2017年07月15日

「ブルー・ジャスミン」同情 ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎

ブルージャスミン(字幕版)
アレック・ボールドウィン
2014-10-24


総合評価 ⭐️⭐️⭐️⭐︎
脚本 ⭐️⭐️⭐️⭐︎
配役 ⭐️⭐️⭐️⭐︎⭐︎
演出 ⭐️⭐️⭐️⭐︎⭐︎
映像 ⭐️⭐️⭐︎⭐︎
音楽 ⭐️⭐️⭐️⭐︎



DVDパッケージに写るケイト・ブランシェットを美しく魅せる意気込みを感じないのは、私だけでしょうか。ウディ・アレン監督のブルー・ジャスミンを観ました。

テーマソングはジャズソングの定番ブルー・ムーン。ブルー・ムーンは大気中の塵の影響により月が青く見える現象で、2-3年に1度見える二度目の満月を意味しているそうです。"once in a blue moon"という慣用句は「決して有り得ないこと」の意味ですが、この映画ではきっと2度目の春という意味でしょう。

監督が78歳の時に撮影された作品。その年輪を考えれば、若者同士が身分や資産の差を超えて結婚するような若くて美しいヒロインを崇拝する正統派ラブコメを撮ることに監督が飽きたとしても、おかしくないでしょう。2度目どころではない春を監督は数多く味われてきたのかもしれません。

歳を重ねる哀しみを女性ヒロインに監督が託して笑い飛ばしたようにも見えて、シニカルな表現が目立ちましたが、それだけケイト・ブランシェットを監督が気に入ったためだろうと私は思いました。



この映画は20年後のシンデレラの再起を眺めるかのような内容でした。

ケイト・ブランシェットが魅せた怪演はアカデミー賞主演女優賞に輝き、この映画に似ている「欲望という名の列車」で同賞を受賞したビビアン・リーの可愛らしくも美しくもない演技とは似て非なるものでしたが、円熟した彼女自身が体験したかもしれない苦悩が活きる演技だと思いました。

映画の主人公ジャスミンは、大富豪の妻に選ばれるというシンデレラストーリーを実現して、それから熟年期にいたり厳しい現実に直面するなか、道を誤り借金まみれで精神障害も抱えるどん底の生活に陥りました。

そこから彼女は、もう以前より実現可能性が高くないことを無視するかのように再び上流階級を目指そうとする野望をもちます。そんな、とんでもない悪女のストーリーでもあるのですが、その行動をとった背景を理解できるような、つい同情を惹かれそうな作りを巧妙だと思いました。



主人公ジャネットは、養子に出され、両親が違う義妹と共に育てられましたが、義母からジャネットだけが可愛がられるという虐待に似た育て方をされたそうで、愛情を求めることを抑制できない人に成長したようです。

映画には描かれていませんが、ジャネットは両親を早くに失った喪失感や劣等感を埋めるため親の悪いところに目をつぶり、過剰に適応して妹を退け親からの愛情を掴みとり生きのびてきたのかもしれません。過剰な愛情を注がれた彼女は、おそらく親の期待に添いボストン大学人類学部に進学したのでしょう。

そして虚栄は加速して、平凡な名前を隠し特別なジャスミンという名を彼女は名乗るようになり、悪いところに目をつぶり裕福な実業家からの愛情を掴み取ります。結婚の方が人類学者になるより意義があると考え大学を退学したそうですが、ジャスミンは甘い話に飛び付くことを抑制できないようでした。

ジャスミンの独語や回想によると、セントラル・パーク前の邸宅に住むジャスミンはN.Y.社交界の花となり、義理の息子はハーバード大学で一番の成績だった、という優雅で華々しい暮らしを続けたそうです。

ここまでは、義理の親の期待を上回る成功者としての人生をジャスミンは過ごしてきたのでしょう。しかし、そんな暮らしを維持できる人が限られているかもしれないことも現実かもしれません。



成功者という外見とは裏腹に、ジャスミンのようなシンデレラは長年にわたり嘘や鬱憤を溜め込む虐げられた人生を歩む人かもしれません。

まず、幸せそうな成功者ジャスミンは、複雑な実業家の家族関係や社交関係にも適応して、おそらく前妻の息子を育て、周りの友人達が皆ジャスミンの夫の浮気に気づいて噂して冷笑されていても、見て見ぬふりをして暮らしてきました。

また、夫の違法な投資詐欺にも気付かない素振りで、どんな書類も確認することなく署名してしまうような過剰な信頼をジャスミンは夫へ示してきました。

さらに、故意か過失か判然としませんでしたが、妹の夫が宝くじで当てた2000万円までジャスミンは自分の夫に投資させた上で破産したため、妹夫妻は借金を負い離婚します。ひょっとすると夫の浮気に実は気付いて悲しんでいたジャスミンの内心には、妹夫妻の仲睦まじさへの嫉妬があったのでしょうか。

私の偏見かもしれませんが、ジャスミンの夫は沢山の向精神薬カクテルを飲むよりお酒に癒されるという権力を追求するタイプの男性に見えました。彼らが賢くない若くて美しい女性を選ぶのは、彼らの欺瞞のリスクに気付き批判することができない女性でなければ都合が悪いという女性軽視に見えます。



過剰に適応してきたジャスミンでしたが、夫から別れを切り出されたことを機に、たまりにたまった鬱憤を爆発させてしまいます。

ジャスミンは上流階級の贅沢に依存していたのか、努力家だったのか、そんな環境からも臆して逃げ出さず、堂々と人生に向き合って、自分がやりたいチャリティー活動なども行ってきました。

しかし、ある時、夫はFBIに逮捕され、刑務所で罪を償うことになると首吊り自殺をしてしまいます。

そして、ジャスミンは国税省により財産を没収されます。彼女の養子は、彼女の制止を振り切りハーバード大学を中退して失踪してしまい麻薬中毒に陥ったようです。

隠し財産を売っても元値からは信じられないほどの暴落で、孤独なジャスミンは負債を負います。

財産と家族、社会的地位、それまでの自分全てを失ったジャスミンは精神を病みます。

ジャスミンは電気けいれん療法を受けた後、パニックを起こすと安定剤を飲んだりお酒を飲んだりしてやり過ごしていましたが、現実を直視し適応できなくなってしまいます。

借金を抱えても、長年の生活レベルを落とせず、1stクラスの飛行機に乗り、ジャスミンは少ないローテーションながら美しいブランド物で身を固めています。だから映画では、ジャスミンの華やかなファッション鑑賞も楽しめます。

プライドを保ち、姉として過保護で支配的姿勢は全く変わらず、ジャスミンは一番良かった過去に囚われて、今を生きれなくなっていることが分かります。ジャスミンが味わった環境変化を考えれば頷ける部分もあります。



ブルーになったジャスミンは、シングルマザーになった義妹の住むロサンゼルスへ環境を変えて二度目の春を目指します。

妹は劣等感から誰でも許容できる適応力のある女性として描かれていて、ジャスミンとは対照的です。ジャスミンが訪問してくれて、妹が姉の面倒を見ることは、昔の劣等感を癒せて、デートDVの気配がある彼氏とも距離がとれて都合が良かったのでしょう。

町の雰囲気に合わない上流階級志向のジャスミンは、カジュアルで庶民的な部屋や妹の彼氏を毛嫌いしました。借金まみれでプライドだけ高い彼女の相手をするのは妹のデートDVをする彼氏にはたまりません。妹の彼氏はジャスミンに恋人候補を紹介して拒絶されます。

それでも、大事な妹にお金の大切さを説得されれば、嫌がりながらもジャスミンはその男性が紹介してくれた歯科の受付嬢に就職し、インテリアコーディネーターをパソコンで学ぶ健気さをみせます。

ジャスミンはパソコン操作を学校で学び始めましたが、妙齢の彼女にパソコンを理解することは難しいようでした。セクシーなファッションでジャスミンが勤労に励めば、好きではない歯科医師に迫られ、かわした末に強引に抱きつかれキスを迫られるなどセクハラを受けて退職。全く適応できません。

学校で弁護士の交際相手がいる友人にジャスミンが愚痴っていると、上流階級が集まるパーティを彼女から教えてもらい、ようやくここで妹を伴い二度目のシンデレラを目論みます。



しかし、若さを失い美しさも衰え、学歴も資格もない、嘘で身を固めたアルコール依存症を抱えた罪深いジャスミンは、再び上流階級に舞い戻るシンデレラにはなれませんでした。

妹もジャスミンも出会いがあり、束の間の幸福を味わいました。

DV彼氏は妹の新恋人に勘付くと、妹の職場に乗り込みわめきちらしましたが、彼女は姉の勧めによりDVから逃れることができたようで、一見理想的な展開でした。しかし、現実は甘くなく、妹がパーティで出会った男性は妻がいることを隠していたことが発覚します。

ジャスミンは出会った外交官の交際相手にインテリア・コーディネーターだと嘘をつき、元夫は外科医で心臓発作で亡くなり子供はいないと虚栄を張ってしまいます。しかし、妹の元夫と偶然街で再開すると、ジャスミンの夫への投資で借金を負った恨みから彼に嘘を暴露されてしまい、結婚話は破談になります。



その後の切り替えの早さによって、姉妹の幸福に差がつきました。

妹は姉の理想的な甘言には左右されなくなり、すぐに元のDV男を彼氏として選びなおし、2人の連れ子を気にせず甘い生活を現実的に楽しみ姉に見せつけます。妹は姉に心底同情しているというより、負け続けた姉よりマシな生活を見せつけることで勝ちたいだけかもしれません。

そんな妹に対して、プライドの高い姉は負けるわけにはいかないので、更に嘘を重ねて婚約者と住むことになったと大見栄を切り家を出ていきます。そこで、ジャスミンが更年期のホットフラッシュのためか、脇汗をかいているのを目立たせる演出がシニカルでした。

期待が高すぎると、実現するための条件が悪くなるほど傷つくので、滅多に起こらない二度目のシンデレラを目指しハイリスクハイリターンを好むジャスミンはブルーになって当然かもしれません。多少の暴力も許容して楽しむ現実的な妹の方が適応力があるように見えました。



路上のベンチで1人、ジャスミンは幻想の世界に生きるしかもう道がないのか。

妹に負け、すべての愛情を失いながらも、ジャスミンは生き延びていて不幸のなかに生命力のようなものを感じてしまいました。

欲望という名の電車でビビアン・リーが精神のバランスを崩した最後とは違う狂気を感じましたし、私にはこちらの狂気のほうがリアルに感じられました。

彼女はこうして病を抱えながらも次のブルー・ムーンを待っているのでしょう。



最期に、被害者だったジャスミンが一番の加害者だと分かります。

夫がFBIに逮捕されたのは、10代の女性と人生をやり直したいと離婚を迫られたことに逆上したジャスミンが通報したためでした。

知らないふりをしたとはいえ、夫が詐欺で集めたお金で裕福な生活を送ってしまったジャスミンは誰からも責められていませんが、夫や息子を傷つけてしまったので、不倫相手を責め続ける独語はありましたが、自分も責めているのかもしれません。
 
夫のブルー・ムーンを阻止したジャスミンが自分のブルー・ムーンを達成できないのは当然の報いのように見えて、同情の余地を残さない展開でした。



それでも魅力を感じるのは、ケイト・ブランシェットの演技力でしょうか。

まず、見ないふりをしてきた不倫を遂に友人達から指摘されジャスミンが夫を批難し始めたところ、批難されにくい別の若くて美人な女性をジャスミンの夫は選んで争いを回避して、慰謝料も支払うと約束して金銭的解決を目論見はじめたようでした。

ジャスミンが恋愛などしていなければ、本当に計算高い女なら、黙って離婚すれば利益を得られたはずでした。しかし、夫を信じられなかったのか、夫を愛してしまっていたからなのか、ジャスミンが賢い選択をしないところに観客は魅力を感じてしまう気がしました。

また、義理の息子と再会した際、父親の詐欺が発覚したことよって恥をかいたり父親に裏切られたという思いより、父親を裏切ったジャスミンの行動に傷ついたと語り、麻薬中毒から回復して結婚し中古ギター店を営む息子はジャスミンとの縁を切りました。ジャスミンは息子にも依存できません。

ただ、息子の台詞を考えると、夫に裏切られたジャスミンに対しても、義理の息子はジャスミンからの自分に対する愛情を期待していたから傷ついたのかもしれず、ジャスミンを愛する人はいたというのに、その愛を見過ごし失ってしまったジャスミンに気付きます。義理の息子との関係を切なく思いました。

さらに、シンデレラを夢見る女性は、劣等感を埋めるため若さを武器に権力と愛を求めているのかもしれず、シンデレラが若さや愛、権力を失い心を病む姿に共感できる人もいるかもしれません。因みに、ブルージャスミンの花言葉には同情という意味もあります。

人生には取り返しのつかない過ちや愛情や信頼の喪失もあり、時には受け入れられないこともあるのかもしれないと同情できるのは、演技力による部分もあるのだと思いますし、作りの巧さもあるのかもしれません。



映画の作り手の人生を反映した部分もあるのでしょうか。

監督が精神障害を患っているためか、自他責がシニカルな笑いの才能に変換されているのかもしれませんが、成功と熟年期の没落を様々な視点から対比して批判していて辛辣でした。この批判を自分に向けるから鬱になるのかもしれません。

加害者と被害者の紙一重な表現にも監督らしさを感じました。監督は妻の10代の連れ子と結婚していてジャスミンの夫に似ているかもしれません。同情の余地がないはずの罪深いジャスミンが精神を病んでいく姿に同情して魅力を感じられるよう描けるのは、監督が加害者の立場も経験したからでしょう。

ケイト・ブランシェットは幼少期に裕福な会社重役の父親を失いシングルマザーに育てられ、芸大に入るも中退して演劇大学に入り直し卒業しています。舞台女優を経てハリウッド進出後、オーストラリアに戻り、演奏家の夫と結婚して子供をもうけ、母国で重役を与えられて活躍しています。

そんな普通の女性とは違う経歴をもつプライドの高い彼女が、虚をついてでも愛情をえることで劣等感を満たそうとしたにも関わらず、その愛情を失い傷ついてしまう様を演じるのは、女優らしいのか。

そんな2人が老いによる環境変化の苦悩をシニカルにコメディとして表現するところに魅力を感じました。



映画のなかで、ジャスミンが再び愛されて経済社会的にも望み通りの人生に近づいた時、彼女は過去を忘れようと前向きに健康的に振る舞っていました。

ジャスミンは全てを失っても一度は自分の目指す成功を達成したのだから、上流階級の男性を選ばなくても、彼女なりに生き延びた先で自分が愛せる相手に出会えたら、彼女にとってブルー・ムーンになるのではないかと思いました。

ただ、「高級なお酒(カクテルの名前を忘れました)を飲み続けるために誰と寝たらよいのかしら」と思わず口走った本音に囚われて生きる人でもあるかもしれず、お酒以上に満足できる環境変化まで生き延びることができればの話でしょうか。

シンデレラは男性に依存する脆さを抱えるのかもしれず、家族に依存して歳をとれればよいですが、それができない時に自立力がなくお酒に依存すると、晩年にブルーを味わえそうだと気付けました。


sasa320 at 19:23│Comments(0)ドラマ | 洋画

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