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サラリーマンの読書エッセイ

本を読んでふと何かを思うとき、徒然なるままに書く簡単書評とショートエッセイです。

2019年11月

24 11月

夜行/森見登美彦3

 
久々の森見登美彦は、ますます想像力豊かで可視的。鮮烈なイメージでした。
それだけに、コミックとしても刊行されている小説であることにも頷けます。
この種の奇譚、もしくはファンタジーは頭が混乱して、僕はちょっと苦手かな・・・。


taste:★★★☆☆

夜行 (小学館文庫)
森見 登美彦
小学館
2019-10-04


森見登美彦(2016/2019)小学館文庫

十年前、同じ英会話スクールに通う僕たち六人の仲間は、連れだって鞍馬の火祭を見物に出かけ、その夜、長谷川さんは姿を消した。十年ぶりに火祭に出かけることになったのは、誰ひとり彼女を忘れられなかったからだ。夜は、雨とともに更けてゆき、それぞれが旅先で出会った不思議な出来事を語り始める。尾道、奥飛驒、津軽、天竜峡。全員が道中で岸田道夫という銅版画作家が描いた「夜行」という連作絵画を目にしていた。その絵は、永遠に続く夜を思わせた―。果たして、長谷川さんに再会できるだろうか。怪談✕青春✕ファンタジー、かつてない物語。
(小学館文庫 内容紹介)

僕が最初に森見登美彦に出会ったのは十数年前、『太陽の塔』という作品でした。続けて読んだのは、『夜は短し歩けよ乙女』、そして『【新釈】走れメロス 他四編』など。文章の巧みなリズムとコメディータッチがうまくマッチして、文学としての評価はどうあれ、僕はこの作家は新しい境地を開く人だな、と思いました。声を上げて笑いたくなるような作品もありました。僕は個人的に、そんな文章が好きなんです。

書店で平積みになっていたこの『夜行』を手にして、およそ10年ぶりに森見登美彦の作品を読みました。森見さんの想像力は、ますます豊かになったような気がしました。この作品に「笑い」はありません(それは内容紹介からも推測できました)。怪談、奇譚。ファンタジー。で、いったい何が起きていたの? なぜこんなことになるの? ・・・そんな疑問に答を求めるのは、この種の作品に対してはタブーでしょう。それは読者の想像にお任せ、といったところでしょうか。作者と読者の想像力が競い合うような、そんなところにこの種のファンタジー小説の楽しみがあるのかもしれません。

僕が得意な、あるいは好きなジャンルの小説ではありませんでした。でも僕は、自分なりの解釈で小説を読む、という楽しみ方を、この小説に教わったような気がします。ただただ作者の意味不明の想像だけでなく、なるほど、人間の心の奥底にはこんな複雑さが潜んでいるのかもね、なんていう、妙な納得感もあるような気がしました。確かにこの作品、コミックで直接視覚に訴えるならば、そんな納得感がもっとリアルに浮かび上がるかもしれません。

物語は「鞍馬の火祭」をきっかけにして始まります。Wikipedia:「鞍馬の火祭」によれば、平安時代、鞍馬の住民にが始めたことに起源を持つ歴史あるお祭りで、「京都三大奇祭」の一つとされているとのこと。神々しい、重みのあるお祭りなのでしょう。見てみたいような気がしますけど、「鞍馬集落が狭隘なため、収容できる人数は物理的に限られている。また、集落内は立ち止まって見学することが難しい場所もあり、特に鞍馬寺山門前は見学者が立ち止まることを禁止されるため、神輿が下るシーンなどをよく見える場所で見学することは難しい」のだそうです。

最近、似たような話を聞いたことを思い出しました。秋田竿燈まつり。これも一種の「火祭」かな。広くない場所に、あの竿燈がひしめき合うように林立するそうです。見物客は130万人を超える規模で、これもよく見える場所であの竿燈の美技を見学することは難しいとのこと。見てみたいな・・・。

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17 11月

フーテンのマハ/原田マハ4

 
旅が大好きなマハさんが、小説のネタ探しや取材の旅を綴った痛快エッセイです。
芸術小説もさることながら、僕はマハさんのこんな機知に富んだ文章が好きです。
マハさん、この種の笑える小説をもっと書いてくれないかな・・・。


taste:★★★★☆

フーテンのマハ (集英社文庫)
原田 マハ
集英社
2018-05-18


原田マハ(2018)集英社文庫

とにかく旅が好き! 食、陶器、絵画、鉄道など目的はさまざま。敬愛する寅さんにちなんで ”フーテン” を自認し、日本のみならず世界中を飛び回る。気心の知れた友・御八屋千鈴氏や編集担当者を相棒に、ネタを探して西へ東へ。『旅屋おかえり』や『シヴェルニーの食卓』が生まれた秘密は旅にあった! 笑いあり、感動ありの取材旅行エッセイ。さあ、マハさんと一緒に旅に出かけよう。
(集英社文庫 内容紹介)

笑いあり、感動あり。実は僕が好きなのは、『旅屋おかえり』や『本日は、お日柄もよく』で触れたような、原田マハさんの手によるコメディータッチの文章です。無論、先日読んだ『リーチ先生』のような、純粋な芸術やそれに携わる人を描いた「芸術小説」も、マハさんのキャリアや知見を生かしたすばらしい作品です。それでも僕はマハさんに、「感動」と共に「笑い」も期待しています。マハさんにはそんなセンスが備わっていると思いますし、それは若い頃に読んだマハさんのお兄さん、原田宗典さんの作品からも感じ取ったところです。

「旅」をテーマにしたこのエッセイで、久しぶりに「コメディアン・マハ」に出会いました。この作風は、エッセイならではですね。芸術小説にはなかなか織り込むことはできないでしょう。いつもどこかへ旅に出かけている ”フーテン” のマハさん。旅仲間の親友、「御八屋千鈴」(おはちや・ちりん、「旅人ネーム」だそうです)も脇役を絶妙に演じていて、はい、痛快な旅エッセイでした。

フーテン・・・。僕も旅は好きです。年に数回は「旅」と言えるお出かけをします。でもそれ以前に、僕は生活自体が「フーテン」ではないかと思えることがあるんです・・・。

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4 11月

リーチ先生/原田マハ5

 
英国人の陶芸家、バーナード・リーチの足跡をたどった、マハさんの「芸術小説」です。
助手として長く生活を共にした、沖亀之介の目を通じてリーチ先生を描きます。
芸術はマハさんの得意分野ながら、この作品は少し趣が異なるようで新鮮でした。


taste:★★★★★

リーチ先生 (集英社文庫)
原田 マハ
集英社
2019-06-21


原田マハ(2016/2019)集英社文庫

1854年、大分の小鹿田を訪れたイギリス人陶芸家バーナード・リーチと出会った高市は、亡父・亀之介がかつて彼に師事していたと知る。――時は遡り1909年、芸術に憧れる亀之介は、日本の美を学ぼうと来日した青年リーチの助手になる。柳宗悦、濱田庄司ら若き芸術家と厚い友情を交わし、才能を開花させるリーチ。東洋と西洋の架け橋となったその生涯を、陶工父子の視点から描く感動のアート小説。
(集英社文庫 内容紹介)

リーチ先生は陶芸家です。ラグビーの選手ではありません。(失礼。)

この小説の主人公は、イギリス人陶芸家のバーナード・リーチさんです。僕はこの人を知りませんでした。少し調べてみると、この小説で描かれている彼の足跡は、日本でもイギリスでも中国でも、史実に基づいているようです。一方、彼と共に過ごし、この小説でその目を通してリーチ先生を語る、沖亀之介という日本人の陶芸家が実在の人物かどうか、調べてみてもわかりませんでした。察するに、マハさんが設定した架空の人物ではないでしょうか。

この亀之介さんの目を通じて描かれるリーチ先生の生涯が実に生々しく、またわかりやすいものでした。そんな組み立てが、この物語を単にバーナード・リーチの「伝記」ではなく、小説として読み応えのあるものにしているように思います。リーチ先生に出会い、リーチ先生とその芸術にあこがれ、生活を共にすることで自らも成長していく亀之介。彼もまた、この小説の主人公の一人と言えるかもしれません。

創作に身も心も投じ、新しいものを作り上げていく芸術家の心が、存分に描かれていました。文庫で600ページ近くもあるこの小説を、僕はほぼ2日で読み終えました。アートの世界には疎い僕が、それほどにのめり込める小説でした。そして、作る人の心が込められたアートの真髄が、少しだけわかったような気がします。はい、すばらしい小説でした。マハさん、さすがです。

たまたま、この本を読んだのと同じ頃、僕は芸術に生涯を捧げた二人の女性に会う機会に恵まれました。そんな芸術家の心に実際に触れた時、この小説から感じ取ったことがレビューされるようでした。

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the salaryman

 
かつては単身7年間
解消してから3年半で
再び転勤、また単身
柴犬むすめと暫しの別れ
これぞ日本のサラリーマン

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