秘密のお願い(まりでぃー)笑顔の約束(いしどぅー)

2017/09/18

Call me.(はーちぇる)



とある日のリハーサルスタジオ。


ジャージに着替えたメンバーが雑談をしている。

あたしもその中に加わって、
メンバーとしょうもない話で盛り上がっている。



「おはよーございまーす」

スタジオのドアが開き、姿を見せたのは春水ちゃん。


珍しいな。

メンバーの中でも春水ちゃんは待ち合わせとかには
割と早く来てるタイプなのに。

寝坊でもしたのかな。



「春水ちゃん、おはよ」

あたしは、こっちに向かって歩いてきた春水ちゃんに手を振る。


「おはよ、美希ちゃん」

そう言って、春水ちゃんは更衣室へと消えていく。




えっ?




ええっ!?



ちょ、ちょっと待って?



今、春水ちゃん、あたしのこと、なんて呼んだ?




「ね、よこやん」

「はい?」

あたしはぼーっとした頭のまま、隣にいたよこやんに声をかける。


「今、春水ちゃんなんて言ってた?」

「えっと、『美希ちゃん』って」

「やっぱりそうだよねぇ!!」


よこやんが話し終わらないうちに、
あたしはよこやんの両肩をがっちりとつかんでいた。


「やっぱ『美希ちゃん』って言ったよね!」

「は、はいっ、言ってましたよ」

あたしに肩をつかまれて、
前後にがくがくと揺さぶられながら
よこやんが答えてくれる。



びっくりした。

急に顔がぼんって音立てたかと思うくらい、
一気に熱くなった。


春水ちゃん、どうしたの……?


これまでは『野中ちゃん』か『野中氏』としか
呼んでくれたことなかったのに。


「ね、はーちんって、前から『美希ちゃん』って呼んでた?」
「まりあ、初めて聞いたかも」

あかねちんと真莉愛がひそひそと話してるのが聞こえる。


……初めてだよ。

あたしが、今初めて聞いたんだから。


呼ばれ方変わるって、こんなにドキッとするんだ。



でも、どうして急に?


あたしの中に浮かぶ素朴な疑問。



……本人に聞く、しかないよね。うん。



あたしは、更衣室にいる春水ちゃんのところへ向かった。


更衣室のドアをノックして、中に入る。


「な、なに?どないしたん?」

春水ちゃんがびっくりした様子で振り返る。



……ちゃんと着替え終わってた。

確認する前に更衣室に入っちゃった。ごめんね。



「ね、春水ちゃん」

「な、なに?」


あたしは、春水ちゃんとの距離をぐんぐんと詰める。

春水ちゃんは後ずさり、背中をロッカーにぶつける。


「どうして、あたしのこと
『美希ちゃん』って呼んでくれたの?」

「……気づいた?」

春水ちゃんは、うつむきながら答えた。


気づくよ、そりゃ。


「誰にも、言わんといてな」


消え入りそうな声で、春水ちゃんがつぶやく。

あたしは、黙って小さく頷いた。


「なんか、距離感あるなぁって思て」

「……えっ?」


距離感?


「『野中氏』って、他人行儀な感じせえへん?」

言われてみれば、確かに。

「せやから、ちょっと親しげな呼び方してみよかなって」

なんだ、そういうことだったのかぁ。



「それと」


それと?
まだ何かあるのかな。


「最近、美希ちゃん他の子と仲良くしてるやんか」

……え?

「なんか、それ見てたら、こう…イラっとなんねん」

春水ちゃん?

「せやから、美希ちゃんともっと近づきたいな、って」


そう言いながら、春水ちゃんの顔がみるみる赤くなっていく。

「さっき、めっちゃ頑張って、呼んでみたんやで」

最後は本当に消え入りそうな声で、
うつむいたまま春水ちゃんがつぶやいた。




嬉しいな。

春水ちゃんが、あたしのことをそんなに思ってくれてるなんて。


「春水ちゃん」

あたしの声に、春水ちゃんは真っ赤な顔を上げる。

「いいよ」

あたしは、春水ちゃんににっこりと微笑んでみせる。



「あたしのこと、もっと『美希ちゃん』って呼んで?」

春水ちゃんが目を丸くする。



「『美希ちゃん』って呼ばれて、あたしも嬉しかったから」


びっくりしたけどね。

でも、すごく嬉しかった。

今のメンバーで、
あたしのこと『美希ちゃん』って呼ぶ人いないからなおさら。


春水ちゃんは、さらに顔を赤く染めてこくこくと頷いた。



「じゃあ、スタジオで待ってるね」

あたしは、更衣室を後にした。



「野中さん、尾形さんと何してたんですか?」

更衣室から出てくるや否や、よこやんがあたしに近寄る。

「え、別に、何も?ちょっと話をしただけで」

「うっそだぁ」

よこやんが、にやにやしながらあたしを指差す。


「野中さん、さっきよりも顔真っ赤ですよ」

「……へっ?」

「尾形さんと何してたら、そんな顔赤くするんですか?」

よこやんが正面からあたしに抱きつき、追及を始める。


「いや、これは、あ、暑いからっ」

「空調きいてますよ、ここ」

「さ、さっき準備運動したせいかな?」

「そんな時間差で顔赤くなりませんよ」


よこやんの追及をかわしきれない。


「……美希ちゃん、一緒に柔軟体操やってくれへん?」

更衣室から出てきた春水ちゃんが、恥ずかしそうにつぶやく。

その顔は、まだほんのりと赤かった。


「あー!尾形さんも顔赤ーい!」

それを見て、よこやんがニヤニヤしながら声を上げる。


「尾形さん!野中さんと何があったんですかっ!」

よこやんの追及のターゲットが春水ちゃんに変わった。



まさか、あたしも照れてたなんて、ね。



美希ちゃん、か。


ふふふっ。


すごく、好きかもしれない。







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sarishin at 00:54│Comments(0)モーニング編 

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