単行本刊行の頃から気になっていた小説です。文庫を見つけて飛びつきました。
角田さんがよく描く、やや悲しい過去を背負ったちょっと複雑な家族の物語です。
それでも、平凡な家族にこだわる主人公・左織。その思いも理解できますが・・・。


taste:★★★★☆



角田光代(2014/2017)新潮文庫

朝鮮特需に国内が沸く日々、坂井左織は矢島風美子に出会った。陰湿ないじめに苦しむ自分を、疎開先で守ってくれたと話す彼女を、しかし左織はまるで思い出せない。その後、左織は大学教授の春日温彦に嫁ぐが、あとを追うように、風美子は温彦の弟潤司と結婚し、人気料理研究家として、一躍高度成長期の寵児となっていく・・・。平凡を望んだある主婦の半生に、壮大な戦後日本を映す感動の長編。
(新潮文庫 内容紹介)

平凡を望む主婦・左織と、大学教授の夫・温彦。定職を持たない温彦の弟・潤司に嫁いだ幼友達・風美子は、時代を切り拓くエネルギーを持った、社交的で奔放な美女。左織と温彦の長女・百々子は、考えの古い左織に反抗して母親よりも叔母・風美子を慕い、家を飛び出してアメリカへ渡る。そして外国人の若者と、籍を入れない事実婚の生活へ。素直でノーマルな子供だった長男・柊平は、学生生活を送るうちに男色に走る・・・。決して「崩壊」ではないとはいえ、人によってはかなり問題含みと捉えられる、そんな家族の姿を描いた小説です。

物語は、左織の心情を中心にして進みます。風美子と出会ったおかげで自分の人生はかき乱された・・・。そんな思いを、どこか心の中で持ち続ける左織は、昔ながらの静かな日本人の家族生活を求める、極めて保守的な女性。義姉妹となった風美子とは、真逆の性格です。大学教授と結婚し、平凡を目指す左織の生活に「侵入」してきたような風美子に対する思いも、十分に理解できます。

巻末に解説を寄せた文筆家・千野帽子氏は、そんな左織をかなり批判的な目で見ています。既成の価値観を盲目的に信じ、それを家族にも押し付けて、うまくいかなければ人のせいにする。確かに左織の考えや行動は、一言でいえばその通りです。しかしそこにも、人の考えには個性があり、それぞれの価値観があります。何が正しく何が間違っているのか。そんな普遍的な解はないでしょう。それぞれの「個」を認める風潮を徐々に浸透させてきた歴史こそが、現代の日本を形作るための土台となっているのかもしれません。

そんな切り口から家族のすれ違いを描いた、実に奥の深い小説でした。ラストでは、温彦の死後、左織が自分の考えを曲げずにシニア向けマンションで一人暮らしを始めます。そこでようやく、明確な自己主張を家族に認めさせた左織。やや明るさを取り戻した終わり方に、ほっとしたような気がします。

僕自身の家族を改めて眺めてみると、わが家はどちらかと言えば、平凡で保守的な方に分類されると思います。一方で、僕の娘が、これほど父親とは違った種類の男性と結婚するとは思ってもいませんでした。しかし、それはそれで彼女の人生。僕も女房も、始めから認めています。

そしてまた、犬たちも僕らの家族の一員です。年明け早々、最長老の犬が15歳で天国へ召されました。思い返してみると、それは悲しみの中にも家族の因果や喜びを感じさせる、そんなストーリーを紡ぐに十分なできごとでした。う〜ん・・・考えすぎかな。

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《天国の二人へ・・・》 
わが家の柴犬むすめ、なつこがとうとう死んだ。今夜あたりがもう限界でしょう、と獣医師が言ったのは、ちょうど1年前。そこからなつこは、奇蹟的に立ち直った。そして1年間がんばってくれた後の、15歳と5カ月の安らかな往生だった。人間で言うなら80代半ば。十分に長生きしてくれた。

しかも、何の因果か、そうやってなつこが息を引き取ったのは、朝方に僕の母親が逝った日と同じ日の夜だったのだ。母親のそばにいた姉が言うには、朝食の時間に起こしてもまだ寝たがるから寝かせておいた、二度目に起こした時には息をしていなかった、とのことである。91歳と11カ月の高齢だから、残念だけどもうしかたがない。せめて、これと言った病気を患ったわけでもなく、眠ったままでスッと逝けてよかったね。

父親が他界してからちょうど20年。とうとう両親共にいなくなり、今、僕の胸にはこみ上げるものがたくさんある。でもね、実は今日、なつこも死んだんだよ。思えば、生まれた直後から生涯を終えるまで、ずっと一緒だった犬は、僕の人生でなつこが初めて。所詮は犬とはいえ、母さん、あなたは僕のこちらの寂しさも、理解してくれるよね。

そんな二つの訃報(一つは犬だけど)を聞いた僕は、仕事を一部キャンセルして、翌朝出張先の札幌から母親の待つ福岡へ直行。一方、女房は、その日の深夜に駆けつけた娘と共に、翌朝なつこを荼毘に付してから福岡へ飛んだ。そうやって僕ら家族三人は、母親の通夜に間に合ったのである。

「じゃあ、あたしももうさよならするね。今夜にするから心配しないで。おばあちゃんのお通夜にみんなで行ってあげてよね・・・。」なつこの旅立ちは、そんなタイミングだった。まるで、その日の夜を選んだかのように。

ありがとう、なつこ。キミは最後まで、家族思いの犬だったね。いや、キミはこの15年間、家族そのものだったよね。僕らはずっと、そんなキミのことを忘れない。

さて、あれからもう10日たった。実は僕らはもう、なつこの後継者を探すことを考えている。昨夏から家族に加わった、茶柴のつぶこがいるとはいえ、二匹の犬と暮らすことに慣れた女房殿は、僕の予測通り、仔犬をもう一匹欲しがっているのだ。しかも条件がうるさい。なつこと同じ黒柴。性別は雌。しかしなつこにあまり似てないこと・・・。

いいよね、なつこ。許してくれるよね。そして母さん、僕がこんな家族を持ったこと、喜んでくれるよね。

合掌×2

【2018.1.27】