2017年05月16日

「恋がヘタでも生きてます」恋とトラウマ ⭐︎⭐︎⭐︎





Girl(初回限定盤)(DVD付)
秦基博
Universal Music =music=
2017-05-03




社長になりたい主人公が社長の座を奪った男性と付き合うという「恋がヘタでも生きてます」にはまってしまいました。

なぜ恋がヘタな人がいるのかを理解できるストーリーが面白く、フワリ羽根のような女性は登場人物の誰を示しているのか、少し考えてしまいましたが、秦さんの主題歌も感傷的で耳に残り、深夜枠というのが意外でした。

「生きています」という言葉が、まず生死、安全を求めるトラウマからのサバイバーが使いそうな言葉遣いだという印象を受け釣られて第1話を見ました。

メインストーリーは主人公美沙の不器用な恋愛。美紗は、美人でスタイルもよく服装が派手でギャンギャンわめきつつも仕事のできる女王蜂のような女性で、複数の男性にキスを迫られてしまいます。恋愛経験が豊富なニューヨーク帰りの社長司も過去の恋に囚われていましたが、恋愛だけ奥手な美紗に惹かれていきます。

実は、この話は派手なメインストーリーも良いのですが、サイドストーリーの方がオリジナリティは高いかもしれません。清楚な受付嬢、千尋と主人公と同じ会社で働き恋愛はセフレで十分だと語る橋本の純愛に惹かれます。

登場人物達はそれぞれ恋愛の失敗を味わっています。ただ過去の失敗から生じた後遺症のような今の恋愛に戸惑う登場人物のなか、無垢な千尋だけが現在進行中で傷ついていくので、支配欲を満たされるような心地で、不健康かもしれませんが癒されます。



しつけの厳しい家で大事に育てられたホンワカとした専業主婦になりそうな千尋は、両親から束縛されすぎたのか、自分を見失っている恋ヘタ女性でした。

婚約者にマグロと評され、隣の受付嬢と浮気されたことを苦にして、千尋は婚約指輪を池に投げ、婚約指輪を無くしてはならないと考えて自ら指輪を探そうとして池に入水し溺れてしまいます。

事故のはずですが、無意識の自傷のような行動に、ホンワカとした彼女が厳しい環境で表現できずにいる深い悲しみを察してしまいます。

1人暮らしを今まで見守ってくれていた親友は、社長に求愛されて、社長に夢中になり自分の頼りにならなくなってしまうという、千尋にとって共同生活をしながらも辛い時期だったのだろうと感じました。



運が悪いことに池で千尋を救命したのは主人公の会社でも女性関係では悪名高い橋本。何らかのトラウマにより感情を失い、性の快感だけを求め複数の女性と付き合っているかのような破滅的人生を橋本は生き延びています。そんな危険な橋本に巻き込まれて、また千尋が被害をうけないかヒヤヒヤしてしまいます。

ヒヨコのような千尋は橋本に接近して悩みを打ち明けてしまい、婚約者や友人を失いかけた千尋の拠り所に橋本の存在が変化していきます。橋本は、セックスを教えることを約束して都合よく千尋をセフレにしてしまいます。

意外と千尋はたくましく、橋本の教えをうけてマグロから自ら意志をもち発進するセックスができるカツオへと成長したようで、婚約者の気持ちを取り戻すのでした。もちろん、それでハッピーエンドとはならず、千尋は婚約を破棄します。そこまでは、浮気を繰り返す婚約者とは毅然と別れるのも正解だと思えました。

しかし、千尋は橋本のセフレに志願して、結婚退職後に水商売へ走ります。過剰適応してきたかもしれない彼女の社会的地位の堕落や自暴自棄さにハラハラしました。



追い討ちをかけるように、婚約者を寝とった受付嬢は、千尋に妬みを感じていて千尋の好きになった橋本まで寝取ってしまい、また千尋の心を傷つけて楽しむことを予感してしまいます。

しかし意外にも、感情が麻痺していたかのような現実の恋愛を回避していた橋本が千尋に恋をするのでした。支配して油断していた千尋が、婚約者とヨリを戻し、意外にも傷つけられた橋本はイラつきを覚え始めます。主人公が橋本のセフレはビッチだと侮辱すると、橋本は彼女はビッチではない、成長しているのだと主張します。

橋本が千尋を捨て難くなったのは、千尋の同居人である主人公による第三者介入を受け正当化したからなのかもしれませんが、氷のような心をもつ橋本が示し始める人間味に惹かれます。千尋の性の育ての親になった橋本は、純粋な千尋が遭遇した不幸に同情するなかで、感情を取り戻し純愛に目覚めます。

気付かないながら彼女は人生で一番厳しい苦境の一つを乗り切ろうとしているのかもしれず、橋本の悪影響を受けて傷つきが癖になっていくかのようにみえますが、そんな不安定な時期に妊娠することも少なくないかもしれず、この傷つきも二人の人生で大事な1ページに収束していくのでしょうか。



原作とはストーリーが違う部分もあるのかもしれず、この先のストーリーは予測できません。

原作では、司が美紗にプロポーズをすると、橋本が怒りを顕にして制止するという展開が待っているようです。

実は、ニューヨークへ留学中、橋本と司は中国人留学生の女性に恋をしていましたが、友情を大事にして三人とも本心を語れず過ごしていたようです。ある日、彼女は、待ち合わせの時間になっても二人の前に現れませんでした。その日、彼女は強盗に襲われ暴行を受けていて、後日に川から水死体として発見されたのでした。

このトラウマが橋本や司の愛情を麻痺させて死者の幻や破壊的欲求に束縛させてしまったのでしょう。トラウマ記憶に束縛されて彼らは恋ヘタなったようです。失った理想や愛情への囚われが、また失うことへの予期不安を生み出したのでしょうか。

当時の司は休学するほど滅入ってしまい、自分の人生を生きることが彼女への償いになると彼女の祖母に諭されて復学したようです。それでも司は街で彼女に似た女性を見かけては追いかけて彷徨い、死んだ彼女の幻影に囚われ続けていたかもしれません。

それから何年も月日が流れ、恋した相手に賭けの対象とされて傷ついて以降、男性不信となり2ヶ月しか恋愛がもたなくなった美沙と司が出会います。美沙は元彼女の存在に戸惑い、不器用に司に反発するなかで司のプライドをメタメタに破壊しました。新しい傷がトラウマとの繋がりを断ち切り、司を主人公へ夢中にさせたのでしょう。

徐々に負ける快感に美沙が酔い恋愛関係を深める初々しさも魅力的なメインストーリーではありました。



ただ、橋本と千尋のラブストーリーはもっと魅力的なのかもしれません。

橋本は、職を失った千尋を同じ会社にスカウトしましたが、妊娠を機に千尋へ退職届を渡します。そしてその下には婚姻届。千尋すらどちらかの子供か分からず戸惑うなか、この子は俺の子だと橋本が千尋にプロポーズするようです。いつもクールで「こんな性格だから一度しか言わない」と語るシャイな橋本が可愛らしく見えます。

千尋の人生の危機を救ったのは、そんな橋本の身勝手さと寛容性でしょう。

感情を表現できない地味で穏やかな2人の成長には、サブストーリーながら惹きつけられました。



生き残るということは、かつて愛して失った理想に囚われる痛みが続いていても、理想とは違う現実の世界で全く違う人生を過ごすことかもしれません。

同情して助けてあげる役割をえることで自身の空虚な心を満たしたり、スケジュールを守る責任に束縛されて働いてみたり、失う怖さに怯えながら誰かを愛せるようになる恋愛を探すことが、生きるということなのか。

生き残るということは、現実の世界で過去の痛みよりもっと強烈な痛みに囚われ夢中になるなかで過去の束縛から解き放たれ、前に進めることではないか、と私は個人的に思ったりしています。

トラウマの治療では、トラウマに向き合うことを求められるかもしれませんが、全てのトラウマに向き合うことなどしないはずで、強烈なトラウマであっても健康な人はこうして自然と回復するのかもしれないと思えました。

生きている人には愛し合える人に巡り合えるチャンスがあり、束縛から自由になれる恋愛はいいと草食系現代人は思うのでしょうか。

今期の「あなたのことはそれほど」というドラマでも自由に恋愛をしすぎれば、社会的に失うものもあるかもしれないと考えさせられ、月並みな言葉にまとまりますが、自由と責任を制御するバランスが大事なのでしょう。


sasa320 at 20:19│Comments(0)恋愛 | tvドラマ

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