東京都福生市にあるカフェバーさんペンの輪にまつわる話「さんペンの輪物語」と シナリオ「男はつらいよ」番外編『少年・寅次郎ものがたり』 さんペンの輪マスターshinが綴ります

104 同・2階の部屋

  寅、慌ただしく来ると、押し入れを開け、バッグを取り出し、衣類などを手当たり次第に詰め込み始める。

  吉太郎とさくら、来る。

さくら「(涙をため)また行っちゃうの、お兄ちゃん・・・」

  吉太郎、寅の手を押さえて、

吉太郎「寅ちゃん、父さんに腹たったからって、すぐに家出じゃ、いつもの繰り返しじゃないか。もう、やめようよ」

寅 「・・・吉ちゃん、手ぇ離してくれ」

  その静かな物言いに、思わず手を離す吉太郎。

寅 「おれ、お母ちゃんと一緒だったら、とらやでダンゴ屋やろうと思ってたけど、お母ちゃん死んじゃったら、なにしていいいかわかんなくなっちゃった」

吉太郎「・・・(寅を見つめて)」

寅 「お母ちゃんは自分の好きなように生きろって言ってくれた・・・。おれ、頭わりぃからうまく言えないんだけど、この家出たほうが、なんだか自分にとっていいような気がするんだ」

吉太郎「いつもの家出じゃない、と言うの?」

  寅、こっくり頷き、またバッグに荷物を詰め込み始める。

  ジッと考え込む吉太郎。

さくら「(ハラハラと)吉兄ちゃん、止めないの!止めなくていいの!」

  寅、バッグを持って立ち上がる。

寅 「さくら、吉兄ちゃんと仲良くな。吉ちゃん、後は頼むぜ。じゃあ、あばよ」

  寅、階段を降りて行く。

さくら「待って、お兄ちゃん!」

  さくら、追いかける。

  吉太郎、見送り、

吉太郎「・・・(呟く)さくら、追ってもムダだよ・・・」

 

105 同・店内

  寅、階段を降り、土間にしゃがみ、無言のまま靴を履く。

  竜造、つね、蒼くなって土間に駆け下りてくる。

竜造「おい寅、どこへ行くんだ。兄貴もな、酒の勢いでついあんなこと言っちまったんだ。気にするこたあねえ。な、ちょっと落ち着け」

つね「そうよ、ね、寅ちゃん。みんなでご飯食べましょ。今夜は寅ちゃんの大好きなイモの煮っころがしだよ」

梅太郎「そうだよ、寅さん。またこの前の晩のように、みんなで賑やかにやろうよ、パーッとさ!」

  梅太郎も声をかける。

  しかし・・・。

  寅、バッグを持ってスッと立ち上がり、

寅 「おいちゃん、おばちゃん、世話になった。後のこと、よろしく頼むよ。じゃ、達者で・・・」

  そう言って、スタスタと店を出て行こうとする。

  そのとき、ガックリと肩を落として茶の間に座り込んでいた平造が、一同に背を向けたまま弱々しく口を開く。

平造「おい寅・・・、お前のほんとうのおふくろがな、いま柴又に帰ってきてるんだ。お前に会いたいと言ってる・・・。どうだ、会ってやるか」

  寅、ピクリと肩を震わし、感情を抑えて答える。

寅 「おれの・・・、おれのお母ちゃんは・・・、夏祭りの晩に死んだんだよ。もう、この世にはいないんだよ」

  最後はハッキリと言い、飛び出すようにしてとらやを出ていく。

さくら「待って、お兄ちゃん、行かないで!」

  さくら、後を追いかける。

竜造「おい、寅!」

つね「寅ちゃん!」

梅太郎「寅さん!」

竜造、つね、梅太郎も後を追って外に飛び出す。

吉太郎が2階から降りてくる。

平造と目が合う。

  平造、問いたげな目をする。

吉太郎「・・・寅ちゃんはぼくより先におとなになった・・・」

平造「・・・もう戻ってこんか・・・」

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