幸町IVFクリニック 院長と培養士のIVFこぼれ話

幸町IVFクリニックの院長と培養士の、役に立つような、立たないようなブログです。 (主に院長の文句?)

2019年09月

第2子治療開始はあわてないで!

幸町IVFクリニック院長 雀部です。
IVF
幸町IVFクリニック


今回は、第1子分娩~第2子治療再開までの間隔の話です。

第1子妊娠後、当院から産科の病院へ転院する際、「第2子の治療はいつ頃から始められますか?」という質問を受けることがあります。私は大抵、「授乳が終わって生理の周期が再開したら、治療できますよ」と説明しています。授乳中はプロラクチンというホルモンが高くなり、性周期が不安定になるからです。

ほとんどの方は、その説明で納得してくれるのですが、中にはご自身の年齢やその他家庭の事情により第2子妊娠を急ぐ方がいらっしゃいます。初乳をあげたら薬を使って断乳して、すぐにでも治療再開したいという強者もいます。

前の分娩から次の治療開始までの間隔が短すぎることが、次の妊娠・分娩に何か不利益をもたらさないかを検討した研究を紹介します。

Quinn, M. M., et al. (2018). "Interpregnancy Interval and Singleton Live Birth Outcomes From In Vitro Fertilization." Obstet Gynecol 132(1): 115-121.

大規模データベースを用いた後ろ向き研究です。

分娩後に行われた新鮮胚移植51,997周期のうち、17,536周期で生産に至り、11,271人の単胎児が出生しました。そのうち40.9%が前の分娩から次の治療開始までの期間が18ヶ月未満でした。

前の分娩から次の治療開始までの期間が12~18ヶ月未満の分娩と比較して、6ヶ月未満と6~12ヶ月未満の分娩では、早産率が有意に高いことがわかりました。

前の分娩から次の治療開始までの期間が12~18ヶ月未満の分娩と比較して、6~12ヶ月未満の分娩では、早産率が3%高く(13.6±1.1% vs 10.6±0.7%)、低出生体重児率が2.7%高い(8.0±0.9% vs 5.3±0.5%)ことがわかりました。

結論は、前の分娩~次の児の治療開始まで、12ヶ月以上空けることが推奨されるでした。

前の妊娠で伸びきった子宮筋が完全に元に戻るには、1年程度はかかるということではないでしょうか。分娩後は、あわてないで1年程度はゆっくりと目の前にいるお子さんに授乳してあげましょう。


胚盤胞は栄養外胚葉の質が重要

幸町IVFクリニック院長 雀部です。
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今回は、胚盤胞の評価の話です。

胚盤胞は、内細胞塊(将来胎児になる部分)と栄養外胚葉(将来胎盤になる部分)によって構成されています。この胚盤胞を評価する方法として、有名なのがガードナー分類です。胞胚腔の大きさによりグレード1から6、内細胞塊の細胞密度と細胞数によりAからC、栄養外胚葉の細胞密度と細胞数によりAからCに分類して評価します。詳しくは、こちらのサイトがわかりやすいので、ご覧ください。

このガードナー分類ですが、将来胎児になる部分ということで、内細胞塊の評価が最も重要と考えられてきました。ところが、最近の研究により、実は将来胎盤になる栄養外胚葉の質の方が、妊娠結果に重大な影響を及ぼしていることがわかってきました。

それでは、論文を紹介します。今月発表されたばかりです。

Bakkensen, J. B., et al. (2019). "Association between blastocyst morphology and pregnancy and perinatal outcomes following fresh and cryopreserved embryo transfer." J Assist Reprod Genet.

胚盤胞の形態的評価の指標と妊娠結果の関連を検証することを目的としました。

単一施設における後ろ向き研究です。

2012年1月~2018年2月、単一胚盤胞移植を実施した症例を対象としました。新鮮胚盤胞移植1023周期、凍結胚盤胞移植1222周期のうち、新鮮465例(45.1%)、凍結600例(48.5%)に単胎妊娠が成立し、分娩に至りました。

胚盤胞における胞胚腔の大きさ、内細胞塊の質、栄養外胚葉の質が妊娠率、生産率、早産率、妊娠週数に比して小さい児の率、大きい児の率に影響を及ぼしているかどうかを検討しました。

新鮮胚盤胞移植では、胞胚腔の大きさが大きくなるほど、妊娠率が上昇しましたが、凍結胚盤胞移植では、関係ありませんでした。

新鮮と凍結両方において、栄養外胚葉の質が良いほど、妊娠率が上昇しました。

新鮮と凍結両方において、胞胚腔の大きさが大きいほど、栄養外胚葉の質が良いほど、生産率が上昇しました。

内細胞塊の質は、妊娠結果に影響を及ぼしませんでした。それどころか、内細胞塊の評価が高い胚ほど、凍結において早産率が高いという驚きの結果が出ました。新鮮における早産率、新鮮と凍結における妊娠週数に比して小さい児、大きい児の率との関連はありませんでした。

結論として、妊娠率、生産率に影響する因子として、胞胚腔の大きさ、栄養外胚葉の質が重要であると述べられています。冷静に考えてみれば、着床期に活躍するのは主に将来胎盤になる栄養外胚葉なわけで、実は当然の結論なのかも知れません。

内細胞塊の評価が高いほど凍結胚盤胞移植において早産率が高くなるという驚きの結果については、そのメカニズムはよくわかっていません。

結論にもうひとつ重要なことが言及されていました。「胞胚腔の大きさ、内細胞塊の質、栄養外胚葉の質に関して評価の低い胚盤胞で妊娠したとしても、有害な妊娠結果(早産、妊娠週数に比して小さい児、大きい児)に結びついている可能性は低い」でした。

細かいことは置いといて、「胚盤胞は栄養外胚葉の質が重要」だけは覚えておいて下さい。


適応の無い顕微授精は過剰医療!

幸町IVFクリニック院長 雀部です。
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今回は、顕微授精の話題です。

適応の無い顕微授精が、患者さんにとって利益があるのかどうかを検証した研究を紹介します。今年8月に発表されたばかりの論文です。

Drakopoulos, P., et al. (2019). "ICSI does not offer any benefit over conventional IVF across different ovarian response categories in non-male factor infertility: a European multicenter analysis." J Assist Reprod Genet.

男性因子が無い(精液所見が正常)のカップルに対して行う顕微授精は、通常の体外受精と比較して、アドバンテージがあるかどうかを検討しました。

多施設共同(ベルギー1施設、スペイン14施設)で行われた後ろ向き研究です。

体外受精または顕微授精目的で、アンタゴニスト法による卵巣刺激を行った11469人の初回治療周期を研究の対象としました。11469人のうち、男性因子が無いなど、この研究の目的に適合したのは4891人(顕微授精4227人、体外受精664人)でした。

4891人の対象者を4つのグループに分けました。
グループA:卵巣刺激に対して低反応(回収卵子1-3)
グループB:卵巣刺激に対してやや低反応(回収卵子4-9)
グループC:卵巣刺激に対して正常反応(回収卵子10-15)
グループD:卵巣刺激に対して高反応(回収卵子15以上)

グループごとの受精率、胚の利用率は、体外受精と顕微授精の間に有意な差はありませんでした。

グループごとの新鮮胚移植による生児獲得率、凍結胚移植も含めた累積生児獲得率は、体外受精と顕微授精の間に有意な差はありませんでした。

結論は、「卵巣の反応性に関係なく、男性因子の無いカップルに対する顕微授精は、(体外受精と比較して)アドバンテージは無い」でした。

顕微授精は本来男性因子のカップルに対して行うものなのに、この研究のデータにもある様に、男性因子の無い4891人のうち4227人に対して顕微授精が行われており、体外受精はたったの664人だけです。日本でも同じような傾向があり、やたらと顕微授精を行う施設があります。中には、「当院は顕微授精しかやりません」と最初から謳っている施設もあります。

そこまで顕微授精をやるからには、顕微授精をやることによる患者さんに対する利益が十分に証明されている必要があると思います。しかし、現実にはエビデンスは不十分な状態ではないかと思います。

この論文のように、「顕微授精やり過ぎ問題」に対して警鐘を鳴らす論文が少しずつ発表されていますので、今後も注視していきたいと思います。


発育スピードが速い胚

幸町IVFクリニック院長 雀部です。
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今回は、胚の分割速度と正常性の話です。

一般に、体外で胚を培養すると、体内での胚発育と比較して発育速度が遅くなるといわれています。しかし最近は、培養液の改良が進み全体的に胚の発育速度が速い傾向にあり、体内での発育速度にかなり追いついてきているのではないかと思います。

全体的には発育速度が速くなっているのですが、胚ごとにみると、速い胚と遅い胚があります。一般に、遅い胚は質が良くない胚といわれています。一方、速い胚の質が良いのか、または悪いのかは意見が分かれるところです。私の経験では、発育が速い胚は、どちらかというと「質が良い」という印象を持っています。

この疑問を実際に検証した研究を紹介します。今月発表されたばかりの論文です。

Pons, M. C., et al. (2019). "Deconstructing the myth of poor prognosis for fast-cleaving embryos on day 3. Is it time to change the consensus?" J Assist Reprod Genet.

発育の早い採卵3日目胚の発生能力を検討することを目的としました。

2014年7月から2017年6月の間に行われた異数性着床前診断513周期から得られた4028個の胚を対象に行った後ろ向き研究です。

その結果、採卵3日目に9-11細胞の胚は、8細胞の胚(標準的な発育速度)と比較して、正倍数性(つまり染色体正常)の胚の割合がやや低いことがわかりました。一方、採卵3日目に12細胞以上の胚は、8細胞の胚と比較して、正倍数性の胚の割合が同等であることがわかりました。

逆に、発育の遅い胚は、正倍数性の胚の割合が、著しく低いことがわかりました。

さらに、正倍数性の胚盤胞について、発育の速い胚由来と8細胞の胚由来を比較したところ、生児獲得率は同等でした。

採卵3日目に8細胞の胚、9-11細胞の胚、12細胞以上の胚の生児獲得率を比較したところ、有意な差はありませんでした。

結論は、「採卵3日目に12細胞以上の胚は、8細胞の胚と同等の発生能力があると考えられる」でした。

9-11細胞の胚には注意が必要ですが、私の経験的感触は、概ね間違っていないようです。採卵3日目に発育の速い胚ができた方は、とりあえず前向きに捉えてよいのではないでしょうか。


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