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サラリーマンの読書エッセイ

本を読んでふと何かを思うとき、徒然なるままに書く簡単書評とショートエッセイです。

9 9月

ツバキ文具店/小川糸5

 
この作家の小説は初めてです。書店で内容紹介を見て、読んでみたくなりました。
文具店のサイドビジネスのように、手紙の代書を請け負う店主の鳩子。
そこにいろんな人生が見え、笑いあり涙あり。文句なしのいい小説でした。


taste:★★★★★



小川糸(2016/2018)幻冬舎文庫

鎌倉で小さな文具店を営むかたわら、手紙の代書を請け負う鳩子。今日も風変わりな依頼が舞い込みます。友人への絶縁状、借金のお断り、天国からの手紙・・・。身近だからこそ伝えられない依頼者の心に寄り添ううち、仲違いしたまま逝ってしまった祖母への想いに気づいていく。大切な人への想い、「ツバキ文具店」があなたに代わってお届けします。
(幻冬舎文庫 内容紹介)

この内容紹介は、実にうまく書けているように思います。この小説の内容をこんなに上手に、そしてこんなにコンパクトに伝えることのできる、この文の筆者がうらやましいです。

小川糸さんの作品は初めて読みました。と言うより、「小川糸」という名前の人がいることを知っている程度でした。読み始めて間もなく、この小説の設定やストーリーの興味深さもさることながら、僕はその作風に引き寄せられました。ユーモアに溢れてテンポも良く、お話は次々と進んでいく、そんな印象です。

登場人物のネーミングも絶品です。水色の水玉模様を身にまとった「マダムカルピス」。本名は帆子(はんこ)という学校の先生「パンティー」。そして、主人公・鳩子の愛称は「ポッポちゃん」。これも、この小説を活き活きとさせる要素の一つになっていると思います。

鳩子のもとには、いろんな代書の依頼が来ます。その都度、鳩子は依頼人の気持ちになって手紙を書きます。文字もそれに相応しいものに、そして紙や筆記具も使い分けて書き上がった、心のこもった代書のでき上がりは、依頼人自身の心をも代行しています。そんな、依頼人が涙して喜ぶような手紙ができあがるところに、この小説の根底に流れる魅力があります。

ほかにも似たような構成の小説は、たくさんありそうな気がします。しかしこれは、そんな中でも図抜けていると僕が感じる、すばらしい小説でした。そして、この小説を取り巻き、読者に気付きを与えてくれるような、心の通い合う友人がいる喜びや厳しく育ててくれた祖母への感謝。小川糸。初トライは大成功でした。続編『キラキラ共和国』も刊行されています。まだ単行本ですが、さて僕は、文庫になるのを待てるでしょうか・・・。

僕はこの小説を、シンガポールへの出張中、往復の飛行機やホテルでの余裕時間に読みました。そして、帰国の日の未明、北海道は大きな地震に見舞われ、たいへんなことになりました。亡くなった方、けがをした方が大勢いる中、僕の会社や僕自身が強いられた不自由さなんて、「被害」と言うには及ばないほどに小さなものです。そして、ほぼ日常を取り戻しつつある今、改めて「日常」のありがたさを感じているところです・・・。

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《ありがとう。・・・》 

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26 8月

異邦人(いりびと)/原田マハ4

 
たままた目にした無名の画家の作品に心を奪われた菜穂。ところがその画家は・・・。
菜穂がその絵に惹きつけられる様子は、ある種の迫力をもって伝わってきました。
結末で明かされるどろどろした人間関係が、やや陳腐に感じられたのが残念です。


taste:★★★★☆

異邦人(いりびと) (PHP文芸文庫)
原田 マハ
PHP研究所
2018-03-10


原田マハ(2015/2018)PHP文芸文庫

「美」は魔物―。たかむら画廊の青年専務・篁一輝と結婚した有吉美術館の副館長・菜穂は、出産を控えて東京を離れ、京都に長逗留していた。妊婦としての生活に鬱々とする菜穂だったが、気分転換に出かけた老舗画廊で、一枚の絵に心を奪われる。強い磁力を放つその絵の作者は、まだ無名の若き女性画家だったのだが・・・。彼女の才能と「美」に翻弄される人々の隆盛と凋落を艶やかに描く、著者新境地の衝撃作。
(PHP文芸文庫 内容紹介)

絵画の魅力が心底わかる人って、絵の放つ「強い磁力」と表現されるような、そんなエネルギーを受け取るのでしょうか。僕は、絵画を鑑賞するのは嫌いではありませんし、気が向けば美術館に絵を見に行くこともあります。そして、あ、この絵は好きだな、と感じることも度々あります。しかしそれは、「磁力」と表現できるほどの強いものではないように思います。ふと心に届くような、そんな「仄かなきらめき」といった類のものでしょうか。

菜穂は、無名の新人画家・白根樹(しらねたつる)の描いた「強い磁力を放つ絵」(PHP文芸文庫版p.53)、青葉の小作品に心を奪われます。この絵を手に入れ、自分の住む部屋の床の間に掛けた菜穂。その時の菜穂の心を描いた文章が、僕はとても好きでした。少し長く引用します。

ようやく自分の手元に取り寄せた青葉の小作品を、菜穂は床の間の土壁に掛けた。
山鳩色の壁は、古くはあったが、書院の障子越しの光を反射して、練り込まれた雲母がきらめいて見える。その中に青葉の緑青がふっと浮かび上がる。心地よい風を呼び込む小窓ができたようで、菜穂は思わず感嘆の息を漏らした。
やはりこの絵は違う。いままで見てきたどんな絵とも、違う。
その絵の前に座すと、自然と背筋が伸びる心地がする。高尚な茶人の茶席にでも呼ばれたかのように、菜穂は、長いこと姿勢を崩さずに、ひとり、絵に向き合っていた。

(PHP文芸文庫版p.71)

こんな、菜穂の心を惹きつける作品を描いた無名の新人女性画家、白根樹。彼女の佇まいや謎めいた美しさの描写も、この作品の魅力の一つです。僕はこの小説のラストに、白根樹の絵心を生みだした背景や、それを引き出した彼女の表現力の謎、といったところに迫ってほしいと思いました。そんな期待から外れた、やや陳腐とも思える結末だったところに、僕はやや残念なものを感じました。とはいえ、この小説は、芸術が放つ強いエネルギーと、それを受け止める人の心を存分に描いた、すばらしい作品だったと思います。

絵に向き合って、背筋が伸びるような気持ちを抱いている菜穂の姿に、僕はちょっとした感動を覚えました。そして、そんな気持ちになれる菜穂が、羨ましいような気さえしました。絵画って、それを受け留める人によっては、こんな風に心に届くものなんですね。僕は肉筆の絵を手に入れようなんて考えたこともありませんが、思えば確かに、写真や画集で見る名画より、美術館で見る現物の方が、「あ、この絵は好きだな・・・」の感覚が強いような気がします。実物にもっと頻繁に接すると、そんな菜穂の心に近付けるのかもしれません。

絵に限らず、どんなものでもホンモノが持つ魅力って、ありますよね。もちろんそれはモノによりけりですし、価値観も人ぞれぞれ。必ずしも本物でなくても十分なこともあります。先週読了したこの小説を思い返していると、今日僕はそんなところに心が飛びました・・・。

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《ホンモノとニセモノと・・・》 

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19 8月

暗幕のゲルニカ/原田マハ3

最近ハマっている原田マハ。彼女の作品は、絵画をモチーフにしたものが主流です。
これもその一つで、あのピカソの「ゲルニカ」の所有をめぐる、一種のサスペンスです。
過去と現在を巧みに織り交ぜながらも、やや単調な印象を残すのが気になりました。


taste:★★★☆☆

暗幕のゲルニカ (新潮文庫)
原田 マハ
新潮社
2018-06-28


原田マハ(2016/2018)新潮文庫

ニューヨーク、国連本部。イラク攻撃を宣言する米国務長官の背後から、「ゲルニカ」のタペストリーが消えた。MoMAのキュレーター八神瑤子はピカソの名画を巡る陰謀に巻き込まれていく。故国スペイン内戦下に創造した衝撃作に、世紀の画家は何を託したか。ピカソの恋人であり写真家のドラ・マールが生きた過去と、瑤子が生きる現代との交錯の中で辿り着く一つの真実。怒濤のアートサスペンス!
(新潮文庫 内容紹介)

十数年前に仕事でスペインに行った際、マドリード・ソフィア王妃芸術センターに「ゲルニカ」を見に行きました。ピカソの複雑怪奇な画法そのものはなかなか理解するまでには及びませんでしたが、巨大なカンヴァスに描かれたあの名画が訴えるものは、ひしひしと伝わってくるような気がしました。絵画というものは、その技法や上手・下手よりも、その絵が発するそんなオーラで鑑賞するものなのかもしれない・・・。そんなことを思った記憶があります。

その「ゲルニカ」を、ニューヨーク近代美術館(Museum of Modern Art、MoMA)に借り受けて、ピカソがこの絵に託した反戦の精神をテーマに美術展を開催する―。そんなプロジェクトの遂行を巡り、MoMAのキュレーター・八神瑤子が巻き込まれる政治絡みの陰謀が、この小説の主題です。瑤子の夫・イーサンが、2001年9月11日の同時多発テロで犠牲になっていたことも、瑤子の決意を大きく後押しします。この小説の背景は、世界を相手にしたそんな壮大なものです。

瑤子が企画を進めたこの美術展は、おそらく架空のものです。しかし、「ゲルニカ」の所有や保管場所を巡っては、その政治色の強さから、実際に米国とスペインの間で何度も白熱した議論が繰り広げられたようです。この絵が完成してから2年後の1939年に米国に渡って以来、スペインに返還されたのは1981年。その際も、「ゲルニカ」の舞台になったスペイン・バスク地方のゲルニカ市を始め、スペイン国内でもその保管場所として名乗りを上げる都市の間で議論があったそうです。
(参考文献: Wikipedia 「ゲルニカ(絵画)

そんな、いわゆる問題作とも言える「ゲルニカ」を巡る過去の論争に、現代のテロとの攻防を重ねたサスペンス仕立ての小説です。現代に生きる瑤子の心のみならず、過去に生きたピカソとその周囲の人々の描写もリアルで、活き活きとした小説に仕上がっているように思います。しかし一方で、終わってみればストーリーは比較的単調で、僕には盛り上がりに欠けるような印象が残りました。そんなところを差し引いても、この『暗幕のゲルニカ』は、ピカソの名画の真髄にかなり突っ込んだ壮大な物語です。マハさん、さすがです。

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《大らかな国、スペイン。・・・》 

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5 8月

余計なこと、ささせていただけますか?/【番外】気になる日本語(16)

今年の冬、平昌オリンピックで銅メダルを獲得した女子カーリング。あのLS北見の快進撃は、カーリングという競技そのものの人気を大きく高めたようである。そしてご承知の通り、思いがけずカーリング人気を支えることになったのは、彼女たちが作戦会議で発する北海道ことば。例の「そだね〜」以外にも、「それでいけるっしょ」「いいんでないかい」など、確かに北海道では日常的に耳にする、独特の言い回しが話題になった。

そんな中で、ふと僕の耳に留まったことばがあった。それは「押ささる」。ストーンを当てる位置を相談している時、選手の誰かが言ったのだ。「こっちに押ささるよ〜」。

押ささる。引かさる。よく聞いていると、北海道の人は短い他動詞を受け身の形で用いる時、こうやって「〜さる」を使った言い方をすることがある。先日も社内の会議で、倉庫を管理している課長が言った。「今ここには部品が置かさってますので・・・」。

気になり始めると、至るところでこの「〜さる」が耳につくようになった。在庫が積まさります。蓋が開かさってます。お店で売らさってます。・・・おもしろいね。全部じゃないみたいだけど、ことばによって時々「れる」が「さる」になるんだね。

そうやって、北海道でこんな「〜さる」の使い方に馴染むうち、僕は最近、似たような言い回しが気になるようになった。読まさせていただきます。行かさせてもらいます。持たさせていただきます。・・・特に若い人が、こんな「さ」が一つ多いような言い方をするような気がするのだ。使われ方も違うから、おそらくこれは北海道の「押ささる」とは別ものである。

なんとなく意味合いはわかる。これらは多くの場合、「〜いただく」「〜もらう」というありがたさの表現を伴っているのだ。どうやら、そんなへりくだった気持ちを含めた言い方のようである。

たぶんこれ、例えば「説明する」のようなサ行変格活用の動詞の、「説明させていただきます」という使われ方との混同だよね(さすがにこれを「説明ささせていただきます」とまでは言わないだろう)。「読む」は五段活用で、正しい言い方は「読ませていただきます」。だからやっぱり、「読まさせて・・・」は「さ」が一つ余計なのだ。これがどうにも耳慣れない原因である。「読まする」というサ行変格活用動詞があれば別だけど、日本語にそんなことばはない。

でも、まあまあ。ことばって、歴史の中で少しずつ変化するもの。だから、そんな含みのある言い方が生まれてくるのも、必ずしも悪いことではないかも。考えてみれば、どうしても文法的な説明ができない「押ささる」の方が、ずっとヘンなことばだよね。方言だから、そんなのは大きなお世話だけどね。

さて、先日の海外出張の際、飛行機の中で音楽プログラムを聴いた。ゲストは薬師丸ひろ子、お相手は若い駆け出しの女優さん(名前は忘れた)。彼女は大女優たる薬師丸ひろ子を前に、かなり恐縮している様子である。「では最初の曲です、薬師丸さんのアルバムから『○○』を選ばさせていただきました」。

薬師丸ひろ子が即座に答えた。「ありがとうございます、この曲は先日のコンサートでも最初に歌わせていただきました」。

僕と同世代の薬師丸ひろ子も、やっぱり余計な「さ」には抵抗があるようだ。東京生まれらしい彼女は、おそらく「押ささる」にも抵抗がある。

【2018.8.5】

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22 7月

猫を拾いに/川上弘美3

 
文庫で10〜15ページほどの短篇小説21篇が収められた、川上さんの短篇集です。
現実的な小説あり、そして夢の中でのお話のような、難解で抽象的な非現実もあり。
夢でも現でも、心を覗いて見ているような川上ワールドです。う〜ん、不思議・・・。


taste:★★★☆☆

猫を拾いに (新潮文庫)
川上 弘美
新潮社
2018-05-27


川上弘美(2013/2018)新潮文庫

誕生日の夜、プレーリードッグや地球外生物が集い、老婦人は可愛い息子の将来を案じた日々を懐かしむ。年寄りだらけになった日本では誰もが贈りもののアイテムに心を悩ませ、愛を語る掌サイズのおじさんの頭上に蝉しぐれが降りそそぐ。不思議な人々と気になる恋。不機嫌上機嫌の風にあおられながら、それでも手に手をとって、つるつるごつごつ恋の悪路に素足でふみこむ女たちを慈しむ21篇。
(新潮文庫 内容紹介)

もともと、抽象的な心の世界を描くことが得意と思われる川上さん。どの作品にも多かれ少なかれ、そんな独特の川上ワールドが織り込まれています。それにしても、この短篇集。僕の感覚では、いったい川上さんはこれで何を言いたいのだろう・・・と考え込むような作品が並びます。思わず、「な、なんじゃこりゃ〜」とつぶやきたくなるような、非現実的で神話のようなお話も。若者の恋や、熟年女性の独白のような、現実的なお話が出てくるとほっとします。

新潮文庫の内容紹介も、このように詩的な文章になるのも頷けます。そして、文庫版の巻末に寄せられた壇蜜さんの解説も、彼女自身の独白的な要素を多く含みつつ、この短篇集の直接的な評価は、少し遠くから見守るような表現になっています。この短篇集は、読む人それぞれの感じ方、そして好き嫌いがあるでしょう。内容紹介の筆者も壇蜜さんも、そのあたりの「川上ワールド」の不思議さ加減をよく理解されているような気がします。

そんな不思議を静かに訥々と語る、いつもの川上さんでした。ちゃんと読むと意外にアタマを使いますので少し疲れますけど、僕はこの短篇集、多くの作品は嫌いではありませんでした。21篇もありますので、つまみ食いでもう一度読んでみたいと思わせる作品集です。僕が好きだったのは、最初に収められた『朝顔のピアス』。まさに熟年女性の独白のようなスタイルで、登場人物と共に考え込んでしまいそうな感覚でした。

表題作は『猫を拾いに』。この小説自体は、僕はなかなかすんなりと入っていけないような感覚です。思い出したのは大学生の頃、実際に猫を拾った時の顛末でした・・・。

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《猫を拾いに・・・》 

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かつては単身7年間
解消してから3年半で
再び転勤、また単身
柴犬むすめと暫しの別れ
これぞ日本のサラリーマン

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