東京に来て初めて住んだ町を20年振りに歩きました。
年に一度お祭りの時にしか賑わってなかった稲荷神社とか
町外れの寂れた公園 野良猫のたまり場だった路地裏・・。
久しぶりの町だというのに足が向くのはそんなとこばかり。
自分の進みたい道がわからなくて同じ場所をぐるぐる廻っていたなぁ・・。
やっとほのかに灯る道を見つけた気がして
料理の道に進みたいと昼はクッキングスタジオで働き
夜は調理師専門学校に通っていたのもこの頃です。
そういえば この専門学校がなかなか面白かったのです。
夜間部だったので昼は社会人として働いてる人が殆んど。
年齢も職種もみんなバラバラでその人間模様が面白かった。
何度受けても調理師試験に受からず
最終手段で入学してきたコックさんとか
茶髪にド派手メイクで超怖なのに実は堅実なОLさんとか。
なかでも群を抜いてキャラが立っていたのが
精進料理の勉強のためにと通っていたお寺の住職さん。
いま思い出しても笑ってしまうのが卒業間近の実習での出来事。
その日のメニューは活きた鯉を〆て作る鯉こくと鯉の洗いで
日本料理の授業のなかでは集大成ともいえるハードルの高さ。
通常はひとつの班に男性が3~4人いてこういうメニューの時には
暗黙のうちに男性陣がんばって~という感じになるのですが
その日は出張や会議で欠席が多く私達の班に男性は住職ただひとり。
死を覚悟したのか尋常じゃないくらいバシャバシャ跳ね返る鯉を目の前に
女性陣は(住職どうぞ・・。どうぞ〆ちゃって・・。)という空気を醸しだし
にこやかに微笑み 完全に丸投げ状態。
ところが住職は数珠を握り締め静かに合掌し
「わたくし殺生はちょっと・・。」と調理台からまさかのフェードアウト。
「運動会の打ち上げで嬉しそうに活き造り食べてたじゃんっ!」
「チッ 使えねぇなまぐさ坊主・・。」と舌打ちしながら
件の茶髪ОLが男前にパコーンと鯉の頭をカチ割ってくれて
事なきを得るなんて事もあったなぁと思い出しました。
記憶というものは不思議なもので
永い間思い出すことも無かったのに
それぞれの「あの頃」の欠片を拾い始めると
何だか驚くほど鮮やかによみがえってきたりする。
20年振りに歩いた町のちいさな公園で
錆付いたブランコに揺られながら
可笑しくて可笑しくてわらっていたはずなのに
ふと気がつくとぽろぽろと涙がこぼれていました。
7月8