プレセント。(ももみや)奪還~Independence Girls・第12話

2011/08/31

密かな思い。(なきちさ)

「でさ、舞ちゃんってばひどいんだよぉ。千聖のことほったらかしでさー」


レコーディングの合間の休憩時間。


あたしと千聖は、近くのパスタ屋さんでお昼ご飯を食べていた。



「で、途中でいなくなっちゃって、迷子の呼び出ししてもらってさー」

上機嫌で喋り続ける千聖。

あたしは、その聞き手に徹する。


「あ、ごめんねなっきぃ。千聖ばっかりしゃべっちゃって」

千聖がそう言いながら小さく舌を出す。


「気にしなくていいよ。千聖の話聞いてるの楽しいしさ」

あたしは笑って答える。


実際、千聖の話は聞いてて飽きない。

言葉のチョイスが他の人と微妙に違う時があって、それがあたしのツボに入ったりする。


……ほかにも理由はあるけど。



「あーほら、なっきぃってば!またトマトソースついてる」

ぼーっとしながらパスタをフォークで巻いていると、
千聖が声を上げた。


「もー、世話が焼けるなぁ」

千聖の顔が近付く。


……女の子の顔になったよねぇ。

ちょっと前まで、めっちゃボーイッシュだったじゃん。


いつからこんな女っぽくなったんだろう。



いつからこんな魅力的になったんだろう。



あたしがそんなことを考えている間に、
千聖は、慣れた手つきであたしの口の端をそっと拭いていく。

……って。


「ちょっと岡さん!ナプキン使ってよ!」

あたしは思わず大きな声を出してしまった。

慌てて周りに頭を下げる。


だって……指。

千聖ってば、自分の指でソース拭くんだもん。


「いいじゃん別に。汚いもんじゃないんだからさ」

あたしの抗議にも千聖はどこ吹く風。

そして、ソースがついたままの指を――。


ちょ、ちょっと!

なにすんの千聖――!


ぺろっ。


……舐めちゃった。



「あーっ!トマトソースもおいしいー!今度はトマトソースのやつ頼もうかな」

千聖はやっぱり気にしてる様子はない。


あたしの鼓動はMAXまで早まっていた。


びっくりした。

千聖の行動があまりにも自然で、それがかえって恥ずかしくて。

あたしはしばらく千聖の顔が見られなかった。


ひとりで勝手に盛り上がってる、あたし。


でもそれは、仕方のないこと。


だって、千聖への気持ちは、誰にも教えてないから。

千聖にはもちろんだけど、℃-uteメンバーにもずっと内緒にしてる。


千聖といると、ホントに安心できる。

さりげない気遣いや、何気ない優しさ、そして、可愛い顔と可愛い声。


全部が好き。



だけど、言えない。


言っちゃいけない。



「―っきぃ!なっきぃってば!」

はっ、自分の世界に入ってた。

千聖の声で現実の世界に引き戻される。


「巻きすぎ」

千聖がそう言って、にやにやしてる。


ん?巻きすぎって?


「あ」

あたしは自分の手元を見て、すべてを理解した。


皿にあったほとんどのパスタをフォークに巻きつけていた。

どんだけぼーっとしてたの、あたし。


「中さんだいじょうぶー?」

千聖が笑顔のまま、あたしの頭をぽんぽんとなでる。


笑うと三日月形になるその目。

あたしが、千聖の顔で一番好きなとこ。


それが、今、あたしの目の前にある。



――ダメだよ、早貴。



その時、千聖の携帯が鳴った。

千聖はあわてて自分のバッグから携帯を取り出す。


電話はマネージャーさんからのようだった。



ふう。

危なく理性が崩壊するとこだった。



「ごめんなっきぃ」

電話を切った千聖が、あたしに両手を合わせてくる。

「レコーディングの予定変わって、千聖だけ先に行かなきゃいけなくなっちゃった」



……なんちゃってデート終了。


あたしは、大きなため息をひとつつく。


「……怒ってる?」

千聖がおそるおそる聞いてくる。


「怒ってるわけないでしょ」

あたしは笑って答える。


「よかったぁ」

ほんとにほっとしたように笑い、千聖は立ちあがる。


「じゃあ、先行くね」

千聖は千円札を1枚テーブルに置いて、ぱたぱたと駆けていった。


――デートみたいで楽しかったね、なんて言い残して。


その言葉、罪つくりだよ、千聖。

もし、千聖がその場にいたら、あたしはこんな言葉をぶつけてしまったかもしれない。





『みやとのデートより楽しかった?』


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sarishin at 22:34│Comments(0)TrackBack(0)キュート編 

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