東京都福生市にあるカフェバーさんペンの輪にまつわる話「さんペンの輪物語」と シナリオ「男はつらいよ」番外編『少年・寅次郎ものがたり』 さんペンの輪マスターshinが綴ります

61 帝釈天・参道

  人混みの中を必死にかき分けながら突っ走る寅。

  その後を追う吉太郎。

 

62 とらや・店内

  駆け込んでくる寅と吉太郎。

寅 「(奥へ)どうした、お母ちゃん!!」

 

63 同、座敷

  お茶の間から座敷へつづくふすまが開かれている。

  座敷中央に布団が敷かれ、節子が横たわっている。

  枕元で、医者が節子の手をとり、脈を診ている。

  その横に看護婦。

  反対側に平造とさくらが座り、心配そうに節子の顔をのぞいている。

  節子は目を閉じたまま。その顔からはすでに血の気がなくなっている。

  寅、節子のそばに近寄り、

寅 「どうしたの、ええっ、どうしたの、これ?」

さくら「急にね、台所で倒れちゃって・・・」

寅 「それは吉ちゃんから聞いた。なにかにつまづいたのか?」

吉太郎「違うんだよ、寅ちゃん。母さん、前から心臓が弱かったんだよ」

寅 「心臓?・・・心臓だって!(医者に)ウソだろ、ウソだろ、先生!」

  医者、答えず、難しい顔をして、節子の手を握りつづけている。

  寅、平造になにかを言おうとする。

  しかし、平造の顔はすでに悄然として、虚ろな目を天井に向けている。

  寅、ようやく事態の容易でないことを覚る。

  寅、突然、涙声になり、布団の上から節子の身体を激しく揺さぶる。

寅 「死んじゃうのか、死んじゃうのか、お母ちゃん!!」

  吉太郎、慌てて抱きとめる。

寅 「お母ちゃん、お母ちゃん!!(必死に呼びかける)」

  と、そのとき・・・。

  節子の口元がかすかに動く。

  一同、ハッとしてその顔をのぞきこむ。

  また、口元が動く。

  寅、吉太郎を振りほどき、

寅 「なんだ、お母ちゃん!」

  と、節子にしがみつく。

  節子の唇が弱々しく動き、とぎれとぎれにコトバが漏れてくる。

節子「・・・寅ちゃん・・・お祭りどうだった・・・楽し・・・かった・・・」

寅 「楽しかったよ。楽しかったから、お母ちゃん、もうしゃべんなよ。疲れるじゃねえか」

節子「寅・・・ちゃん、私・・・いいお母さんだった・・・かしら?・・・」

寅 「!!・・・お母ちゃん・・・、当たり前じゃねえか、なに馬鹿なことを・・・(言葉にならない)」

節子「・・・・・・」

寅 「お母ちゃん!」

さくら「お母ちゃん!」

吉太郎「母さん!」

平造「!!」

  節子の唇はもう動かない。しかしその表情は美しい。静かな微小さえ浮かべた、安らかな顔である。

  医者、時計に目をやり、臨終を告げる。

  ワッと泣き伏す寅とさくら。

  〈信じられない!〉といった顔の吉太郎。

  茫然自失の平造。

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