もう2か月も前のことになるのだけれど,2月の第4土曜日に開かれた「武雄嬉野フル駄マラニック」を走ってきた。
もう説明はいらないと思うけれど,「駄マラニック」は,長崎に住むあみりん氏が開催するマラニック(マラソン+ピクニック)のシリーズだ。ふつうの田舎を42キロとか,55キロとか,はたまた100キロとかを,だいたい10キロおきに設営してある無人エイドでおやつを食べながら,走ったり歩いたりする大会である。
普通のマラソン大会だと,時間制限が厳しいので,特に長距離をゆこうとすると「私なんか」てな感じで気後れする。これを「ワタシナンカ現象」と呼ぶ。
駄マラニックは制限時間がゆるいから,のんびりと走り,疲れたら歩き,さらに疲れたらタクシーやバスや電車に乗ってもいい(ただし田舎なので,あまり来ないけど)。
とにかくゴールに着けば「完走」だ。遅いがエライ大会だから「ワタシナンカ現象」が起きにくい。遅い人も堂々と走れるのだ。
で,時間内にゴールしたら,ゴールであみりん氏が写真を撮って,「完走証」と証するはがきにして送ってくれる。エントリー料は今では珍しく,フルで3000円と,お安くなっております。

ちょうどぼくみたいに,遅いくせに長距離を行きたい人にぴったり!というわけなのだ。もちろん速く走っても悪くはない。ただ,駄マラニックを一人で運営しているあみりん氏は,ランナーがスタートすると同時にスタート地点を撤収してコース保守に出かけるから,フルだと4時間よりも早くゴールしてしまうと,せっかくゴールしてもゴール地点に誰もおらず,さびしい思いをすることになるのである。

さて,この4月にぼくは九州を離れることになった。駄マラニックともしばしのお別れである。そんなわけで,今回の武雄嬉野は,ぼくの職場にも回覧を回して総勢6名で参加することになった。
メンバーは前の「武雄嬉野」にも参加したヒロシ君とホセ君と大分くん。加えて今回は,武田さん(仮名)と上杉くん(仮名)が参加してくれることになった。武田さんは職場そしてランニングの大先輩でベテランランナーでもある。職場の運動部長の異名もある。
上杉くんはぼくよりも若い人でローン持ち,妻子持ちの(ぼくと同じだ)優男(ここはぼくと違う)で,ことしの佐賀桜マラソンの10キロにエントリー済みである。実はあまり10キロ以上の距離を走ったことがないという。そんな彼でもこの駄マラニックなら,大丈夫だという確信がある。初心者にも,自信をもってオススメできる大会なのである,駄マラニックは。


さて,当日はせっかくのお別れ会なのに,夜が開けてみたら,あいにくの雨だった。
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ただ,あまり心配はしていないのである。途中でだいたい晴れるからだ。とはいえ,寒いのはやだなあなどと思いつつ,JR武雄温泉駅に向かった。
スタート地点のある武雄市役所横の公園は小雨模様。晴れたらいいのだがなあ。とはいえ,この武雄嬉野には他の駄マラニック大会と比べても大きなメリットがある。それは「武雄温泉」という強力な温泉の存在だ。武雄嬉野フルは,武雄を出発して,長崎街道塚崎道を北方分岐までもどり,長崎街道塩田道を通って南下し,塩田の町並みのあたりでこんどは川沿いに西へ嬉野温泉方面へと向かう。そして嬉野温泉の手前で北に進路を変えて,こんどは長崎街道塚崎道を北上して再び武雄温泉へと向かう。そしてゴール地点には,「武雄温泉」があり,冷えた身体を温めつつ,ゆっくり汗を流せるということなのである。
走り終わった後の温泉ぐらい素敵なものはない。

ということを考えているうちに午前9時,スタートとなった。ぼくはいつものウェアに,コンビニの雨合羽といういでたちである。
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この武雄嬉野のコースは忠実に長崎街道をトレースしているのだが,現在の武雄市街を通る部分というのは実のところ,ややわかりにくい面もある。いわば本日の第1の難所だ。
もちろん,あみりん氏は運動会に使う『白線引き』で,迷いやすいところには矢印を引いてくれている。ただ雨で流れてしまうと(流れるのであとを汚さないというメリットもあるのだが),コースがわからなくなってしまうという問題もある。

今回スタート地点は6名揃ってスタートしたけれど,ヒロシ君,ホセ君,大分君は先に行ってもらった。初参加の武田さんと上杉さんが迷ってはいけないからだ。大会の趣旨はあらかじめ説明してある。遅いがえらい大会なので,のんびりと走ってよいし,公共交通機関を使っても良いという説明も。
でも,やはり参加するからには楽しんでもらいたいではないか。

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市役所前を出て北上すると,武雄温泉の楼門が見える。
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お色直しが終わって,朱色が鮮やかだ。

さて,路上の矢印もところどころ消えている。だから,武田さんと上杉くんとぼくは一緒に行く。
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長崎街道は,小倉を出発して長崎まで向かう脇街道であり,江戸時代に整備された。この道を通って砂糖など貴重品が運ばれたから,「シュガーロード」ともいう。また,シーボルトやケンペル先生なども通った。
ただ,今は舗装道路になってしまったけれど,道はやや道幅が狭く,曲がりくねっている。あるいは防御上の理由もあるのかもしれない。沿線にはお寺や白漆喰の明治ぐらいの建物も残っていて,風情がある。
雨がいっそう風情を増してくれる。寒いけど。
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コースはその長崎街道を忠実にトレースするのだが,なにぶん現代になっている。クルマにも気をつける必要がある。

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のんびり行くと,他の参加者の人たちがだいぶ先に行ってしまったが,武田さん,上杉くんとぼくはのんびり。ただ,もっと後ろのグループもいたはずなのだが,見当たらなくなった。今日は雨だから,矢印が消えてしまって迷っているのかもしれない。
楽しい思い出に水を差さなければいいのだけれど。
ぼくは上を見上げる。雨はもう少しでやみそうなのだけど,それでも降って来る。
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神社の横を通ると,そろそろ長崎街道塚崎道と塩田道の分岐だ。


さて,上杉くんがちょっと辛そうである。ときどき止まって,足が攣りそうなのか,ストレッチをしたりしている。

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プライバシー保護のため画像を処理すると,あまり辛そうにみえないのが何だが,やはり慣れないと長距離はつらいのかもしれない。考えたらぼくも最初のフルマラソンの筑後川マラソンでは,足の攣りとの戦いだったなあ,と思い出す。
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走っていく武田,上杉の両氏。

そこから南下して,田んぼの広がるのどかな景色の中を,塩田方面へと向かうのだった。
しばらくすると10キロエイド。
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エイド食はカッパ巻き。今日は雨合羽が必要だ。
ここであみりん氏と出会う。
「もうこのあたりで最終ですかね。第一エイド,撤収しましょうか。」
に,してはカッパ巻きが大量に残っているなあ,と思うぼく。

「うーん,ぼくの後ろにも集団がいたはずなんですけど,見えなくなりました。」
あとでわかったことだけど,実はやっぱりまだ後にもいて,ただ,道にちょっとはぐれてしまったみたいなのだった。お疲れ様です。

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10キロエイドを出て,武田,上杉の両雄とともにぼくはのんびりと走っていく。
ただ,寒いせいか,尿意を催してきた。
駄マラニックのコースは普通の田舎道なので,トイレなどは公衆トイレ利用である。ただ公衆トイレと言ってもなかなかない。そこで現代の便利施設「コンビニ」が登場する。(もちろんお買い物をするのが礼儀だ)。ただ,田舎なので,コンビニすらめったになかったりもするのである。自動車向けに「あと10キロ先」なんて看板が出ていても,ランナーは「まだ10キロもあるのか・・・」などと打ちひしがれる気持ちになることも多々あるのだが。

それでも途中で見つけたコンビニを利用させていただいた。用を足すついでに,しかるべきところにワセリンを塗り足す。股ズレ防止のためである。利用させていただいたお礼に,ぼくはここで,秘密携帯食料「はちみつ梅」を買い込む。これをポケットに忍ばせるのである。

それはいいが,ぼくと上杉さんは,先行している武田氏とはぐれてしまった。まあいいやと顔を見合わせて,走る上杉くんとぼく。ただ,上杉くんはやや辛そうで,ぼくはときどき振り返りつつ走る。



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少し行くと,20キロエイド。ここのエイド食はチョコレート大福であった。
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エイドを出て,もう塩田の町並みも近くなった頃,先を行く武田氏に追いついた。

塩田の町並みのあたりが今日の第2の難所である。というのは,本日,鹿島ロードレースや鹿島ハーフマラソンと真っ向からかぶってしまったため,道路に白線矢印が引けなかったのである。もちろん,今回のコースマップ(駄マラニックゼッケンの内側にある)には,そこのところがアップで載ってはいる。しかし,これまでもミスコースがしばしば見られ,昨年は草のつくKさんがだいぶ鹿島方面まで進んでしまったところでもある。

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ノンビリ来たので,ちょうどぼくと武田さん,上杉くんは,鹿島ハーフマラソンの先頭集団と出会う。というかいつ道路を渡ったらよいのか,タイミングがちょっとわからない。
ここで,折り返してこられたご夫婦と出会う。
「こんにちわ。コースがちょっとわからないんですけど,こちらでいいんでしょうか?」
「あ,ご案内しますよ。ちょっとここ,わかりにくいんです」

走ってくる超早いランナーを見ながら,鹿島方面へ進み,橋を渡る手前で川沿いの道へ入る。
「これね,毎年間違う人が出るんですけど,橋を渡ったらアウトなんです。鹿島まで行ってしまうんで。」
ちょっと入ったところに,申し訳なさそうに小さめの矢印が引いてあった。

「こちらをずっと行きます。ここから先は道なりなので,あまり迷う要素はないです」
礼を行って行かれるご夫婦。
夫婦で共通の趣味というのはいいなあ,とぼくはそれを見て思う。

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さて,ここからはしばらく川沿いの道を行く。
と上杉くんが,本格的に辛そうである。足を引きずっている。

どうやらもう無理そうだ。
「どうする?この先も来る?」と武田氏が上杉くんにたずねる。
「無理そうです。ここからタクシー拾って戻ります」と,上杉くん。
このあたりでもう30キロを過ぎている。フル初挑戦にしては出来すぎだ。
上杉ではなく,出来杉である。
などとつまらないことを考えつつ,川沿いから道路方面へ遠くなる上杉くんを見送って,武田氏とぼくは先を進むことにした。

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川沿いの道を離れて集落の間をしばらく進む。そして北上して川を渡る。
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ここはもう嬉野で,嬉野というとお茶が有名だ。茶畑を見ながら進む。
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「どこかにラーメン屋があったはずなんだけどな」と武田氏。
しかし,曇り空だし,ラーメン屋は見当たらない。
駄マラニックだから,うまいラーメン屋に入るのも,もちろんオッケーである。
実は武田氏は,20キロエイドの大福を見逃してしまったらしいのだ。

雨はどうやら上がったようだが,寒い。
どうします?どこかで何か食べますか?とぼく。

そのうち,このコースでおなじみのヤマザキデイリーがあったので,とりあえず休憩を兼ねて,入る。
武雄嬉野フルでは,毎年おなじみのデイリーだが,どうやらもう店を閉めてしまうようだ。
このあたりの地点にはコンビニがなく,貴重な休憩所だったのに,と残念に思うぼく。
商品が少なくなった店内でメロンパンを購入して,栄養補給。

しばらく行くうち,武田氏が,「もう先に行っていいですよ」と言われる。
そういわれると仕方がないので,先に行くことにした。
走り出すぼく。今日はあんまり走っていないので,余力があり,快調快調。
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いつもうんざりするこの付近だが,気持ちよく走る。
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老人ホーム手前のあたりに,第3エイド。エイド食は定番のいなりずしだ。
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ここで先を行く数名の方と出会う。
ここから先,ちょっとだけ,長崎街道の古の姿を残す山道になる。わかりにくいと思うので,皆さんに少し説明して,先を行く。ぼくも初めてこのコースを走ったときには,果たしてここに入っていいのだろうか,と不安に思ったものである。
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しかし,ちゃんとここも長崎街道なのである。
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侍が出てきそうな杉並木を抜けたあと,茶畑が広がる。
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嬉野には,日本に茶が伝わったころの大茶樹もあるそうだ。

去年はあった秘宝館だが,もう跡形もない。その代わり,ソーラー発電施設が広がっていた。
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山道を出て,再び国道沿いに出て北上する。
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しばらく行くと,第4エイド。昨年はダム湖のあたりにあったのだけれど,無人のところに置くのもイタズラされてはいけないということで,今年からは人家の前に許諾を得て設置することにしたのだそうである。

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ここを過ぎると,もうゴールは間近である。
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ダム湖へ向かう道
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ダム湖の眺め。
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まだ足に余力があるので,気持ちよく(のんびりだけれど)快走するぼく。
ダム湖を降りて,東へ,武雄温泉駅へと向かう。
と,JR線の踏切前で,ヒロシ君とであった。

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今日はお別れ会なので,できるだけいろんな人と一緒に走るのは記念になってとてもいいことである。
しばらくヒロシ君と一緒に走ることにした。

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で,ようやくゴール。もう先にゴールしているホセ君,大分君と,ワープした上杉さんが待っている。

いっしょにゴールして記念写真を撮った。

さて,しばらく武田氏を待つが,なかなか来ない。
どうしたのかと心配になったころ,ようやくのんびりした顔で,武田氏が走ってきた。

ちょっと違うコースを走ってきたようである。で,件のラーメン屋にも入って栄養補給してきたとか。

初参加なのに,駄マラーの鑑である。

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さて,そこからは皆で武雄温泉へ行き,皆で汗を流して,佐賀市まで出て,安い焼肉屋で打ち上げ。ふらふらになりつつ,楽しい気分で帰った。

いつも一人で走ってることの多いぼくだけど,大勢で走るのもやっぱり楽しいものである。

4月になった今,これを関西の某所で書いているのだけれど,ちょっと残念なのは,駄マラニックみたいに,安いエントリー料で(しかも締め切りまでだいたい一杯にならない),フルやそれ以上の距離を,十分余裕のある時間で走れる大会,遅くても引け目を感じないで住む大会,ってこちらにはあんまり見当たらないことだ。距離が短かったり,時間制限が厳しかったり,エントリーが厳しかったり。それに何より,あのなんでもないようですばらしい田舎の風景は,あんまり見られない。

職場へ向かうビルの間から空を見上げつつ想う田舎の景色。風の音,海の音,冬の風,夏の日差し。
参加できなくなってわかる駄マラニックのありがたさ。
でも,また,そのうちにアイシャルリターン!
待ってろよ田舎道。待ってろよ松浦,平戸,そして佐世保。
それではしばし,さようなら!