在日コリアン3世のキム・スンヨンさんが撮ったドキュメンタリー映画「Tibet Tibet」を見てきました。

制作者の彼は在日3世として、日本の教育を受け祖国語はしゃべれず日本が好きで、祖父母や親の民族教育の逆作用で父祖の国韓国はキライになっていた、というような青年でした。
そんな青年が猿岩石のように旅をする「世界一周旅行」に出かけたのが1997年。
旅行から帰ったら正式に日本に帰化しよう、と考えていたそうです。

まず、嫌っていたはずの韓国から旅は始まり、中国、モンゴル、ベトナム等東南アジアの国々を廻り、インド、そして北インドのダラムサラへ行って亡命チベット人の人々と過ごしていく内に彼が小さい時から祖父母から言われ続けながら自分の中ではピンと来なかった「民族の誇りを忘れるな」という言葉、それは「チベット人達が命がけで守ろうとしているもの」だったんだという事に気が付かされます。
それからは、「世界一周旅行」という目標がどこかに消え、突き動かされるようにチベットへのルポを撮って行く事になります。
チベットの事をあまり良く知らなかった彼が受けた衝撃。これを少しでも多くの人に伝えなくては、と。
そして熱意がチベット亡命政府に届きダライラマに10日間の同行取材も成功しました。

そして彼は亡命チベット人が「自由になったら絶対に帰りたい、と切望する本当のチベット」へ行く事になります。

そして、その念願の「本当のチベット」に入り見たものは・・。

一見観光スポットである寺院では宗教活動が行われているように見えます。
ですが全て観光用です。主のいないポタラ宮は中国観光客で一杯です。
そして仏像などのスポットスポットに何万円もする高額な撮影料金を払わないと写真も撮れず、盗み撮りしないように各所に監視カメラが設置してあります。

今やチベット人の人口よりはるかに多い華人の移住により一見経済も潤っているかに見えますが、殆ど華人間経済でありチベット人は片隅に追いやられいます。
中国軍によって破壊された寺院の敷地内のスラムのような場所がチベット人居住区だったりしていて、投獄されたり殺されたりと、両親のいない孤児も多くその子達はストリートチルドレンとなっています。
物乞いも多く華人からは汚いものを見るような扱いになっている。
中国人達は「チベットを豊にしてあげたのに文句を言うな」と言っていますが、チベット人達にとっては全く逆に貧困の度合いを深めています。

そして次は陸路でネパールのチベット難民キャンプに向かいます。
6000m級のヒマラヤを越えなくてはならない、車で行っても6日もかかった厳しい道のりを亡命者は足を切断しなければならないような凍傷を負うリスクまで背負いながらも何ヶ月もかけて自分の足だけで亡命してくる人達がまず駆け込む場所です。
そして亡命者達の生々しい刑務所や暴動鎮圧の凄惨な証言・・・。
10年前の映像ですが、今も状況は全く変わっていません・・。

作者であるキムさんは二つのチベットの旅を終え、帰国前に韓国へもう一度行き祖先の墓に行きキチンと韓服を着て韓国の伝統作法にのっとた正しい(?)お墓参りを果たします。
彼の中に失われかけていたアイデンティティー「民族の誇り」を取り戻した姿を見たような映像でした。(日本への帰化も取り合えずペンディングにしたままだそうです。)

この映画の中で特に印象に残った所があります。
彼がインドのダラムサラからチベットに入る前に上海で3ヶ月くらいすごし、多くの中国人の友達が出来たのですが、彼らにチベットの事を聞くと殆ど「ヒマラヤ山脈の方の辺境の高地」とか「仏教を信じている」とか日本人の知識と同じような内容くらいしか知らない事でした。
中国がチベットでこの50年間何をしてきたのか、という内容は全く学校で教えられていません。
そして、これは日本の教育でも完全に日韓併合から終戦まで日本がかの地でどういう事をしてきたのかという事実を全く教えない事と一緒です。
「知らない」と言う事は非常に一方的な見方の人間しか作れません。そして醜い差別意識のようなレイシズムまで作ってしまうのです。

自分から「知る努力」、そして知った事を「人に知ってもらう努力」、それこそがこれからの私達の行動に必要な源泉なのではないかと思いました。

映画が終わった後、監督のキムさん本人がご挨拶でトークしてくださいました。
チベットへの愛を感じるとってもすがすがしい青年でした。
この「Tibet Tibet」というドキュメンタリー映画は在日3世の彼だからこそ出来た映画だなぁと思います。

渋谷アップリンクXにて6/27まで上映しています!