2011/05/31
大人への階段と欲望と(小関×真野)
いやー、大人になったわぁ、あの子。
今日のライブ、ほぼミスなし。
そしてパフォーマンス。
いつの間にあんな大人っぽい表情するようになったんだろうか。
20歳の自覚、みたいなもんかね。
袖で見てて、こっちまでドキッとしちゃう瞬間が何度もあった。
……やっぱ好きだわ、あの子のこと。
ばたーんっ!
楽屋のドアが勢いよく開いた。
「おぜきさーんっ!お待たせしましたっ!」
「遅いよ真野ー」
帰り支度もそこそこに、真野が楽屋から出てくる。
急いでたのはわかるけど、せめて髪ぐらい整えなさいよ。
ぼさぼさの頭で、靴はかかとを踏んだまま。
ステージから降りてきたらこうだもんなぁ。
色気のかけらもありゃしない。
ま、それが真野らしいっちゃ真野らしいけど。
「??何にやにやしてるんですか?」
と、目の前に来ていた真野に首をかしげられる。
……にやにやしてた?あたし。
顔は正直だなぁ。
いやいや、そんなことを言ってる場合じゃない。
「真野ちゃんてばかわいいなぁ、と思っただけ」
「……小関さん、まさかもう酔ってたりしませんよね」
あたしが冗談めかしてそう答えると、
真野は眉間にしわを寄せて、あたしの顔を覗き込んだ。
これから打ち上げ行くってのに飲むわけないでしょうが。
「酔ってるわけないでしょ。打ち上げ行くよ」
「はーいっ」
打ち上げ会場には、もうスタッフが勢ぞろいしていた。
「よっ!本日の主役登場!」
あたしと真野が会場に着いた途端、どこからかそんな声が上がる。
そんな声に応えながら、
真野は、スタッフひとりひとりに頭を下げて自分の席につく。
いいしつけされてるなぁ。いつも思うけど。
「小関さんっ」
席についた真野に名前を呼ばれる。
「隣、どーぞっ」
満面の笑みで、誰も座っていない座布団をぽんぽんと叩く。
くっそぉ、可愛いじゃないか。
「お腹すいちゃったー。何食べよっかなぁ」
真野はメニューを熟読している。「揚げ物」と「焼き物」を行ったり来たり。
「真野、飲み物は?」
先に決めるのはこっちでしょ。
「あ、まだ飲み物頼んでなかったですね」
真野はそう言いながら「飲み物」のページをめくる。
あら?
今日は飲むもの決まってるんじゃなかった?
「今日はビール、でしょ?」
あたしがそう言うと、真野の手が止まった。
「そういえばそうでしたね」
真野が笑顔で頷く。
ライブで言ってたもんね。「今日はビールで乾杯」って。
20歳になって最初のライブなんだから、
やっぱりお酒飲まないと。
「そういえば、真野ってビール飲んだことあるの?」
「まだないんですよー。カクテルとか甘いのは飲んだんですけど」
ほう、初ビールとな。なるほどなるほど。
これは。
もしかして、もしかするかも。
やがて、出席者の前に飲み物が揃った。
「じゃあ、乾杯の音頭は真野にやってもらいましょう!」
あたしは、そう言って真野に挨拶を促す。
「ええっ!?無茶ぶりですよぉ」
そう言いながら、真野はジョッキを持って立ち上がる。
やる気満々なんじゃないの。
「えっと…20歳になって初めてのライブ、
皆さんのおかげで最高なライブになりました!
これからもよろしくお願いします!かんぱーいっ!」
こうして、打ち上げという名の飲み会が始まった。
ささ、真野ちゃん。
初ビール行ってみましょ。飲んでみましょ。
「……よし」
両手でジョッキを持ち、ビールを見つめて何やら覚悟を決めた真野。
「飲みますっ」
そう言うと、真野は一気にビールを喉へ流し込んだ。
おお、結構いくなぁ。大丈夫か?
たんっ、といい音をたてて、ジョッキがテーブルへ戻される。
ビールは4分の1ぐらい減っていた。
「…にっがぁい!ビールってこんなに苦いんですかぁ!?」
口を両手でふさぎながら真野が声が上げる。
やっぱり大人の味はまだ無理か。
こんなこともあろうかと注文しておいたジンジャーエールを差し出す。
しかし、苦いと言っておきながらそこそこ飲んだのね。根性あるわ、やっぱり。
「あたしにはまだビールは早いです…小関さん、これ代わりに飲んでくださいよぉ」
ジンジャーエールを一気に飲み干し、真野はあたしの方へジョッキを差し出してきた。
きたー!!
これを待ってたのよ!!
「しょうがないなぁ真野は」
口では、渋々、というのを装って。
「だぁってぇ」
真野が口をとがらせるのを横目で見ながら。
えーと、真野はどこに口をつけたっけな…。
……我ながら、ちょっと変態っぽいとは思うけど。
そうしたくなっちゃうくらい、真野が魅力的ってことなのよ、うん。
結局、あの後カクテルを2、3杯飲んで、真野は完全にできあがってしまった。
「真野ー?歩けるー?」
「だああいじょおおぶですよぉ」
……一応まっすぐ歩いてはいるけれど。
全然ろれつが回ってないじゃない。顔も真っ赤だし。
あたしは、真野の腰に手をまわして、支えるように並んで歩いた。
「おぜきさぁん」
甘ったるい声で真野があたしを呼ぶ。
「はいはい」
「あたしぃ、まだまだがぁんばりますよぉ」
「はいはい」
「いいうたうたってぇ、たぁくさぁんテレビとかにでてぇ」
「はいはいはいはい」
「ちゅうごくでもみてもらえるよぉになるんですぅ」
「――!」
ホントに酔ってるんだろうか、この子は。
昔から、こうと決めたらできるまでやる子だったけど。
ちゃんと約束守ろうとしてるんだ。
「中国だけ?」
「ほぇ?」
「―どうせなら、世界まで行っちゃいましょ、真野ちゃん」
「はぁいっ!」
あたしが真野の頭をぽんぽんしながら言うと、
真野はこれ以上ないってくらいに笑って挙手して答えた。
そうすれば、世界中にいるマノフレが喜んでくれるでしょ?
中国にいるあの子も、もっと喜んでくれるじゃない。
ずっと見守っていきますよ、お嬢。
今日のライブ、ほぼミスなし。
そしてパフォーマンス。
いつの間にあんな大人っぽい表情するようになったんだろうか。
20歳の自覚、みたいなもんかね。
袖で見てて、こっちまでドキッとしちゃう瞬間が何度もあった。
……やっぱ好きだわ、あの子のこと。
ばたーんっ!
楽屋のドアが勢いよく開いた。
「おぜきさーんっ!お待たせしましたっ!」
「遅いよ真野ー」
帰り支度もそこそこに、真野が楽屋から出てくる。
急いでたのはわかるけど、せめて髪ぐらい整えなさいよ。
ぼさぼさの頭で、靴はかかとを踏んだまま。
ステージから降りてきたらこうだもんなぁ。
色気のかけらもありゃしない。
ま、それが真野らしいっちゃ真野らしいけど。
「??何にやにやしてるんですか?」
と、目の前に来ていた真野に首をかしげられる。
……にやにやしてた?あたし。
顔は正直だなぁ。
いやいや、そんなことを言ってる場合じゃない。
「真野ちゃんてばかわいいなぁ、と思っただけ」
「……小関さん、まさかもう酔ってたりしませんよね」
あたしが冗談めかしてそう答えると、
真野は眉間にしわを寄せて、あたしの顔を覗き込んだ。
これから打ち上げ行くってのに飲むわけないでしょうが。
「酔ってるわけないでしょ。打ち上げ行くよ」
「はーいっ」
打ち上げ会場には、もうスタッフが勢ぞろいしていた。
「よっ!本日の主役登場!」
あたしと真野が会場に着いた途端、どこからかそんな声が上がる。
そんな声に応えながら、
真野は、スタッフひとりひとりに頭を下げて自分の席につく。
いいしつけされてるなぁ。いつも思うけど。
「小関さんっ」
席についた真野に名前を呼ばれる。
「隣、どーぞっ」
満面の笑みで、誰も座っていない座布団をぽんぽんと叩く。
くっそぉ、可愛いじゃないか。
「お腹すいちゃったー。何食べよっかなぁ」
真野はメニューを熟読している。「揚げ物」と「焼き物」を行ったり来たり。
「真野、飲み物は?」
先に決めるのはこっちでしょ。
「あ、まだ飲み物頼んでなかったですね」
真野はそう言いながら「飲み物」のページをめくる。
あら?
今日は飲むもの決まってるんじゃなかった?
「今日はビール、でしょ?」
あたしがそう言うと、真野の手が止まった。
「そういえばそうでしたね」
真野が笑顔で頷く。
ライブで言ってたもんね。「今日はビールで乾杯」って。
20歳になって最初のライブなんだから、
やっぱりお酒飲まないと。
「そういえば、真野ってビール飲んだことあるの?」
「まだないんですよー。カクテルとか甘いのは飲んだんですけど」
ほう、初ビールとな。なるほどなるほど。
これは。
もしかして、もしかするかも。
やがて、出席者の前に飲み物が揃った。
「じゃあ、乾杯の音頭は真野にやってもらいましょう!」
あたしは、そう言って真野に挨拶を促す。
「ええっ!?無茶ぶりですよぉ」
そう言いながら、真野はジョッキを持って立ち上がる。
やる気満々なんじゃないの。
「えっと…20歳になって初めてのライブ、
皆さんのおかげで最高なライブになりました!
これからもよろしくお願いします!かんぱーいっ!」
こうして、打ち上げという名の飲み会が始まった。
ささ、真野ちゃん。
初ビール行ってみましょ。飲んでみましょ。
「……よし」
両手でジョッキを持ち、ビールを見つめて何やら覚悟を決めた真野。
「飲みますっ」
そう言うと、真野は一気にビールを喉へ流し込んだ。
おお、結構いくなぁ。大丈夫か?
たんっ、といい音をたてて、ジョッキがテーブルへ戻される。
ビールは4分の1ぐらい減っていた。
「…にっがぁい!ビールってこんなに苦いんですかぁ!?」
口を両手でふさぎながら真野が声が上げる。
やっぱり大人の味はまだ無理か。
こんなこともあろうかと注文しておいたジンジャーエールを差し出す。
しかし、苦いと言っておきながらそこそこ飲んだのね。根性あるわ、やっぱり。
「あたしにはまだビールは早いです…小関さん、これ代わりに飲んでくださいよぉ」
ジンジャーエールを一気に飲み干し、真野はあたしの方へジョッキを差し出してきた。
きたー!!
これを待ってたのよ!!
「しょうがないなぁ真野は」
口では、渋々、というのを装って。
「だぁってぇ」
真野が口をとがらせるのを横目で見ながら。
えーと、真野はどこに口をつけたっけな…。
……我ながら、ちょっと変態っぽいとは思うけど。
そうしたくなっちゃうくらい、真野が魅力的ってことなのよ、うん。
結局、あの後カクテルを2、3杯飲んで、真野は完全にできあがってしまった。
「真野ー?歩けるー?」
「だああいじょおおぶですよぉ」
……一応まっすぐ歩いてはいるけれど。
全然ろれつが回ってないじゃない。顔も真っ赤だし。
あたしは、真野の腰に手をまわして、支えるように並んで歩いた。
「おぜきさぁん」
甘ったるい声で真野があたしを呼ぶ。
「はいはい」
「あたしぃ、まだまだがぁんばりますよぉ」
「はいはい」
「いいうたうたってぇ、たぁくさぁんテレビとかにでてぇ」
「はいはいはいはい」
「ちゅうごくでもみてもらえるよぉになるんですぅ」
「――!」
ホントに酔ってるんだろうか、この子は。
昔から、こうと決めたらできるまでやる子だったけど。
ちゃんと約束守ろうとしてるんだ。
「中国だけ?」
「ほぇ?」
「―どうせなら、世界まで行っちゃいましょ、真野ちゃん」
「はぁいっ!」
あたしが真野の頭をぽんぽんしながら言うと、
真野はこれ以上ないってくらいに笑って挙手して答えた。
そうすれば、世界中にいるマノフレが喜んでくれるでしょ?
中国にいるあの子も、もっと喜んでくれるじゃない。
ずっと見守っていきますよ、お嬢。
