2012/11/24
潜入~Independence Girls・第16話
リサコが2年前に病気で死んでいた。
そして、その遺体は『生命工学研究所』なる所へ移送されていた。
それでは、自分たちの目の前にいるリサコは――。
「潜入するしかないと思う」
長い沈黙を破ったのはミヤ。
「サキからもらった情報だけじゃ、正直わかんないことが多いし」
中央警察の諜報部員であるサキが手を尽くしてくれたが、
生命工学研究所に移送されたリサコが「何をされたのか」はわからずじまい。
肝心な部分が不透明なままで、Buono!の面々は手をこまねいていた。
そこで出たのが、ミヤの発言なのだ。
「さすがに危なすぎない?」
アイリが怪訝そうな顔をする。
「そうでもしないとリサコちゃんの秘密がわかんないよ」
「それはそうだけど…」
「じゃあやるしかないよね」
「当然潜入するのは言いだしっぺだよね?」
ミヤとアイリのやりとりに割って入ったのはモモ。
「えっ」
ミヤが目を見開く。
「モモいいこと言うねぇ。それはそうだよねぇ」
「でしょ?筋は通してもらわないと」
アイリとモモがにやにやしながらミヤを見る。
「い、行くわよ!行けばいいんでしょ!」
引くに引けなくなってしまったミヤ。
「……あたしも行く」
3人から少し離れたところに座り、状況を見守っていたリサコが口を開いた。
3人が一斉にリサコの方を振り向く。
「リサコちゃんが行くのは危険すぎるよ」
「顔を知ってる人だっているかもしれないし」
「だからあたしが行くべきだと思うの」
モモとアイリの反論に、リサコは毅然と答える。
「あたしを覚えている人がいたとしたら、
その人にあたしをどうしたのか聞けばいいし」
「でも…」
「なにより、あたしのことだもん。自分のことは自分で調べたいの」
モモが口を開こうとしたのを制し、リサコが続ける。
「――わかった」
ミヤが大きく頷く。
「あたしが責任もって守るから、一緒に行こう」
「ミヤ!?」
モモが驚きのまなざしをミヤに向ける。
「大丈夫。建物の間取りはわかってるし、
最短距離で最低限のことしてくればいいんでしょ?」
ミヤはそう言いながら、自信ありげに胸をぽんと叩く。
「本当に大丈夫なのかなぁ…」
「心配しないでアイリ。ちゃちゃっと片付けてくるから」
首をかしげるアイリの頭をミヤはぽんぽんと撫でる。
「というわけでリサコちゃん。よろしくね」
「うんっ!」
「ミヤ、リサコちゃん、聞こえる?」
『OK、聞こえてる』
『あたしも大丈夫』
Buono!号にいるモモとの無線のやりとり。
「ルートは覚えてる?」
『裏手の通用口から入って、2階南側の資料室でしょ。暗証番号は0910』
モモが最後の確認をすると、無線からはミヤの余裕のある声。
「OK。完璧だね」
『まかして』
「リサコちゃんは大丈夫?」
『ちょっとドキドキしてるけど平気』
「ミヤについて行けば大丈夫だからね」
『うん、ありがと』
モモがリサコにも声をかける。
Buono!号の後部座席では、
アイリが後ろ向きになり双眼鏡で生命工学研究所の通用口を見ていた。
「アイリ、状況はどう?」
「車が1台残ってる…あ、動いた!今なら通用口開いてる!」
モモが無線を握り直す。
「ミヤ!」
『了解!じゃあ行ってくるね!』
アイリは座り直し、ノートPCを膝の上に乗せる。
画面には研究所の見取り図。そこに赤く点滅する点が2つ。
2つの点は、まっすぐに研究所の通用口へ向かっていた。
「おつかれさまでーす」
研究所の廊下を早足で移動する作業着の2人。
回収したゴミをカートに乗せて、てきぱきと動いている。
「あれ?見慣れない顔だね」
すれ違いざま、男性の所員に声をかけられる。
「今日担当の人が二人とも風邪引いちゃいまして。代理で来ました」
「あーそうなの。大変だねぇ」
所員は頑張ってね、と言い残し、立ち去って行った。
「はぁ。びっくりしたぁ」
目深にかぶった帽子から、安堵の表情をのぞかせたのはリサコ。
「堂々としてれば大丈夫だよ」
隣のミヤが笑顔を見せる。
「でもリサコちゃん、アドリブでよくかわしたね。
あたしの方がびっくりしちゃったよ」
「口から出まかせだったけど、うまくいってよかったぁ」
まだドキドキしているのか、リサコは両手で胸をおさえる。
「あまり長くいるのはやばいかもね。早く2階に行こう」
ミヤの言葉にリサコは黙って頷いた。
「資料室はどこだっけ…」
2階に上がってきたミヤが無線に向かってつぶやく。
『階段上がったら左に曲がって。つきあたり右側のドア』
無線からモモの声。
「OK、左ね」
そう言って、廊下を左に曲がった瞬間、ミヤの足が止まった。
後をついてきていたリサコが思わずミヤの背中にぶつかる。
「どうしたの?」
「しっ!」
リサコが聞くと、ミヤは人差し指を口に当て、静かにするよう促した。
ミヤの後ろからリサコがそっと先を覗くと、
こちらに歩いてくる白衣の女性の姿があった。
遠くからでもわかる長身。
茶色のロングヘアーをなびかせて歩いてくるのは間違いなくユリナ。
2人は慌てて階段のあたりまで戻ってくる。
「どうしよう?」
リサコが不安そうな顔でミヤを見つめる。
「Bello!が普通にいたのは予定外…でも行くしかないでしょ」
ミヤは小声ながらも強い口調で答える。
「こっちも向こうに見られてるしね。さっきみたいに堂々としてれば平気よ」
リサコの手を握りウインクしてみせる。
「うん…そうだね、行こう」
リサコは不安そうにミヤを見つめていたが、
覚悟を決めたように口を真一文字に結んで頷いた。
2人は気を取り直し、資料室へと歩を進める。
角を曲がると、ユリナの姿はすぐそこにあった。
怪しまれないよう、あえて歩くスピードはゆっくりのまま。
ユリナが目の前まで近づく。
こちらには視線を向けるそぶりはない。
ユリナが2人の真横を歩いて行く。
2人の緊張は極限にまで達していた。
ユリナはそのまま、先ほど2人が来た方向へ歩いて行く。
ミヤとリサコはひときわ大きなため息をついた。
「今のはさすがに緊張したなぁ」
ミヤが胸をなでおろす。
「ね、ミヤおねえちゃん、急ごう?」
「そうだね」
緊張で涙目になっているリサコに促され、2人は走りだした。
「ここね」
資料室と書かれた扉を確認する。
横の壁に据え付けられているテンキーを見つけ、
ミヤが素早く暗証番号を入力する。
リサコがゆっくりとドアノブを回す。
「……開いた」
リサコがほっとしたようにつぶやく。
「よし、入るよ」
ミヤが素早く資料室へ入る。リサコもそれに続いた。
「これ、ちょっと資料多いかも」
ミヤが部屋全体を見回してつぶやく。
20畳ほどの部屋に、天井の高さいっぱいの本棚が所せましと並んでいる。
ほぼ全ての本棚に隙間なくファイルが収められている。
「でもこれ、年代ごとに並んでるから2年前の分を見ればいいんじゃない?」
リサコがファイルの背表紙を見ながら言う。
「なるほど!さすがリサコちゃん!」
ミヤが思わず手をぽんっと叩いた。
「このへんが2年前のファイルっぽいね」
ミヤが背表紙をずっと追っていた指を止めた。
言うが早いか、リサコもそこからファイルを抜き出して中を確認する。
「……あれ、データが飛んでる?」
ミヤがつぶやいた。
「どういうこと?」
リサコがミヤの元へ駆け寄る。
「データの番号が抜けてるの。0402、0403、0405」
「本当だ、0404がない」
「これ、怪しいね……」
「そこには、リサコのデータがあったのよ」
資料室内にミヤとリサコ以外の声が響く。
2人が顔を上げると、そこにはユリナの姿があった。
「ユリナ……」
ミヤが立ち上がり、リサコの盾になるように前に出る。
「その変装でバレないとでも思ったの?笑わせてくれるじゃない」
ユリナは不敵な笑みを浮かべながら、2人の方へ歩み寄る。
やはり気づかれていたのか。
しかし、ここまできた以上、後戻りはできない。
「近づかないで!」
ミヤが隠し持っていた拳銃をユリナに向ける。
「この状況で、随分と威勢がいいのね。撃つなら撃ちなさいよ」
それを意に介さず、ユリナは歩みを止めない。
ユリナから距離をとるため、ミヤとリサコはじりじりと後ろに下がる。
どうしてユリナは動じないのか。
拳銃を突きつけられているのに、まるでそれが見えないかのよう。
なにか反撃のすべでもあるというのか。
だとしたら、どこから、どんな攻撃を仕掛けるというのか。
ミヤは思考を巡らせながら、ユリナからの距離をとる。
「あっ…」
リサコが声を上げる。
壁際まで追いつめられ、これ以上下がれなくなってしまったのだ。
「さて、どうするのかしら?」
ユリナが更に近づく。
「くっ…」
ミヤが唇をかんだ。
そして、引き金にかけた指に力を込める。
次の瞬間。
パン、という乾いた音。
それとともに、ミヤの体が崩れ落ちる。
「ミヤおねえちゃん!!」
リサコの叫び声。
「大丈夫。死んじゃいないわ」
本棚の陰から出てきたのはマイミ。
その手には拳銃が握られていた。
リサコはすべてを悟った。
すべて先回りされていたのだ。
資料室には最初からマイミが潜んでいて、自分たちが来るのを待っていた。
そして、スチール製の本棚の隙間からミヤを狙撃したのだ、と。
「ようやくリサコを取り戻せたわ」
マイミがリサコに近づく。
「ちゃんと元通りにしてあげるからね」
恐怖に震えるリサコの頭をなでながら、マイミが怪しく微笑んだ。
そして、その遺体は『生命工学研究所』なる所へ移送されていた。
それでは、自分たちの目の前にいるリサコは――。
「潜入するしかないと思う」
長い沈黙を破ったのはミヤ。
「サキからもらった情報だけじゃ、正直わかんないことが多いし」
中央警察の諜報部員であるサキが手を尽くしてくれたが、
生命工学研究所に移送されたリサコが「何をされたのか」はわからずじまい。
肝心な部分が不透明なままで、Buono!の面々は手をこまねいていた。
そこで出たのが、ミヤの発言なのだ。
「さすがに危なすぎない?」
アイリが怪訝そうな顔をする。
「そうでもしないとリサコちゃんの秘密がわかんないよ」
「それはそうだけど…」
「じゃあやるしかないよね」
「当然潜入するのは言いだしっぺだよね?」
ミヤとアイリのやりとりに割って入ったのはモモ。
「えっ」
ミヤが目を見開く。
「モモいいこと言うねぇ。それはそうだよねぇ」
「でしょ?筋は通してもらわないと」
アイリとモモがにやにやしながらミヤを見る。
「い、行くわよ!行けばいいんでしょ!」
引くに引けなくなってしまったミヤ。
「……あたしも行く」
3人から少し離れたところに座り、状況を見守っていたリサコが口を開いた。
3人が一斉にリサコの方を振り向く。
「リサコちゃんが行くのは危険すぎるよ」
「顔を知ってる人だっているかもしれないし」
「だからあたしが行くべきだと思うの」
モモとアイリの反論に、リサコは毅然と答える。
「あたしを覚えている人がいたとしたら、
その人にあたしをどうしたのか聞けばいいし」
「でも…」
「なにより、あたしのことだもん。自分のことは自分で調べたいの」
モモが口を開こうとしたのを制し、リサコが続ける。
「――わかった」
ミヤが大きく頷く。
「あたしが責任もって守るから、一緒に行こう」
「ミヤ!?」
モモが驚きのまなざしをミヤに向ける。
「大丈夫。建物の間取りはわかってるし、
最短距離で最低限のことしてくればいいんでしょ?」
ミヤはそう言いながら、自信ありげに胸をぽんと叩く。
「本当に大丈夫なのかなぁ…」
「心配しないでアイリ。ちゃちゃっと片付けてくるから」
首をかしげるアイリの頭をミヤはぽんぽんと撫でる。
「というわけでリサコちゃん。よろしくね」
「うんっ!」
「ミヤ、リサコちゃん、聞こえる?」
『OK、聞こえてる』
『あたしも大丈夫』
Buono!号にいるモモとの無線のやりとり。
「ルートは覚えてる?」
『裏手の通用口から入って、2階南側の資料室でしょ。暗証番号は0910』
モモが最後の確認をすると、無線からはミヤの余裕のある声。
「OK。完璧だね」
『まかして』
「リサコちゃんは大丈夫?」
『ちょっとドキドキしてるけど平気』
「ミヤについて行けば大丈夫だからね」
『うん、ありがと』
モモがリサコにも声をかける。
Buono!号の後部座席では、
アイリが後ろ向きになり双眼鏡で生命工学研究所の通用口を見ていた。
「アイリ、状況はどう?」
「車が1台残ってる…あ、動いた!今なら通用口開いてる!」
モモが無線を握り直す。
「ミヤ!」
『了解!じゃあ行ってくるね!』
アイリは座り直し、ノートPCを膝の上に乗せる。
画面には研究所の見取り図。そこに赤く点滅する点が2つ。
2つの点は、まっすぐに研究所の通用口へ向かっていた。
「おつかれさまでーす」
研究所の廊下を早足で移動する作業着の2人。
回収したゴミをカートに乗せて、てきぱきと動いている。
「あれ?見慣れない顔だね」
すれ違いざま、男性の所員に声をかけられる。
「今日担当の人が二人とも風邪引いちゃいまして。代理で来ました」
「あーそうなの。大変だねぇ」
所員は頑張ってね、と言い残し、立ち去って行った。
「はぁ。びっくりしたぁ」
目深にかぶった帽子から、安堵の表情をのぞかせたのはリサコ。
「堂々としてれば大丈夫だよ」
隣のミヤが笑顔を見せる。
「でもリサコちゃん、アドリブでよくかわしたね。
あたしの方がびっくりしちゃったよ」
「口から出まかせだったけど、うまくいってよかったぁ」
まだドキドキしているのか、リサコは両手で胸をおさえる。
「あまり長くいるのはやばいかもね。早く2階に行こう」
ミヤの言葉にリサコは黙って頷いた。
「資料室はどこだっけ…」
2階に上がってきたミヤが無線に向かってつぶやく。
『階段上がったら左に曲がって。つきあたり右側のドア』
無線からモモの声。
「OK、左ね」
そう言って、廊下を左に曲がった瞬間、ミヤの足が止まった。
後をついてきていたリサコが思わずミヤの背中にぶつかる。
「どうしたの?」
「しっ!」
リサコが聞くと、ミヤは人差し指を口に当て、静かにするよう促した。
ミヤの後ろからリサコがそっと先を覗くと、
こちらに歩いてくる白衣の女性の姿があった。
遠くからでもわかる長身。
茶色のロングヘアーをなびかせて歩いてくるのは間違いなくユリナ。
2人は慌てて階段のあたりまで戻ってくる。
「どうしよう?」
リサコが不安そうな顔でミヤを見つめる。
「Bello!が普通にいたのは予定外…でも行くしかないでしょ」
ミヤは小声ながらも強い口調で答える。
「こっちも向こうに見られてるしね。さっきみたいに堂々としてれば平気よ」
リサコの手を握りウインクしてみせる。
「うん…そうだね、行こう」
リサコは不安そうにミヤを見つめていたが、
覚悟を決めたように口を真一文字に結んで頷いた。
2人は気を取り直し、資料室へと歩を進める。
角を曲がると、ユリナの姿はすぐそこにあった。
怪しまれないよう、あえて歩くスピードはゆっくりのまま。
ユリナが目の前まで近づく。
こちらには視線を向けるそぶりはない。
ユリナが2人の真横を歩いて行く。
2人の緊張は極限にまで達していた。
ユリナはそのまま、先ほど2人が来た方向へ歩いて行く。
ミヤとリサコはひときわ大きなため息をついた。
「今のはさすがに緊張したなぁ」
ミヤが胸をなでおろす。
「ね、ミヤおねえちゃん、急ごう?」
「そうだね」
緊張で涙目になっているリサコに促され、2人は走りだした。
「ここね」
資料室と書かれた扉を確認する。
横の壁に据え付けられているテンキーを見つけ、
ミヤが素早く暗証番号を入力する。
リサコがゆっくりとドアノブを回す。
「……開いた」
リサコがほっとしたようにつぶやく。
「よし、入るよ」
ミヤが素早く資料室へ入る。リサコもそれに続いた。
「これ、ちょっと資料多いかも」
ミヤが部屋全体を見回してつぶやく。
20畳ほどの部屋に、天井の高さいっぱいの本棚が所せましと並んでいる。
ほぼ全ての本棚に隙間なくファイルが収められている。
「でもこれ、年代ごとに並んでるから2年前の分を見ればいいんじゃない?」
リサコがファイルの背表紙を見ながら言う。
「なるほど!さすがリサコちゃん!」
ミヤが思わず手をぽんっと叩いた。
「このへんが2年前のファイルっぽいね」
ミヤが背表紙をずっと追っていた指を止めた。
言うが早いか、リサコもそこからファイルを抜き出して中を確認する。
「……あれ、データが飛んでる?」
ミヤがつぶやいた。
「どういうこと?」
リサコがミヤの元へ駆け寄る。
「データの番号が抜けてるの。0402、0403、0405」
「本当だ、0404がない」
「これ、怪しいね……」
「そこには、リサコのデータがあったのよ」
資料室内にミヤとリサコ以外の声が響く。
2人が顔を上げると、そこにはユリナの姿があった。
「ユリナ……」
ミヤが立ち上がり、リサコの盾になるように前に出る。
「その変装でバレないとでも思ったの?笑わせてくれるじゃない」
ユリナは不敵な笑みを浮かべながら、2人の方へ歩み寄る。
やはり気づかれていたのか。
しかし、ここまできた以上、後戻りはできない。
「近づかないで!」
ミヤが隠し持っていた拳銃をユリナに向ける。
「この状況で、随分と威勢がいいのね。撃つなら撃ちなさいよ」
それを意に介さず、ユリナは歩みを止めない。
ユリナから距離をとるため、ミヤとリサコはじりじりと後ろに下がる。
どうしてユリナは動じないのか。
拳銃を突きつけられているのに、まるでそれが見えないかのよう。
なにか反撃のすべでもあるというのか。
だとしたら、どこから、どんな攻撃を仕掛けるというのか。
ミヤは思考を巡らせながら、ユリナからの距離をとる。
「あっ…」
リサコが声を上げる。
壁際まで追いつめられ、これ以上下がれなくなってしまったのだ。
「さて、どうするのかしら?」
ユリナが更に近づく。
「くっ…」
ミヤが唇をかんだ。
そして、引き金にかけた指に力を込める。
次の瞬間。
パン、という乾いた音。
それとともに、ミヤの体が崩れ落ちる。
「ミヤおねえちゃん!!」
リサコの叫び声。
「大丈夫。死んじゃいないわ」
本棚の陰から出てきたのはマイミ。
その手には拳銃が握られていた。
リサコはすべてを悟った。
すべて先回りされていたのだ。
資料室には最初からマイミが潜んでいて、自分たちが来るのを待っていた。
そして、スチール製の本棚の隙間からミヤを狙撃したのだ、と。
「ようやくリサコを取り戻せたわ」
マイミがリサコに近づく。
「ちゃんと元通りにしてあげるからね」
恐怖に震えるリサコの頭をなでながら、マイミが怪しく微笑んだ。
