鏡のなかのワタシ

   抱きかかえられて連れてこられたのは
   バスルームの鏡の前

   さっきより明るいオレンジ色の照明の下で
   目がクラクラした 

   でもすぐに目が慣れて、鏡に鮮明にうつった自分を見る

   自慢のEカップの胸がグニャグニャに締め付けられて変形している
    
   ヘタクソな亀甲縛りもどきのピンクの縄の跡が付かないか心配になる

   
   不安な私をよそに孝仁は、次から次とあれこれ試す
   今度は赤い低温ロウソクに火を付けて
   
   彼は生温いロウが溜まるのを沈黙で待っていた

   私はこの沈黙の気まずさがたまらない

   
   やっと準備ができたのか真剣な顔で
   ダイレクトに私の肩から胸に向かって無言で垂らし続ける

   首から下が
   薄く安っぽい朱に染まってく 


   ヤバい  なんかダメだ
    
   あれっ? 私こんな事頼んだっけ?   
   私の欲望にロウソクにまみれたいなんて
   微塵もないんですけど

   服を着たままの孝仁と、全裸の私

   
   さて、この行為の終わり方はどうしよう

   っていうか私も彼ももう限界だ

   恥ずかしさで発狂しそう


   滑稽すぎて泣きそうだ


   『もうやめる、縄ほどいて』


   泣きそうなのをこらえながら小さい声で言った



   『ごめん理羽』


   孝仁も小さな声で答える
   やっとこの変態の儀式から解放されて
   いつもの孝仁に戻る

   優しく紐をほどいて
   カサカサに乾いたロウを丁寧に剥がしてくれる

   鏡ごしに見える情けないその姿を見ていられなくて
   そのままシャワーを浴びるからと一人にしてもらった  



   完全にノーマルな優しい優しい彼に
   こんな鬼畜の様な事をさせたことを
   心から申し訳ないという思いでいっぱいだった

   熱めのシャワーをずっと頭から浴びて
   これが夢であってほしくて
   
   ただ後悔だけが残った

   
   神様、どうか私に罰を与えてください
   彼のまっとうな人生を汚してしまい
   彼を傷付けてしまいました。
       
   彼は私にずっと乱暴な事はできないだろうし、
   私が望む事をこれからも叶えてくれないだろう
   
 
 
    

噛み合わない夜

   孝仁に『乱暴にして』とお願いして
   初めての夜に

   間接照明だけの薄明かりのなかで

   二人はベットに入った

   ベットの横には沢山のSMグッズがあった
   孝仁がドンキホーテで頑張って選んできたんだろう

   彼がドンキのレジのお兄さんに変態だと思われてないか
   少し心配になった

   ドギツイ蛍光のピンクの紐を使って
   動画で覚えたてであろう変な縛り方で
   遠慮しがちに私を縛っている   

   『どうされたい?』 
   『どこが気持ちいいか言って?』
   『どこ叩かれたい?』

   不安なのが伝わってくる程に
   やたら話しかけてくる
    
   自分で望んでおいてどうも気が乗らない

   彼はこんな事なんかしたくないんだろうななんて 
   考えながら縛られていた

   試行錯誤キツく縛りながら
   いつもより強めに愛撫してくる彼を
            無抵抗で受け入れてみる

   受け入れてみるんだけど.....
      

   こうじゃないんだよ。


   全然違うよ。


   すごく冷静になってきた
        

   後ろで手を拘束され、体中には蜘蛛の巣みたいにピンクの紐が絡み付く
   抱き慣れたはずの私の胸に夢中で愛撫してる孝仁の
   髪の匂いをかいでみたり
   暇を持て余すように天井をぼーっと見ていた

   暗さでどうせ顔なんて見えないだろうと真顔のまま喘ぐ
   

   死にかけの蝉みたいに虚しい鳴声は響くのに

   私のからだは汗もかかない    
   感じなくて濡れもしない
    
   孝仁が私の反応を指でたしかめる
    濡れてない事に焦っているようで...

   
 
   冷え性の私は足が今日も冷たい。
   お風呂入ってラジオ聞きたいなんて
   余計なこと考えているせいで
   そりゃ濡れないわ
 
   

  
  『場所かえよっか』っと言って
   私をお姫様だっこしてベットルームを出た

   私はまだどこか冷静で
   彼の作る世界に入っていけずに
   
   どうかベランダにこんな姿で放りだされるのだけは
   勘弁してくれとそれだけを願っていました


 

死にたい人魚姫

   孝仁とはずいぶん前からセックスレスになっていた
   原因は私にあると思う
   数年前の私の一言でほぼ毎晩背中合わせで寝るようになった



    あの頃、優しいSEXにうんざりしていた私は
   終わった後に背中を向けたまま孝仁に言ってみた
   
   『今度は縛ったり殴ったり、乱暴にして』って


   私は衝動が抑えられなかったんだ
   嫌いなの、まだ嘘つきな自分が
   甘えて甘えて上目遣いして

   『可愛い』『可愛い』って言われて
   愛されて、幸せで、ぬるま湯のような夜が。

    そう遠くない昔に
   死を切に願っていた女が

   簡単に幸せな日々を受け入れられない
   
   あのギスギスと痛んだ傷も  
   私の人生の一部だから   

   孝仁は『分かった』と言ってくれた


   それから数日間のうちに
   共有のパソコンにはSM動画の履歴
   ドンキホーテの黄色い袋が二つ 
   危ない雑誌が数冊

   
   孝仁は訳も分からずに、私の要求に応えようと
   彼なりに努力していたようで

   その努力がバレバレで、ぶっちゃけ興冷めだ。


   分かってはいたよ、彼には悪魔になりきる素質がない


   でも、乱暴に扱われる夜を待つことにした。

   
   一瞬でいいから忘れたいんだ
   あの過去の苦しみから解放されるには

   苦しみを塗り替えるような
   もっと直接的な苦しみが必要なの      
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