きっかけは自分自身に隠れている、あとは……。

2010.11/13。40分。950字。

ランダムに生成された三つのお題はこれです。
特権
銀河
エコカー
※三つのお題は、こちらのサイトからお借りしました。⇒三題噺お題作成三題噺お題作成


 僕が生まれてから三十余年。父母のもとを離れて十数年、就職して十年が経とうとしていた。今のところ時間の経つスピードに対して自分の老いが追い付いている自覚はないが、忘れた頃にどっと押し寄せるのが老いなのだ。油断ならない。

 家庭を持った。学生時代から縁のあった妻とは数年前に籍を入れた。ときに喧嘩することもあったが、他の人から仲睦まじいと羨まれるくらいには円満な夫婦生活を送っている。その要因は、お互いが仕事に充実していたからだろう。

 僕は外資系の企業に就職し、それなりに結果を出して順調に地位を登っていった。最初はしんどい日々が続いて辞めたいと思ったこともあったが、驚くことに人間というものは順応するらしい。今では目覚ましが鳴る前に起き、自然と新聞の株価に目を通し、会社で緊張を忘れてプレゼンすることができる。給与も目に見えて増えた。いい会社に入れたなと思う。

妻の仕事についても語ろう。妻はバリバリのキャリアウーマンだ。元は僕と同じ企業で働いていたが、結婚を機に退社。だが実はそれは建前で、より自分を求める会社へステップアップを図るために辞めたのだった。そうして入社した今の会社では、見事トップの成績を残して、社内では羨望の的だと言う。自分で言っていたから誇張されているとは思うが。

こうして夫婦二人三脚で増やした貯金はケタがふたつほど繰り上がり、そろそろ念願の一戸建てでも買おうか、なんて話題もでてきた。テレビは薄い大型液晶に買い替えたし、流行りのエコカーも割引や減税に食いついたわけでなく当然のように買っていた。不自由なところがない、理想的な生活だ。

しかし、なぜだろう。物足りなさを感じるのは。

子どもの頃に描いた夢は宇宙飛行士だった。宇宙の広さ、銀河の美しさに目を輝かせていた。

今の仕事も嫌いではない。だが、満足できていないのだ。自分の夢……。

ある日、僕は妻の前でぽつりと呟いた。いったんこぼしてしまった言葉は、次から次へと続きを垂れ流しにしていた。思っていたすべてを語っていた。語り終えたら、今度は反応が怖くなった。

妻は笑顔だった。私も同じ気持ち。じゅうぶん稼いだよね、私たち。

新しい生活を始めてみない? どんな未来が待っているか、わからないけど。と妻が言う。わがままを言うのは妻の特権らしい。

僕も大賛成だ。



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「歳を重ねただけで人は老いない。夢を失った時はじめて老いる」(サミュエル・ウルマン)

着想は『宇宙兄弟』。