2006年02月

2006年02月27日

無知るし良品

bab7aabd.jpg 昨日は仕事帰りに、思いつきで映画を見に行ってきた。イギリス80年代の音楽シーンで活躍したグループ、カルチャークラブのボーカル、ボーイ・ジョージの半生を描くミュージカル『TABOO』のライブ映像だ。その映画が見たかったと言うよりは、“サブカルチャー”“驚くべき性癖”“奇抜なファッション”などの言葉につられ、ふらふらと足を運んだと言っていい。私は80年代イギリスのポップシーンや、当時のニューロマンティックムーブメントもほとんど知らぬまま、このミュージカル映像を見た。
 1980年代ロンドン。伝説のクラブ「MUDD CLUB」に集うゲイやアーティストの卵。その中にニューロマンティックのムーブメントに乗って、カルチャークラブでヒット曲を飛ばすボーイ・ジョージもいたが、彼はゲイに対する偏見や過剰な報道に苦しみ、ドラッグに溺れていく。HIV感染により33歳でこの世を去った、伝説のパフォーマンスアーティスト、リー・バウリーの生き様も盛り込みながら、華やかなクラブシーンやショービジネス界を描いたミュージカル。
 観客を絡ませながらのジョークも逸品(オカマネタが多い)。バンドの生演奏をバックに歌う出演者の歌声にも引き込まれ続けた。最後はミュージカルらしく大団円で、大量のオカマさん達がステージ上にワイワイクネクネ踊り出てきて、「♪カマカマカマカマ〜♪」と大合唱。“カーマは気まぐれ”という、当時日本人には二重の意味で大ウケだったはずの、カルチャークラブのヒット曲で締めた。終始楽しめたし、期待していなかった割には掘り出し物だと思えた。オカマだけに。(すみません、この手のネタ満載だったから、つい‥)
 ただ、予備知識がないもんだから、ボーイ・ジョージ役のユアン・モートンを
「ああ、ボーイ・ジョージ綺麗だなあ」
と、うっかり本人と思い込む始末。そして、
「うわあ、リー・バウリー役のおっちゃん、濃いいなあ!」
と若干引き気味で見ていたおっさんが、実は今やすっかり変わり果てたボーイ・ジョージその人であった。まあこういった勘違いは仕方がないか。
 そういえば前に同じくニューロマンティック系バンド、デュラン・デュランのコンサートのタダ券を頂いて、まったく何もわからず見に行った時も。私はボーカルのサイモン・ル・ボンに向かって思いっきり
「デュラぁーンっ!!」と叫んでいたような気がする。デュラン・デュランはバンド名なのに。そしてなぜ必死で叫ぶのか、ファンでもないのに。
 予備知識無しに鑑賞したものが思いがけず良かった時は、何だか倍に得をした気分になる。映画に限らず、初めての場所に行く時や人に会う時などに、事前に情報をいっぱい詰め込んで想像して期待して、それが打ち砕かれる時がある。何も知らなくてもいい。その方が、素直にスッと自分の中に入ってくる時もあるのだ。時々はこういった無知るし良品に出会いに、ふらふらと映画館へ抜き打ち鑑賞しに行こうと思う。


sanaedon at 14:43|PermalinkComments(19)TrackBack(0)

2006年02月16日

いつお帰りですか

eeb6e9ba.jpg サックスが入院した。オーバーホールといって、2週間ほどかけて楽器全体の修理・調整・部品も交換してもらう。実に7年振りだ。歯医者と同じで、歯痛に耐え切れなくなってから駆け込む。周りのサックス吹きはスペア楽器を含め最低2本は持っているが、私の手にはいつだって1本しか無い。この子が入院すると、「サックスを持っていないサックス吹き」になってしまう。仕方がないので、今日もベースを踊りながら弾いてごまかしている。
 まず無い話だが、もしジャズ系音楽仲間からこのタイミングで電話がかかってきて、
「さなえどん、今週の土曜日、ジャムセッションしない?」
とお誘いを受けたならば、ボソッと
「楽器が無いので、手ぶらの私でよければ」
と答えるしかない。そして、困惑気味の友人に『無理に来なくていいよ』と言われながらもそのジャムセッションへフラフラと赴き、知らないサックス吹きの人に
「すみません、そのサックスちょっと貸してもらえませんかあ?」
と無表情で話しかけて気持ち悪がられるのだ(口をつけて息を入れ、唾なども入る楽器なので貸し借りをすることはまず無い)。
 普段からマメに触っているわけでも無いのに、家に楽器がないと落ち着かないとは想定外だ。
そういえば先週、釣りイベントの手伝いで、六本木へ行ってきた。駅の一番出口を出ると、いきなり六本木ヒルズの地下へ出てしまった。初めてのヒルズ。無性に血が騒ぎ、「ホリえもんっ、ホリえもんっ」と意味もなく口走る。スターバックスを発見してコーヒーを買う。ここは一つソファ席に腰を落ち着けて、『昼休憩にスタバでコーヒーを飲むヒルズ族』という絵面を描いてみたかったのに、時間がないと急かされて仕方なくコーヒー片手にビルの外へ向かった。ヒルズのエスカレーターを登っている間も、行き違うヒルズ内の人々は皆幸せそうに談笑していた。拘置所内で差し入れのカニ缶すら食べれない状況にあるホリえもんとは対照的だ。それでもこのビルの上階には、彼の帰還を待っている社員たちがいるのだろうな。あなたはいつお帰りですか?
 私のサックスは今月末に帰ってくる。お帰りを心待ちにしております。


sanaedon at 12:20|PermalinkComments(33)TrackBack(0)

2006年02月07日

矢のように速く

8bea36b8.jpg 最近よく集まる女子校時代の友人たちに、実は速読法を習いたいと思っている、と打ち明けてみた。奇遇にも友人たちの何人かは、速読法の1日レッスンを体験していた。聞くとその1日レッスンでは、「1分間に何文字読めたか」ということに執拗にこだわり、講師がストップウォッチ片手に受講者1人1人に「あなたっ、今で何文字読めました?はいあなたはっ?!」と、必死に問いただしてくるのだという。それをボードに書き込むなどして、続いては本を左右斜めにブンブン振り回ししながらの「クロス読み」レクチャー。テーマが速読、しかも数時間だけの講義ということで、なかなかせわしない感じだ。しかしふと思ったのだが、本の内容を短時間で理解できるようになったとしても、その速さに心や感情はついてくるのだろうか。
 私は最近、今さらながら三国志を読み始めた。全十三章もあるものだから、虎舞竜もびっくりの果てしなさでなかなか読み終わらない。三国志と言えば中学生の頃、兄がゲームのソフトを持っていた。主将を選んで領地を治め、兵や兵糧を増やしていく。領地を広げるために戦を繰り返し、天下統一を目指す元祖シュミレーションゲームだった。私も珍しくゲームにはまってしまった。プレイヤーが操る主将には、それぞれ配下に文官や武将がつく。どんどん自分の下に男が集まってくる。「○○様!」と慕ってくる頑強そうなイケ面オヤジを大量にはべらせて、最高の気分だった。恋愛シュミレーションゲームで好みの女の子を攻略する男友達と、やっていることは大して変わりない。女子校から帰ると、画面の中でオヤジとイチャイチャ戯れる毎日が続く。村でスカウトした若い武将の顔に、何年かしてヒゲなんか生えてきた日には、「‥立派になったね。」と感極まるのだ。
 そして現在、久々の三国志は一面に埋め尽くされた文字の草原。読めば読むほどその世界に引き込まれて行く。劉備、皇甫嵩、趙雲、張魯など、馴染みのない漢字を必死に飲み込み、つっかえながら読む。もう止まらないくらい面白い。
 エピソードは盛りだくさんだが、なかでも呂布という武将が魅力的だ。戦では負け知らずで、冷淡、人の心などないようにも見える呂布。駐屯している村で見かけた女に、男として生まれて初めて心を惹かれる。そして彼は、思い悩んだ末に、決心してその女をさらう。「そうする以外、女をどう扱えばいいのかわからなかった」と、まるでキングコングみたいなやつなのだ。物語が進むにつれて呂布の無骨な人柄はさらに輝いて、読者を魅了する。
 他にも、父を殺され、屈辱に耐えながら意地汚い将軍に3年間仕えた孫策。自立を決意したものの、少ない兵を従えて、心細い思いで出陣する。そこに騎馬隊を従えた幼なじみの周瑜が、土煙をあげながら走りよってくる。
『来てくれたのか、周瑜』
『当たり前だ。待っていたのだ。待ちくたびれたぞ』
『はばたけるのだ、いま』
『つらい三年だったのか、孫策』
二人の会話。固い友情に涙が出そうになる。
 こんなに面白いものだったのだな、三国志。十三冊読み終えるのにどれくらいかかるだろう。速読法を使えば、時間は短縮される。けれど、胸を突き抜ける無数の矢や、陽を浴びて輝く海面は見えるだろうか。大軍を突き崩す歓声は聞こえるだろうか。今はまだ、歩兵のようにゆっくりと読み進むことしかできない。
 

sanaedon at 00:55|PermalinkComments(30)TrackBack(0)