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サラリーマンの読書エッセイ

本を読んでふと何かを思うとき、徒然なるままに書く簡単書評とショートエッセイです。

22 10月

春雷/葉室麟4

 
『蜩ノ記』『潮鳴り』に続く、葉室麟の「羽根藩」シリーズの三作目です。
胸のすくようなお話がそろうこのシリーズ、『蜩・・・』以来ずっと読んでます。
この『春雷』以降も、『秋霜』『草笛物語』が続いています。文庫待ち、かな。


taste:★★★★☆

春雷 (祥伝社文庫)
葉室麟
祥伝社
2017-09-13


葉室麟(2015/2017)祥伝社文庫

<鬼隼人>許すまじ― 怨嗟渦巻く豊後・羽根藩。新参の多門隼人が”覚悟”を秘し、藩主・三浦兼清を名君と成すため、苛烈な改革を断行していた。そんな中、一揆を招きかねない黒菱沼干拓の命を、家老就任を条件に隼人は受諾。大庄屋の<人食い>七右衛門、学者の<大蛇>臥雲を招集、難工事に着手する。だが城中では、反隼人派の策謀が・・・。著者畢生の羽根藩シリーズ第三弾!
(祥伝社文庫 内容紹介)

直木賞受賞作の『蜩ノ記』を読んだ時、これはとてもおもしろい時代小説だと思いました。背景の設定や登場人物の描写に、よくある勧善懲悪ものにはない興味深さを感じました。『蜩・・・』は、10年後の切腹を命じられた武士にまつわるお話でした。その奥の深さに感銘を覚えたものです。

この『春雷』も同じく、豊後の国・羽根(うね)藩を舞台とした時代物です。主人公は、藩の民衆からも「鬼」と言われ、藩にとっても反逆児的な家老、多門隼人。内容紹介にある黒菱沼の干拓事業は、かねてより農地を増やすための事業として計画され、その難しさゆえに何度も頓挫してきた難工事です。それを「鬼隼人」多門隼人に請け負わせるという藩の命は、その失敗を理由に隼人を陥れるための策謀でもありました。

多門隼人は藩の民を苦しめるような行政を断行してきましたが、決して悪い男ではありません。すべては藩の将来を一途に思ってのこと。黒菱沼の干拓が成功すれば、羽根藩の農地は大きく増え、藩にも百姓にも多大な恩恵をもたらす事業です。それを成功させるため、隼人は自身の手下として、隼人以上に悪名高い連中を雇います。そんな隼人独特の判断も、この物語をおもしろくしています。

そんな多門隼人の思いを、わかりやすく語らせたことばがありました。少し長くなりますが以下に引用します。

「わからぬであろうな。おぬしとわたしでは正義というものが違うからだ。わたしにとっての正義とは建前や理屈ではない。ひとが何事かをなしとげ、作り上げるために、たがいに助け合うて、苦しみを分かち合い、ともに生きることだ」
「それがしの正義は違いまするか」
玄鬼坊は静かに訊いた。隼人は苦しげに声をかすれさせながらも話した。
「おぬしの正義はおのれの正しさを言い立て、ひとを謗り、糺すものだ。何も作ろうとはせぬ。あからさまに言えば、何かをなそうとする者の足を引っ張って快とするだけだ。この世に何も作り出さぬ」
「先夜、米を作る百姓が何も作らぬ武士に頭を下げるのはおかしいと、皆さまで話しておられましたな」
「そうだ。まことの正義はそこにある。すなわち、民の難儀を見過ごさぬことだとわたしは思っている」

(祥伝社文庫版 p.191)

頑固でちょっとヘンなやつながら、多門隼人が貫いてきた、こんな全くブレない考えは、実にかっこいいものでした。この「羽根藩」シリーズは、こんな胸のすくような連作です。『蜩ノ記』、『潮鳴り』、そしてこの『春雷』に続き、『秋霜』『草笛物語』が既に刊行されています。以降の二作も文庫化されることでしょう。単行本で読んでもいいかな。

さて、この作品で多門隼人に触れ、かつての上司を思い出しました。とてもとても恐い人で、まさに「鬼」とも思えるほどでしたけど、今思えば彼もまた全くブレない人だったんです・・・。

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《恐いけど、ブレない人。・・・》 

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8 10月

無花果の森/小池真理子3

 
特に理由なく、書店で見つけて文庫を購入しました。新しい小説ではありません。
著名な人物によるDVからの逃亡、そして奇しくも逃亡の身となっていた記者。
密かに進む二人の恋の様子が魅力的です。その分、華やかさには欠けるかな。


taste:★★★☆☆

無花果の森 (新潮文庫)
小池 真理子
新潮社
2014-04-28


小池真理子(2011/2014)新潮文庫

小雨の降りしきる午後、夫の暴力に耐え切れなくなった新谷泉は、家を飛び出した。隠れ場所を捜し、ごくありふれた地方都市に降り立った彼女は、狷介な高齢の女性画家に家政婦として雇われることになる。降り続く雨のなか、時間だけが静かに流れゆく日々を過ごす泉は、思いがけない人物と出会う・・・。追いつめられ、全てを失った男女の愛と再生の物語。芸術選奨文部科学大臣賞受賞。
(新潮文庫 内容紹介)

この小説は、2014年に映画になっていたようです。知りませんでした。ストーリーの背景や、登場人物の属性にやや脚色が加えられているようです。アイドルグループ出身の、売れっ子の韓国人俳優を使いたかったのかもしれません。

世に知られた映画監督の、新谷吉彦。その妻・泉は、吉彦の暴力に耐えかねて家を飛び出します。相手が名の知れた人物であるだけに、素姓を明らかにすることのできない泉は、人知れぬ平凡な町で家政婦として働く口を見つけ、逃亡生活に入ります。そこで偶然出会ったのは、新谷吉彦のDV疑惑を追いかけていた元・雑誌記者の塚本鉄治。彼もまた、とある理由で逃亡生活を余儀なくされていました。

二人の逃亡者の間で密かに芽生える愛。先の展開が容易に推測できる、やや陳腐なストーリーと言えなくもありません。しかしながら、小池さんらしい設定や文章は、そんなお話をとても魅力的に仕上げてくれています。まるで異なる内容ながら、ふと、あの直木賞受賞作『』を彷彿とさせるようなところもありました。やはり小池さん、危ない恋を描かせるとピカイチです。

逃亡。潜伏。この小説を読んでいると、かつてのつまらない出来事を思い出してしまいました。決して僕が悪いわけではないと思うのに、本当に「逃亡」とか「潜伏」とかのことばを使いたくなるような気分だったんです・・・。

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《逃げも隠れも、したくなる。・・・》 

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24 9月

秋月記/葉室麟3

初出は2009年、葉室さんの作品の中では古い部類に属する小説です。
そのためでしょうか、典型的な葉室スタイルの展開に、やや退屈さを覚えます。
作家デビューから4年後の作品です。葉室ワールドの原点かもしれません。


taste:★★★☆☆

秋月記 (角川文庫)
葉室 麟
角川書店(角川グループパブリッシング)
2011-12-22


葉室麟(2009/2011)角川文庫

筑前の小藩・秋月藩で、専横を極める家老・宮崎織部への不満が高まっていた。間小四郎は、志を同じくする仲間の藩士たちとともに糾弾に立ち上がり、本藩・福岡藩の援助を得てその排除に成功する。藩政の刷新に情熱を傾けようとする小四郎だったが、家老失脚の背後には福岡藩の策謀があり、いつしか仲間との絆も揺らぎ始めて、小四郎はひとり、捨て石となる覚悟を決めるが―。絶賛を浴びた時代小説の傑作、待望の文庫化!
(角川文庫 内容紹介)

専横を極める藩の実力者と、その背後にある藩の陰謀に立ち向う主人公たち。葉室麟さんの小説には、そんな勧善懲悪ものがよくあります。たとえ大筋は見えていても、それぞれに心を打つストーリーが展開され、時にはユーモアもまじえた作風を見せてくれる葉室さんの作品は、多くがすばらしく魅力を感じさせてくれます。

2009年に単行本が刊行されたこの作品は、まさにそんな葉室さん得意の筋書きです。『蜩の記』で直木賞を受賞した2012年より前に書かれていて、当時直木賞や山本周五郎賞の候補にもなっています。そんなやや古い作品ですので、今時点でこの小説を読めば、ストーリーがシンプルなものに映るのもやむを得ないことかもしれません。

そんな側面からでしょうか、この小説は僕に、やや退屈さを感じさせました。単に、主人公・間小四郎の伝記小説のようにも受け止められました。複数の文学賞の候補にもなっているこの作品は、葉室ワールドの原点と言えるのではないかと僕は思います。

幼い頃は臆病者だった主人公・間小四郎は、剣術の上達を通じて強い心を持った立派な青年に成長し、出世して重要な役職に就きます。そして、専横を極める家老や本藩の陰謀に立ち向かう、小四郎の波乱に満ちた人生・・・。

物語は、間小四郎がそんなダイナミックな生きざまの末路を迎える場面から始まります。何一つとして後悔はしておらぬ、拙者の胸にあるのは安堵の思いだけでござる・・・。この年に五十九歳になるという間小四郎の人生は、さぞ満足なものだったことでしょう。変化に富み、長く豊かな人生だったことかと思います。羨ましいです・・・。

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《「光陰矢の如し」回避へ・・・》 

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10 9月

ザ・ビジネスゾーン/小原大二郎5

 
少しはゴルフにまじめに取り組もうと決心し、最近ネットを賑わすこの本を購入しました。
おそらく通販限定で、出版社から直接購入のこの本、確かに役に立ちそうです。
100が切れない人を主なターゲットとしています。はい、僕にぴったりです。


taste:★★★★★

ザ・ビジネスゾーン
小原大二郎(2017)ゴルフライブ
書店でもamazonでも購入できません。
購入サイトはこちらです。

最高の決断をしたあなたへ
あなたがどういう気持ちでこの本に興味を持ってくれているのかはわかりません。100を切りたい、90を切りたい、シングルになりたいと思っているのか、今より飛距離を伸ばしたいと思っているのか。(中略)あなたがどういう気持ちだとしても、ゴルフ上達の根幹となる「ビジネスゾーン」という価値あるスイング上達法を学ぶという決断は、きっとこれまでの(そしてこれからの)あなたのゴルフ人生において、最高の決断の一つになるでしょう。(中略)ぜひ一緒に、ビジネスゾーンを学びましょう。このビジネスゾーンを身に付ければ、あなたのゴルフの悩みはほとんど全て、解決します。
(ゴルフライブ社・本書のカバーにある内容紹介より抜粋)

4月に会社を変わって以降、ゴルフの回数が急増しました。そのほとんどがお客さんや取引先との懇親、即ち「仕事」です。僕は決してゴルフは嫌いではありませんが、これまでほとんど練習というものをしないで過ごしてきました。しかし、こんなにもゴルフの回数が増え、しかもそれが仕事の一部ということになると、思い通りにならない今の僕のゴルフは、自らにストレスをためる一方になってきました。

やっぱりちゃんと練習しないとまずいかな。10年前の道具ではもう堪えられないかな・・・。そんなことを考え始めた矢先、ネットでこの本の広告が頻繁に現れるようになりました。「ゴルフが下手な理由はここにあるらしい」「100を切れないゴルファーへ」「あなたが上達しない理由」・・・そんな直接的でわかりやすい広告に、僕はすっかり見入ってしまいました。そして、1,980円のこの本を通販で購入した次第です。

僕は基本的に、これまで自己流でゴルフをやってきました。今さらレッスンを受けるのも気が引けます。そんな僕にとって、基礎から教えてくれるこの本は魅力的です。ゴルフはインパクトが全て。安定させるべきインパクト付近のゾーンを「ビジネスゾーン」と呼び、このゾーンの基礎を徹底的にマスターする―。そんな趣旨で書かれたこの本、確かに役に立ちそうです。

100が切れない人が主なターゲットですので、僕のようないい加減なゴルファーにも理解しやすく書かれています。はい、これまでのいい加減なゴルフを少し反省して、この本を参考に多少練習してみることにします。

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《安定したヘタからの脱却を目指して・・・》 

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27 8月

水声/川上弘美4

 
7月の文庫新刊を書店で見つけ、久しぶりに川上弘美を読んでみたくなりました。
家族のスタイルを描いたこの作品は、またもちょっと不思議な川上ワールドです。
スリリングとも言える展開にハマります。でも、やっぱりこれ、不思議です・・・。


tasue:★★★★☆

水声 (文春文庫)
川上 弘美
文藝春秋
2017-07-06


川上弘美(2014/2017)文春文庫

1996年、わたしと弟の陵はこの家に二人で戻ってきた。ママが死んだ部屋と、手をふれてはならないと決めて南京錠をかけた部屋のある古い家に。夢に現れたママに、わたしは呼びかける。「ママはどうしてパパと暮らしていたの」 ―愛と人生の最も謎めいた部分に迫る静謐な長編。読売文学賞受賞作。
(文春文庫 内容紹介)

川上弘美らしい、まさに静謐な文章です。物語は静かに静かに、流れるように進みます。内容はともあれ、僕は川上さんのこんな静かな文章が好きで、これまでにいくつもの作品を読んできました。そしてその多くで、俗世間から隔離されたような、不思議な不思議な川上ワールドが展開されています。

まさかの展開・・・。半ばでおよそ読めてくるとはいえ、そういう表現もあてはまりそうな、ややスリリングなお話です。それでも、まるで音のない世界をイメージさせるような、川上さん独特の作風は、いやらしさや胡散臭さを全く感じさせない美しさがあります。「愛と人生の最も謎めいた部分」・・・それはどうかな、とも思います。でも、いやいや、家族のかたちや愛情にも、いろんな謎めいた心、そしていろんなスタイルがあるのかもしれません。

「家族」を描いた小説としては、異色の作品と言えます。それでも、川上さんが時折見せる、わけのわからないお話の部類ではありませんでした。不思議な中にもふとした微笑みが垣間見れるような、静かで美しい作品です。堂に入った川上ワールド―。そんな表現が相応しいかもしれません。

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《わが家もそれなり、家族のかたち。・・・》 

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かつては単身7年間
解消してから3年半で
再び転勤、また単身
柴犬むすめと暫しの別れ
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