幸町IVFクリニック 院長と培養士のIVFこぼれ話

幸町IVFクリニックの院長と培養士の、役に立つような、立たないようなブログです。 (主に院長の文句?)

2019年10月

体外受精・顕微授精で父にー前立腺癌に注意

幸町IVFクリニック院長 雀部です。
IVF
幸町IVFクリニック


今回は、男性不妊と前立腺癌の話です。

以前、不妊治療と卵巣癌の関係について書きました。女性側のリスクばかりでは不公平なので、今回は男性側のリスクについて書きます。

体外受精・顕微授精で父になった男性の前立腺癌のリスクを検証した研究を紹介します。今年の9月に発表されたばかりの論文です。
Al-Jebari, Y., et al. (2019). "Risk of prostate cancer for men fathering through assisted reproduction: nationwide population based register study." BMJ 366: l5214.

大規模データベースを解析したコホート研究です。

スウェーデンにて、1994年1月から2014年12月までに生まれた子供の父1,181,490人を対象としました。20,618人は体外受精、14,882人は顕微授精、1,145,990人は自然妊娠で生児を授かりました。

前立腺癌を発症したのは、体外受精77人(0.37%)、顕微授精63人(0.42%)、自然妊娠3244人(0.28%)でした。発症平均年齢は、体外受精55.9歳、顕微授精55.1歳、自然妊娠57.1歳でした。

統計学的に解析すると、体外受精・顕微授精で父になった男性は、前立腺癌の発症リスクが高く、発症平均年齢が低いことがわかりました。

前立腺癌のリスクを、自然妊娠で父になった男性と比較すると、顕微授精で父になった男性は60%、体外受精で父になった男性は30%高いことがわかりました。

結論として、「生殖補助医療、特に顕微授精、で父になった男性は、低年齢発症の前立腺癌のリスクが増える」でした。

体外受精・顕微授精で父になった男性に前立腺癌のリスクが増える理由はよくわかっていませんが、精子所見が悪い状態と前立腺癌のリスクが関係しているみたいです。

前立腺癌は、PSAという腫瘍マーカーでスクリーニング可能です。体外受精・顕微授精で父になった男性のうち、精液所見が悪いといわれた方は、定期的なPSA検査がお勧めです。


反復着床不全・その後

幸町IVFクリニック院長 雀部です。
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今回は、反復着床不全の話です。

良好胚を何回移植しても、着床しない方がいらっしゃいます。一般に、良好胚を3回以上移植して妊娠しないと、反復着床不全と診断します。苦労して良好な受精卵を作って、妊娠が目前まで来ているのに着床しない状態は、非常につらいと思います。

今回は、反復着床不全と診断された患者さんのその後を追跡した研究を紹介します。今月発表された最新の論文です。

Koot, Y. E. M., et al. (2019). "What is the prognosis for a live birth after unexplained recurrent implantation failure following IVF/ICSI?" Hum Reprod.

後ろ向きコホート研究です。

この研究では、良好胚を1個以上含んだ胚移植が連続3回以上不成功に終わっている、または10個以上良好胚を移植して妊娠に至っていない状態を反復着床不全と定義しています。

2008年1月~2012年12月に2つの施設で治療を受けた2,731人のうち、39歳未満、原因不明の反復着床不全と診断された223人が対象です。223人の内、118人からこの研究に対する同意が得られました。

反復着床不全の原因となり得る「39歳以上」、「自己免疫疾患」、「子宮奇形」、「切迫した卵巣不全」、「卵管留水症」の方は、除外されています。

最長5.5年の追跡調査の結果、累積生産率は49%でした。妊娠までに要した期間の中央値は、9ヶ月でした。18%の方は、自然妊娠でした。

原因不明の反復着床不全と診断されても、時間をかければ約半数の方が妊娠・分娩できたという結果でした。

気になったのが、慢性子宮内膜炎について言及が無いことです。慢性子宮内膜炎は、反復着床不全の30%に認められるといわれています。この研究で妊娠しなかった方の中には、慢性子宮内膜炎の方が含まれている可能性があり、適切な診断と治療によってもっと妊娠できる方を増やせるのではないかと思います。



体外受精で卵巣癌が増える?

幸町IVFクリニック院長 雀部です。
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今回は、不妊治療と卵巣癌の関係についてです。

不妊治療と卵巣癌、一見なんの関係もなさそうですが、実は不妊治療(特に体外受精など生殖補助医療)を受けている女性に卵巣癌が多いのではないかと以前より言われているのです。

不妊治療中の卵巣は、常に炎症に曝されています。卵胞発育~排卵には必ず炎症が伴います。卵巣刺激でたくさん卵胞を育てていると炎症を起こしている箇所が広範囲になります。また、採卵の際に針を卵巣に刺すと、その穿刺部位に炎症が起きます。このように繰り返し同じ臓器に炎症が起きていると癌が発生しやすくなるという理屈です。

それでは、実際のところはどうなのでしょうか?大規模データベースを解析した研究を紹介します。今月発表されたばかりの論文です。
Vassard, D., et al. (2019). "Assisted reproductive technology treatment and risk of ovarian cancer-a nationwide population-based cohort study." Hum Reprod.

デンマークにて1994~2015年に行われた体外受精症例を解析しました。

ARTを受けている58,472例と治療していない625,330例を比較しました。

その結果、体外受精を受けている集団では、卵巣癌の罹患率が高いことがわかりました。詳しく解析すると、女性側に不妊原因がある女性は、卵巣癌の罹患率が高いのですが、女性側に不妊原因がない女性は、低いことがわかりました。さらに解析すると、女性側に不妊原因がある女性の内、子宮内膜症の女性は卵巣癌の罹患率が高いのですが、多囊胞性卵巣症候群、他の女性因子、原因不明の女性は、低いことがわかりました。

結論は、「体外受精によって卵巣癌のリスクは増えない。ただし、子宮内膜症を伴った女性は例外である。」でした。

論文を読んでいて一瞬ヒヤッとしましたが、子宮内膜症を伴っていない女性は、体外受精によって卵巣癌のリスクは増大しないようです。

子宮内膜症を伴った女性は、要注意です。特に、卵巣に子宮内膜症性囊胞がある方は、体外受精以前に、子宮内膜症性囊胞の存在自体が卵巣癌のリスク因子です。定期的に超音波検査を受けるなど、厳重な管理が必要です。



排卵誘発剤を使うと染色体異常胚が増える?

幸町IVFクリニック院長 雀部です。
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今回は、排卵誘発剤の安全性についてです。

「排卵誘発剤を使うと卵子がたくさん取れるけど、染色体異常胚の割合も増えるのではないか」ということが以前より言われていました。以前は、これを検証するのは非常に難しかったのですが、近年は着床前診断の技術が普及したため(日本ではまだ臨床研究の段階です)、比較的簡単に調べることができます。

それでは、自然周期と刺激周期における異数体(染色体の数の異常)の発生率を比較した研究を紹介します。今月発表されたばかりの論文です。

Hong, K. H., et al. (2019). "Embryonic aneuploidy rates are equivalent in natural cycles and gonadotropin-stimulated cycles." Fertil Steril 112(4): 670-676.

2013年4月~2015年8月に行われた、前向きの観察研究です。

排卵誘発剤を使用しない自然周期369周期における異数体の割合を、背景条件を揃えた刺激周期2846周期と比較しました。

胚は一旦凍結し、着床前異数体検査にて正常と診断された胚を、次周期以降に融解胚移植し、継続着床率を比較しました。

その結果、自然周期の異数体率は、刺激周期の異数体率を同等でした。自然周期の異数体率は、女性の年齢の上昇に伴い増加し、年齢ごとの異数体の分布は刺激周期と同等でした。

自然周期の染色体正常胚移植後の継続着床率は、刺激周期と比較して同等でした。

結論は、「胚の異数体率は、排卵誘発剤による卵巣刺激の影響を受けない」でした。

一部の専門家の影響で、「排卵誘発剤=悪」と考えている患者さんにめぐり会うことがあります。中には胚盤胞に到達しないなどの理由で自然周期の体外受精を延々とやり続けている方がいらっしゃいます。

そういう方は、思い切って排卵誘発剤を使って一般的な卵巣刺激をやってみると胚の質がグッと改善することがあります。ひとつのやり方でうまくいかない場合は、そのやり方に固執しないで他の方法を試してみることが重要です。




採卵周期と凍結胚移植周期の間隔

幸町IVFクリニック院長 雀部です。
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今回は、採卵周期と凍結胚移植周期の間隔の話です。

採卵を行った後、卵巣過剰刺激症候群(OHSS)発症回避のため、または内膜が薄いなどの理由により、胚移植がキャンセルになり全胚凍結になることがあります。そうなると次に気になるのが、いつ凍結胚移植できるかだと思います。

私は、「いつ凍結胚移植できますか?」という質問を受けると、「次の周期以降、都合のいい時期にできますよ」と答えています。

次の周期の月経2-3日目に来院してもらい、エストロゲンとプロゲステロンが月経期の値を示していれば、卵巣に遺残卵胞などが多少残っていても治療開始可です。もちろん、エストロゲン高値などホルモン検査で異常値が出ている場合は、治療開始を見送りますが頻度としては比較的まれです。

しかし、患者さんの中には卵巣刺激の影響が完全に抜けきっていない状態で、次の治療に入っていくことに不安を感じる方がいらっしゃいます。

採卵周期直後の周期で凍結胚移植を行った場合と、少し休んでから凍結胚移植を行った場合の生産率を比較した研究を紹介します。9月に発表されたばかりの論文です。

Song, J., et al. (2019). "Frozen embryo transfer at the cleavage stage can be performed within the first menstrual cycle following the freeze-all strategy without adversely affecting the live birth rate: A STROBE-compliant retrospective study." Medicine (Baltimore) 98(38): e17329.

この研究の目的は、採卵周期とそれに引き続き行われる凍結胚移植周期の間隔が、治療成績に影響するかどうかを検討することです。

1施設で行われた後ろ向きコホート研究です。

全胚凍結に引き続いて行われた凍結胚移植1540周期が対象です。採卵周期後すぐに行われた凍結胚移植周期を「周期1」、採卵周期後1~数周期休んだ後に行われた凍結胚移植周期を「周期2以上」とし、2群間で生産率を比較しました。

その結果、「周期1」の生産率33.1%、「周期2以上」34.2%で、統計学的有意差はありませんでした。

2群間の背景条件を補正後も、凍結胚移植周期を実施するタイミングは、生産率に影響しませんでした。

結論は、「採卵周期後の凍結胚移植実施前に休みの周期を設ける必要はない」でした。

採卵周期後の凍結胚移植は、すぐ次の周期にやっても大丈夫です。ただし、根を詰めすぎて燃え尽きないように注意してください。精神的に疲れているときは、休むことも重要です。


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