更紗のタペストリー(L)

auoneblogから引っ越してきました。 主に、アート・書籍・音楽・映画などについて語ってるブログです。 もうひとつのブログ(http://sarasata.seesaa.net/)では、日経新聞の連載小説の感想を綴っています。

ライナーノーツ

『ROCKIN'ON JAPAN VOL.350』の「エレカシ3万字インタヴュー」(その4)

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その3からの続き)


宮本「俺、池袋の本屋で立ち読みしてたら、前からのファンの女の子に『宮本さん、ちょっと言いたいことがあるんですけど。宮本さんのエピック時代に感じられたあの風が、”悲しみの果て”からは感じられません』って言われたんだよね。でもそれ、俺、ほんとに嬉しかったんだよね。要するにそういうふうにしたかったから。エピックのことを好きだったみんなが、これでがっかりするんだろうなって。直接そうやって俺、言われたでしょ。結構嬉しかったですよ。してやったりじゃないけど、ようやくそういうこと言われるまでになったか(笑)って思いました」
(『ROCKIN'ON JAPAN VOL.350』58ページ)


●ところが売上っていうのは、宮本くんが決意して行こうとした方向を俄然支持するわけだよね。それでもどっかにしこりが残ってんの?
宮本「いやいや。それはもう嬉しくてしょうがなかった。目黒のスタジオでレコーディングしてる時にさ、『宮本くん、出荷が5万になったよ!』『次は7万になったよ!』。で、『ココロに花を』がタワーレコードで1位になったの。ものすげえ嬉しかった。(略)」
(『ROCKIN'ON JAPAN VOL.350』60ページ)


《当時、宮本浩次と会うたびに互いに話していたことは、いかにこの世界観を極めるかということであり、いかに妥協のない独自で本物のロックを叩きつけるかということだけだった。売れる、売れないなどどうでもよかったのだ。たが、いつか完全に勝利することを疑いもせず信じきっていたのである。》
(ライナーノーツ40行目のあたり)



 ポニーキャニオン時代のヒットを嬉しそうに語る宮本氏のインタビューを読んだ後に、ライナーノーツの「売れる、売れないなどどうでもよかったのだ」の部分を読むと、「本当かよ?」と疑いたくなります。もしかしたら、当時のROCKIN'ONの対談か何かで本当にそういう風に語っていたのかもしれませんが、当時のEPICの上の人が「イメージ作りのために対談ではこれこれこういう風に語ってくれ」と宮本氏に頼んでいたのかもしれませんし、宮本氏が気を遣って、山崎氏の期待通りの言葉を口にしていたのかもしれません。
 ・・・しかし、いずれにしても、プロでミュージシャンをやっている以上、本心から「売れる、売れないなどどうでもいい」なんて思って音楽を作っていたとは、ちょっと考えにくいことです。

 ライナーノーツの中では、「売れる、売れないなどどうでもよかった」と宮本氏が語っていたその理由を、「いかにこの世界観を極めるか」「いかに妥協のない独自で本物のロックを叩きつけるか」という”こだわり”のせいにしていますが、インタビューでは、宮本氏は「いかにこの世界観を極めるか」にも「いかに妥協のない独自で本物のロックを叩きつけるか」にもこだわっていません。ライナーノーツで山崎氏が記述している、「いかにこの世界観を極めるか」「いかに妥協のない独自で本物のロックを叩きつけるか」という”こだわり”が嘘だったのだとしたら、それを根拠とした「売れる、売れないなどどうでもよかった」という記述も、当然、嘘ということになります。

 インタビューには編集が入るでしょうから、語ったことがそのまま紙面に載るわけではないですけど、それにしても、それほど時間を開けて執筆されたとは思えないライナーノーツと比較して、「なんか矛盾してないか?」と思われてしまうような内容なのは、いかがなものでしょうか…。しかも、解釈によっては、宮本氏が嘘をついている(あるいは、かつては嘘をついていた)と取られてしまうような内容とあっては、一体、誰が得をするというのでしょうか。エレファントカシマシのメンバーも、古参のファンも、新参のファンも、ROCKIN'ONという雑誌も、全然得をしていません。
 唯一、得をしているのは、「エレファントカシマシとの仲良しっぷり」をアピールすることによって、自己顕示欲を満足させている山崎氏です。こうまで個人的な欲望をおおっぴらにしてしまうような人物では、ライターとしてもエディターとしても、問題ありだと思います。

 


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『ROCKIN'ON JAPAN VOL.350』の「エレカシ3万字インタヴュー」(その3)

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その2からの続き)


●当時は、実はそういう無謀なことばっかりやってたんだよね。客電つけたままのライヴとか。
宮本「僕はそれは好きじゃないです。もちろん武道館3千席だって、反対したんですから」
●でもそんなことばっかりやってたわけでしょう。
宮本「そう。だから神出鬼没って山崎さんに言われたけど。スライダーズとかかっこいいバンドはいたし、最初からもっと普通にやりたかったんですね。ナショナルの電池のコマーシャルのタイアップが決まったのになんで出ないんだろうとか、なんで『夜のヒットスタジオ』断るんだろうとか、僕は思ってた。だから当時は、武道館3千席っていうのは、『またそういうことやってる!』って冷めてたし、観に来てくれた人たちには悪いんだけれども、腹が減ってたのしか覚えてない。”夢のちまた”っていう曲を1曲目にやってると思うんだけど、単に腹が減って、メシ食っときゃよかったなと思ってやってたんだよ。まあ、僕のことだから、そう思いながらも武道館でやるっていうのは喜んでるはずだよ。ただ、とはいえ、まあしょうがない。それはバンド云々とは別で、世の中に生きてれば、みんなあることだと思う。ここ自分の居場所じゃないじゃないかなあ、でもがんばらなきゃ、仕事だし、って思う場面ていっぱいあるじゃん?」
(『ROCKIN'ON JAPAN VOL.350』53ページ)


 2月15日の記事で私が書いた、

《当時のEPICソニーは、コアなロックファンにだけターゲットを絞って、エレファントカシマシを売り出していました。…というか、むしろ、私にしてみれば、コアなロックファン以外の耳には入らないように努力していたようにすら見えました。》

 …という文章を裏付けるような事を宮本氏は言っています。『夜のヒットスタジオ』のオファーをEPICの人が断った、とか、「普通のライブ」をやりたかったのにやらせてもらえなかった、とか…。
 宮本氏は当時のそういう戦略を明らかに不満に思っていますが、「とはいえ、まあしょうがない。それはバンド云々は別で、世の中に生きてれば、みんなあること」と自分に言い聞かせています。これが妥協じゃなければ一体何だというのでしょうか? 山崎氏の言うところの「妥協のないロック」とやらは一体何なのでしょうか?

 ちなみに、宮本氏はこの後で、当時の境遇に対して不満ばかり持っていたわけではないことをアピールしています。


宮本「(略)俺、実際言ったの覚えてんだけど、3千人しか入んないから3千人で、それが面白いみたいな。『よっしゃあ!』みたいになってんのは、そりゃもうアホかと思うよね。でも、今こうやって持続してやってみると、それもひとつの面白さでもあるじゃん。伝説。エピック・ソニー時代のああいったものの積み重ねが、ポニーキャニオン時代の大キャンペーン作戦に流れが行ってるから。今思うとわかるけど」
(『ROCKIN'ON JAPAN VOL.350』53~54ページ)


 色々積み重ねた結果としての「現在の成功」があるから、当時のEPICの戦略を「伝説」扱いにできますけど、「成功した現在」がなかったらそんなものは「ただの失敗」でしかありません。
 …まあ、この場合は、宮本氏はEPICをフォローするために敢えてこういう言い方をしているのであって、決して自分達の過去を「武勇伝」扱いしているわけではないわけですけど。

 これの数ページ後では、宮本氏は、EPICソニー、及び、EPICとの契約が切れた後もファンでいてくれた人たち両方を気遣うような発言をしています。


●(略)ポニーキャニオンに決まって、そこから大ブレイク。
宮本「そん時って夢中だからね、わからないんですよ。でもバンドの頂点なんですよ、ある種の。僕はなにしろこのバンドで売れてやると思ったし。なんかの雑誌で、『一部の熱狂的なファンを呼んで、シーンから去った』みたいなことが書いてあったの。それをまたいい具合にコンビニとかで俺が目につけちゃって。『なんだこの野郎! 絶対4人で売れてやる!』みたいなのがあったんですよ。ほんとは『東京の空』ぐらいから、ちょっと『うわ、大変だこれから』って思ってるとこに、いい具合に契約が切れたんだよ。だからエピックの人がチャンスをくれたぐらいに僕は思ったね。僕はそう解釈した。でも、世間のみんなはわりとエピックを悪者にしてくれたんだよ。それもありがたかった。下北で『エピック馬鹿野郎! 俺の契約切りやがって!』って言うと盛り上がるみたいな。面白いもんですよ、世の中って」
(『ROCKIN'ON JAPAN VOL.350』57ページ)


 レーベルに気遣いするあまりに、リスナーを悪者扱いした山崎氏とは全然違いますね。




その4に続く)



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『ROCKIN'ON JAPAN VOL.350』の「エレカシ3万字インタヴュー」(その2)

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その1からの続き)


 それでは、インタビューの一部を引用しながら、具体的に何が『エレカシ 自選作品集 EPIC 創世記』のライナーノーツの内容と食い違っているのか、挙げていきます。


●(略)で、サードアルバムの『浮世の夢』で、いきなり歌詞が変わるじゃん。文語調のような作風に。
宮本「はい」
●その次の『生活』なんて、それの最たるものになってるけど。
宮本「ファーストアルバムとセカンドアルバムっていうのは、デビュー前からの流れでやってたんですね。要するに……僕は当時、レッド・ツェッペリンみたいなバンドになりたかったの。で、歌詞は太宰治みたいにしたかったんだよ。わかりやすく言っちゃうと。で、1枚目と2枚目はバンドサウンドでやったんだけど、でも僕は音がうるせえって思ったわけ。”待つ男”っていう曲の最後で、『長い』って僕は言ったんです。昔やった”ゴクロウサン”や、”やさしさ”や”ファイティングマン”には、もっとストレートな、無理してないよさがあった。それがすごく練習しちゃったり、いろんな評価が生まれたり、それぞれが力んだりしたことで、ドーピングされたって感じがあって。山崎さんとのインタヴューで、ファーストアルバムは何点ですかって訊かれて、僕は60点ぐらいって言ったんだけど、それはなぜかっていったら、”やさしさ”が全然違う。もっとデリケートな音だったの。だから、(『浮世の夢』では)もう一回自分の歌を取り戻したくなったんです。それがすごく出たんだと思います」
●で、歌詞も含めて変わったってこと?
宮本「そう。温度が自分の温度に近くなった。『そっちじゃない。俺はこれだ』っていう感じかなあ。(略)」
(『ROCKIN'ON JAPAN VOL.350』52ページ~53ページ)


《そしてEPIC時代の6年間に残した7枚のアルバムには、ロック・アーティストが純粋にその破格の才能と衝動と志だけでどこまで行けるのか、そのロックの臨界点が鮮烈に刻み付けられている》
(ライナーノーツ8行目のあたり)


 
 インタビューを読めば、いかに宮本氏が「自分のやりたい音楽」と「アルバムの音楽」の違いを気にしているか分かりますね? 決して、「破格の才能と衝動と志だけ」で突き進んでいこうとなんかしていません。


《売れる、売れないなどどうでもよかったのだ。だが、いつか完全に勝利することを疑いもせず信じ切っていたのである。
その純粋さと情熱があったからこそ、EPIC時代の孤高の傑作群は生まれた。》  
(ライナーノーツ43行目のあたり)



 宮本氏はファーストアルバムを「60点」としていますから、このアルバムに関しては「傑作」とは思っていません。セカンドアルバムも、「音がうるせえ」って言ってますから、満足の出来というわけではありません。アルバム全てをベタ褒めしている山崎氏とは随分評価が違いますね。


その3に続く)



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『ROCKIN'ON JAPAN VOL.350』の「エレカシ3万字インタヴュー」(その1)

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 近所のブックオフに行ったら、『ROCKIN'ON』が大量に置かれていたので、「ああ、これが、山崎洋一郎氏が編集長をしている『ROCKIN'ON』かぁ…」と思いながら分厚い背表紙を見ていたら、「エレカシ」と書かれている号(MAY 2009 VOL.350)を発見しました。
 表紙には「エレカシは行く! 3万字インタヴュー! 結成から28年間の全てを語る!」と書かれていて、面白そうなので買ってみました。
 amazonで調べてみたら、この号が発売された日は2009年4月20日でした。(裏表紙に書かれている発行日は「平成21年5月20日」。)


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 一方、先日、私がこのブログでライナーノーツへの疑問を長々と書いた『エレカシ 自選作品集 EPIC 創世記』の発売日は、2009年9月16日です。
 『ROCKIN'ON』の発売日の方がCDより5ヶ月ほど早かった、ということになります。


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 『ROCKIN'ON』のインタビューを読んで思ったのは、「ライナーノーツに書いてある事と全然違うじゃん!」ということでした。
 『ROCKIN'ON』のインタビューのページには、インタビュアーが誰なのか明記されていないのですが、インタビューの「前書き」にあたるページには「山崎洋一郎」と書かれているので、恐らく、インタビュアーも山崎氏で間違いないと思います。

 細かい部分は別途で記事にするとして、まず、インタビューの内容を大まかにご説明します。
 まずは、「エレファントカシマシ」というバンドの成り立ちについての話から始まっているのですが、これは、ウィキペディアに書いてあることとか、『扉の向こう』というドキュメンタリーで語られていることを、もっと詳しく説明している、という感じです。
 オーディションからデビューまでの流れの話は、かなり面白いです。オーディションではユニコーンや槇原敬之と一緒だった、とか。

 問題は、アルバムのリリース以降の話。これが、ライナーノーツの内容と相当矛盾しているんです。ライナーノーツでは、あたかも「エレカシはロックを極めるために妥協しないで頑張っていた!」みたいな説明になっていましたけど、インタビューには「ロックを極める」なんていう野望なんかこれっぽっちも出てきません。宮本氏の話から受ける印象だと、「ロックは手段」という感じです。「自分がやりたい(作りたい)音楽」のビジョンが既に頭の中にあって、それをどう表現するかで試行錯誤していた…みたいな感じです。ロックという「ジャンル」にこだわっている様子は全くありません。
 ライナーノーツでは「EPIC時代のエレカシは妥協しなかった」みたいに書かれていましたけど、インタビューの中で宮本氏は当時のEPICのやり方には納得していなかった、とはっきり語っています。納得していなかったけど、「仕事だから」ということで従っていたんだそうです。これって、完全に「妥協」していますよね…。

 興味深いのは、山崎氏が、EPICソニーに対して批判的なことを全く言わない、という点です。冗談交じりの皮肉さえ言っていません。
 宮本氏は、EPIC時代の不満をインタビューで語っているので、遠回しに批判しているような雰囲気になってしまっている部分があるのですが、後々、ちゃんとフォローが入っていて、EPICへの感謝をにじませています。
 一方、山崎氏は、宮本氏の「EPIC時代の不満」に同意する様子は微塵も見せず、さらっと受け流しています。おそらく、同意してしまうと、EPICを批判しているも同然になってしまうので、わざと当たり障りのない受け答えをしている、ということなのでしょう。(あるいは、実際のインタビューでは好き勝手言っていたけど、編集の際に手直ししたとか。)

 音楽雑誌の編集長をしているからには、音楽業界を敵に回すわけにはいかないでしょうから、レーベルに対する批判的な言動を慎むのは当然のことです。ライナーノーツでは、尚更レーベルの批判なんてできないでしょうし。
 ですから、私は、山崎氏がエレファントカシマシ在籍時のEPICのやり方に対して何も言わない事に関しては、特に不満はありません。音楽業界に携わる人間としては、それは当然だと思います。
 ですが、レーベルを悪く言えないからといって、「悪いのはリスナー」ということにしてしまうのは、許せません。私が『エレカシ 自選作品集 EPIC 創世記』のライナーノーツに関して長々と批判を書いていた理由は、これなんです。EPIC在籍時のエレファントカシマシが売れなかった理由をレーベルのせいにはできないから、じゃあ、責任を「当時のリスナー」になすりつけてしまえ…という卑怯なやり方に、私は不満を覚えたんです。

 音楽は所詮は「好き/嫌い」の世界です。特定の音楽を好きになれないリスナーがいたとして、それが「悪い事」なわけではありません。嫌いな対象に対して何らかの批判的な表明をすれば、その表明に対する「責任」は生じますけど、嫌いであることそのものには何の責任も生じません。

 要するに、山崎氏は、リスナーを舐めている、ということなのでしょう。業界に対する配慮はあっても、リスナーに対する配慮がないんですから。
 …というか、正確に言えば、山崎氏が配慮していないのは「昔のリスナー」に対して、ですね。ライナーノーツで「ロックを聴く耳を持たない」とみなしたのは「昔のリスナー」に対してなんですから。
 しかし、エレファントカシマシがEPICに在籍して活動していたのは、20年かそこら前の話です。50年も60年も間が開いているのならともかく、たかが20年かそこらの期間では、リスナーは丸々入れ替わっているわけではありません。当時高校生や大学生だったリスナーは今はアラフォーですけど、「音楽の趣味が昔のまま」なんていう人はたくさんいます。
 山崎氏の頭の中に、「昔のリスナー」と「今のリスナー」はある程度被っている、という認識がないため、配慮のないライナーノーツを書いてしまう結果になってしまったのでしょうね。「20年前のリスナーを馬鹿にすれば、それは、現在のリスナーの一部を馬鹿にすることに繋がる」ということに、考えが及ばなかったのでしょう。





その2に続く)

『エレカシ 自選作品集 EPIC 創世記』のライナーノーツについて(その4)

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その3からの続き)


 エレファントカシマシがEPICソニーに在籍していた当時、彼らの曲を一曲でも聴いた上で、「好き/嫌い」を判断していた人は、果たしてどれくらいいたのでしょうか? CMやドラマとのタイアップはろくにありませんでしたし、TVでの露出は『eZ』のような特殊な番組くらいのものでした。『FMステーション』のような比較的入手しやすい音楽雑誌(『FMステーション』はコンビニで入手できました)に記事が載ったとしても、扱いはごくごく小さなもので、しかもそれは、「キレた」だの「殴った」だのいう内容という始末。

 私の記憶では、EPICとの契約が切れる直前のエレファントカシマシの『FMステーション』での扱いは、メジャーデビュー直後のゴスペラーズとほぼ同じでした。ブレイクする前のゴスペラーズのことを覚えていない方には、この比較はあまり意味がないとは思いますが、覚えている方なら、大体ニュアンスは伝わりますよね?
 「ロックだから扱いが小さい」とか、そういうのではなく、単に、当時のエレファントカシマシがマイナーだったから、扱いが小さかったんです。『FMステーション』は、広く浅く、いろんなジャンルのCDを紹介する雑誌でした。売れ筋とそうでないのとでは、もちろん記事の大きさは大幅に違いましたが、「マイナーだから全く紹介しない」なんてことは決してありませんでした。
 しかし、『FMステーション』自体がマイナー雑誌でしたから(なにせのちに廃刊になってしまいましたし)、『FMステーション』でちっちゃく記事になっていたエレファントカシマシのことを覚えている人なんてごくわずかのはずです。私だって、『eZ』の件がなかったら、おそらくはほとんど気に留めなかったと思います。

 なんでもかんでもタイアップしろ、とか、とにかくテレビに出て歌いまくれ、なんて言うつもりは、もちろんありません。何事にも限度がありますし、タイミングというものもありますから。
 でも、エレファントカシマシが在籍していた6年間もの間、EPICソニーがずっとタイミングを見計らっていたとは、とても思えません。私にしてみれば、当時のEPICソニーは、リスナーの「優越感」をくすぐる戦略をとっていたようにしか見えませんでした。「エレカシの良さを分かっているのは自分だけ」とか「エレカシの良さが分からない奴は音楽を聴く耳を持っていない」とか考えているタイプの人の心をくすぐる戦略です。もちろん、こんなのは私の勝手な想像に過ぎないのですが、実際に山崎氏みたいな人がこれに当てはまっているわけですから、まんざら間違った想像でもないと思います。


《当時、宮本浩次と会うたびに互いに話していたことは、いかにこの世界観を極めるかということであり、いかに妥協のない独自で本物のロックを叩きつけるかということだけだった。》
(ライナーノーツ40行目のあたり)


 いかに「妥協のない独自で本物のロック」を叩きつけたところで、それが人々の耳に届かなければ何の意味もありません。TV・ラジオの出演にしたって、雑誌の対談にしたって、編集でいくらでもカバーできるのですから(もちろん、生放送は除きます)、宮本氏のキャラクターがメディア向きであるのかどうかなんて、関係ありません。レーベル側からの働きかけ次第で、伝えたいメッセージをきちんと伝えることはできたはずです。
 それなのに、当時、敢えて、山崎氏のような人物(あるいは『rockin' on』のようなロック専門雑誌)を通してしかアピールしなかったのは、つまりは、それもレーベル側の戦略の一つだったということです。『FMステーション』は、エレファントカシマシを無視していたわけではなく、ちっちゃくとも記事にはしていたのに、その内容が「キレた」だの「殴った」だのいう記事だなんて、レーベル側の作意を感じざるをえません。山崎氏が当時の『FMステーション』をチェックしていたのかどうかは分かりませんが、仮にチェックしていたとしたら、きっと、「FMステーションの読者ごときにエレカシのロック性が理解できるはずがない」とでも思ったでしょうし、『rockin' on』を読んでいるエレカシファンもそういう反応を示したのではないでしょうか?(私の勝手な想像なので、違っていたら申し訳ありません。)

 「どんなリスナーに聴いてもらいたいか」を考えながら曲作りすることを否定するつもりは、毛頭ありません。ですが、その曲を好きか嫌いか判断するチャンスを一部のリスナーにしか与えないのは、戦略的に正しいとは思えません。
 「一曲も聴いたことがないから判断できなかった人」と、「一曲でも聴いた上で嫌いだと判断した人」は、全然違います。その区別もつけずに、売れなかった理由を「ロック性」だけに集約し、さらにそれを武勇伝のように語る…。そんなライナーノーツに、私は疑問を持たざるをえません。

 



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『エレカシ 自選作品集 EPIC 創世記』のライナーノーツについて(その3)

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その2からの続き)


 「自分語り」だけでもイタいですけど、さらに、EPIC時代にCDが売れなかった理由まで、「ロックだから」で済ませてしまうのは、いくらなんでもあまりにも雑な分析ではないでしょうか。
 エレファントカシマシのCDが売れなかった理由は、ロック性がどうこういう問題ではなく、ろくにプロモーションをやっていなかったからなのは明白です。
 当時のEPICソニーは、コアなロックファンにだけターゲットを絞って、エレファントカシマシを売り出していました。…というか、むしろ、私にしてみれば、コアなロックファン以外の耳には入らないように努力していたようにすら見えました。(←大げさな表現なのは重々承知していますが、そう見られても仕方のないような売り出し方だったんです、本当に。)

 確かに、当時のエレファントカシマシの音楽性は万人受けはしなかったでしょうから(現在でも、当時の音楽性が万人受けするとはちょっと思えません)、ちゃんとプロモーションをしたところでミリオンセラーとかのレベルにはならなかったと思います。でも、少なくとも、「アルバム全てが1万枚かそこらしか売れない」という事態からの脱却はできたはずです。当時は空前のバンドブームでしたから、硬派なロックバンドからコミックバンドまで、様々なバンドが活躍していました。エレファントカシマシの音楽性が、ことさら特殊だったわけではありません。特殊だった点があるとすれば、「メジャーなレーベルに所属しているにも関わらず、ろくにプロモーションをしていない」という点でした。その責任は、エレファントカシマシ側にあるのではなく、もちろん、EPICソニー側にあります。アーティストにできることは、「良い音楽を作って演奏すること」だけなのですから。それをより多くの人の耳に届けるよう努力するのは、レーベル側の仕事です。
 当時のEPICソニーは、敢えて、エレファントカシマシの音楽を、一部の人の耳にしか届かないようにしていました。その「一部の人」というのは、ロック専門雑誌を読んだり、ロックフェスに行ったりするような人たち…つまり、積極的にロックというジャンルに関わる努力をしているリスナーです。

 そんなことをして、一体、EPICソニーに何のメリットがあるんだ?との疑問を持つ方もおられるかと思います。
 敢えて「売れないバンド」を抱えるメリットは、ただ一つ、「レーベルのイメージ作り」です。「EPICソニーは、色んなバンドを取り揃えて、お客様の細かいニーズに応えようとしています」と、アピールできるメリットがあります。
 エレファトカシマシがデビューした頃(1988年)はバブルの絶頂期でしたし、その上、バンドブームでもありましたから、売れないバンドを抱えるデメリットなど、売れているバンドの利益で余裕で帳消しにできたはずです。当時は「コーポレートアイデンティティ」なんてのがもてはやされていましたから、「企業のイメージ作り」というものに、今では考えられないくらいコストをかけていた時代だったんです。「マニアックな顧客のニーズにも応えられるレーベル」というイメージ作りのためなら、売れないバンドを抱えることくらい、なんでもなかったはずです。
 エレファントカシマシがEPICソニーとの契約が切れた頃(1994年)は、バブル景気は終わっていましたし、バンドブームも下降線を辿っていましたした。EPICソニーにしてみれば、売れないバンドを抱えるメリットはこの先見込めなかったはずですから、契約を更新しなかったのは当然の成り行きだったといえます。


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『エレカシ 自選作品集 EPIC 創世記』のライナーノーツについて(その2)

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 『エレカシ 自選作品集 EPIC 創世記』のライナーノーツに感じる違和感の正体は、おそらくは、山崎氏の「自画自賛」から来ています。「当時から彼らに目をつけていた自分」を褒め称えるために、「いかにEPIC時代のエレファントカシマシが売れなかったか」を強調しているようなニュアンスがあるため、違和感のあるライナーノーツとなっているんです。

 その上、過去のエレファントカシマシを取り巻く状況の説明が、私の記憶と随分食い違っています。音楽雑誌に携わっているからには、山崎氏は「業界のヒト」ですから、業界人としての目線で当時の状況を分析してしまうのは仕方のないことではあるのですが…。それにしたって、このライナーノーツから感じる視野の狭さは、いかがなものでしょうか。評論家としての面を持ってライナーノーツを書くのであれば、一般人感覚というものが必要なはずだと思うのですが…。


《しかし、この時代のエレファントカシマシはまったくと言っていいほど、売れなかった。7枚のアルバムのすべてが、発売当時は1万2千枚から3千枚程度しか売れなかった。これほどの名作群がなぜ売れないのか、当時僕には不可解を通り越して憤慨に至る思いだったが、今考えるとわかる。ポップや歌謡曲にアレンジされたロックを聴き慣れていた当時の多くの日本のリスナーの耳は、ロックの本質が剥き出しになったエレカシの音や歌詞についていけなかったのである。》
(ライナーノーツ31行目のあたり)


 普通、こういう時は、「時代が彼らを受け入れなかった」とかいう感じに、遠回しに書くものですけど、山崎氏は、EPIC時代のエレファントカシマシが売れなかった理由を、「当時のリスナーの耳」のせいにしています。つまり、当時のエレファントカシマシのCDが売れなかったのは、「当時のリスナーがロックを聴く耳を持たなかったからである」…と、まぁ、こう言いたいわけですね。

 この説明だと、あたかも、現在のリスナーは「ロックを聴く耳」を持っていて、「ロックの本質が剥き出しになったエレカシの音や歌詞」についていけているという意味になってしまいますけど、現在のロックだって大抵のものはポップや歌謡曲にアレンジされています。昔のリスナーよりも現在のリスナーの方が「ロックを聴く耳」を持っていると、どうして断定できるというのでしょうか。
 しかも、山崎氏は、当時のエレファントカシマシの「ロック性」を強調するあまり、遠回しに現在のエレファントカシマシの「ロック性」を否定していると取られても仕方の無いような書き方をしています。


《「エレファントカシマシのEPIC時代」という言葉は、破格に優れたロック・バンドが破格の才能を剥き出しにして日本のロック・シーンに登場してから壮絶な戦いを戦い切るまでの、孤高の6年間を指す。》
(ライナーノーツ5行目のあたり)

《「エレファントカシマシのEPIC時代」、それは日本のロックの歴史における一つの奇跡だ。》
(ライナーノーツ28行目のあたり)


 エレファントカシマシの「ロック性」が、過去も現在も変わっていないと思っているのであれば、こんな書き方はしないはずです。「エレファントカシマシのEPIC時代」を「孤高」だの「奇跡」だの持ち上げれば持ち上げるほど、現在の彼らの音楽を「ロックとして凡庸」だと看做している山崎氏の価値観が滲み出る結果になっています。
 「その1」の方でも触れた「妥協がどうのこうの」という部分だって、裏を返せば「のちにエレファントカシマシが売れたのは妥協したからだ」と言っているようなものですから、これも随分と失礼な話です。

 遠回しに現在のエレファントカシマシの「ロック性」を否定しておきながら、現在のエレファントカシマシの音楽が売れている理由をあたかも「現在のリスナーがロックを聴く耳を持っているから」とするのは、矛盾しています。「現代のリスナー」が殊更「昔のエレファントカシマシ」を褒め称え、「現在のエレファントカシマシ」を否定しているとでも言うのであれば、山崎氏の言っていることは納得できますが、実際には、そういうリスナーは少数派なのではないでしょうか? 現在のエレファントカシマシのファンの大部分は、「現在のエレファントカシマシの音楽性」を受け入れているはずです。そうでなければ、新作のCDを買ったり、ライブに行ったりしているファンというのは、一体何なのでしょうか。 「昔は良かったけど、今はダメだなぁ~」とか言いながらも、惰性でCDを買ったりライブに行ったりしている人たちばかりだとでも言うのでしょうか。そういうことを言っている人の大半は昔のファンであるはずだし、そういうファンは、惰性でCDなんか買わずに、あっさりとファンを止めているのではないでしょうか?

 そもそも、山崎氏の言うところの「ロックの本質」とは何なのでしょうか?
 山崎氏の主張はこうです。


《剥き出しの音と剥き出しの言葉、それは聴く人の知性によって力や勇気や希望になる。それがロックの原理だ。ロックは、優しい音や優しい言葉以上の、本当の優しい歌なのだ。》
(ライナーノーツ50行目のあたり)


 山崎氏の言いたい事は分かりますけど、ロックの定義なんて人によって解釈が違います。この方にとってのロックの定義はあくまでこの方の価値観によります。
 「ポップや歌謡曲にアレンジされたロック」で力や勇気を与えられているリスナーがいるとすれば、そういうリスナーにとってはそれがロックなのではないでしょうか? 剥き出しの音だろうが、ポップや歌謡曲というオブラートで包まれていようが、リスナーには何の関係もありません。

 「ロックの定義は人それぞれ」という考えが完全に抜け落ちているせいで、この方が褒め称えているエレファントカシマシの要素は、完全に「ロック性」だけに集約されてしまっています。「エレファントカシマシは、ロックであるゆえに良いんだ!それ以上の説明は不要だ!」…とでも言いたげです。
 もちろん、エレファントカシマシの魅力の一つに「ロック性」があることは私も認識していますが、CDを手に取る人の全員がエレファントカシマシのロック性に魅かれているとは限りません。(現に、私も、「ロックだから好き」というわけではありません。)
 山崎氏がどれほどロックにこだわっているのかは、ライナーノーツからひしひしと伝わってきます。それ自体は素晴らしいことです。でも、山崎氏のロックへのこだわりと、エレファントカシマシの魅力は、直接的には関係がありません。山崎氏の好むロック性と、EPIC時代のエレファントカシマシのロック性がたまたま一致していたからといって、どうして、CDの購入者が「山崎氏のロックへのこだわり」をアピールされなければならないのでしょうか。ライナーノーツを「自分語り」の場にするのは、編集者(あるいは音楽評論家)として、いかがなものかと思います。

 
その3に続く)



エレカシ 自選作品集 EPIC 創世記エレカシ 自選作品集 EPIC 創世記
アーティスト:エレファントカシマシ
ソニー・ミュージックダイレクト(2009-09-16)
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『エレカシ 自選作品集 EPIC 創世記』のライナーノーツについて(その1)

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 CDのライナーノーツは、「出版物」ではないせいか、時々、変な内容のものを見かけますが、『エレカシ 自選作品集 EPIC 創世記』のライナーノーツも、私から見れば首を傾げたくなるような内容になっています。

 書いている方は山崎洋一郎氏という方で、ライナーノーツには「山崎洋一郎(rockin' on)」という風に書かれています。私はこの方のお名前は全く知らなかったので、「山崎洋一郎(rockin' on)」という書き方が何を意味しているのか最初は全く分からなかったのですが、どうやら、「rockin' on というロック専門の音楽雑誌の編集長」という意味のようです。

 「今は売れているけど昔は売れていなかったアーティスト」について語る時、古参ファンは、しばしば「昔の売れなかった様」をあたかも武勇伝のように語る傾向にありますけど、この山崎氏もどうやらそういうタイプの方ようで、「いかにEPIC時代のエレファントカシマシが売れなかったか」を完全に武勇伝として語っています。

 「昔は売れていなかったけど今は売れている」という風に語っているのなら、間違いなくそれは武勇伝ですけど、「昔の売れなかった様」を武勇伝扱い…というのは、私は違和感を感じざるをえません。
 「昔は売れていなかったけど今は売れている」ということを武勇伝扱いしているのであれば、それは、そのアーティストの頑張りを褒め称えていることになりますけど、「昔の売れなかった様」を武勇伝扱いしている場合は、一体、アーティストの何を褒め称えているのでしょうか? 「売れなかったにも関わらず頑張っていたこと」でしょうか? でも、「売れている現在」だって頑張っているのであれば、「売れなかった過去における頑張り」だけを殊更褒め称えるのはおかしいです。「売れなかったけど頑張った過去」も「頑張った結果として売れている現在」もひっくるめて、アーティストを褒め称えるべきでしょう。むしろ、「売れないから頑張る」というのはどんなアーティストだってやっていることなわけで、「売れているけど昔どおり頑張り続ける」ことの方がよっぽど難しいのではないでしょうか。

 
《妥協の産物であることを宿命としていた日本のロックにおける既成概念を蹴散らすような、目の覚めるようなオリジナルな日本のロックがこの赤羽から登場した4人の若者によって恐るべき勢いで生み出されていった時代、それが「エレファントカシマシのEPIC時代」である。》
(ライナーノーツ12行目のあたり)
 
《当時、宮本浩次と会うたびに互いに話していたことは、いかにこの世界観を極めるかということであり、いかに妥協のない独自で本物のロックを叩きつけるかということだけだった。》
(ライナーノーツ40行目のあたり)


 この2ヶ所の文章から察すると、どうやら、山崎氏が褒め称えているのは、「妥協しなかったこと」のようです。「妥協すれば売れる曲を作れたけど、妥協しないで、独自の本物ロックにこだわったから、売れなかった」…というわけですね。売れなかった原因を「妥協しなかったこと」に求めているせいで、「昔の売れなかった様」を武勇伝扱いしているわけです。

 …しかし、もし、山崎氏の言うところの「妥協のない独自で本物のロック」を求めているリスナーの絶対数が少ないのであれば、CDの売り上げが少ないのは、当然のことですよね? 現に、山崎氏自身、このライナーノーツの中で、「当時のリスナーはロックを聴く耳を持っていなかった」というような事を言っています。(この件については「その2」のほうで触れます。)

 少ない需要を相手に曲を作っているアーティストなんて山のようにいますが、そういうアーティストのファンは、「好きなアーティストが売れない様」を武勇伝のようには語りません。マイノリティ相手に作った曲が万人受けしないのは当然なんですから。「当然のこと」は武勇伝にはなりえません。
 「妥協のない独自で本物のロック」=「売れない」という図式が最初から明白であったのなら、「妥協しなかったから売れなかった」ことは武勇伝にはなりえません。

 「妥協のない独自で本物のロック」を生み出すことによって「妥協のない独自で本物のロック」を愛するリスナーを増やそう…という意気込みで当時のエレファントカシマシが頑張っていた可能性もありますが、大々的な成果を挙げられなかった以上、やっぱり武勇伝にはなりえません。(私は当時のエレファントカシマシが売れなかった理由はEPIC側の責任が大きいと思っているのですが、その点については「その3」で触れます。)
 もちろん、当時、エレファントカシマシの音楽を聴いたことがきっかけで、「妥協のない独自で本物のロック」に目覚めたリスナーもいらっしゃるはずだとは思いますが、そういった方々はご自身がマイノリティであることを自覚されていると思います。

 アーティストの全てを愛するが故に、「売れなかった過去」も含めて、あらゆること武勇伝扱いしたい、というファン心理はもちろん理解できます。古参のファンというものは、自分自身の「ファンの欲目」を充分自覚しているものですから、好きなアーティストの「昔の売れなかった様」を武勇伝扱いするのは、一種の「愛情表現」といえます。
 …ですが、山崎氏が「いかにEPIC時代のエレファントカシマシが売れなかったか」を武勇伝として語る様子は、明らかに、「ファンの欲目」を逸脱しています。山崎氏がいかにEPIC時代のエレファントカシマシを愛しているのかは、充分すぎるくらいに伝わってくるのですが、このライナーノーツに感じる違和感は、「過剰なまでの愛情」だけでは説明がつきません。

 この違和感の正体は、おそらくは、山崎氏の「自画自賛」から来ています。エレファントカシマシを褒めるだけでなく、彼らを見出した自分まで褒めてしまっている…そんなニュアンスの文章なんです。


その2に続く) 



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アーティスト:エレファントカシマシ
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