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サラリーマンの読書エッセイ

本を読んでふと何かを思うとき、徒然なるままに書く簡単書評とショートエッセイです。

19 2月

砂漠の塩/松本清張4

実は僕は、松本清張の小説を読んだことがありませんでした。この本が初体験です。
古い小説で、ストーリーもシンプルながら、さすがにこれは読ませるものがあります。
それぞれのパートナーを裏切り、愛を貫く二人は、何を考えたのでしょうか・・・。


taste:★★★★☆

砂漠の塩 (新潮文庫)
松本 清張
新潮社
1982-09-28


松本清張(1967/2010)新潮文庫

夫を日本に残し参加したヨーロッパツアー。最初の目的地パリで一行と別れた野木泰子は、一人カイロへと向う。そこには、出張先の香港から会社に辞表を出した谷口真吉が、彼女を待っているはずだった。 ―妻を捨てた男と夫を裏切った女と、そして妻を求めてその跡を追う夫。不毛の愛を埋めるために砂漠の果てをめざす彼らに、贖罪はあるのだろうか。神なき荒野の神なき愛を描く長篇。
(新潮文庫 内容紹介)

いつだったか、僕が松本清張を読んだことがない、と言うと、女房が驚いていました。特に理由はありません。ただ、たまたま読んだことがなかっただけです。そして先日、女房が読んだものと思われるこの小説を書棚で見つけ、ようやく読んでみることにした次第です。これを読もうと思ったのもそんないきさつで、特に理由はありません。

いったいこの二人は何なんだ・・・というのが、素直な感想です。ありていに言えば、ただの不倫。しかし、この不倫は徹底した不倫で、二人で未知の場所へ行き、誰にも見つからないように暮らそう・・・ではなく、死のう、というものです。何も死ななくても、そこまでして一緒になりたいなら、ちゃんとした手段で堂々と結婚してしまえばいいのに、何てことを思ってしまいます。

残されたそれぞれのパートナーは、あまりに哀れです。泰子の夫・保雄は、純粋でいい人。泰子を愛してやまない善人です。泰子がそんな保雄に対する気持ちを表現した部分が、前半に出てきます。

人生を誤ったという自覚は、保雄と結婚してから重大になってきた。夫はいい人だった。このような善良な人も珍しかった。だが、泰子の全部を傾けることのできる人ではなかった。その諦めをつけるのに六年の歳月がかかった。その間に、真吉のことが度々胸をかすめた。
(中略)
泰子は、夫にはとうに反感も反撥も消えていた。善人に対してどう憎しみの向けようもなかった。諦めたのが泰子の敗北であった。

(新潮文庫版第52刷 p.51-53)

う〜ん、いい人、善良な人って、魅力がないことがあるんですね。結婚そのものが「諦め」になってしまうなんて、寂しい話だよなあ・・・、なんて、いろんなことを考えさせる小説でした。やや前時代的にブッ飛んだ設定ながらも、僕の松本清張初挑戦は、興味深くおもしろいものに終りました。よかったです。

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《私は脚立?・・・》 

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12 2月

蜜蜂と遠雷/恩田陸5

 
読んだ時はまだ候補作だったこの小説、第156回直木賞受賞が決まりました。
ピアノのコンテストを題材にした、『チョコレートコスモス』と少し似た構成です。
迫力ある、いい作品でした。僕の「恩田陸観」の中では大当たりです。


taste:★★★★★

蜜蜂と遠雷
恩田 陸
幻冬舎
2016-09-23


恩田陸(2016)幻冬舎

3年ごとに開催される芳ヶ江国際ピアノコンクール。「ここを制した者は世界最高峰のS国際ピアノコンクールで優勝する」ジンクスがあり近年、覇者である新たな才能の出現は音楽界の事件となっていた。養蜂家の父とともに各地を転々とし自宅にピアノを持たない少年・風間塵16歳。かつて天才少女として国内外のジュニアコンクールを制覇しCDデビューもしながら13歳のときの母の突然の死去以来、長らくピアノが弾けなかった栄伝亜夜20歳。音大出身だが今は楽器店勤務のサラリーマンでコンクール年齢制限ギリギリの高島明石28歳。完璧な演奏技術と音楽性で優勝候補と目される名門ジュリアード音楽院のマサル・C・レヴィ・アナトール19歳。彼ら以外にも数多の天才たちが繰り広げる競争という名の自らとの闘い。第1次から3次予選そして本選を勝ち抜き優勝するのは誰なのか?
(幻冬舎単行本の帯より)

僕はこのところ、恩田陸の作品を読むたびに「?」に突き当たってました。不可解な構成や意味不明の出来事、役割不明の登場人物・・・。「結局、あれは何だったの?」の連続なんです。4年前に読んだ『夢違』もそんな要素を含む、ちょっと「?」の作品でした。それでも僕は、そんな恩田ワールドから逃げられずにいるような気がします。

そんな意味で、今回この『蜜蜂・・・』にもドキドキ感があったんです。またわけのわからないお話だったらどうしよう・・・。それでも、これは直木賞の候補作品。とんでもなくブッ飛んだものではないでしょう。そんな期待と不安を胸に、単行本を読んでみることを決意しました。

これは当たりでした。恩田さんの『チョコレートコスモス』を読んだのが5年前。あの作品のあとがきに、続編を執筆中、という意味のことが書いてあったような記憶があります。この作品は、まさにその続編にあたるものなのかもしれません。構成は似ています。『チョコレート・・・』は演劇が題材。『蜜蜂・・・』の題材はピアノです。

神がかりとも言えるほどに聴衆の心を打つ演奏を、そしてそれを可能にするピアニストの心の奥深くを、見事な描写で描き切っていると思いました。不可解な天才の風間塵、そしてプロ経験のある栄伝亜夜など、主役級のピアニストたちもさることながら、かつての夢を諦めきれずにコンテストに挑戦したサラリーマン、即ちこの世界では素人とも言える高島明石の脇役的な存在が、この小説の言わんとするところを際立たせています。

帯にちらりと書かれているように、「著者渾身、文句なしの最高傑作!」と、堂々と言える作品です。あ、これは・・・と思っていたら、やはり第156回内木賞の受賞が決まりました。恩田さん、おめでとうございます。僕、これからもこんな作品に期待したいです。

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《『タンホイザー』を求めて・・・》 

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29 1月

泣き童子 三島屋変調百物語参之続/宮部みゆき4

やや超常的なお話とはいえ、宮部さんの作品では比較的好きなシリーズです。
ホラーの要素を含みながらも、人間の心に根ざした奥の深さが光ります。
この作品が第三弾。徐々にそんな深みが増してきて、はい、今回も満足でした。


taste:★★★★☆

泣き童子 三島屋変調百物語参之続 (角川文庫)
宮部 みゆき
KADOKAWA/角川書店
2016-06-18


宮部みゆき(2013/2016)角川文庫

三島屋伊兵衛の姪・おちか一人が聞いては聞き捨てる百物語が始まって一年。幼なじみとの祝言をひかえた娘や田舎から江戸へ来た武士など様々な客から不思議な話を聞く中で、おちかの心の傷も癒えつつあった。ある日、三島屋を骸骨のように痩せた男が訪れ「話が終わったら人を呼んでほしい」と願う。男が語り始めたのは、ある人物の前でだけ泣きやまぬ童子の話。童子に隠された恐ろしき秘密とは― 三島屋シリーズ第三弾!
(角川文庫 内容紹介)

内容紹介にもある表題作『泣き童子』が、今回の連作の中で最も光った作品だと思いました。しゃべらない赤子とか、笑わない娘などの話は、過去にいろんなお話に登場しているアイテムです。実際、人によりそんなことはどこにでもあるでしょう。それが、昔の時代には何か恐ろしさを感じさせ、超常的な話として語り継がれたこともあったのかもしれません。

悪事を働く人は、それなりの悪い「気」を持つものでしょう。赤ちゃんがそれを敏感に感じ取り、泣くことがあっても不思議ではありませんし、生まれて間もない、純粋な赤ちゃんには、大人にはないそんな感性が具わっているのかもしれません。物語として「童子に隠された恐ろしき秘密」は別にせよ、冷静に捉えれば、この『泣き童子』もそのように理解することもできます。

とんでもなく非現実的なお話も含まれます(第五話『まぐる笛』はそんな類でした)。それでも、宮部さんの三島屋シリーズは単なるホラーではなく、人の心を主題にした奥の深さがあります。そんな魅力がだんだん深まっているような気がして、僕は最近、このシリーズのファンです。それでも、単行本で買うにはちょっと腰が引けるかな・・・。

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《笑う犬・・・》 

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15 1月

仇敵/池井戸潤4

池井戸さんの、少し古い作品です。今ほど著名ではなかった頃かもしれません。
だからでしょうか、企業の不正や力関係が題材の比較的シンプルな構成です。
過去には、企業内にはこんな歪みが埋もれていたのかもしれませんねえ・・・。


taste:★★★★☆

仇敵 (講談社文庫)
池井戸 潤
講談社
2006-01-15


池井戸潤(2003/2006)講談社文庫

エリートバンカーの恋窪商太郎は、いわれなき罪を着せられ東都首都銀行を辞職、地方銀行の庶務行員となって静かな日々を過ごしていた― 元同僚・桜井からの電話に出るまでは。その翌日知らされた、桜井の死。一体何をつかんだのか。忘れたはずの過去が蘇り、恋窪はやり遂げられなかったあの男への復讐を誓う。
(講談社文庫 内容紹介)

社内のトップ層の不正をつかんでしまった者が、上層部の陰謀で消される―。サスペンス小説やドラマでよくある設定です。銀行を舞台にしたこの小説も、まさにそんな「よくある設定」で、複雑怪奇に入り組んでいたり、手の込んだ裏があったりするような、驚くようなストーリー展開ではありません。しかしそれだけに、憎むべき相手を素直に憎み、正義を行う主人公を素直に応援できる、純粋に楽しめる作品でした。

命を狙われるというのは小説の中でのお話とはいえ、日本の産業界や経済界にも、かつて大企業には、こんな類の不正めいた行為や、個人を取り巻く力関係があったのかもしれません。今の日本は、企業は社会的責任として、コンプライアンスを重要視する経営が当然の世の中になっています。それでもまだ、時々ポロポロと明るみに出てくる粉飾や改ざん、あるいは社員の執務環境などの問題は、そんな風潮から盲点のように取り残された、一部の「刃こぼれ」のようなものでしょうか・・・。

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《時代は変わった・・・》 

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かつては単身7年間
解消してから3年半で
再び転勤、また単身
柴犬むすめと暫しの別れ
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