更紗のタペストリー(L)

auoneblogから引っ越してきました。 主に、アート・書籍・音楽・映画などについて語ってるブログです。 もうひとつのブログ(http://sarasata.seesaa.net/)では、日経新聞の連載小説の感想を綴っています。

2009年08月

「漫’sプレイボーイ」より『新・つくしの筆事情』

 旦那が、「週刊プレイボーイ」と間違えて、増刊の「漫’sプレイボーイ」を買ってきてしまいました。
 「騙されたぁ~!」といって旦那が悔しがっているので、その悔しさを無駄にしないために、せめてブログのネタにしようかと思います。
(…ていうか、ただ単に私がネタにしたいだけなんですけどね

 「漫’sプレイボーイ」はほぼ全ページ漫画で占められている雑誌なので、ほとんど「ヤングジャンプ」とか「スーパージャンプ」と変わりません。
 読んでてびっくりしたのは、小学館系の雑誌で活躍していたはずの星里もちる先生(有名なのは『りびんぐげーむ』あたりかな?)の漫画が掲載されていたことです。いったいどんないきさつで、集英社の雑誌で連載を持つようになったのでしょうか…。気になります。

 でも、今回ネタにするのは、星里先生の漫画ではなく、山崎大紀先生の『新・つくしの筆事情』という、風俗ルポ漫画です。この漫画は、元々は本家週プレに掲載されていたのですが、「エロを扱っている漫画なのに全然エロく感じない」という作風が結構気に入っていました。

 で、なぜ、今回、この漫画を取り上げたのかというと、読んでいて『甘苦上海』を思い出したからです。
 探訪先がマカオなので、上海を舞台にしているわけではないんですけど、サウナで主人公が女の子とやりとりしているシーンが、「松本と黄蓉」を彷彿とさせるんす。


ガラスに指で文字を書いて年齢を教え合う、
主人公と風俗嬢。


 このシーンを見て、思わず、黄蓉が松本の前では19歳のふりをしていたことを思い出しちゃいました。(黄蓉の本当の年齢は28歳です。詳しくは第86話参照。)

 この漫画によると、マカオは「99年の中国返還以来地元カジノに欧米資本も流入していまや”東洋のラスベガス”と呼ばれている街」で、「人もスゴイ勢いで流入してまさに風俗パラダイス」なんだそうです。
 『甘苦上海』的価値観でいくと、特定の地域に風俗店が多い理由は、「そこが欲望の街だからだ」ってことになるんでしょうけど、上海やマカオに限らず、風俗店なんて人がたくさん集まるところならどこにだってあるんですよね。日本しかり。エロがお金になるのは、世界共通です。

 さて、『甘苦上海』の中では、ナイトクラブは「KTV」という名称で呼ばれていますが、この漫画だと、「夜總會」という名称になっています。
 多分、「ナイトクラブ」をそのまま中国語で表記すると「夜總會」になるのだと思うのですが、だとしたら、「KTV」は一体何の略なんだろう…?と思って調べてみたら、どうやら、「カラオケテレビ」の略のようです。中国では「カラオケボックス」を「Karaoke TV」と言うんだとか…。
 「カラオケボックス」=「Karaoke TV」=「KTV」=「ナイトクラブ」だとしたら、純粋にカラオケだけする場所は、中国では何という名称なのでしょうか…。気になります。


マカオの「夜總會」の外装。


 マカオの「夜總會」は、「1hの飲み代にプレイ料金含め高級店で2400HK$(1HK$は約15円)程度だが2000HK$以下のリーズナブルな店も。また時間帯によって昼間は安くなる」んだそうです。
 
マカオの「夜總會」の内装。


 上海のKTVも、きっとこんな感じなんでしょうね。
 
 この後、主人公たち御一行は気に入った女の子を連れて、それぞれホテルにしけこむんですけど、いかに中国人の風俗嬢のサービスが悪いかが詳しく描写されています。

・男を誘わず、勝手にバスに入る。
・しかも、そのバスの中で、堂々と脇の処理をする。(ガラス張りなので、男から丸見えです)
・キスはNG。
・○○○もNG。(「○」に何が入るのかはご想像にお任せします)
・2時間のプレイタイムのうちの半分以上が残っているのに、さっさと帰り支度をする。
・コ○○ー○はベッドに放置したまま。
・でも、チップはしっかり要求。

 「中国系の女のコは、さっさと戻って次の客を取る」とのことで、しかも「身勝手でプライドだけ高い」んだとか…。もしかしたら、黄蓉も、松本に対して、こういう態度だったんですかねぇ…

 「夜總會」の女の子にガッカリした主人公たち御一行は、気分を変えるべく、冒頭で登場したサウナとは違うサウナに繰り出します。

 マカオのサウナは、「1hのプレイ料金含め高級店で1800HK$程度、1400~1600HK$が平均だが1000HK$前後というところもあり早い時間帯ほど安い」んだそうです。松本が行ったサウナは女の子たちがふんどしで運動会をしてくれる所でしたが(第132話参照)、この漫画で主人公たちが行ったサウナでは、女の子たちは大浴場に隣接したステージでトップレスで踊ってくれます。
 中国人だけでなく、黒人系やロシア系の女の子もいるのですが、主人公はしょうこりもなくまた中国人の女の子を選びます。
 でも、この女の子は「当たり」だったらしく、主人公は大喜び。「やっぱマカオは世界でも最高の遊び場だよォ~~~ッ!!」…だそうです。

 果たして、上海のサウナとマカオのサウナは、どちらの方がお客さんからのウケがいいのでしょうか?
 次の小説の舞台はマカオでどうでしょうか、日経新聞さん?



【追記】
 この記事、「非公開」設定にして書き掛けをアップしておいたら、「非公開」の処置をくらいました。
 「非公開」の記事を「非公開」にされたのは初めてです

『甘苦上海』(326話)

《甘苦上海 326話》

 松本にはすまないと思う。けれど本当に不愉快なら、いつでも電話を切れるし、拒否して出ないことも可能だ。
「松本さん、わたしもう、駄目になってしまった。経営者失格、人間失格、女失格」
「…これまでも、別に合格やったとは思えんけどな。素が見えたんとちゃうか」
「そうかも知れない。男に夢中になって、こんなザマを晒すなんて…もっとマシな女だと思ってたけど、これが素なのかも」
「…わたしが何で、紅子さんと付き合うてると思う?」
「松本さんが、お人好しで」
「スケベ」
「…それもある」
「二番目でええ言うしな、エエコロ加減なスケベ」
「他にわたしの相手してくれる理由、何かある?」
「危なっかしいほど真っ直ぐ、欲しいもんに近付いて行く紅子さん、見てるん好きや」
「転んでしまったけど」
「わたしも、ちゃんとゲットするもんはさせて貰うてます。お金払わんで済むセッ●スとはちゃいますよ」
「何をゲット出来てる?」
「そうやな。真摯いう言葉、学生時代以来、初めて思い出したわ。ジェントルマンちゃうで」
「その言葉知ってますけど、大人が口にすると青臭く聞こえて、松本さんが言うと滑稽になる。わたしからは一番遠い形容詞よ」
「そやな。ほんまや。けど、久々にその言葉思い出したんや。女は抱いてみるもんやな」
「はあ?」
「一番近う寄ってみんと、セッ●ス以外の魅力も判らんちゅうこっちゃ」 














「女は抱いてみるもんやな」
「一番近う寄ってみんと、セッ●ス以外の魅力も判らんちゅうこっちゃ」



 来た来た来ました! また来ましたよぉ! 松本の迷言がぁ!

 松本、お前、黄蓉とさんざんセッ●スしてきたくせに、黄蓉のことを何にも判ってなかったじゃんかよ
 黄蓉が色んなオトコをキープしていたことも気付かなければ、歳をごまかしていたことも気付いてなかったじゃん


 相変わらず、松本は、言っていることとやっていることがちぐはぐですね~。第299話の時も酷かったけど、今回も酷いです。
 こんなヤツにグチをこぼしている紅子って何なの? 他にもっとマトモな知人はいないの?

 …いないんだよなぁ~これが…
 日比野は松本と同類のオトコだし…不夜はインチキ商売人だし…日本に居る妹は全く登場する気配がないし…春火は行方不明だし…マネージャーとは仕事の話しかしないし…。
 紅子って、マトモにグチをこぼせる相手って全然いないじゃん…

 紅子が、経営者としても人間としても女としても失格なのは、「人を見る目」の無さから来ているんだよな…
 なんで紅子の「人を見る目」が養われないのかというと、紅子が「自分さえよければそれでいい」という人間だからなんだよね。紅子が自分勝手だから、紅子の周囲にも同類の人間しか集まらなくて、その結果、人を見る目が養われなくなってるってわけだ。

 なにせ紅子は、周敏のような自分と違うタイプの人間が現れても、嫌がらせをして追い払って「この勝負はアタクシの勝ちだわ」だの言って自己満足に浸っているようなオンナだもんな。こんなんじゃ人を見る目なんて養われなくて当然だわな
  


  

『甘苦上海』(324話&325話)

《甘苦上海 324話&325話》

 タクシーはハイアット・リージェンシーに入る。
「ここでお茶を飲んで戻ってきますから、待っててくれる? それともここで支払いましょうか」
 運転手は待っているという。
 わたしはロビーに入っていく。
「何か、お飲み物でも」
「青島ビールと西瓜ジュース、それと別にグラスを一つ下さい」
 言ったとたんに、深い後悔が湧いた。昨夜京と一緒に飲んだ紅子スペシャルを、なぜここで注文してしまったのか。
 運ばれてきたビールと西瓜ジュースをミックスすると、手元が震えてテーブルを汚した。マドラーで掻き混ぜた後、一息に飲んだ。こんな妙な味だったっけ。甘みと苦みがわたしの喉を攻撃してくる。
 わたしはケータイを取り出す。松本の名前を電話帳から探して、発信した。
「はい」
 仕事中の畏まった声だ。また後ほど掛け直します、と言って切る。

 十分後に松本から返信が入った。
「さっきは失礼。会議終わったとこやった」
「…参ってるの。援けて欲しくて。…今ね、杭州にいるの」
「紅子さんが、なんでそんなとこにおるんや…」
「京と来たの、昨日」
「ほんで?」
「雨が降った」
「こっちは晴れやで」
「…夕立が来たの。でも傘が無かった」
「…石井はどこにいるんや、いま」
「消えたの」
「ま、ようあるこっちゃ」
「ありません、こんなこと、フツウはありません」
「ほな、石井はそこにおらんのやな」
「こんな電話、松本さんにしてるなんて、どうかしてる。切ってもいいよ」
「ほな、切ります」
 前にも、そんなやり取りがあった。どこでだったか忘れた。
「ようわからんけど、喧嘩したんやな?」
「そんなんじゃないです。黙って姿を消しただけです」
「…酷い男やな」
「松本さん、いま、ニヤっと笑ったでしょう」
「当たり前や、嬉しうて涙が出るわ」
 松本は笑ってなどいない。表情を取り落として呆然としているのが判る。













 以前、紅子は、松本に向かって、「京とは終わる」って言ってたじゃん…。
 自分が言った通りのことが起こっただけなのに、なんで紅子はうろたえてんの?

「どっちみち終わる…だから終える、それしかない」
「出来るんか」
「出来ないけど、それしかない。出来ても出来なくても、終わるのは確かだから」
「そやな、どうやっても終わるな」
第298話より)


 この会話って、「京との仲が終わることは覚悟ができている」ってことじゃなかったの?
 紅子も松本も、第298話の会話を忘れちゃったんですかねぇ…。

『甘苦上海』(323話)

《甘苦上海 323話》

 わたしはバッグを持って、部屋を飛び出す。
 京はまだ遠くに行ってはいないはずだ。正面玄関でタクシーに乗り込むと、下の通りに出てくれと頼む。とにかく、大きい通りに下りて下さい。
 運転手は、どこかに忘れ物でもしたのかと、走り出しながら問う。
「人を探しているんです」
「子供ですか」
 子供でも老人でもなく、バックパックを持った背の高い男だと言う。タクシーを待たせておいて、岳王廟の建物まで走る。タクシーに戻って、西湖をぐるりと周回する道路を走ってくれるように言う。
 途中で「いえ、こっちではないわ。バスターミナルに行って」と運転手に言う。
「バスターミナルは…駅より遠いですよ」
「では、駅にまず行って下さい」
「…公安に連絡しましょうか」
「どうして」
「何か、盗まれたのではありませんか」
 運転手の声で、ようやく冷静になる。京は、消えるつもりになって、消えたのだ。見つかるようなヘマはしない。
「運転手さん、ごめんなさいね…駅もバスターミナルも必要ないわ…どこか静かな場所で、友達に電話したいの」















 京もタクシーに乗ったかもしれないのに、そこまで考えが浮かばないとは…。よほど気が動転しているんですね。

 もし、京を見つけたとしても、何をどうするつもりなんですかねぇ、紅子は…。元々、別れるつもりだったくせに

 

せんとくんの親戚…?

 今日、「カレッタ汐留」内にある『アド・ミュージアム東京』に行ってきたのですが、帰り際に、ふと、出入り口付近にあるブロンズ像を見たら、顔が「せんとくん」に似ていることに気付きました。
 

作品名:朝露童子
製作者:籔内佐斗司氏



 『アド・ミュージアム東京』にはちょくちょく来ているので、このブロンズ像もよく目にしていたのですが、いつも後姿しか見ていなかったので、まさか「せんとくん」みないな顔をしているとは思ってもみませんでした。

 家に帰って調べてみたら、やっぱり、製作者は「せんとくん」と同じ人でした。
 

『甘苦上海』(322話)

《甘苦上海 322話》

 わたしの目が、バゲッジ台に行く。わたしのボストンバッグの横に、京のバックパックがあったはずだ。そして京は、岳王廟に出かけるとき、バックパックを持っていなかった。
 ということは、京はここに戻ってきて、バックパックを持って、出て行ったことになる。
 バスルームに行くと、京が昨夜置いていたシェイバーが無い。ヘアリキッドもない。
 わたしはベッドサイドの横のソファーに倒れ込む。ガラスのテーブルの上に、カードキーが一つ、置かれている。チェックインの時に預かった二つのキーのうちのひとつだ。
 京はわたしを、連れ出した。岳王廟でもどこでも良かった。そして一人で戻り、出て行ったのだ。すべては計画されたことだった。
 なんて男だ。なぜそんな酷いことが出来るのか。
 煮えくりかえる内蔵を千切って捨てるように、赤いクッションを掴むと床にぶつける。内蔵とともに、赤い血の色をした感情が胃袋からあふれ出し、泣き声と涙になる。なぜだ。















 京の方から一方的に別れていったことが、随分悔しいみたいですねぇ、紅子は…。
 元々、紅子は、京と別れる気マンマンだったはず。ですから、京の方から去ってくれたということは、「いちいち別れを告げる手間が省けた」ということなんですけどねぇ…。

 結局、紅子が悔し泣きしている理由ってのは、京が去った事実よりも、レンアイのイニシアチブを自分が取れなかったことに対してなんですよね。傷ついたのは自尊心であって、恋心ではないんです。


がんくうぐるめ(その13)

 久しぶりの神戸ワインネタです。

 先日、千葉県のスーパーに行ったら、「ブドウと神戸ワインのジャム」というのを発見したので、買ってみました。



 「神戸ワイン」は全国的には流通していないのに、なぜか「神戸ワインのジャム」は流通しているんですね…。
 もしかしたら、ジャムには賞味期限があるから、「賞味期限が切れる前に何とか売り切ろう!」…ということになり、やむなく全国的に流通させた…とか?
 あと、「ジャムにしてしまえば、ワインの品質の良し悪しが分からなくなる」という理由で、劣化してしまったワインをジャムに再利用した…という可能性も考えられるかもしれません。
 この商品を作っている「ホテルピエナ 神戸菓子sパトリー」さんには申し訳ないのですが、「過剰在庫を解消するために海外に輸出していた」なんていう事実を知ってしまっているので、どうしても意地悪な目で見てしまいます

 さて、食べてみた感想ですが…。
 原材料は「ぶどう・赤ワイン・砂糖」の三つだけで、ゲル化剤(ペクチン)が使われていないので、食感はジャムというよりフルーツソースに近いです。粘り気がないので、パンに塗るのには向いていません。味の方も、甘味が強すぎるので、パン向きではありません。おそらく、ワインの苦味を押さえるために、フルーツだけのジャムよりも砂糖が多く使われているのだと思います。
 紅茶に入れてロシアンティーにしたり、無糖のヨーグルトにかけたりすると、ほどよい甘さになって美味しいです。

『甘苦上海』(321話)

《甘苦上海 321話》

 京は戻って来ない。
 二十五分。雨が上がった。
 ホテルに戻るしかなさそうだ。もう傘は要らないからと、京に伝えよう。
 ケータイの電話帳から京を選んで、発信ボタンを押した。京は出ない。十回呼んだところで、切った。胸騒ぎが湧いてきた。
 もう一度掛ける。今度は八回目の呼び出しで切れた。中国では、留守録システムが充分ではない。こうしたことも電波事情では起こる。
 わたしは歩き出す。途中で立ち止まり、また電話した。けれど繋がらない。
 部屋に戻り、中を見回すが、京はいない。
「京さん…どっかに隠れてるの?」

















 今回は電話帳から京の携帯に電話をかけてますね。第272話では、わざわざ「着信記録」から京に電話をかけていましたが…。
 京から最後に着信があったのは4月頃のはずですから(第199話)、さすがにもう「着信記録」の中からは京の着信が消えてしまったということなのでしょうね。

 もし、この先、「京が行方不明」という展開になったら、この小説の中で行方不明になった登場人物は、春火に次いで2人目ということになりますね。 
 周敏の存在が完全に忘れ去られているので、このキャラもある意味「行方不明」といえなくもありませんけどね。今ごろ、どこで何をしているんですかねぇ、周敏タンは…。

『甘苦上海』(320話)

《甘苦上海 320話》

 たちまち目の前の地面が斑に染まる。
 廟の奥は暗く、走り込んできた人が濡れた身体を拭いている。旧い建物に染みこんだ木や石の臭いに、雨水と汗の匂いが混ざり合う。おまけに線香の匂い、暗闇に巣くう魑魅魍魎の吐く息も加わって、これが中国そのものだと思う。
「ホテルに戻って、傘を持ってきます」
「傘」
 そんなものは、持ってきていない。
「ホテルで貸してくれるはずです」
「もう少し待ってたら、この夕立は上がると思うけど」
「…ここで待ってて下さい」
「こんな雨、平気だってば…濡れても大丈夫だってば」
「僕の足なら十分もかかりません。ここで待ってて」
















 「暗闇に巣くう魑魅魍魎」…って、おいおい、失礼な… ここはお化け屋敷じゃないっつーの。中国の国民的英雄を祠っている場所だよ?
 もしかしたら、秦桧とその奥さんの像が、紅子の中では魑魅魍魎扱いされてるのでしょうか?

 小説の中の説明だと、あたかもこの廟は築百年とか二百年とか経っているようなニュアンスですけど、2007年度の「まっぷる」掲載の写真を見れば、現在の廟は近年になって「再建」されたものであることが明らかです。(昨日の記事参照)
 ネットで調べてみたところによると、岳廟は1961年に全国重点文物保護単位に指定され、1979年から一般公開されているそうです。
 文化大革命の期間は1960年代後半~1970年代前半のことなので、恐らく、この時にこの廟は徹底的に破壊されたはずです。1979年から一般公開されているということは、文革が終わった後に急いで「再建」され、観光スポットとしての体裁が整えられたということなのでしょう。

 2003年度版の「るるぶ」には岳廟は掲載されていないのですが、その代わりに、四川の成都にある「武候祠(ウーホウツー)」という祠堂は掲載されています。ここは三国志でお馴染みの「劉備」と「諸葛亮」が祀られている祠堂です。ここに、岳飛の筆による「出師の表」が展示されています。
 「出師の表」とは、臣下が出陣する際に君主に奉る文書のことです。諸葛亮が劉禅に奏上したものが有名なので、一般的に「出師の表」といえば諸葛亮が書いたものを指します。
 岳飛は、「武候祠」に参った時に諸葛亮の「出師の表」を目にし、自ら筆を取ってその場で書き取ったそうです。諸葛亮の筆による「出師の表」は残っていませんが、岳飛が書き取った「出師の表」は石碑にしたものが残っているため、現在、こうして「武候祠」に展示されている、というわけです。


『甘苦上海』(319話)

《甘苦上海 319話》

  出かけようか、と声をかけたのは、京だった。夕方四時の西湖はまだ真昼の暑さ。
「そうね、出かけましょう。夕食のビールのためにも、少しは汗を流さなくっちゃ」
 わたしがしたいことは、別にある。途中で終わった性がいつまでたっても収まってくれない。
「すぐ近くに、岳王廟(ユェワンミャオ)がありました」
 西湖の周囲には、いくつもの史跡や歴史的な建物、塔や洞や泉、博物館がある。その中でもシャングリ・ラに一番近い名所が岳王廟だ。
 わたしたちは、暑気の中に踏み出した。坂を下り、案内に従って歩く。タクシーで少し離れた観光スポットを訪ねればラクだったのに。
 京が手を伸ばして、わたしの手を掴んだ。出かけようと誘ったのを、申し訳なく思うのか。
 木立をくぐって、岳王廟に着いた。廟というからには、墓所だろう。
 前に立って初めて、岳飛(ユェフェイ)という憂国の士が祀られているのだと知る。
「何をした人?」
 京は答えない。
 階段を上がり、建物の下に入って振り向くと、屋根の端に真っ黒い雲がかかっている。どんどん空の真ん中に押し寄せてくる。












 2007年度版の「まっぷる」によると、岳廟の説明は、以下の通りです。

《毒殺された宋代の英雄・岳飛の墓陵》
「宋代の名将である岳飛が祭られた墓陵。岳飛は、北方から攻めてきた金に奪われた江南の地を奪回しようとしたが、秦桧の陰謀により投獄され、毒殺されてしまう。園内の檻の中には、岳飛を毒殺した秦桧とその妻の像があり、その様はまるで英雄であった岳飛を死に追いやった恨みの大きさを物語っているかのようだ。」



岳飛のお墓



岳飛像と、岳飛像が収められている大殿



岳飛を毒殺した秦桧とその妻の像





 「宋」「金」といえば、堺屋太一先生の『世界を創った男 チンギス・ハン』(『甘苦上海』の前の前に日経新聞で連載されていた小説)でお馴染みの国ですね。

 ウィキペディアによると、岳飛が生きていた時代は1103年~1141年だそうです。
 宋王朝は、金に華北を奪われ南遷した1127年以前を「北宋」、それ以降を「南宋」と呼び分けられています。岳飛は「北宋」と「南宋」をまたいで活躍した人物ということになります。

 チンギス・ハンが生きていた時代は1162年頃~1227年ですから、岳飛が亡くなって約20年後にチンギス・ハン(テムジン)が生まれたということになります。2人が生きていた時代は被っていませんが、チンギス・ハンが築き上げた「モンゴル帝国」と、岳飛が守ろうとした「宋」は、密接な関係があります。

 1233年(オゴタイ・ハンの時代)、金の首都・開封がモンゴル軍によって陥落します。金の最後の皇帝・哀帝は南に逃げましたが、モンゴル軍は宋軍と協力して哀帝を追い詰め、1234年に金は滅びます。
 その後、宋軍とモンゴル軍は戦闘状態に入り、1276年にモンゴル軍のバヤンに臨安を占領され、宋は事実上滅亡します。
 岳飛の名は、元による支配時でも漢民族の中で語り継がれ、それが現代にまで続いているというわけです。

 西湖に岳廟が建てられたのは1221年のことらしいのですが、写真を見れば、現在の廟が「再建」した姿であることは明らかです。恐らく、観光スポットとして見栄えがいいように、近年になって相当手が加えられたのだと思います。


『甘苦上海』(318話)

《甘苦上海 318話》

 京が封じているのは、わたしからの別れの言葉だ。
 …わたしは必ず言う。言えば終わる。京がわたしの中で動いている限り、言えない。
 息が苦しくなる。このまま心臓が破裂して死ぬかも知れない。
 もうだめだよ、と正直に叫ぶ。
 京が身体を離した。呻き声がわたしの顔に覆い被さる。
「京…さん」
「ごめん」
 何が起きたのか。京の下半身には、わたしを貫いたままの姿が立ち上がっている。
 京はバスルームに走り込んだ。
 十分して出てきたときは、すべてが鎮まっていた。わたしの身体以外は。
 解放寸前にまで持ち上げられた快感は、行き場を失い、全身に波を送り続けている。
「ね、どうしたの」
 京がフィニッシュしていないのは確かだ。
「…何かイヤなことを思い出したの?」
 京はゆっくりと首を横に振る。
「いいわ、意地悪するのね。続きはまた今夜ってことね」













「京が封じているのは、わたしからの別れの言葉だ」

 いや、そもそも2人は付き合ってなんかないし。
 付き合ってなんかないのに、なんで「別れの言葉」が必要なんですかねぇ?

 紅子と京がセッ●スしているのは、この2人が「付き合っている」からなわけではありません。2人の価値観が、「オトコとオンナが出会ったらセッ●スするのが当然」ということで共通しているからです。こういう価値観だから、京は行きずりのオンナと平気でセッ●スしちゃうし、紅子も妻子あるオトコと平気でセッ●スしちゃうんですよ。

 紅子から京に連絡したことはくどいほどあっても、京から紅子に連絡したことは3回程度しかありません。ということは、紅子が京に連絡しなけりゃ、自然と2人の縁が切れるってことです。
 京が自らの意思で紅子と連絡を取ったのは、”診断書”を送りつけた時(第42話)、紅子のこすっからい策略で周敏と別れるはめになった時(第136話)、春火の居場所を見つけた時(第199話)くらいのものです。でも、春火の件はただの「事務的な連絡」ですから、京が本当に自分自身の都合で紅子に連絡をとったのは、たった2回だけということになります。で、その2回の連絡の内容は何なのかというと、「分析」と「苦情」です。これが、「付き合っているオンナ」に対して送るメールですか?

 京がアポ無しで紅子の部屋に突撃したことなら2度ほどありましたけど(第73話第235話参照。他にもあったらスミマセン。)、先にアポ無し訪問をやらかしたのは紅子の方です。この小説は、紅子が「京を手に入れてやる!」と鼻息を荒くして京のアパートに向かうシーンから始まっています。ということは、この小説では、アポ無し訪問というのは「親しい間柄だから行う」というわけではないんですよね。「付き合っている」関係だからやっているわけではなくて、ただ単に自分勝手だからやっているだけの話なんです。
 
 …というわけで、紅子と京が「付き合っている」事実なんてないんですから、紅子が京に「別れ話」を切り出す気があるのはおかしいし、京が紅子の「別れ話」を封じるのもおかしいんですよね。2人は付き合ってなんかないんですから。
 一体、いつからこの小説では、2人は「付き合っている」ということになちゃったんでしょうかねぇ…。

『甘苦上海』(317話)

《甘苦上海 317話》

 翌朝の京は、目が覚めたときから不機嫌だった。
 どこかの安宿で一夜を明かした趙に電話をして、午前中の観光は取りやめたと伝える。
 仕方なく、部屋の掃除を断り、ベッドの上で休んでいると、京がわたしの右手を掴んだ。昨夜は親指の付け根が痛くて、ときどき目が覚めた。
「まだ痛いですか」
「痛い。多分、折れてる」
「こうしておけば、大丈夫」
 わたしの右手を枕の下に押し込み、麻のワンピースを脱がせる。右腕の途中でしわくちゃになったワンピースをそのままにして、用心しながらわたしを裸にする。
「御願いです…上海に帰り着くまで、言いたいことを言わないで下さい」
「言いたいこと…今言いたいことは」
「言わない方がいい」
「いえ、言いたい。言うのはわたしの勝手よ。今夜は何を食べようか? 富春(フゥチュン)リゾートまで行ってテラスで湖を見ながらお酒をのんでもいいな。それから…」
 京がわたしの下半身を持ち上げ、入ってくる。
「…今夜富春リゾートで紅子スペシャルを飲むの…若い男と高級リゾートで紅子スペシャル…わたしの夢…」
 違う、そんなものはもう夢ではない。
















 昨日ヤッたシーツの上で、またヤッてるんかい、こいつらは…。汗と、汗以外の液体で、相当汚れているんじゃないかと思うんですけどねぇ、そのシーツ…。きったねぇなぁ、もぉ~ さすがは松本の部屋の絨毯の上で平気でセッ●スしていたオンナだけありますね。(第113話参照。) ちゃんと掃除しているとは思えない絨毯の上でセッ●スできるオンナなら、当然、洗濯していないシーツも平気ってわけだ。

 紅子は、家政婦の沈燕に、普段ろくに使わないコーヒーメーカーの中までチェックして、嫌味ったらしく「綺麗にしろ」って言ってたけど(第212話参照)、これって紅子が綺麗好きだったわけではなかったってことですね。ただ、沈燕をいびりたかっただけ。
 本当に綺麗好きな人は掃除を他人任せにしないし、本当にグルメな人は外食だけでなく自宅で食べる食事にもこだわりを持つものなんですよね。

 「仕事ができるオンナのフリ」「年下のオトコにモテるオンナのフリ」「綺麗好きなフリ」「グルメなフリ」
 …紅子の姿ってまやかしばっかりですね

 ところで、紅子は、「若い男と高級リゾートで紅子スペシャル」は「もう夢ではない」といってますけど、「もう~じゃない」という言い方をしているということは、かつてはそれが夢だったということなんでしょうか?
 でも、第39話では、京とのセッ●スを「天からの褒美」だの「働き続けてきた自分へのプレゼント」だの言ってるんですけど…。年下のオトコにお金を払ってセッ●スしてもらっているという状況を「頑張った自分へのご褒美」だと思っているオンナが、「若い男と高級リゾートで紅子スペシャル(を飲むこと)」を「夢」扱いって…? わけのわからない価値観ですね。
 第39話の段階では、まだ、「若い男と高級リゾートで紅子スペシャル(を飲むこと)」は「夢」扱いではなかったということでしょうか? じゃあ、いつ頃からこれが「夢」扱いだったんでしょうかねぇ…。 




東京都写真美術館『ジョルジュ・ビゴー展』


 
 東京都写真美術館で開催中の『ジョルジュ・ビゴー展』に行ってきました。

 ジョルジュ・ビゴーといえば、「釣りの勝負」という作品(朝鮮をめぐる日本・中国・ロシアの関係を描いた風刺画)が有名です。歴史の教科書で見かけた人も多いのではないでしょうか?

 この展覧会は、ビゴー全生涯を明らかにする展覧会なので、風刺画以外の作品も展示されていました。
 この展覧会を見ると、ビゴーは最初から日本を皮肉った絵ばかり描いているわけではなく、最初の頃はごく普通に素朴な日本人の日常を描いていたことが分かります。ビゴーにとっては、見るもの全てが珍しく、そして、愛おしかったんだろうなぁ…と推測されます。

 風刺画を描き始めたのは、どうやら、急激な近代化による「ひずみ」が目立ち始めた頃だったようです。自分の愛する「古き良き日本らしさ」が失われていくことが、ビゴーにはたまらなく嫌だったようです。

 ただ、当時の日本は、近代化せざるを得ない状況でした。一刻も早く近代化しないと、列強国に飲み込まれてしまうことが明白だったからです。
 もちろんビゴーはその辺の政治的な事情は十分に分かっていたわけですが、近代化を急ぐ日本人の中には、ただやみくもに西洋文化をありがたがる風潮もありました。「古き良き日本」を愛するビゴーにしてみれば、西洋文化の真似をして喜ぶ日本人の姿は相当幻滅したと思われます。しかし、日本に西洋文化を伝播させた国の一つは、ビゴーの故郷のフランスです。もしかしたら、「自分の愛する日本の文化を侵食しているのは、自分の属するヨーロッパ文明に他ならない」というジレンマが、ビゴーを風刺画に向かわせたエネルギーだったのかもしれません。


『甘苦上海』(316話)

《甘苦上海 316話》

 わたしの肉が京を包み込んだとたん、あれほど乱暴だった京が優しくなる。
 ときどき、がむしゃらな子供になって暴れるけれど、すぐに静まる。そのたびわたしは、京の頭を抱き、撫でなくてはならない。
「…何か…言うこと…ないの?…このままいってしまうのイヤだから、何か言って」
「…覚えておいて…」
「え」
「僕を覚えておいて」
「覚えとくね。京さんはわたしの最後のオトコだから、覚えとく。忘れたら勿体ない。もっと奥に来て」
 京がシ、と言う。聞き取れない。確かシと言った。それでいい、そこでいい、の是(シィ)なのか。それともあの、音の出ないピアノのシなのか。死と言ったのかも知れない。
「…聞こえないよ京さん、いま、何て言ったの」
 けれどもう、京は動き出してしまった。
 京さんの身体を覚えとくから、もっとゆっくり、しっかり、わたしに刻みつけてください。そんなに速くしないで。
 押し流されてしまった。
 これが最後じゃないよね。
 胸の中に木霊するほど叫ぶが、ただ咳き込んだだけ。
















「京さんはわたしの最後のオトコだから、覚えとく」

 京を「最後のオトコ」だと思っっているのなら、なんで松本となんかとセッ●スしてるんですかねぇ、紅子は…。
 最後に紅子が松本と会った時(第297話第298話第299話)、なんとなく2人はもう二度とセッ●スしなさそうな雰囲気になってましたけど、それはあくまでも「そういう雰囲気」だっただけの話で、2人の関係が完全に終わったわけではありません。

 紅子の中では、松本はセッ●スフレンドだから、オトコ扱いはしていない、ということなのでしょうか? でも、読者から見たら、紅子と京の関係だって、セッ●スフレンドのようなものです。最初は紅子は京にお金を払ってセッ●スしてもらってましたから、「逆援助交際」という関係でしたけど、今の京はお金を払わなくせもセッ●スしてくれています。ということは、「松本との関係」と「京との関係」の間には、差は全然ないってことになります。ただ単に、紅子の頭の中で松本と京を比較した時に、「どっちかって言えば京の方が好き」という答えが出てくるだけの話です。

 京は、紅子にセフレ(=松本)がいることを知っているはずなのに、紅子から「あなたがわたしの最後のオトコ」と言われて、納得しちゃってるんですかねぇ…。 もしや、京は「紅子にはセフレ(=松本)がいる」という事実をすっかり忘れているのでは?


『甘苦上海』(315話)

《甘苦上海 315話》

 部屋に戻ると、抱き上げられベッドに投げ出された。男の力の強さを思い知る。わたしが対抗できるのは、言葉だけだ。
「…ああもういやだ、ちゃんと発情させてくれる男は、どこかにいないかな」
 京の唇を避けて、首を左右に振るたび、下半身が潤い、熱を持ってくる。
「…こんな若造じゃなくて、大人の男が欲しい!」
 京の手がショーツを剥ぎ取り、顔を埋めた。
 快感にまみれて、好きだと言ってしまった。
 京の両耳を太股で押さえつけているので、よほど息が苦しくなったのか、顔を上げてヘアの少し上を噛んだ。濡れた唇を擦りつけて、口の中に紛れ込んでしまったものを、必死で取り除こうとしている。
「京さん、犬! 犬みたい!」
 京が犬になって吠えてわたしに重なった。入ってこようとするので、逃げ出す。犬になんか、あげないよ。
 俯せた右手を背後から掴まれ、捩れた親指の痛みが肘にまで走る。痛みと快楽の両方が全身に広がる。
「痛いよお」
 半殺しにした獲物の乳首に、京はゆっくりと唇を置く。
 もっと抗おうか、このまま死んでしまおうか。


















 紅子は、SMごっこが相当お気に入りのようで…。いわゆる、『愛の流刑地』でいうところの、「死ぬほど快(よ)くなる」という状態ですね。
 菊治理論でいけば、紅子は今死んだらオンナとして最高に幸せってことになりますね。
 …ま、作者は意地でも『愛の流刑地』の真似はしないとは思いますけど…。

 相変わらず、この小説のセッ●スシーンは、「オ●ニーの延長」ですね。
 結局、紅子は、自分のツンデレっぷりに興奮してるだけじゃん。自分のツンデレに自分で性的にコーフンするなんて、どんだけ自己愛が強いんだよ…

 京を発情させている自分という存在にコーフンし、京に対してツンデレな態度をとっている自分という存在にコーフンし…。
 結局、相手が京じゃなくてもいいんだよね。「オトコを翻弄している自分という存在」が好きなだけ。
 だから、平気でフタマタできちゃうんですよね。「オトコから纏わりつかれている」という状況を作り出している自分という存在が一番なわけですから。自分に纏わりつくオトコが多ければ多いほど、満足感も高まるっていう寸法なわけだ。

 あ~あ、いつになったら、この小説は、「恋愛小説」になるんですかねぇ…。
 「恋愛」を優越感や達成感を満足させるための「手段」としてしか描いていない小説なんて、私は、恋愛小説とは認めませんよ


ニューオータニ美術館『小林かいちの世界』

 染井さんと一緒に、ニューオータニ美術館で開催している『小林かいちの世界 伊香保 保科美術館コレクション』に行ってきました。
(実は一ヶ月以上前に行っていたのですが、夏休みに突入してしまったので記事にするのが遅れました…



 「小林かいち」の名を初めて知ったのは、染井さんと一緒に竹久夢二美術館で『夢二と謎の画家・小林かいち展』を観に行った時でした。(詳しくは2008年3月6日2008年3月28日の記事を参照して下さい。)
 この時のお目当ては弥生美術館の『高畠華宵展』の方だったので、『夢二と謎の画家・小林かいち展』が同時開催されていたのは本当に偶然のことでした。
 染井さんと私にとっては、「小林かいち」との出会いはまさに運命でした。

 そんな運命の画家・小林かいちの展覧会が開かれるとあっては、これは行くしかない!…というわけで、二人でニューオータニ美術館に行ってきました。

 ニューオータニ美術館は、単体の建物があるわけではなく、「ホテルニューオータニ」の中の一角を美術館として使っているだけなので、美術館というより、画廊に近い雰囲気です。
 私が以前見に行った時は陶芸品が展示されていたので、展示数がかなり少なくて、何だか物足りなく感じたのですが、今回の展示物は絵葉書や封筒などの小さい作品がメインなので、かなりボリューム感がありました。

 染井さんも私も思ったのが、「かいちの描く人物は、顔がないのに、感情が伝わってくる」ということでした。「ポーズ」と「背景」だけで、「感情」が伝わってくるんです。で、その「感情」というのが、常に「嘆き」とか「悲しみ」とかなんです。
 あと、「感情」ではありませんけど、「祈り」を現している絵も多かったです。もしかしたら、キリスト教絵画の影響があるかもしれません。

 展示数のボリュームもかなりのものでしたが、無料で貰える解説書の内容もかなりの濃かったです。16ページしかない解説書なのでペラペラなのですが、現在、かいちに関して分かっていることがかなり丁寧に書いてありました。
 「皆さまの手元に残る作品を見直し、ご意見をいただくことで、かいちの『謎』を明らかにしていくことができれば幸いです」と書いてあったので、研究者としては、とにかく「埋もれた作品を発掘したい」という気持ちが強いのでしょうね。

 この記事をご覧になっている方の中で、どなたか、古い絵葉書をお持ちになっている方はいらっしゃいませんか? もしかしたら、お手持ちの絵葉書の中に、かいちの作品が眠っているかもしれませんよ~



『甘苦上海』(314話)

《甘苦上海 314話》

  京がわたしの首にキスする。
「…いつから気が付いてたの? わたしが追いかけて来たこと」
「紅子さんが、来ないわけがない」
「あきれた」
「紅子さんは正直ですね」
「なぜ、どこが」
「…本当に僕を追いかけて来たんですね」
 頭に来た。
「…いつからそんなに可愛く素直になったのですか」
「可愛くなんて、なりませんよ、絶対になりません。とくに自惚れ屋の若い男の前では」
「…もう一度、言ってみて」
 京の下半身がわたしのお尻に押しつけられる。蓮の蕾のような、固いものが腰に当たる。
「可愛くなんて、なりませんよ」
 繰り返すと、固い蕾まさらに大きく固くなる。誰かに見られているかも知れない。公安が来たら、日本語でまくしたてようと思う。
 新天地のT8で、ショーツを脱がせたこの男、何をしでかすか判らない。
「戻る!」
 と強く言う。京の腕を剥ぎ取り、掴んで、歩き出す。

















 T8でパンツを脱いだのは自分の意志じゃん。京は「脱いで」って言っただけだよ。(第254話第255話参照)
 紅子が京のいいなりにならなければならない理由なんて何もなかっじゃん。今みたいに「帰る!」って言うことができたくせに、そうしないで敢えて京の言いなりになったのは、紅子自身の意志だよ
 
 京の下半身は、第44話の頃は「プーシキン」で、第124話の頃は「ただの棒」でしたが、今回は「蓮の蕾」だそうで…。普通、「蕾」っていったら、オンナの方を暗示するので(例:腐れロリエロ漫画「ないしょのつぼみ」)、オトコの方に例えるのはちょっと珍しいですね。
 次に、京の下半身が何かに例えられるとしたら、一体何なんでしょうねぇ…。ちょっと楽しみです。

『甘苦上海』(313話)

《甘苦上海 313話》

  急ぎ足で最初の建物まで戻って来ると、甘い匂いが足元から胸へと這い上がってきた。
 京を追いかけているときは気付かなかったが、建物を取り囲むこの一帯は蓮池になっている。
「…もしかして、紅子さんではありませんか」
 傍らで不意に声がした。
「…その声はどなたですか」
 怒った声で言う。
「…あとを付けられてるのに気付かない…そう思われているなら、余程タカをくくられているのか、それとも紅子さんが鈍感な女性なのか…どっちでしょう」
「どっちも間違いでしょう。自意識過剰なナルシストなのでは? 紅子さんは散歩に出ただけなのでは? そして蓮の花の匂いに負けて佇んだ」
「歳ゆとると、人間、強情になるって言います。紅子さんもそろそろ歳ですね」
「…世界に愛されているか、嫌われているか…二つの間を行き来するしかない人のことを、ナルシストの青二才って言うの、知ってる?」
 どうだ、参ったか。
「柳の木の小さな暗がりが、隠してくれるカラダだと思いますか? この腰と胸」
 京の右手が乳房に、左手が腰に回される。














 オトコから欲情されることにエロスを感じるオンナも充分ナルシストなんだよ、紅子タン。
 しかも、図星をつかれてキレるのは、精神がガキンチョの証拠。

 京が「ナルシストの青二才」なら、紅子は「ナルシストのガキンチョ」です。「青二才の39歳」と「精神年齢がガキンチョの52歳」なら、39歳の青二才の方がナンボかマシです。「青二才」は「経験が未熟な若い人」って意味ですから、これから経験値を積んでいく余地があるって意味になります。
 …ま、39歳じゃ手遅れな感じもしますけど、精神年齢がガキンチョの52歳に比べれば、改善の可能性は少しはありますよね。

 ナルシスト同士、楽しくプレイするのは構いませんけど、せめてホテルの中に戻ってからにして下さいね。なにせそこは「小さな女の子」がウロウロしているような場所なんですから
 

『甘苦上海』(311話~312話)

《甘苦上海 311話~312話》

 京が幼い女の子の手を放して歩き出したのは、ダンスがブルースに変わったときだ。わたしもほぼ十メートルの距離を保ちながら、追う。
 ふと松本のことを考える。娘といる松本の姿が、おぼろに浮かんでくる。
 京がまた立ち止まった。
 ランニングシャツとステテコ姿の一人の老人が、路上に身体を屈めるようにして筆で文字を書いている。漢詩だろう、遠くからでは書かれた漢詩は読めないけれど、五つの漢字の横にまた五つ並んでいる。
 ずっと前だが、復興公園か襄陽公園かは忘れたけれど、平らな石の路面に水で書いた文字が、あまりに見事だったのを覚えている。中国は書道の国だったのを、あらためて思った。
 水で書いた文字は、いっとき見物人を感心させて、蒸発して消える。水を入れた空き缶と筆一本あれば、紙も墨も要らない。
 四行の漢詩を書き終えた老人は、京など目に入らぬ風に自分の作品を眺めていたが、声を掛けた京に、あらためて頷いている。
 四行の漢詩の横に、老人は一文字を書いて見せた。京が筆を受け取り、老人の筆跡をなぞる。
 老人が何かアドバイスをしたようで、京は書き直す。真剣で楽しそうな京。わたしは京のベッドでの姿しか知らないのだと思う。

 京が道を戻ってくる。わたしは柳の木の裏側に隠れる。
 京が通り過ぎた後、路上の書道家のところまで行く。
「…さっきの男性が、書いていた字は何ですか?」
「貴女も、書いてみますか?」
 滑らかな、躍動感のある一文字に見入る。「是」だった。
「…先ほどの男性が、この字を?」
「是。この字は、とても書きやすい、安定した字です。この部分は、人間の頭に見えるでしょう。この部分は人間の足です。人間が大地を踏みしめています。落ち着いた美しい字ですね。…あの男性も、この一字が好きだと言ってました」
「そう言ったのですか、本当に?」
「私に書いてみて欲しいと。貴女も試してみますか」
 わたしは胸がいっぱいになった。
「お邪魔しました。どうぞ続けてください」
 わたしは歩き出す。

 













 てっきり京は漢詩(五言絶句?)の一文字を訂正して「こっちの字を使った方がいいんじゃないの?」とアドバイスしているのかと思ったのに、ただ単に「自分の好きな漢字」を書いただけかよ…
 第311話だけを読んだときは、「漢詩を読み解けるなんて、さすがは大学院生だなぁ」とちょっと感心したのに…。ガッカリだよ

 ちなみに、「是」の字は「人間の頭」+「人間の足」ではありません。手元にある漢和辞典(旺文社・昭和52年発行(新改訂版14刷))によると、「是」は「手元に引きかけるかざりのついた匙をかたどる。匙の原字。音を借りて、これ・このなどの指示詞として用いる。」…だそうです。

 「疋」だけなら確かに「足のひざから下の部分」を表わしますけど、「是」は「飾りつきのスプーン」を象形文字化した字ですから、「是」の下の部分は明らかに「人間の足」ではありません。
 興味をお持ちになった方は、漢和辞典を引いてみて下さいね


『甘苦上海』(310話)

《甘苦上海 310話》

 真っ直ぐの堤防は左右に街灯が連なり、灯りの当たる場所だけ、空中に柳の緑が揺れている。
 遠くで音楽が鳴されている。ラジカセを路上において、四組の中年男女が社交ダンスを踊っている。上海でも、公演などでよく見かける光景だ。
 その傍にちょっと離れて立つ男。京だ。小さな女の子と手を繋いでいる。
 柳の木陰を伝うようにして近付いた。ダンスはワルツだ。男はポロシャツにズボン姿で、女たちはスカート姿もいればだぶついたズボンもいる。柳の枝葉が揺れる下でのダンスも、近くに立っている京と女の子も、幻のように紗が掛かっている。
 ラジカセの音楽が止まる。女の子がラジカセに走る。ボタンを押すとまたワルツが始まる。
 女の子は京のところに走り戻ってくると、長年親しんだ人間、いえ父親か兄にするように、ごく自然に手を伸ばして京の手を掴んだ。
 わたしは呆然となる。
 そうか、京には子供がいた。離婚して会うこともないらしいが、東京に子供がいると聞いたことがある。京の過去には、こんな一瞬もあったのだ。















 初対面のオジサンと手を繋ぐ女の子…?
 杭州の女の子は、そんなに無防備なんですか?

 多分、ダンスをしている人の中に親がいるのだろうと思いますけど、初対面のオジサンに子供を預けてダンスをする親なんているのでしょうか…?
 西湖のような名の知れた観光地なら、治安はかなり良いのだとは思いますけど、それでも初対面のオジサンに子供を預けて平気な親がいるとはとても思えません

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