いきいきシニア元気塾

自分らしく生きて生を全うしよう。その願いの実践を紹介する

2011年12月

ほんとうの思いやりって何だろう―その1

本当の労わりとは・・・その2

                                                                    下地 恵得
<苦労して育ててくれた母> 

シナリオライターの倉本聰氏が『立ち往生のすすめ』(倫書房)の中で,実母との関わりについて書いていますが、ご紹介して共に考えてみたいと思います。

 著者は1934年の12月生まれ。それまでの尋常小学校が「国民小学校」に変わり,戦時中(小3の時)には学童(集団)疎開,戦後は学校制度が、6・3・3制となるなど、世の中が目まぐるしく変わる中で、母親に厳しく躾けられますが,高校2年の時に父親が亡くなったあと、母親がお茶の師匠をしながら生計を立て、子供らを大学まで育て上げます。

 
<今度は俺が食わしてやる>

 著者がひとかどのシナリオライターとなって、母親の稼ぎを必要としなくなったので、労多くして実入りの少ない茶道師匠などやめて楽をするように勧めたが、聞き入れないので業を煮やし母親から仕事を強制的に取り上げます。

 その辺りを著書から引用しますと、“(母親は)僕がシナリオライターとして結構仕事をし始めてから・・腎臓をこわして倒れちゃったんです。それで僕はおふくろに怒りまして、何やってんだと、一文にもならないものを、もう、あなたが育ててくれた時代は終わったんだから、もう、あなたの仕事は終わったんだから、・・・今度は俺が食わす番だから、・・・何もしないで俺のテレビでも見てろって言って、お茶を取り上げちゃったんです”


 <躁鬱症になって死んだ母>

 母親は、仕事を取り上げられてから半月も経たないうちに、躁鬱症になってしまいます。荒れに荒れるので、終に押さえて注射で眠らせた上、病院の鉄格子の部屋に閉じ込めたりされますが、6年目に死んでいきます。

 仕事を止めさせて楽をさせる、一見親孝行に見える行為が、母親にとっては残酷な仕打ちでしかなかったのです。自分の価値観を押し付けないで、本人の意思を尊重してその望みを叶えてあげる、それが見守る者に求められる「思いやり」のあり方ではないでしょうか

(以前会誌に掲載した記事を加筆してここに載せました)

 

 

ほんとうの思いやりって何だろう―その2

本当の思い遣りって何だろう その2

                   下地 恵得  

<思いがけない電話> 

「もしもし佐竹ですが」思いがけない電話である。

彼は昔の仕事仲間だ。私の職場に訪ねて来ては話し込んで帰った“忘れ得ぬ人”であるが、個人的な付き合いと言えば年賀状のやり取りぐらいだ。その彼が会いたいと言う。

 国分寺駅改札で待ち合わせて、同ビル喫茶店で会った。少し老けていた。無理もない8年ぶりなのだから。「もう58歳ですよ」そう言って彼はわずかに白い歯を見せたが、すぐ表情を落とした。

 

<「がんで手遅れです」>

奥さんを3年前に亡くしていた。小学校の先生をしていたという。毎朝早く校門に立って生徒たちを迎えるなど教育熱心で、子供たちから慕われていた。そんな彼女が体の変調を隠している節が見えるので、旦那が問い質しても、大丈夫、職場検診で異常なし言われているから、と言うばかり。その都度やり過ごしていたが、どうもやはり右胸の辺りを庇うのが普通ではないので、縄で括って引っ張るように強引に連れ出して、さる大学病院の外来に行った。



<無理に入院加療を―そして死>

「手遅れの乳ガン」と診断され、即入院加療を言い渡された。気付いてから10年間隠し続けていたという。彼女は職場に戻してくれと懇願した。やりのこしたことをさせてくれと哀願した。だが旦那は反対し、医師も頑として受け付けなかった。無理やり入院させて抗がん剤による治療が始まった。副作用が現れた。頭髪は抜け、血小板も減少したが薬剤投与は続けられた。やがて感染症を併発、肺炎を起こし、カンジダ(かび)が肺を覆った。

『息が苦しい・・』の一言を最後に54歳の生涯を閉じた。外来受信から3ヶ月目でした。

 

<本当の愛情って何だろう>

私は彼の話を聞きながら、口には出さなかったが何と残酷なことをしたのだろうと思った。診断で病状が手遅れなら、職場に戻りたいと言う彼女の切望があったのなら、叶えてあげるべきではなかったか。そうすれば、彼女はもう少し生き永らえたであろうし、手がけている仕事をなし終えて、その生涯を全うできただろうに。54歳は悲しい。でも彼女はそくで燃焼し尽くすことを望んだ。回りはもっと高い次元で同情して上げられなかったか。病気を叩くだけを腐心して、人間性への共感を欠いた医師は人の終末を狂わす。その手に掛かる患者こそ不幸というべきだろう。

(この記事は以前会誌に掲載したのに加筆したものです)

 

 

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