おまじない(まーどぅ)告白(ぽんぽん)

2012/09/22

素直でいいのに(おねえさんズ)

今日からいよいよ舞台本番。

稽古の時間は正直長くなかったけど、その分濃い稽古ができたはず。


目の腫れが完全に引かなかったのがちょっと悔しいけど。

でも、痛いわけじゃないし、
腫れも気づかないとこまで治ったし、気にしなきゃ大丈夫。



ん?

なんか楽屋が賑やかだけど…誰か来てるのかな。



楽屋に入ると――聞きなれた声と見慣れた二つ結び。


――二つ結び?


「あ、佐紀ちゃーん!」

他の出演者に混じって楽屋にいたのは、桃。
あたしにいち早く気付いて、ひらひらと手を振る。


「桃、どうしたの?」

遊びに来るなんて一言も言ってなかったのに。


「予定の仕事がめっちゃ早く終わったから、来てみちゃった」

「そうなんだ」


あたしは適当に返事をして、自分の席につく。

仕事終わりなんだ。
だから「ももち結び」のまんまなんだね。

普段は髪なんてなんにもしないで、ただ下ろしてるだけだもんね。



「そっけないなぁ。佐紀ちゃんはももが来たの嬉しくないの?」

桃はそう言いながら、座ってるあたしの後ろに移動してくる。


「別にー。だって桃がいるのはいつものことだし」

あたしは、わざとらしく言ってやる。

桃はそれを聞くや否や両ほほをぷうっと膨らませる。


「佐紀ちゃんてば冷たいっ。舞美は優しく迎えてくれたのにっ」

別に、と舞美が言いかけたのを遮って桃が続ける。

「まあ、それが佐紀ちゃんの照れ隠しだってわかってるけどね」

桃がにやにやしながら鏡越しにあたしを見てくる。


「て、照れてないしっ」

なにが照れ隠しなんだか。

そう思いながらも、あたしは桃の視線が張り付いている
鏡から視線をそらしてしまった。

こうなると完全に桃のペース。敵わないんだよなぁ。


「あれー?佐紀ちゃんやっぱ照れてるー?」

桃があたしの後ろから抱きついてくる。

「違うってばー」

ふりほどこうと上体を揺らしてみるけど、
桃の両腕ががっちりと組まれていて、全然外れない。


「ちょっと桃、メイクしたいんだけど」

「あっ、ごめんごめん」

あたしがちょっと強い口調で言うと、桃は素直に腕をほどいた。


「あれっ、もうこんな時間!?」

そして楽屋の時計を見て、桃が目を見開く。

「ラジオ収録行かなきゃ!みんな舞台頑張ってねー!」

そう言い残して、桃は慌ただしく楽屋を出て行った。


……嵐のような時間だったなぁ。


メイクしよっかな。
バッグからメイクポーチを取り出す。


「あのね、佐紀」

その時、舞美があたしの隣に椅子ごと寄ってきた。

「これ、桃が佐紀にって」


そして、手のひらに乗るくらいの紙袋をあたしに手渡してくれる。


「なに?これ」

「わかんない。中がなにかとか聞かなかったし」

舞美に聞いてみたけど、首をかしげるばかり。


開けてみようか。中が何か気になるし。




袋の中から出てきたのは――目薬。



「『目の腫れ、結膜炎、ものもらいに効く』だって」

舞美がにこにこしながら目薬のパッケージの文字を読む。


「照れ隠ししてたのは桃の方だよね」

舞美がにっこりとあたしの方を見つめる。


「ねぇ」

あたしはそう答えるのが精いっぱいだった。


それ以上の言葉が出てこなかった。

もう、素直じゃないんだから。



嬉しすぎるじゃん。



次からは直接ちょうだいね、桃の愛情。


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sarishin at 23:34│Comments(0)TrackBack(0)ベリーズ編 

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