幸町IVFクリニック 院長と培養士のIVFこぼれ話

幸町IVFクリニックの院長と培養士の、役に立つような、立たないようなブログです。 (主に院長の文句?)

早産

体外受精は悪者ではなかった!

幸町IVFクリニック院長 雀部です。
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今日は、生殖補助医療と周産期(妊娠22週~出生後7日未満)リスクの話です。

「体外受精児は、周産期リスクが高い」というデータがいろんなところで発表されています。それに伴い、体外受精をやると周産期リスクが増大すると考えている方が、患者さんだけに留まらず、医療関係者にもいます。

そのような話が出るたびに、「体外受精児の周産期リスクが高いのは、体外受精の技術自体に問題があるのではなく、比較している集団の背景の差に起因している可能性がある」ということ説明しています。

しかし、それを実際に証明するのは非常に難しく、結論が出ていない状態が続いています。その難問を、(完璧ではありませんが)かなり気持ちよく証明してくれた研究を紹介します。今年の3月に発表された論文です。

Goisis, A., et al. (2019). "Medically assisted reproduction and birth outcomes: a within-family analysis using Finnish population registers." Lancet 393(10177): 1225-1232.

この研究の画期的なところは、家族内に体外受精児と自然妊娠児がいる家族のみを抽出し、体外受精児と自然妊娠児を比較した点です。これにより、比較する集団の背景のバイアスを(完璧ではありませんが)かなり取り除くことができます。

フィンランドにて行われた研究です。2000年末時点で0-14歳の子供が少なくとも1人いる家庭の20%をカバーできる65,723人を対象としました。

評価項目は、出生時体重、妊娠期間、低出生体重児リスク、早産リスクです。

自然妊娠児62,947人、体外受精児2,776人でした。その内1245人が、兄弟姉妹間比較の対象となりました(自然妊娠児620人、体外受精児625人)。

全データの比較では、体外受精児は、(自然妊娠児に比べて)周産期リスクが高いことがわかりました(例えば、出生体重は60g軽く、早産リスクは2.15ポイント高い)。

ところが、兄弟姉妹間比較では、その周産期リスクが統計学的、実質的に軽減されることがわかりました(例えば、出生体重は30g軽く、早産リスクは1.56ポイント高い)。

結論は、
我々の結果は、「体外受精児の周産期リスク増大は、大部分が体外受精の技術自体以外の因子に起因している」ことを示している
でした。

体外受精の治療を受けているご夫婦にとっては、「ほっと」する結論だと思います。しかし、ただ「ほっと」するだけで終わらせてはいけません。

体外受精を必要としているご夫婦は、周産期リスクを高めるような背景を持っていることがあります。そのような背景を持っていた場合、妊娠した後に実際に周産期リスクに直面する可能性があります。そうならないためにも、体外受精の技術力で妊娠させてもらうのではなく、「身体づくりをしっかりやりながら、体外受精の力を借りて妊娠するんだ」という姿勢が重要になってきます。


40代の妊娠は何がハイリスク?

幸町IVFクリニック院長 雀部です。
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今日は、40代の妊娠のリスクについてです。

私は、「40歳までに妊娠・分娩を終えるつもりで、家族計画を立ててくださいね」といつも患者さんに説明しています。それは、40歳以降は妊娠のリスクが跳ね上がるからです。しかし、「40代の妊娠はハイリスクですよ」と言われても、何がどのようにハイリスクなのかピンとこない方もいらっしゃるのではないでしょうか?

そこで、年齢と好ましくない妊娠結果の関連性を検証した研究を紹介します。

Frederiksen, L. E., et al. (2018). "Risk of Adverse Pregnancy Outcomes at Advanced Maternal Age." Obstet Gynecol 131(3): 457-463.

デンマークにて行われた研究です。369,516の単胎妊娠を対象としました。

35-39歳のグループ、40歳以上のグループを20-34歳のグループと比較し、年齢と好ましくない妊娠結果の関連性について検討しました

この研究では、好ましくない妊娠結果として、染色体異常児、染色体正常児の先天性異常、流産、死産、妊娠34週以前の分娩を取り上げています。

40歳以上のグループでは、10.82%の女性が1つ以上の好ましくない妊娠結果を経験したのに対して、20-34歳のグループでは5.46%でした(オッズ比2.02、99.8%信頼区間1.78-2.29)。

40歳以上のグループは、20-34歳のグループと比較して、染色体異常(3.83% vs 0.56%)、流産(1.68% vs 0.42%)、妊娠34週以前の分娩(2.01% vs 1.21%)に関してハイリスクであることがわかりました。死産と染色体正常児の先天性異常に関しては、リスクに差はありませんでした。

リスク予測チャートによると、母体高年齢、生殖補助医療の使用、未経産、妊娠中の喫煙、肥満は、好ましくない妊娠結果の絶対的予測リスクを上昇させることがわかりました。

冒頭にて述べたとおり、妊娠・分娩は40歳までに終えることが望ましいです。しかし、諸事情により妊娠・分娩が40歳以降になった方は、ここで挙げたリスクを十分に認識し、慎重に経過を診る必要があります。

妊娠は、年齢が上がるに従いリスクも上昇します。35歳以降の女性は1歳でも早く妊娠することが重要です。40歳以降の方は一般不妊治療をやっている余裕はありません。直ちに体外受精を検討してください。35-39歳の方は一定期間(1年以内)一般不妊治療を行い、結果がでない場合はすばやく体外受精にステップアップしてください。


ご主人の年齢・BMI・精液所見が成績に影響?

幸町IVFクリニック院長 雀部です。
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幸町IVFクリニック


今回は、ご主人側の因子が体外受精の成績、分娩結果に及ぼす影響についての話題です。

一般に妊活というと、年齢が若い内に妊娠の計画、妊娠し易い身体作り、体質改善など、どうしても女性側に焦点を当てて話しをすることが多いと思います。では、男性側の因子はあまり体外受精の成績、分娩結果に影響しないのでしょうか?

その疑問を実際に検証した論文を紹介します。昨年10月に発表された論文です。

Capelouto, S. M., et al. (2018). "Impact of male partner characteristics and semen parameters on in vitro fertilization and obstetric outcomes in a frozen oocyte donor model." Fertil Steril 110(5): 859-869.

アトランタで2008-2015年に行われた後ろ向き研究です。凍結ドナー卵子を用いた体外受精、胚盤胞移植を行った949症例が対象です。

なぜ凍結ドナー卵子を用いた体外受精症例を研究対象にしたかというと、ドナー卵子は20代の健康な女性から提供を受けるものなので、一律良好卵子であることが多く、卵子の質のばらつきを最小限にすることができる。つまり、男性側の因子の影響を検討するには理想的な研究モデルということができます。

男性の年齢、BMI、精液所見が、着床率、臨床妊娠率、生児獲得率、単胎妊娠における2500g以下の体出生体重児率、妊娠37週未満の早産率に及ぼす影響を検討しました。

背景情報の補正後、男性の年齢、BMI、精液所見は、着床率、臨床妊娠率、生児獲得率に影響を及ぼしませんでした。素データでは、年齢51歳以上、BMI 35kg/m2以上の男性において、早産率が高値を示しましたが、補正後に有意差は無くなりました。男性の年齢35歳より上、BMI 25kg/m2より高値であることは、低出生体重児率に影響しませんでした。異常精液所見は、早産率、低出生体重児率に影響しませんでした。

結論は、ドナー卵子を用いた体外受精において、男性の高年齢、BMI高値、異常精液所見は、体外受精の成績、分娩結果に影響を及ぼさないというものでした。顕微授精の技術と卵子の質が良好であることが、男性側のマイナス因子を緩和しているのではないかと考察しています。

卵子の力は偉大ですね!
多少精子の質に問題があっても、卵子の質が良ければ、その問題を吸収してしまうだけの力があるということです。でも、卵子の質が微妙だったらどうなるでしょうか?その場合は、精子の質の問題をカバーできずに、体外受精の成績、分娩結果に影響してくる可能性は、”ある”と思います。

卵子に比べると精子の影響は限定的なようですが、だからといって男性側はノーケアでOKということではありません。男性もなるべく年齢が若い内に妊活する、たばこを吸わない、食事・運動に気をつけて体型を保つ、などの努力は必要だと思います。




私、双子希望なんです!

幸町IVFクリニック院長
​ ​
雀部です。

今回も多胎妊娠の話の続きです。重要なテーマなのでもう少しお付き合いください。

患者さんに1胚移植の説明をしていると「私、双子希望なんです。先生、双子にしてください!」と話される方がいらっしゃいます。双子出産を夢見るのは結構なことなのですが、ほとんどの方が双胎妊娠のリスクについて理解されていません。

そこで今回は双胎妊娠のリスクについて話をします。双胎妊娠のリスクはたくさんありますので、今回は2胚移植の結果発生することの多い双胎(
​正確には、​
二絨毛膜二羊膜性双胎)のリスクに絞って話をします。

​早産になりやすい
本来1児が入るべき子宮に2児が入りますので、その分子宮が大きくなり、子宮壁
​​
が伸びすぎることになります。その結果、双胎妊娠の約半数が早産になると言われています。早産になると言う事は、児が未熟な状態で生まれてくるということです。これが、双胎妊娠の周産期死亡率を引き上げる要因の1つになっています。

​その他の産科合併症
妊娠すると母体の循環血液量が、非妊時より増えます。双胎妊娠では、単胎妊娠よりもさらに増えることが知られています。その結果、妊娠性高血圧症
​、HELLP症候群
などの母体合併症の発生頻度が高くなり、かつ発症時期が早くなります。
​他にも、血栓塞栓症、胎児発育異常(胎児発育不全、​両児の発育差)、産後の過多出血などの発症リスクが高くなります。

C 分娩時に事故が起きやすい
施設の方針にもよりますが、両児とも頭位の場合、​
経腟分娩
​が行われることがあります。その際に、​
特発性微弱陣痛、胎位異常、臍帯脱出、胎盤早期剥離、子宮収縮不全、分娩後大量出血
​が起きることがあります​
。特に、先進第一児の分娩後から後続第二児分娩までの間が最も事故が起きやすい時期であることが知られています。

わざわざ双子を作ることのリスクがいかに高いか、ご理解いただけたでしょうか?双胎妊娠は、1胚移植を行うことにより大幅に減らすことができます。​​
妊娠・分娩は安全という根拠のない思い込みを捨てて、
ご夫婦の意思でより安全性の高い選択肢である1胚移植を選びましょう。​
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なぜ胚移植は1個?

幸町IVFクリニック 院長 雀部です。

診察室でよく遭遇する患者さんの疑問や誤解第8弾です。今回は胚移植の際に子宮に戻す胚の個数(以下胚移植数)の話です。

胚移植数が1個でも2個でもたいした問題じゃないと考えている方いらっしゃいませんか?実はこの胚移植数が、安全な妊娠・分娩をするための重要なポイントなのです。

一般に胚移植数を増やすと妊娠率が上がりますが、多胎妊娠(双胎以上の妊娠)率も高くなります。多胎妊娠は早産になる頻度が高く、早産になると児が未熟な状態で生まれてきます。現在は新生児医学が発達しておりますので、治療によって問題なく発育できる児がいる一方で、後遺症を残す児も出てきます。また、多胎妊娠は、妊娠高血圧症候群、HELLP症候群、血栓塞栓症、胎児発育異常(胎児発育不全、両児の発育差)、産後の過多出血などの産科合併症の発症率が高いことが知られています。

体外受精が急速に発展した時期(1990年代から2000年代にかけて)は、とにかく妊娠率を上げることが至上命題で、多胎妊娠率を下げるという安全性まで手が回っていませんでした。しかし、近年は技術が成熟し、その精度が高まってきたため、妊娠率と安全性の両立が求められるようになってきました。

A 日本産科婦人科学会の会告
このような背景のもとに、2008年、日本産科婦人科学会より「生殖医療における多胎妊娠防止に関する見解」という会告が出されました。

「生殖補助医療の胚移植において、移植する胚は原則として単一とする。ただし、35歳以上の女性、または2回以上続けて妊娠不成立であった女性などについては、2胚移植を許容する」
この会告を実施した成果が論文にまとまっています。
「 1胚移植は2007年52.52%から2012年82.6%まで増えた。一方多胎妊娠率は10.7%から4.1%に減少した。早産、低出生体重児、妊娠週数に比して小さい児、周産期死亡率は有意に減少した。」

日本産科婦人科学会が毎年発表している体外受精・胚移植等の臨床実施成績によると、2015年は新鮮胚移植の79.7%、凍結融解胚移植の81.76%が単一胚移植だったそうです。

本当に1個しか戻さなくて妊娠するのか?
このように日本産科婦人科学会の会告を機に、一気に1胚移植が普及しました。でも本当に1個しか戻さなくて妊娠するのでしょうか?

当院では、全例1胚移植を行っています。最近の妊娠率をまとめてみました。
当院の成績

 












2胚移植の成績に比べるとやや低くなりますが、ほぼ同等の成績を出すことができます。

C まとめ
当院では妊娠率と安全性の両立を目指して、10年前より全例1胚移植を行っており、10年間二卵性双胎ゼロを達成しています。残念ながら、いまだに二卵性双胎を量産しているクリニックが、ごく一部あります。二卵性双胎は、防ぐことができます。治療を受ける側の皆様も、正しい知識を持って安全な妊娠を目指してください。

※2胚移植=悪ではありません。緻密な計算の基に選択的に2胚移植を行い、低い多胎妊娠率を維持しているクリニックもありますので、誤解の無いように。

 


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