子どもを見る目、育てる目 : 2013年01月

2013年01月

2013年01月31日10:37

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指導と体罰

　自民党が子どもに対するいじめへの対応を定めた「いじめ防止対策基本法案」の原案をまとめたと29日（2013.1．29）の新聞に出ていた。
　新聞などは、大阪市立桜宮高校バスケットボール部の男子生徒が顧問の先生から体罰を受けた翌日に自殺した事件以来、体罰の問題を大きく取り上げている。　
　いじめ防止対策基本法案の原案の骨子としてA新聞は次の4点を記載している。
　①いじめとは学校に在籍する児童らと一定の人間関係にある者が行う心理的または物理的な攻撃（インターネットによるものを含む）
　②何人も児童らをいじめてはならない。
　③学校はいじめにより児童らの生命または身体の安全が脅かされているときは、直ちに警察に通報しなければならない。
　④重大ないじめがあった場合は、学校は教育委員会を通じて首長に報告しなければならない。
　これを読んで、こんな規定をしなければならないほど学校や地域における人間関係や人間としての物事を察知する感覚や加減をみる能力がおかしくなってきているのだろうかと思った。
　社会とか時代とかが変化した結果、人間が変わってしまったのだろうか。
　しかし、自分の子や孫のことを思うと、それで納得するわけにはいかない。

　今朝、(1.31)テレビをつけると、柔道女子日本代表の監督に暴力やパワーハラスメントに当たる行為があったとロンドン五輪メダリストを含む国内トップの女子15選手が告発しているというニュースが報じられていた。
　桜宮高校のバスケットボール部の部員に対する指導も五輪強化選手に対する指導も優勝や金メダルを目指すことにおいては同じで、その使命を負わされた監督やコーチは選手に対して、つい激しい言葉や仕打ちをしてしまうことがあるのだろうと思う。
　競い合う気持ち、一番を目指す思いが強いほど、積み上げられたコーチ術や練習マニュアルの一歩先を気合いや根性で切り開こうとせざるを得ない宿命に陥るのだろ。
　挫折を超えて栄光を目指すというドラマは感動ものだが、ギリギリのところを歩む者の危険を体制･組織で守りきることを考えないと、「法」だけではおぼつかない。
　私が子どもの頃には、「たたき上げる」とか「たたき直す」とかという言葉が日常的に用いられていた。あの人は親方にたたき上げられた腕の立つ職人さんだとか、あいつは、なまくらだから破門にしてたたき出したなどと。きびしい修行が人間を一人前にするという考えが基本にあった。怠けたり悪いことをしたら折檻（せっかん）されるのが当たり前だと覚悟していた。
　しっかりするのだぞという一言が、励ましに受け取られるか、非情な突き放しととられるか、微妙だ。それを感じとる感性のないものは指導者としては不向きなんだと思う。
　

2013年01月19日11:23

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ハッピー･バースデイ

　誕生日の前日、お祝いのカードが届いた。大学受験を間近に控えたM君からだった。お母さんの写した錦が浦の初日の出の写真が添えてあった。日の出の瞬間を捉えた写真で明け初める空が海面に映えて美しい。ありがとうと思いながら翌日の東京行きの準備に追われ返事が書けなかった。そういえば今日から大学入試のセンター試験が始まる。頑張ってと思う。
　東京では、188回の千代田チャリチー・コンサートに続く、出演者を囲む打ち上げ懇親会で、教え子たちに誕生祝いの乾杯を重ねてもらった。その店の若女将も誕生日が同じだとわかって、乾杯がさらに続いた。
　82歳の誕生をこのように祝っていただけるのはほんとうにありがたく、もったいなく思う。

　翌夕、帰宅すると大きな宅急便の箱が届いていた。
　誕生日に配送されてきたのだが、不在のためとはいえ一日遅れの開函となり申し訳ないと思った。82歳の誕生祝いにしては見事すぎると思いつつ、なんともいえないうれしさが込み上げた。早速、電話をしてお礼をいった。電話からはじけるような声が戻ってきて、うれしさが何倍にも膨らんだ。
　自分でも忘れがちになる誕生日を覚えていてくれる人がいると思うだけでうれしく幸せだ。長年教師を務めたり子どもの合唱団の世話を続けたりしたお陰だと思い、人間のつながりの不思議を思う。

2013年01月14日11:56

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鉄拳制裁

　大阪の高校生が部活の指導者に体罰を加えられて自殺したことで、マスコミが体罰についての報道を繰り返している。
　私は、どんなに体罰論議を尽くしても、それで、体罰をなくすことはむずかしいと思っている。いくら学校や教育委員会や文部科学省、あるいは有識者が知恵を絞って意見をまとめても、それで体罰がなくなるとは思わない。
　もちろん、議論を無駄だとは思わないし、あれこれ広く深く考えて，少しでも事故、事件の防止になればと願っている。
　全国、どの府県へ行っても刑務所があり、大勢の服役者が入所している。その人たちの多くは、たぶん、刑務所の世話になりたいと思って生活してきたのではなかろうし、彼らが学校の生徒だったころには、刑務所が満員状態になっているという社会状況すら想像しなかっただろう。
　刑務所の満員状態は、人間には、心ならずも思いがけない行動をとり世間に受け入れられない道に踏み込んでしまう習性があるということをあらわしている。そういう人間の，不条理、不確かさを十分に承知したうえでの教育、適切な指導を考えないと「体罰禁止」も空回りになる。
　私が中学生のころは、戦争中だったせいもあり、学校だけでなくいろいろな職場でも教師や上級生や上司が動きや働きの鈍い者に対して、ひどい体罰を加えていた。タコ部屋住まいの肉体労働者に対する体罰は狂気の沙汰だった。
　教練の時間など、教官が｢鉄拳制裁をくだす」と、恩着せがましく殴っていた。
　
　鉄拳制裁を当然と思う社会で育った私が、初めて代用教員として学校勤務をしたころ、先輩に「いうことをきかない子どもに対してどうすればよいか」と訊ねたら、「殴ったらよい」と教えてくれた。その先輩は、手でたたくと自分の手が痛いから物でたたけという。竹の物差しは手頃だが，割れるから，子どもに竹の根っこを掘ってこさせてそれを使ったらと教えてくれた。
　私は、さすがにそこまではしなかったが、よく手でたたいた。そのころの子どもは，先生にたたかれても、ほとんどの子は、そのことを家の人に告げなかった。
　「先生にたたかれるのは｡お前が悪い」と，親に、またコツンとやられるからだ。

　新米教師のころをふり返って、子どもたちに申し訳なかったと思うのは、しかり方がエスカレートしていくことへの自覚がなく、ずいぶんひどいしかり方をしたことだ。
　良いことでも，悪いことでも，だんだんとエスカレートしていく。
　小さなしかり方が、だんだん大きくなり、しまいには、人がやらないようなひどいしかり方をするようになる。そこまでしなくてもと思っても制止できなくなった教師は完全な暴力教師だ。
　暴力教師は制裁に自己陶酔する傾向がある。
　私は、初めて、学級を担任したとき、最初は純粋に熱血教師のつもりだったが、ふと気がつくと暴力教師に落ち込んでいく自分に気づいた。
　それに気づいても、すぐに改めることはできなかった。頭で思うことと、感情や体の動きにズレがあった。
　思い通りにならない子どもと、自制できない自分自の両方に苦しんだ。
　今日は叱らないようにしようと思って教室に向かっても、子どもの前に立つと、すぐに怒りが爆発して、情けなかった。情けなく思う分、さらにひどく子ども当たるという悪循環さえあった。

　今日一日という誓いを、次の一時間だけというように短縮し、爆発しそうになる感情を深呼吸したり、手を握りしめたりして堪えることにした。
　バカみたいなことだが、初めて、手を上げずに1時間を終えたときには、ある種の達成感と、疲労感を感じた。宝物を手に入れたような気分でもあった。この宝物を手放してなるものかと次の一時間も頑張った。
　「なぜ、こんなことが分からないのか」と怒鳴ったり、たたいたりしていたのが、いつのころからか「なぜ、こんなことぐらいが分からせられないのか」と自省するようになり、教え方を工夫するようになった。
　こういう経験を経て、今では、言うことをきかなければ殴ったらよいというのは、教師の手抜きだと偉そうなことを言っているが、それを悟るまでの研修実験になってくれた子どもたちには、ほんとうに申し訳ない目に遭わせてしまったと思う。
　教師は、教育をその子自身のために行うということを忘れてはならない。
　そして、教師は子どもを教えることを通して，子どもから、より多くのことを学ばなければならないと思っている。
　
　

2013年01月11日12:40

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心づかい

　約束の須磨寺商店街の喫茶店で久しぶりに出会ったご夫婦と飲み物のお変わりを重ねながら思い出話や最近の世相、人情などについておしゃべりを楽しんだ。
　帰りにいただいた手土産は、先日の博多出張のさいに買ったものだそうだが、贈り主の細かな心づかいを感じた。
　御菓子処萬年家の「那の香」は、茶箱の紐とおなじものが使ってあり、見るからに由緒深いものに思わせられる。
　添え書きによれば、「那」というのは、かつて、博多の周辺にあった国だそうで、那珂川・那の津などに名を留めている。この地は、大陸文化が日本に伝来する門口だから、菓子の祖と言われる田道間守が最初に御菓子のもとになる木の実を持ち帰ったところとも考えられている。そういう歴史や伝承を想像しながら作った銘菓が「那の香」だそうだ。
　柑橘系の蜜漬けの果皮をふわりと仕上げた卵生地にきれいに巻き込み、とろける味と残り香が遠い昔の雅を偲ばせてくれる。

　ばんぎや菓子舗の「博多献上」は、見るからに繊細な入魂の作という趣。
　献上というのは宮内庁お買い上げと同じ事かと思いながら確かめたら、そうではなかった。
　ここの献上主は筑前国福岡藩の初代藩主黒田長政で相手は江戸幕府、献上した品物は博多織の反物と帯だそうだ。
　献上品の博多織は青赤紺黄紫の五色が揃えられていて、五色献上ともいうそうだ。
　青赤紺黄紫の五色は、それぞれが仁礼智信徳を表しているそうだ。仁義礼智信の五徳とは少し違うなどと思いながら解説を読んだ。
　お菓子の「博多献上」は、こういうことに因んで考案した和菓子というだけあって、お茶と共にゆったりと味わいたい品のよい銘菓だ。
　「操たて縞　命も献上　固く結んだ　博多帯」。包み紙の正調博多節で歌い上げている献上を，若い人にもじっくりと味わって欲しいと思う。

　「お母さんが長崎のご出身でしたわね。諫早だとか。諫早は、オリンピックの体操の金メダリスト内村君の出身地だそうですが、諫早のことを若い頃にお聞きしていなかったら、諫早の字も読めなかったかも知れません。なにか長崎のお土産をと思って、九十九島せんぺいを買ってきました」
　半世紀以上も前に話したことが、ありありとよみがえる。
　このせんべいは、前の和菓子とちがって、気軽に「おいしいな、これ」って口に入れ、子どものころをなつかしめる。
　飴をからめ南京豆の味をひきたてたおいしいせんべいだ。
　久しぶりの友と語り合ったうえに、すてきなお土産をいただき、いつも手ぶらで出かけるわが身の不躾をふり返る。
　そして、いつもながら、教師を職にしてよかったと思う。自分の成長も所詮は教えたはずの子どもから学んだ結果だと思いながら。
　

2013年01月03日16:17

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今年ゃ春から

　こんなに晴れあがった富士山を眺めることは滅多にない。
　元日の新幹線で先ず「一富士、二鷹、三なすび」の一つがかなう。
　熱海駅で孫娘たちと落ち合って宿舎へ向かう。
　宿舎に着くと、宿によく慣れた孫娘たちは荷物を置くとお茶も飲まないで遊戯室へ飛び出した。
　見に行くと、ピンポンに興じていた。羽根つきのように山なりのボールを打ち合っている。
　「私の方が勝ってるよ」と妹が得意がっていたが、すぐ逆転されてしまった。
　私も加わって遊んだ。姉に、すくうように打たなくても返球できることを教えた。スウッと振りきるようにもやらせた。すぐ、勢いのあるボールが返せるようになった。
　「愛ちゃんみたいなボールになったね」と妹がほめた。
　そうはいっても、ほとんどの返球はネットに引っかかった。
　「ネットに引っかかるのは、うまくなる証拠だよ。ホームランは駄目」と励ます。
　繰り返すうちに成功の確率が高くなった。
　途中で、連続返球の練習をした。
　10球の壁を越えるとすぐに30球くらいは打ち合えるようになった。
　３０球をこえるとすっかり自信をもったようだ。
　妹とは、羽根つきピンポンで遊んだ。
　「おじいちゃん、元気だね」と応援団から声が掛かる。
　体が火照ってきた。
　溢れるお湯の温泉で、ピンポン疲れの筋肉をほぐした。
　湯船に一人でつかっていると「いい湯だなホホホン」と口を突いて出そうになった。いかにも古い歌だとおかしくなって呑み込んだ。
　湯から上がって、横浜、浜松、神戸の３家族八人でお祝いの膳を囲んだ。
　1月生まれの人に、宿から誕生祝いのプレゼントがあった。浜松のジイジはワインを私は梅酒をいただいた。

　2日も快晴。クリスマスのころに比べると暖かで幸運に思う。
　日の出を見に屋上へあがった。日の出の方角が思っていたのとは違って、90度も右よりだった。神戸の家だと海が真南に見えるが、ここでは北の方にある。
　朝食のご馳走には、お正月らしい嗜好が散りばめられていた。
　初詣に、来宮神社に出かけた。樹齢二千年を超える楠木の大樹があって、長寿と一願成就の功徳があるという。来宮は、もともとは木の宮だったとか。

　孫娘が大樹の前で、神前と同じように合掌していた。お願いというより、巨木の生気に圧倒されて思わず手を合わせたとい感じだった。
　「小田原城を見に行きたい」と親にせがむ孫娘たちと熱海駅で別れた。
　私は、予約切符を直近の「こだま」に振り替えてもらって帰ることにした。指定席はとれたが、3人掛けの真ん中だった。
　「こだま」には、熱海からの乗客が多く、「列車の発車が遅れるから空いてる乗車口に分かれて乗ってください」というアナウンスに急かされた。
　客席は、よく詰まっていたが、私の席の横並び5席だけは空席だった。
　やれやれと荷物を棚に上げ上着を脱いでくつろいだ。
　次の三島で右側の席に女性客がやってきた。1歳くらいの男の子を抱き、3歳くらいの女の子を連れていた。私は肘掛けを跳ね上げ、「どうぞ」と女の子の座るところを空けた。女性は「いえ、膝に抱きますから」と遠慮した。
　そうはいっても、子ども連れはたいへんなことはよくわかるので、私は窓際の席へ移って私の席を空けた。
　検察がやってきたが、なにも言わなかった。
　「このままお客さんが来なければ助かりますよね」というと「そうですね」といった。
　検察のときに私の切符を見たのか「新大阪までですか」と訊ねられた。「いえ、神戸です」
　「あっ、神戸ですか、実は、私も神戸と人には言ってますが明石でして」「えっ,明石ですか」
と驚いた。「明石のことなら、たいていのことなら分かりますよ」というと、今度は向こうが驚いた。
　その人は、明石には今も家があると言った。
　話すうちに「アスピアの子育てセンターへも子どもを遊ばせに行ったことがある」とか「家は港の近くの」と言った。
　私がアスピアだけでなくその人の家の辺りの店やお寺のことなどを話すと、ほんとうによくご存じですねと驚き、「偶然とは言え不思議なご縁ですね」と言った。
　大人同士の話しに、３歳の女の子も安心したのか「○○、○○」と名前を教えてくれた。
　「ほうら、大きなお山、富士山が見えるよ」と向こうの窓の外を教えた。
　お母さんが「富士山が見えた？ちゃんと見えた？」と言うのに、女の子はうなずいた。
　静岡だったか掛川だったかで窓際の席に大柄な男性が乗ってきて、３人がけの席が詰まってしまった。
　富士山を見たあとで女の子はお母さんにもたれて眠った。
　三河安城まで行くといっていたが、このまま寝込まれたら降りるとき大変だろうなと思った。
　豊橋の手前で女の子は目を覚ました。私は、なんだかほっとした気分になった。
　女の子が私の方に寄りかかってきた。孫娘が小さかったころと同じ体温が伝わってくる。
　お母さんが「ちょっと待っててね、むこうのキャリーバッグを見てくるから」と言ったが、女の子は、片手を私の膝にかけたまま、だまってうなずいた。
　戻ってきた女の人はケイタイを取り出して,メールを打った。迎えの連絡をとったと言った。
　「こだま」が間もなく三河安城に到着するとのアナウンスが流れた。
　女の子が、「バイバイ」と手を振った。「握手してもらいなさい」とお母さんが言ったら、女の子が手を伸ばしてきた。小さな手と握手した。
　女の子には私の大きな手が硬かっただろうなと思う。
　プラットからも手を振っていた。赤いほっぺの思いがけないお友達ができた。
　「一富士、二巨木、三○○ちゃん」。
　今年ゃ～春から縁起がいいわい……。
　
　
　
　