でした。小児癌は231例に認められました。

すべての小児癌についてまとめて解析すると、体外受精児の小児癌リスクは、自然妊娠児、一般不妊治療妊娠児と比較して、増えませんでした。

体外受精児の18歳以降の癌については、自然妊娠児と比較して、有意差はありませんでしたが、わずかに増えました(HR=1.25, 95%CI: 0.73-2.13)。

顕微授精と凍結融解胚移植の結果生まれた児において、小児癌リスクは、有意差はありませんでしたが、わずかに増えました(顕微授精HR=1.52, 95%CI: 0.81-2.85、凍結融解胚移植HR=1.80, 95%CI: 0.65-4.95)。

リンパ芽球性白血病、悪性黒色腫のリスクは、体外受精児において、自然妊娠児と比較して、有意差はありませんでしたが、わずかに増えました(リンパ芽球性白血病HR=2.44, 95%CI: 0.81-7.37、悪性黒色腫HR=1.86, 95%CI: 0.66-5.27)。

全体として、体外受精児の小児癌リスクは増えないと結論しています。

さらなる研究が必要ではありますが、これだけ大規模な研究で有意差が出ないので、体外受精児の小児癌リスクについては、自然妊娠児と同じレベルと考えていいと思います。皆さん、安心して治療に専念してください。


 


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