桜島・日の果て・幻化 (講談社文芸文庫)

↑これは講談社文芸文庫版。
↓僕が読んだのは新潮文庫です。
桜島,日の果て 改版 (新潮文庫 う 3-1)

梅崎春生(1951)新潮文庫


終戦に絡んでの復刊を何気なく手にして読んでみました。
単に事実を伝えるだけでなく、あの戦争に命を曝した人たちの立場や気持ちが、実にリアルに読み取れます。
僕らはこんな日本人の歴史を風化させてはならない・・・。
そんな優等生みたいなことを素直に思いました。傑作です。

taste:★★★★★


戦争末期、米軍上陸に備える桜島に赴任した一人の暗号兵の、死の覚悟と生への執着の相克、その目に映る部隊の断末魔の様相を記録風に描いた「桜島」。
死の影に脅かされる軍隊生活の日常を綴った「日の果て」「崖」。・・・
(新潮文庫 内容紹介より)

「桜島」は、暗号兵を務めた著者自身の経験に基づく作品です。
戦争の、そして日本の軍隊の理不尽さが、余すところなく表現されているように思います。

僕が心を打たれたのは、ツクツクホウシ(蝉です)にまつわるエピソードが語られる場面。
あれが鳴き出す頃になると必ず不幸なことが起きる、と語る見張兵。
その年、ツクツクホウシが鳴き出す頃には敗戦を迎えます。

あの蝉、確かに哀しい気分にしてくれますよね。
今、まさにツクツクホウシが秋を告げる季節。
あの悠長でちょっとマヌケな「オ〜シン、ツクツク・・・」に、
僕もこの小説に漂う悲しみを十分に感じました。


《ああ、哀愁のツクツクホウシ・・・》 
まだ暑い日が続くとはいえ、もう9月も中旬。陽射しはかなり和らいだ。ミンミンゼミの声はさすがに聞かれなくなり、このところはもっぱらツクツクホウシである。毎年、あの「オ〜シン、ツクツク・・・」というちょっとマヌケな声を聞くたび、ああ、もう夏も終わりだねえ・・・と少し物悲しい気分になるのは、おそらく僕だけではないと思う。

小学生の頃からそうだった。九州育ちの僕には、あの「ワシワシワシ・・・」(一説には「アツアツアツ!」とわめいているとも言われる)というクマゼミが元気な夏の象徴だった。しかし、8月も10日を過ぎる頃になると、それに混じって「オ〜シン・・・」を耳にするようになる。すると、ああ、もう夏休みも後半か・・・という、とっても哀しく、かつ焦りにも似た気持ちを抱いたものである。

つくつく法師はいやな蝉ですね、今年もどのような瞬間にあの虫が鳴き出すのかと思うといやな予感がしますよ・・・という桜島の見張兵のことばに、十分な伏線を感じた。そうなんだよ、今年は敗戦の頃に鳴き出すんだよ。・・・その見張兵は、終戦の前日に機銃掃射に倒れた。亡骸のそばの木で、ツクツクホウシが鳴いていた。

昭和20年の8月15日、敗戦を迎えた日本では、多くの土地でツクツクホウシの声が聞かれたことだろう。その後しばらくは、深い悲しみや憤りの日々を過ごさざるを得なかった日本。あの悠長な声は、そんな列島が秋を迎えるまで、何事もなかったかのように響き続けたに違いない。そしてそれは多くの日本人にとって、悲しみの象徴ともなり得たのではないかと思うのである。

今年は平成20年。

【2008.9.14】