8月19日、佐賀県の武雄温泉で開催された上弦の月ジョグトリップ大会へ行ってきた。
佐賀県を離れてもう数年になる僕だけれど、そのために駄マラニック大会からもずいぶん足が遠くなった。その間に駄マラニックはジョグトリップとなったけれども、熱心なランナーの支持を得て、まずまずの盛況ぶりらしい。実際、今回の大会は、午前3時受付開始、午前4時スタートという過酷な?スケジュールにもかかわらず、100人ほどのエントリーを得ているようだ。
もっとも僕はというと、盆と暮れぐらいしか、実家のある九州へ出かける口実がないために、今のところこの上弦の月ジョグトリップと、年末の佐世保フルジョグトリップに行く程度である。

それにしても、暗い中をヘッドランプを付けて走るのは楽しい。ぼくがその楽しさを覚えたのも、ジョグトリップの前身の駄マラニック100大会でのことであった。もちろん、夜間のこととて車に気を付けるため、反射板を身に着けるなどの必要があるようだ。ジョグトリップは自主開催の大会であるから、大規模なマラソン大会のように交通整理があるわけでもない。いわば自分の身は自分で守るのが原則なのである。

さて、兵庫県に住み、自家用車もないぼくは、午前3時にどうやって武雄温泉に存在すればいいのだろうか。昨年のときは、大会前日に兵庫県西宮市から佐賀県武雄温泉まで青春18きっぷで移動し、それから朝までをどこかで過ごす(昨年は公園だった)ということだったが、今年もそうしようと考えた。自家用車が使えないといろいろ大変なのである。今年は、だいぶ報道もされた集中豪雨による水害のために、広島県あたりで、山陽本線がストップしており、こだまを使って予想外の出費をしたり、代替運送バスを待って時間ロスしたり、いろいろ大変だったけれど、なんとか18日の午後11時近くには武雄温泉につけそうだ。
そして、ぼくは昨年と違う計画を立てた。公園で朝まで過ごすのは大変そうなので、武雄温泉の一つ前の高橋で降りて、カラオケ屋で午前2時まで休息したあと、武雄温泉まで移動しようと考えたのである。しかし、これが第一の誤算であった。カラオケ屋の料金はそんなに高くなかったのだけれども、カラオケ屋は休むのに向かない。ついつい曲を入れて歌ってしまうのである。そんなわけで、ついつい元を取ろうとはっぴいえんどや山下達郎を歌いまくってしまい、一休みもできなかった。第二の誤算は、荷物入れである。ぼくとしては昨年と同様に、リュックで来るつもりだったのだが、女房の勧めにしたがって、キャスター付きのカバンを持ってきた。これがなかなかの誤算であり、なにしろ、武雄の舗装の悪い道路を、高橋から武雄温泉まで約1キロの距離を、重たいキャスター付きのカバンを深夜にがーがーと引っ張りながら移動することになり、いささか疲れた。
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それでも、午前3時には武雄市役所のあった駐車場近くの公園(受付場所)に到着した。すると、もうかなりの人が集まってきていた。
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お久しぶりの網本氏にご挨拶。「さんべ商会です」「ああ、さんべさん」「なかなかの盛況ですね」「今回100人以上も参加者がいるので、協力者を用意したんです」
みればいつもの軽バンに加えて、奥さんの車も出動している様子だ。
受付でゼッケンをもらう。このゼッケンは折り畳みになっており地図がついている。とはいっても、それほど詳細な地図ではない。しかしコースアウトも特に問題にしない大会だ。コースには、前もってあみりん氏が、運動会の白線引きで←を引いてくれている。それがない場所は道なりだ。矢印がしばらくないなと思って走って行って、矢印と出会ったときの、古い友人に再会したような感じはまた格別である。
駄マラニック時代から、この大会には不思議な魅力がある。道の魅力ということだろうか。あみりん氏は「道ソムリエ」だなあとつくづく思う。見かけはなんてことない田舎道なのだが、今回のように旧街道だったり、あるいは見晴らしの良い車通りの少ない農道や、木漏れ日のあるしずかな林の中の道を走るのは気分がよい。まあ、たまには路肩を走るしかない車通りの多い道もあるにはあるけど。で、そこを決して急がずに走るのが楽しいのですね。10キロおきにエイドがあるが、飲み物のほかに、簡単な軽食がある。以前はいなりずしが名物だった。最近はお菓子が出る。
やがて、辺りは午前4時前とは思えないほどの人だかりとなった。網本氏からの趣旨説明や注意事項説明があり、引き続いて参加者の選手宣誓。選手宣誓も、「急がない」「道を楽しむ」という趣旨を十分に理解した宣誓内容となっており、アドリブとは思えない出来だった。おそらくリピーターの方なのであろう。
ランニング人口も今はずいぶん多く、10人に1人がフルマラソンを走るという。しかし、その多くはやがてランニングに飽きてしまう。しかし、ジョグトリップは、厳しいトレーニングを積まなくてもよい。辛かったら歩いてしまえばよい。あるいは時間がなかったら、バスや公共交通機関を用いてショートカットするのも正式な「完走」とみなされる。ゴールしたら、網本氏が写真を撮って、楽しい記念写真付きハガキに仕立てて送ってくれるのである。日本は高齢化社会を迎えて、自分の健康を自分で守らなくてはならない時代になっている。そんなとき、気楽にいつでも迎え入れてくれるジョグトリップのような大会はうってつけだ。
そんなことを考えて受付あたりをうろうろしていると、カッパ先生がいた。カッパ先生はもうおなじみの、久留米走ろう会の重鎮であり、あの萩往還250キロや橘湾岸273キロの完走者である。脚を故障してしまったので走らないといいながら、この大会にも自分の足で来られている。そんなベテランにも愛されている大会なのだ。
実はぼくの中高の恩師でもあるカッパ先生にご挨拶をして、さて、午前4時になり、今回は参加者が多いので「ウェーブスタート」ということで、三々五々スタートしていく。
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この上弦の月ジョグトリップのコースの前半は、同じ武雄嬉野ジョグトリップのコースと重なるところが多い。江戸期には、九州には小倉から長崎を結ぶ長崎街道があり、砂糖などの貴重品も運ばれたのでシュガーロードともいう。武雄にはその長崎街道が走っており、その一部は、古い神社や、江戸・明治時代を思わせる白漆喰の建物など、旧街道の風情を残しているところもある。その旧街道のコースが前半であり、後半は新しい武雄の顔ともいうべき科学館を通り、スタート地点に戻ってくる総延長20キロのコースである。午前4時スタートなのは、熱中症を予防するために、涼しいうちに走り切ってしまおうという配慮である。車も少ないから安全ではある。もっとも、少ないとはいえ、用心は必要だ。

公園をスタートして北上していくと、武雄温泉の象徴である楼門がある。これは東京駅を設計した辰野金吾博士の設計になるもので、重要文化財だ。中は温泉施設になっており、早い時間から遅い時間まで、安い値段で温泉が楽しめる。今回も、走り終わったらひとっぷろ浴びて帰る予定である。
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武雄温泉の市街はまだ暗い。その中をヘッドランプをつけたり、反射板をひらめかせて走っていくランナーたち。まあなんと物好きな、と思うかもしれないが、インディージョーンズになったようで、これが楽しいのである。

細い道の街中を抜け、田圃の中の道を抜け、二階の低い古風な家々を横目に見ながら、走っていく。けれど、そのうちに置いて行かれてしまった。しかし別に構わないのである。ここが長崎街道であったのだろう。その雰囲気自体がごちそうなのだ。などとぼんやり走っていると、柔らかい柱が道の真ん中に立っている。あぶないあぶない。やはり緊張は大事である。
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さて、前半はあまりトイレがない。というわけで、コンビニを利用させてもらう。もちろん礼儀として買い物はするのである。
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ぼくのおすすめは種抜きはちみつ梅だ。塩分が取れるのがちょうどよいのである。
闇の中にぼんやり浮かび上がる、信号を渡ろうと手を挙げる小学生ぐらいの女の子の像。佐賀県はこの像を妙に推していて、あちこちにある。
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どこか和風でもありながら垢ぬけている感じがタレントの水野しずにどこか似ているので、「しずちゃん」と呼ぶことにした。しずちゃんはあちこちに立っている。

旧街道沿いのコースの特徴は、ほどほどの道幅と、古風な民家と、あと寺などの建物が沿線沿いにあることだ。古くから道沿いに人が住んでいた痕跡が残っているのだ。見えない街道を凝視するのである。そして、そろそろ塚崎道と塩田道の分岐あたりである。神社の鳥居がぼんやりと浮かび上がっていた。
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塩田道に入り、視界が開ける。ぼくは遅いので、もう夜明けが近い感じである。また、しずちゃんが立っている。けなげである。
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もう少しで10キロエイドだ。
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10キロエイドは今回の唯一のエイドである。あみりん氏と奥様が待っていてくださった。エイド食はコーヒープリンだ。味は、よく冷えたコーヒー牛乳が銭湯にありますね。あんな感じ。疲れた体を甘味が癒していくのがよくわかる。
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しばらく塩田道を行く。そして、このあたりのコースは自動車の走る新しい道である。これはおそらく、本当の長崎街道沿いは明かりがないことを考えたあみりん氏の計らいなのだろう。しかし、ぼくは遅いからもう明るくなってきている。だとしたら、本当の長崎街道塩田道に逸れてみるのも面白いかもしれない。そう思って、「塩田道」の標識のあるほうに入ってみた。いずれにせよ、だいたい二つの道は平行していて、迷うことはないのである。
夏も終わりで、田圃には稲が揺れている。大人の夏休み。そんな感じだ。
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高速道路の高架をくぐり、その先の農協のあたりで道は再び方向を変え、長崎街道を離れる。そして、今度は宇宙未来館へと向かう。過去から未来へのドラマチックなコースだ。
田圃の中を進むと橋があり、橋のたもとには再びしずちゃん像と、欄干にカッパのぼうやの像がある。
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夏の盛りだけれど、風が涼しい。疲れたので、歩きながら進む。昔、佐賀に住んでいて毎月のように駄マラニックに通っていたころは、もっと走れたような気がする。だいぶ身体も贅肉がついた気もする。しかし、あまり気にしないでよいような気がする。こうやって身体を動かすのが楽しいのだから。ゴールを目指さないというのが、ジョグトリップの極意である。ゴールに目的がある人は、我先に目指して、一番先に着かないとゴールには何も残っていないから、急ぐ。ぼくはゴールが目的ではないから、急がない。コースには、人によって違った発見があるだろう。それでいいような気がする。
のんびりと進むうちに、湖のほとりに出る。
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未来館の近くにはトイレがある。コンビニを出て以来、ここまでトイレがないコースである。要チェックである。
未来館のたたずまいは本当に未来的だ。
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湖の周りを行くと、朝顔が咲いている。そういえば夏休みの宿題で朝顔を栽培したような記憶がある。朝顔は夏の記憶につながっている。
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未来館を離れてここから先はスタート地点の旧武雄市役所隣の公園に向かうのだけれど、これで終わってしまうのはさびしい気がする。そこで、武雄神社に立ち寄ることにした。
ここには肥前鳥居がある。肥前鳥居は戦国時代の後期である16世紀後半から竜造寺を継いで鍋島が政権についた初期のころまで、佐賀を中心に作られていた独特の形の鳥居である。見てもらえばわかると思うが、笠木の形に特徴がある。
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この鳥居は今でも佐賀市内を中心に残っているが、鍋島が代を重ねるうち、次第に普通の形をした鳥居にとってかわられる。その理由は今でもわかっていない。

階段を上った小高い神社の境内の入り口にある肥前鳥居を拝む。笠木が一体となっていて、まるで日本刀の鋭さだ。
武雄神社を離れて、スタート地点に戻ってきた。
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もう、ほとんどの人たちはゴールしたようであるが、まだゴールしていない人たちもいる。
一番遅かった人が、「最優秀ジョグトリッパー」の栄光を受けるのである。
ゴール地点では、あみりん氏と奥様が待っておられて、写真を撮影してくれた。これを絵ハガキにしたてて「完走状」として送ってくれるのだ。これは思い出になる。

そのあと、ゴロゴロとキャリアを引いて、楼門のある温泉で汗を流して戻ってきた。ここの一番古い「蓬莱湯」には「あつ湯」と「ぬる湯」がある。あつ湯は43度ぐらいでやや熱い感じだ。
こちらにはサウナはないが、同じ敷地内にある、別の建物にはサウナもある。サウナのファンの人にはそちらもおすすめである。

温泉の建物を出ると、もう日が高くなっている。暑くなりそうだ。来年も、たぶん来る。