2012/06/16
一致~Independence Girls・第15話
「リサコちゃんは間違いなく、ここに入院していたわ」
マーサと名乗る看護士はゆっくりと話し出した。
「心臓の病気だったの。手術すれば治らないことはなかったんだけど、
生まれつき体が弱かったリサコちゃんは、手術に耐えられる体力がなくて」
「手術、しなかったんですか?」
アイリの問いに、マーサは黙って頷く。
「投薬治療をするしかなくて。治療というよりは延命措置ね…」
そう言いながら、マーサはポケットから写真を取り出す。
「入院してた頃のリサコちゃんよ」
全員が一斉に写真を覗き込む。
「……本当だ。リサコちゃんだ」
ミヤが隣にいるリサコと写真を見比べる。
写真にはベッドの上でピースサインをしている少女の姿。
その顔は少し幼いが、間違いなくリサコである。
「あたし……ここにいたんだ……」
リサコが写真をまじまじと見つめながらつぶやく。
「でも、さっきリサコちゃん亡くなったって……」
モモがマーサに聞く。
「ええ。あたしが看取ったもの、間違いないわ」
マーサは自信を持って答える。
「2年前の8月。夏なのに肌寒い日だった。
リサコちゃんはお昼御飯のあと、急に容態が悪くなってそのまま……」
ここまで言うと、マーサは目に涙を浮かべた。
「だから……今ここにリサコちゃんがいることが不思議で……」
マーサはリサコの顔をじっと見つめる。
当のリサコは、困惑の表情を浮かべていた。
記憶が失われているだけでなく、自分は2年前に死んだと言われる。
リサコでなくてもすんなり受け入れられる事実ではないだろう。
「あの……」
しばしの沈黙を破ったのはモモであった。
「リサコちゃんが亡くなったとして、遺体はどうしたんですか?」
もっともな疑問。
通常なら、遺体は家族が引き取るはずである。
「それが、ご家族は遺体を引き取らないとおっしゃって。
うちの付属機関に引き取りをお願いしたんです」
「付属機関?」
マーサの答えに、ミヤが首をかしげる。
「もしかして」
マーサが答えるより先に声を上げたのはサキであった。
「それって、『生命工学研究所』ではありませんか?」
「ええ、そうです」
マーサが頷く。
「ちょっとサキ、どういうこと?」
ミヤがサキの方に向き直る。
「みんなを呼んだ理由、実はこのことなの」
サキは自分のバッグからPCを取り出した。
「生命工学研究所は、人工臓器や義手、義足の研究を主にしているところで、
その研究に使用するために引き取り手のない遺体を引き取っているらしいの」
PCの画面には、なにやらリストのような表がいくつも表示されている。
「で、いろいろ調べてみたら……これ」
サキが表の一部を拡大表示する。
Buono!の3人が一斉に画面を覗き込む。
「これって……」
アイリが画面を指差す。
指差した部分には2年前の8月、
自分たちが今いる病院から少女の遺体を引き取ったことが記されていた。
少女の名前は――リサコ。
「間違いないね」
モモがPCの画面を小指で2度ほどつつく。
「それで…リサコちゃん」
「えっ?」
サキがリサコの方へ歩み寄る。
「一応確認させてほしいの。指紋取らせてもらっていいかな」
「あ、はい……」
リサコが頷くと、サキはてきぱきと作業を始めた。
スマートフォンのようなタブレットにリサコの指をのせる。
一瞬で指紋を読み取り、データはPCへ転送されていく。
サキはPCに向かい、
生命工学研究所のデータベースから遺体のデータを探る。
「確か検体のデータの中に指紋のデータがあったはず…」
Buono!とリサコは、じっとその作業を見守る。
「これだ」
サキがデータを探り当てる。
先ほど取り込んだリサコのデータと
「リサコ」とされる遺体の指紋のデータを照合する。
【一致】
PCの画面はこう表示された。
「同一人物、といって間違いないわ」
サキが全員の顔を見ながら言う。
「どういうこと……?」
アイリが眉をひそめる。
2年前に亡くなった少女が生命工学研究所なる機関に引き取られた。
しかし、その少女は今自分たちの目の前で生きている。
「探る必要がありそうだね、その研究所」
ミヤがつぶやく。
「あたしも……手伝っていい?」
そう口を開いたのは誰あろうリサコ。
「えっ!?」
モモが目を見開く。
「もしかしたら、危ないことになるかもしれないよ?」
ミヤが諭すように言う。
「わかってる。でも…自分のことだもん、自分で調べてみたいの。
みんなの邪魔にはならないようにするから…お願いっ」
リサコは一気にまくしたてると、Buono!に向かって頭を下げた。
「ここまで言われたら、仕方ないね」
アイリが笑いながら、肩をすくめた。
「4人で調べてみよっか」
モモがリサコの頭をぽんぽんと叩いた。
「ありがとうお姉ちゃん!」
リサコは頭を上げると、にっこりとほほ笑んだ。
この時、まだ誰も気づいていなかった。
マーサの姿がいつの間にかなくなっていたことに――。
「Buono!は生命工学研究所にリサコを連れていくようです。思惑通りに」
『そう…ありがとうマーサ。
運が良かったわ。まさかマーサの病院にBuono!が運び込まれるなんて』
「天はあたし達に味方してるのかもね、ユリナ」
マーサと名乗る看護士はゆっくりと話し出した。
「心臓の病気だったの。手術すれば治らないことはなかったんだけど、
生まれつき体が弱かったリサコちゃんは、手術に耐えられる体力がなくて」
「手術、しなかったんですか?」
アイリの問いに、マーサは黙って頷く。
「投薬治療をするしかなくて。治療というよりは延命措置ね…」
そう言いながら、マーサはポケットから写真を取り出す。
「入院してた頃のリサコちゃんよ」
全員が一斉に写真を覗き込む。
「……本当だ。リサコちゃんだ」
ミヤが隣にいるリサコと写真を見比べる。
写真にはベッドの上でピースサインをしている少女の姿。
その顔は少し幼いが、間違いなくリサコである。
「あたし……ここにいたんだ……」
リサコが写真をまじまじと見つめながらつぶやく。
「でも、さっきリサコちゃん亡くなったって……」
モモがマーサに聞く。
「ええ。あたしが看取ったもの、間違いないわ」
マーサは自信を持って答える。
「2年前の8月。夏なのに肌寒い日だった。
リサコちゃんはお昼御飯のあと、急に容態が悪くなってそのまま……」
ここまで言うと、マーサは目に涙を浮かべた。
「だから……今ここにリサコちゃんがいることが不思議で……」
マーサはリサコの顔をじっと見つめる。
当のリサコは、困惑の表情を浮かべていた。
記憶が失われているだけでなく、自分は2年前に死んだと言われる。
リサコでなくてもすんなり受け入れられる事実ではないだろう。
「あの……」
しばしの沈黙を破ったのはモモであった。
「リサコちゃんが亡くなったとして、遺体はどうしたんですか?」
もっともな疑問。
通常なら、遺体は家族が引き取るはずである。
「それが、ご家族は遺体を引き取らないとおっしゃって。
うちの付属機関に引き取りをお願いしたんです」
「付属機関?」
マーサの答えに、ミヤが首をかしげる。
「もしかして」
マーサが答えるより先に声を上げたのはサキであった。
「それって、『生命工学研究所』ではありませんか?」
「ええ、そうです」
マーサが頷く。
「ちょっとサキ、どういうこと?」
ミヤがサキの方に向き直る。
「みんなを呼んだ理由、実はこのことなの」
サキは自分のバッグからPCを取り出した。
「生命工学研究所は、人工臓器や義手、義足の研究を主にしているところで、
その研究に使用するために引き取り手のない遺体を引き取っているらしいの」
PCの画面には、なにやらリストのような表がいくつも表示されている。
「で、いろいろ調べてみたら……これ」
サキが表の一部を拡大表示する。
Buono!の3人が一斉に画面を覗き込む。
「これって……」
アイリが画面を指差す。
指差した部分には2年前の8月、
自分たちが今いる病院から少女の遺体を引き取ったことが記されていた。
少女の名前は――リサコ。
「間違いないね」
モモがPCの画面を小指で2度ほどつつく。
「それで…リサコちゃん」
「えっ?」
サキがリサコの方へ歩み寄る。
「一応確認させてほしいの。指紋取らせてもらっていいかな」
「あ、はい……」
リサコが頷くと、サキはてきぱきと作業を始めた。
スマートフォンのようなタブレットにリサコの指をのせる。
一瞬で指紋を読み取り、データはPCへ転送されていく。
サキはPCに向かい、
生命工学研究所のデータベースから遺体のデータを探る。
「確か検体のデータの中に指紋のデータがあったはず…」
Buono!とリサコは、じっとその作業を見守る。
「これだ」
サキがデータを探り当てる。
先ほど取り込んだリサコのデータと
「リサコ」とされる遺体の指紋のデータを照合する。
【一致】
PCの画面はこう表示された。
「同一人物、といって間違いないわ」
サキが全員の顔を見ながら言う。
「どういうこと……?」
アイリが眉をひそめる。
2年前に亡くなった少女が生命工学研究所なる機関に引き取られた。
しかし、その少女は今自分たちの目の前で生きている。
「探る必要がありそうだね、その研究所」
ミヤがつぶやく。
「あたしも……手伝っていい?」
そう口を開いたのは誰あろうリサコ。
「えっ!?」
モモが目を見開く。
「もしかしたら、危ないことになるかもしれないよ?」
ミヤが諭すように言う。
「わかってる。でも…自分のことだもん、自分で調べてみたいの。
みんなの邪魔にはならないようにするから…お願いっ」
リサコは一気にまくしたてると、Buono!に向かって頭を下げた。
「ここまで言われたら、仕方ないね」
アイリが笑いながら、肩をすくめた。
「4人で調べてみよっか」
モモがリサコの頭をぽんぽんと叩いた。
「ありがとうお姉ちゃん!」
リサコは頭を上げると、にっこりとほほ笑んだ。
この時、まだ誰も気づいていなかった。
マーサの姿がいつの間にかなくなっていたことに――。
「Buono!は生命工学研究所にリサコを連れていくようです。思惑通りに」
『そう…ありがとうマーサ。
運が良かったわ。まさかマーサの病院にBuono!が運び込まれるなんて』
「天はあたし達に味方してるのかもね、ユリナ」
