異変~Independence Girls・第9話そばにいたいだけ(真野→?)

2011/07/14

油断~Independence Girls・第10話

「Bello!」という言葉に、強い拒絶反応を示したリサコ。

その真意を問いただすこともできず、原因はわからないまま。



リサコは、その日から気分がすぐれないようである。


Buono!が別件の仕事でいないため、
アイとチサトが、あの手この手でリサコを元気づけてみたが効果なし。

キャンピングカーは物静かな空気に包まれていた。



「アイさん、どうしよう?」

デスクで事務処理をしているアイの横に椅子を持ってきてチサトが聞く。


「リサコちゃんのこと?」

目は書類に向いたまま、アイが答える。


「うん。言葉で励ましてもダメ、好物ばかり並べてみてもダメ…どうしたら元気出るかなぁ」

そう言うとチサトはデスクに突っ伏してしまう。

アイは、それを見て書類をひょいと持ち上げた。


「……どっか行こうか?」

そのまま視線をチサトに移し、アイはにっこりと笑う。


「えっ?」

チサトの顔だけが起き上がる。


「だから、リサコちゃん連れてどこか遊びに行こう、って言ってんの」

そう言いながら、アイはすでにキャンピングカーの運転席へ歩き出していた。


「うん!行く行くー!」

嬉しそうにそう言うと、チサトは勢いよく立ちあがった。


……あくまでも、リサコのためなのだが。




アイが連れてきたのは、最近できたばかりのショッピングモールだった。


電車やモノレールの駅に直結しているため、利用者も多い。
また、映画館や遊園地も併設しているので、老若男女が楽しめるスポットである。


「うわぁ…すごーい…」

車から降りるなり、リサコが感嘆の声を上げた。

物珍しそうに周辺をきょろきょろ見回している。



「連れてきて良かったかもねっ」

その姿を見て、チサトがアイに耳打ちする。


「かもね」

アイも頷く。


「そしたらチサト、お金あげるからリサコちゃんと好きなだけ遊んどいで!」

「えっ、いいの!?」

アイの言葉に、チサトが目を輝かせる。


「いいのいいの。あたしはほら、服いっぱい見たいしさ」

アイの本音がぽろりとこぼれる。


「おっけー!じゃあ行ってくるねー!」

アイからお金を受け取るやいなや、チサトはリサコの手を取り駆け出して行った。

リサコが若干引きずられているようにも見えるが、まあ大丈夫だろう。


「気をつけてねー!」

すでに小さくなっている二人の後ろ姿に声をかけると、
アイはうきうきしながらショッピングモールへと歩いて行った。





「ねえねえリサコちゃん、どこ行きたい?遊ぶ?それとも何か食べる?」

チサトが矢継ぎ早に聞く。

「えーっとぉ…」

チサトの勢いに押されつつ、リサコは辺りを見回す。


「あ、あれ乗ってみたい」

リサコが指差した先には、大観覧車。


「えっ」

チサトは一瞬息をのんだ。

実は、チサトは高いところがあまり得意ではない。


「ダメ?」

その反応を見て、リサコの表情がわずかに曇る。


「ダメじゃないダメじゃない!乗ろう乗ろう!」

チサトは慌ててかぶりを振り、リサコの手を引いた。



直径が120mもあるうえに、もともと高台にあるこの大観覧車、
上に上がるにつれて、壮観になってくる。


「チサトちゃん!あれ見て!きれいな山だねー!」

リサコは大喜びで、四方の窓から景色を眺めている。
移動が激しいせいか、観覧車のボックスが時折激しく揺れる。


「そうだねー…自然がいっぱいだねー…」

チサトはその揺れと高さへの恐怖で、端の席に陣取り、斜め上をじっと見ていた。

床が金網になっているので、下が透けて見えるのだ。


リサコが元気になるなら、と、必死に自分に言い聞かせ、
チサトはこの数分を必死で耐え抜こうとしていた。


「あ、頂上に来たぁ!」

リサコが嬉しそうに叫んだ。


周辺にはショッピングモール以外に建物がないので、
観覧車の頂上付近は、空しか見えなくなる。

その景色は、まるで一枚の絵のようであった。


「きれい…」

窓にへばりついたまま、リサコがつぶやく。


「うわ…すごいなぁ…」

さすがのチサトも、この景色には目をみはった。



きらっ。



何かが光った。

自然光ではない何かが、一瞬ボックスに当てられた。


いち早くそれに気づいたチサトが、光の正体を探るべく辺りを見回す。


「チサトちゃん?どうしたの?」

それまでと様子が変わったので、リサコが不思議そうに首をかしげる。



今の光、どこから?

チサトは高所恐怖症も忘れ、ボックスから建物を見下ろす。


周りにはこのモールしかない。

だとすれば、光が当てられたのはモールからだと考えるのが妥当。


目を凝らし、建物周辺を隅まで観察する。


「!!」

チサトの視線が一点で止まった。その目は大きく見開かれている。



次の瞬間、チサトはリサコへ飛びついていた。



「リサコちゃん!!」

チサトが名前を呼ぶと同時に、リサコの体を窓から引きはがし、床へ伏せさせる。

「チサト――」

リサコが言いかけた次の瞬間。



窓が粉々に砕け散った。


ほんの少し前までリサコが景色を見ていた、その窓である。



「きゃああああっ!!」

リサコの悲鳴がボックスに響き渡る。

チサトは、リサコに覆いかぶさるようにしながら、透けた床から割れた窓の方を確認する。



ライフル。


先ほどの光は、スコープに太陽が反射したものだったのだ。



――Bello!に狙われている。


チサトは瞬時に状況を理解した。



相手はまだ屋上にいる。

ということは、観覧車から降りて駐車場へ向かえば逃げられる。


「アイさんに電話しておこう」

チサトはポケットから携帯電話を取り出す。



が。



『おかけの電話は電波の届かない場所にあるか、電源が入っていないためかかりません…』



「もぉー!アイさーん!」

チサトは思わず大きな声を上げた。


おそらく、買い物に集中するために携帯電話の電源を切っているのだろう。

いつものことである。



――あたしがやるしかない。


チサトは覚悟を決めた。


「リサコちゃん、立てる?」

「うん…一体どうなってるの?」

リサコはゆっくりと起き上がる。


「狙われてる、あの人たちに」

チサトは簡潔に、
そしてBello!という言葉を使わないよう気をつけながらリサコに説明する。


「地上についたと同時に、駅に向かって走るよ。
アイさんと連絡が取れないんで、車に戻っても逃げられないかもしれないから」

リサコは口を真一文字に結んで、ゆっくりと頷く。


「絶対に手は離しちゃダメだよ」

チサトはそう言うと、リサコに微笑んでみせた。


二人は息を殺し、ボックスが地上に降りてくるのを待つ。



一秒一秒が長く感じられる。

ボックスの中は、二人の息遣いと鼓動の音だけが支配していた。



地上が近づく。

外を歩いている人たちの人相が、はっきりとわかるようになってきた。



「……?」

リサコが黙って首をかしげる。


「どうしたの?」

チサトがリサコの視線の先を追う。



「係員の女の人が変わってる……」

リサコがつぶやいた。


そう言われて、チサトも係員を見てみる。



確かに違う。


観覧車に乗る時は、小柄でメガネをかけた女性だったはず。

今は、長身でロングヘアーの女性に変わっている。



そして何より、ショッピングモールの名前の入った制服を着ていない。


黒革のパンツに、白のワイシャツ。モデル並みのスタイルをしている。




――二人いたんだ。


考えていなかった。

チサトは瞬時にプランの練り直しを迫られた。


「チサトちゃん……」

リサコも状況を理解しているのか、不安そうな顔でチサトを見つめる。



徐々に出口が近付く。


係員――のふりをしているBello!のメンバー――もこちらへにじり寄ってくる。



「――よし」

覚悟を決めたように、チサトがつぶやいた。

そして立ち上がる。


リサコはチサトの立ち位置で、何をするのかわかったようだった。
一緒に立ちあがり、チサトに手を差し出す。


「行くよ、リサコちゃん」

チサトはリサコの手を取る。

リサコは大きく頷いた。



地上までは、およそ3m。



「「せーのっ!!」」



チサトとリサコは、
狙撃されて割れた窓から、地上へ飛び降りた。


それを見ていた他の客から悲鳴が上がる。



係員は不意を突かれたのか、状況がつかめなかったのか、
一瞬目を見開いたまま動きを止めた。

しかしすぐ我に返り、急いで二人を追う。



チサトとリサコは、なんとか観覧車下の草むらに着地することができた。

幸いにして怪我はないようである。


「リサコちゃん、大丈夫?」

「うん、平気!」

「走るよ!」

短い会話を交わすと、再び手をつないで走り出す。


観覧車から駅までは直線で50mほど。

電車もモノレールも乗り入れしているので、常に多くの人であふれている。


その人込みを右へ左へとかわしながら、二人は駅を目指す。


「いたー!」

と、背後から声がした。


二人が振り向くと、先ほどのニセ係員がこちらへ走ってくるのが見えた。


「マイミ!そっちから回り込んで!」

その係員は二人がいる方向とはまったく違う方へ声をかける。


チサトがそちらを向くと、同じような服を着た女性がもう一人こちらへ走ってくるのが見えた。


「もう!ユリナってば、声掛けたらあたしが挟み撃ちしようとしたのバレちゃうじゃない!」

マイミと呼ばれた女性は、全力で走りながら係員―ユリナというらしい―に文句を言う。


「挟み撃ちなんてさせないよ!」

チサトはそう言うと、走る速度を一気に上げた。

リサコもそれについていく。


チサトの身体能力は極めて高い。
100mを12秒台で走るというから、その能力はアスリート級である。

しかし、リサコもそれに平気な顔をしてついていくのである。
以前チサトと競争したことがあるのだが、写真判定が必要なほどの僅差であった。


ユリナとの差が一気に開く。

しかし、マイミとの差は開かない。むしろ縮まっているようにも見える。


(早い…!)

チサトはマイミの走りに驚きを感じていた。


このままでは追いつかれる。

せめてリサコだけでもなんとかしなければ。


必死に次の手を考えながら、チサトは全力疾走を続けた。



あえて人込みの中へ飛び込みながら、
チサトとリサコはなんとか駅へ駆け込んだ。

しかし、ユリナ・マイミの姿も近くに確認できる。


「リサコちゃん、先走って!1番ホーム!」

チサトは素早く切符を買うとリサコへ手渡す。


「チサトちゃんは?」

「すぐ行くから!早く走って!」

チサトに促され、リサコは不安そうな顔をしながらもホームへ向かった。


「遅いよ切符!」

機械のアナウンスとともに出てきた切符を乱暴に抜き取り、
急いで改札を通り抜け、チサトもホームへ走る。


「ユリナ!小さいほうの子あそこにいた!」

それに気づいたマイミがユリナに声をかけ、後を追う。




ホームにはちょうど電車がくるところであった。


「乗りまーす!!」

大きな声を上げながら、チサトが電車へ駆け込む。

反対側のドアにはリサコの姿もある。



お願い…!


チサトは心の中で祈った。



発射を告げるメロディが鳴る。



あと少し……!






「間に合っちゃった」

ドアがしまる直前、ユリナ・マイミが滑りこんできた。



来た……!


チサトはリサコの体を隠すように立った。



密室に入りこまれてしまった。逃げ場はない。



「これで逃げられないわよ」

ユリナが不敵な笑みを浮かべる。




「いーや、逃げたよ」

チサトもそう言って笑って見せた。


ユリナとマイミは顔を見合わせる。


発車メロディが鳴り終わり、電車が動き出す。



「!!」


ユリナとマイミは目を見開いた。



リサコだけ、発車してもその場にとどまり動き出さなかったのだ。


チサトとユリナ・マイミだけがどんどん駅から離れてゆく。


「どういうことなの?」

リサコの方を恨めしそうに見ながら、マイミがつぶやく。


「簡単だよ。リサコちゃんだけ同じくらいの時間に着く別の列車に乗ってたんだ。
ここの電車はドアが全面透明だから、一直線上に立てば一瞬同じ電車にいるように見えるでしょ?」

チサトがからくりを明かす。



チサトはリサコを1番ホームへ行かせた。

そして自分は遅れて改札を通り、
わざとユリナ達の目に触れたところで、隣の2番ホームへ向かう。


この二つのホームはちょうど同時刻に発車する電車があった。

そして二人とも同じ位置のドアの前に立ち、
正面から見るとふたりが同じ車両のドアのあたりに立っているように見せたのだ。



「いちかばちかの勝負だったけど、うまくいってよかった」

チサトはそう言って笑った。


そのチサトをユリナ・マイミが囲むように立つ。


「笑ってる場合じゃないわよ」

ユリナがチサトを見下ろす。


「わかってるよ、そんなこと。煮るなり焼くなり好きにしたら」

チサトはきっとユリナを見上げるような形でにらみつけた。


「話が早いわね。じゃあ好きに使わせてもらうわよ」

マイミがそういうが早いか――。


チサトがその場に崩れ落ちた。


マイミの手にはスタンガンが握られていた。



「いいエサになりそうね」

マイミが不敵に笑った。


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sarishin at 16:29│Comments(0)TrackBack(0)Independence Girls 

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