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サラリーマンの読書エッセイ

本を読んでふと何かを思うとき、徒然なるままに書く簡単書評とショートエッセイです。

6 8月

怪談/小池真理子4

幻想怪奇小説集、という内容紹介を見て、ちょっと買うのを躊躇しました。
でも、読んでよかったです。形は怪奇譚でも、じっくり味わえる深さがありました。
続いてもう二冊、短篇集が文庫化されるようです。楽しみにしています。


taste:★★★★☆

怪談 (集英社文庫)
小池 真理子
集英社
2017-07-20


小池真理子(2014/2017)集英社文庫

大切な人の突然の死。魂だけでもいつも傍らにいて欲しいと願う気持ちが、見えない何かを引き寄せるのかもしれない。二十年前、男友達が自死した。彼の想いを素直に受け入れられなかった若い自分。そして今、恋愛に失敗し、仕事にも行き詰まった私は、様々な思いを抱え彼が最後に泊まったペンションを訪れる―。(「岬へ」) 生と死のあわいに漂う不確かな存在を、妖しく描き出す幻想怪奇小説集。
(集英社文庫 内容紹介)

7篇の短編は、いずれも非現実的な奇譚です。しかし、どれ一つとしてただの「怖い話」ではなく、そこに至る背景や心情、登場人物(既に「人物」ではない人も含めて)から滲み出るような無念の心など、人の心の奥深いところが存分に描かれていて、思わず引き込まれます。奇譚ものはあまり好きではないのに、なぜかこの短編集には強い引力を感じました。怪奇小説であることを忘れさせるような魅力がありました。

僕がいちばん好きで、そして素直に驚きをもって読んだのは、3つ目に収められている『幸福の家』でした。怪奇小説に相応しくないようなタイトルのこの小説、語っている主人公「わたし」自身の立場がわかった時には、思わずぞわっとするような驚きです。そして、かつての「わたし」の幸せぶりとその顛末が見えてくるにつれ、深い悲しみと無念さが伝わってきて、茫然とさせられます。怖い話なんかは通り越した、悲しい悲しいお話です。文庫版の解説の中で「絶品」と評されるこの短編は、僕の感覚でも本当に絶品でした。

短篇集が三冊、新たに三部作として連続で文庫化されることになっているようです。2017年7月刊行のこの『怪談』はその一作目で、8月以降に他の二作が刊行されるとのこと。かつて何度も読んだ『恋』や、『無伴奏』『欲望』と合せたいわゆる「恋・三部作」とは趣向を異にするものながら、思いがけずハマってしまった小池真理子の怪奇小説。次なる文庫化を楽しみにしています。

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《真夏の夜の夢・・・》 

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30 7月

ちょっと今から仕事やめてくる/北川恵海2

これも今年、映画になりました。過重労働を取り上げた、タイムリーなお話です。
背景は、会社に蔓延する姑息な策略やパワハラ。そんな、かなり重いテーマなのに、
全体にあまり厚みや重みを感じさせず、軽い仕上りに映ったのが残念です。


taste:★★☆☆☆

ちょっと今から仕事やめてくる (メディアワークス文庫)
北川恵海
KADOKAWA/アスキー・メディアワークス
2015-02-25


北川恵海(2015)メディアワークス文庫

この優しい物語をすべての働く人たちに
ブラック企業にこき使われて心身ともに衰弱した隆は、無意識に線路に飛び込もうとしたところを「ヤマモト」と名乗る男に助けられた。同級生を自称する彼に心を開き、何かと助けてもらう隆だが、本物の同級生は海外滞在中ということがわかる。なぜ赤の他人をここまで? 気になった隆は、彼の名前で個人情報をネットで検索するが、出てきたのは、三年前に激務で自殺した男のニュースだった―。スカッとできて最後は泣ける、第21回電撃小説大賞(メディアワークス文庫賞)受賞作。
(メディアワークス文庫 内容紹介)

なぜヤマモトは同級生を自称したの? そんなことしなくたって、隆を助けて立ち直らせることはできるんじゃないの? なぜ、赤の他人が隆を助けたくなる理由を隠す必要があったの? ・・・そんな「なぜ?」がたくさん頭に浮かびます。この種の小説に、わざわざそんな突っ込みを入れることもないでしょう。でも、そんなやや不可解な設定のおかげで、この小説は焦点がボケてしまっているような気がします。

違法労働を強いた上、業績の低い者をひたすら口汚く罵る上司。そんな上司の下で、相手を陥れるような姑息な裏切り行為を企てる同僚。そんな会社に対して、隆は「ちょっと今から会社やめてくる」ということばをヤマモトに残し、「俺、今日で仕事辞めます」を伝えに会社へ出向きます。その8ページほどのクライマックスシーンで、隆が上司や同僚に語ったことばが、この小説の結論だと思います。

かなり芝居がかった場面ながら(まあ、あくまでも小説ですが・・・)、そんなラストでは、確かにスカッとした上で少しほろりときます。企業に渦巻く悪と戦う会社員・・・と言えば、池井戸潤が得意そうな分野です。はい、さすがに池井戸さんほど厚みのある小説には仕上がっていません。内容紹介の冒頭にあるコメント、「すべての働く人たちに」までには、やや距離があるように思います。

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《「働き方改革」の紆余曲折・・・》 

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23 7月

永い言い訳/西川美和3

昨年、映画になりました。見たかったのですが、近場ではやっていませんでした。
映画はかなりヒットしたようなので、小説にも期待してこの本を手にしました。
でも、う〜ん・・・このお話は、映像の方がリアルで、感動を呼ぶかもしれません。


taste:★★★☆☆

永い言い訳 (文春文庫)
西川 美和
文藝春秋
2016-08-04


西川美和(2015/2016)文春文庫

人気作家の津村啓こと衣笠幸夫は、妻が旅先で不慮の事故に遭い、親友とともに亡くなったと知らせを受ける。悲劇の主人公を装うことしかできない幸夫は、妻の親友の夫・陽一に、子供たちの世話を申し出た。妻を亡くした男と、母を亡くした子供たち。その不思議な出会いから、「新しい家族」の物語が動き始める。
(文春文庫 内容紹介)

津村啓をペンネームとする人気作家、衣笠幸夫とその妻・夏子の間は、既に冷え切っています。会話はすぐに喧嘩腰になり、家にいても気詰りな関係。そんな妻を事故で亡くしても、幸夫は悲しみを感じません。それでも人気作家の立場上、世間は幸夫に悲劇の主人公になることを期待して・・・。そこまで読んだ時点で、この小説の寂しさにちょっと嫌気が差してきました。

そんな幸夫がふとしたきっかけから、同じ事故で夏子の親友だった妻を亡くした夫・陽一の子どもたちの世話を申し出ます。そんな気になった幸夫の心情がよく見えないのが少し残念だったとはいえ、その後この小説は、一気に明るい展開を見せ始めました。幸夫が愛するようになった、新しい家族の形。しかし、そこには間もなく、落とし穴のような心のすれ違いが訪れます。そしてラストでは、結論のようにこう締めくくられています。

―ねえたしか君は昔ピアノをやっていたんだよね。この曲は何という曲なの。
そう尋ねてみたが、その耳にもう妻の声が返ることはなく、ただ風に溶けた名も知らぬ曲だけが、軽やかに町を包んでいた。衣笠幸夫は、そして初めて、他の誰のためでもなく、また悔恨からでもなく、ただ妻を思い、泣いた。

(文春文庫版 p.335)

物語の展開がややあいまいなところが気になったとはいえ、このラストに至るストーリーは、僕の心に深く届くきました。心の描写がかなり複雑さを帯びているとも言えるこのお話は、確かに映像にすると更に深みが増すかもしれません。このお話を一流の俳優さんたちが演じた映画を、僕も見たかったです。早くテレビでやらないかなあ・・・。

子供の世話と、そしてその家族と。僕は大学生時代のアルバイトとして、4年間を通して一人の子供の家庭教師を引き受けました。4年もやると、すっかりその家庭にも溶け込み、親御さんにはたいへんお世話になりました。でも今思えば、僕の家庭教師としての勤務態度は、思い出すのが恥ずかしいほどにいい加減なものだったんです。この小説を読んで、僕は40年近く前のそんな経験を思い出しました。反省です・・・。

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《いい加減な家庭教師の話・・・》

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9 7月

神様に秘められた日本史の謎/新谷尚紀[監修]3

 
神話から近現代に至るまで、日本の歴史を「神様」という切り口で論じる歴史書です。
サブタイトルにある通り、「日本人は神様をどう、必要としてきたのか?」
僕は、記紀神話に登場する神々の謂れに興味があります。はい、おもしろかった。


taste:★★★☆☆



新谷尚紀[監修](2015)洋泉社

◎記紀神話の原初神はなぜ影が薄いのか?
◎神功皇后はいつから神になったのか?
◎なぜ奈良の朝廷は八幡神に翻弄されたのか?
◎稲荷神を全国区にしたのは空海だった?
◎毘沙門天や大黒天は神様だった?
◎戦国武将が尊崇した「天道」とは?
◎江戸時代の庶民が家に飾った三柱の神とは?
◎昭和天皇が敗戦直前にすがった神とは?
―神様と日本史の不思議な関係を読み解く
(洋泉社歴史新書 表紙カバーの内容紹介)

記紀神話というものは、大和朝廷から奈良時代頃にかけての歴史的事実について、その正統性を後世に残すために創作された「半・ノンフィクション」だと言われています。この本にはそうは書かれていませんが、例えば「出雲の国譲り」というお話は、それは実は「乙巳の変」(その後の政治刷新がいわゆる「大化改新」ですね)そのものではないかという説もあるようです。アマテラスもオオクニヌシも実在した(いや、そのモデルがいるという意味です)のかと思うと、そこには単なるお話としての神話とはまた一味違った、古代史のロマンがあるような気がします。

そんな歴史を持つ日本ですので、昔から多くの場所に「神様」がいます。多くの日本人は、神道の存在を日常的に感じながら生活しています。しかし一方で、仏教も神道と同等以上に日常的です。それは決して、日本人の宗教観がいい加減だからというわけではなく、日本人は古くから、神道と仏教を相容れるものとして、双方をうまく組み合わせて受け入れてきた歴史があります。

それが、日本に古くから進行してきた「神仏習合」です。これ、神と仏は同等、あるいは一体という考えではないのですね。「神もまた人間と同じく煩悩に苦しむ衆生のひとつであり、仏教に救済を求めていると考えられた」のだということです。だから、神社の敷地によくある、いわゆる神宮寺は、「仏教に帰依する神々のために建てられたものだった」ということだそうです。これは知りませんでした。神様が何やら人間くさいものに思え、ますます身近に感じられます。
(本書p.106 『神仏習合で神様の存在はどう変わったか?』)

江戸時代以降の話になると、僕は個人的にやや退屈でした。でも、久しぶりに触れた「日本史のわけのわからない部分」は、意外にも新鮮に映りました。ふと、最近僕の思いの中で少しくすぶった「近所の神様」のことを思い出し、書いてみたくなった次第です。

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《社風の違いと神様と・・・》 

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25 6月

山月庵茶会記/葉室麟4

 
妻の死の真相は。妻に不義密通の汚名を着せたのはいったい誰なのか―。
政争に敗れ、その後茶人として大成した柏木靱負が、静かに謎解きに挑みます。
妻の心が明らかになるラストは、涙を誘います。久々に一気読みでした。


taste:★★★★☆



葉室麟(2015/2017)講談社文庫

かつて政争に敗れ黒島藩を去った元勘定奉行・柏木靱負が、千利休の流れを汲む茶人として国に帰ってきた。孤狼の心を胸に秘めた彼は、山裾の小さな庵に隠遁し藩士たちを招く。派閥抗争の最中に喪った妻の死の真実を知るために。茶室は刀を使わぬ静かな闘争の場となった。読者の心を虜にする直木賞作家の真骨頂。
(講談社文庫 内容紹介)

葉室さんには、豊後黒島藩を舞台にした作品がいくつかあります。『陽炎の門』や『紫匂う』がそれでした。内容はいずれも豊後である必要のないもので、連作でもありません。福岡県の小倉が故郷の葉室さんには、豊後(今の大分県付近ですね)を描くことに心地よさがあるのかもしれません。僕も小倉が故郷ですので、読む側としても親しみが持てます。

内容紹介にある通り、ミステリータッチの時代物でした。茶人として大成した柏木靱負は、自害した妻の死の真相、そして何も言わずにひっそりと命を絶った妻の心を知るため、情報収集の場として茶の庵を設けます。そこに関係したと思われる藩士や知人たちを呼び寄せ、風雅な中にも徐々に真相に迫る展開は、単純な犯人探しとは一風異なった、よりミステリアスな雰囲気を醸し出します。

物語の展開のみならず、葉室さんらしい読みやすくきれいな文章も手伝って、久しぶりに一気読みしました。茶室の雰囲気や、茶の心たるものの輪郭みたいなものが感じ取れるのも、この作品独特の味わいだと思います。心温まる、そして涙を誘うラストも絶品でした。

ふと、「茶」なるものを少しかじってみたくなりました。今回だけでなく、僕は時々、茶道をやってみたくなることがあるんです。多くはふと思うだけで通り過ぎてしまう考えですが、最近その真似ごとみたいなことをやってみました。いやいや、生活にちょっと変化をつけてみたかっただけです・・・。

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《人形焼プロジェクト・・・》 

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かつては単身7年間
解消してから3年半で
再び転勤、また単身
柴犬むすめと暫しの別れ
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