前回紹介した判例について幾つか問い合わせがあったので、説明を補足する。

 借金の返済が苦しくなった時などに、債務者本人が金融業者と交渉して毎月の返済額を減額してもらったり、利率を下げてもらったりすることがある。その際合意した内容で和解書や示談書を作り、ほとんどの場合末尾には「他に何らの債権債務のないことを確認する」という趣旨の清算条項も入れることになる。

 その後借金を完済して、過払金の返還を請求すると、金融業者側は、上記の和解・示談の存在を理由に、過払金の返還義務を争ってくる。そこで和解や示談をしている場合も、過払金の返還請求ができるかが問題となる。

 この論点に関しては、和解時に認識していた残高は約定の残高で、利息制限法で引き直し計算した真実の残高との間に齟齬があるので、要素の錯誤が成立するとして、和解を無効とする判決が多く出されている(調停の事案で名古屋高裁平成22年10月28日判決など)。
 他方、そもそも和解によって解決を求めた紛争の中に過払金のことは含まれておらず、過払金の請求は和解の確定効の及ぶ範囲外であるという見解も有力に主張されていた(民事法研究会「過払金返還請求全論点網羅2013」238頁瀧康暢弁護士など)。

 本判決はこの見解と同趣旨の判決である。
 返還請求ができるならば、どの理屈でもいいようにも思われるが、順番で言えば、まず和解の確定効の範囲外だという主張を出すべきだろう。そして仮定主張として錯誤の主張も忘れずにしておくことが実戦的であると思われる。今後同趣旨の判例が積み重なることを期待したい。