道は変わっても(れなえり)こんなこともあろうかと。(やじすず)

2012/02/12

急転~Independence Girls・第14話

うす暗く、無造作に椅子とテーブルが置かれているだけの部屋。

PCのキーをたたく音だけが響いている。


「ねえマイミ、リサコのことなんだけど」

その声に手の動きが止まる。


「リサコのことはあたしも気になってる。記憶がなくなってるのは予想外よ」

声の主、ユリナの方に向きながら答える。


「あのままで取り返しても、役に立たないんじゃないの?」

「確かに…治せるのかどうかもわからないし」


「それに」

ドアが開き、エリカが顔を出す。

「万が一、今記憶が戻っちゃったら…それこそ危ないわよ」



「――処分したほうがいいかもね」



*     *     *     *



Buono!とリサコは車で中央警察本部へ向かっていた。

ミヤの幼なじみであるサキから、Bello!に関する情報があるという連絡を受けたのだ。


「今さらだけど、どうしてリサコちゃんも連れていくの?」

後部座席からアイリが聞く。


「サキも詳しくは教えてくれなかったんだけど、
直接リサコちゃんを見て確認したいことがあるんだって」

ハンドルを握りながらミヤが答える。


「もしかすると、結構いい情報かもよ」

「だといいね」

ミヤの横で、モモも頷く。



車は、まもなく市街地に入ろうとしていた。


「ひゃあっ!」

不意に車ががくんと揺れた。
うとうとしていたリサコが声を上げる。


「なにこれ!?どうなってんの?」

ミヤが叫ぶ。
ハンドルを握る手にやけに力が入っている。


「ミヤ?どうしたの?」
「車がいうこときかない!パンクしたかも――」

モモの問いにミヤが力のこもった声で答える。

その瞬間、車が大きく右にそれ、対向車線にはみ出す。
対向車がいなかったのが救いであった。

事態を知ったアイリが後部座席から身を乗り出す。

「ブレーキ踏んで!」
「踏んでるよ!でもきかないの!」


タイヤがパンク、ブレーキもきかない。

車は人通りの多い市街地へまだ惰性で走り続けている。
その制御はミヤの両腕に託されている。



がくん。


二度目の衝撃。



ミヤの制御もむなしく、車は右方向への回転を始めた。

バックミラーが真っ黒な車を一瞬捉えたのをミヤは見逃さなかった。


「伏せてーっ!!」

ミヤの声が響いた次の瞬間、
Buono!号は対向車線を横切り、歩道に乗り上げ、その先にあったレストランへ突っ込んでいった。




*    *    *    *




「……みんな、案外丈夫だよねぇ」


病院の待合室。

右腕に包帯を巻いたミヤがベンチに座りながらつぶやく。


「人のこと言えないでしょ」

隣にいたモモが小指でミヤをつっつく。
モモの額には大きな絆創膏が貼られていた。


「とにかく、みんな軽傷でよかった」

アイリが包帯を巻いた手で胸をなでおろす。


「…どうなるかと思った……」

リサコの目には涙が浮かんでいた。

リサコは、奇跡的に無傷であった。かすり傷のひとつもない。



「ミヤ、車の調査終わったよ」

小走りで病院に入ってきたのはサキ。

調査部所属のサキは本来現場に出ることはないが、
近くで車が事故を起こしたと聞いて、もしやと思い来てくれたのだ。


「やっぱり、右側の車輪2つともライフルで撃ち抜かれたみたい」

「狙撃されたってことね…」

サキの話に、ミヤは神妙な面持ちでつぶやく。


「――ごめんね」

サキが突然頭を下げる。

「あたしが呼びだしたりしなかったら、こんなことにはならなかったのに」
「やめてよ、サキのせいじゃないんだから」

ミヤが笑って即座に否定する。


「気にしないでください。誰かに狙われるのはいつものことです」

アイリもにっこりと笑って答える。



「リサコちゃん?!」


全員が声のした方を振り向く。


ひとりの看護士が診察室から出てきたところであった。

その看護士は両目をこれ以上ないくらいまで見開き、
驚愕からか、その唇はわなわなと震えていた。


「リサコちゃんを知ってるんですか?」

モモが看護士のもとへ走り寄る。


「ええ、知ってはいるけど……」

リサコの方を見る看護士の目は、恐怖にうちふるえていた。




「リサコちゃんは、2年前に亡くなったはず……」



その言葉に、今度は全員が驚きを覚える番だった。


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sarishin at 17:00│Comments(0)TrackBack(0)Independence Girls 

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