2017年08月01日

「食べて、祈って、恋をして」自由を求めて ⭐︎⭐︎⭐︎

食べて、祈って、恋をして ダブル・フィーチャーズ・エディション [SPE BEST] [DVD]
ジュリア・ロバーツ
ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
2015-12-25




Yahoo!映画レビュー 2.75 (767)


総合評価 ⭐️⭐️⭐️
脚本 ⭐️⭐️⭐️
配役 ⭐️⭐️⭐️
演出 ⭐️⭐️⭐️
映像 ⭐️⭐️⭐︎
音楽 ⭐️⭐️⭐️


ジュリア・ロバーツ主演の映画。

Yahoo映画レビューで書き込む人数は多く注目を集めているのですが、評価がとても低い映画でした。この低評価の原因は色々あるのでしょうけれど、売り上げを伸ばすための大々的PRにより、この映画が求めるターゲット層と実際の観客層にズレが生じたため、評価が低くなったのかもしれません。

プリティ・ウーマンで彼女のファンになった富や社会的地位、成功に憧れる観客に対して、N.Y.在住のセレブ女性が離婚の挫折を1年間の海外旅行で癒し、性欲を取り戻し新たな恋に踏み出したら回復しました、というストーリーを伝えて、その観客層全ての人の共感を得難く戸惑いそうだと想像しました。

観客の疲労やを配慮しない映画の長さ、各国の観光PR動画かというほど理想的すぎるグルメと街の美しさ、主人公の白人がみせるアジア人への態度に嫌悪感を感じる部分もあるかもしれず、躁病に似たエネルギーの高い人の体験をお金と時間をかけて見たい作品か、と立ち去りたくなる映画かもしれません。

もし広告が子供が出来ない結婚生活や離婚を経験して傷ついたことのある女性をターゲットにしていれば、評価は上がったかもしれません。

製作陣にはブラッド・ピットを始めとする男性陣が原作のヒットを受けて、制作費6000万ドルをかけて日米同時公開で2億ドルの興行収入を得ているので、経済的には成功なのでしょう。



主人公は自分の苦境について自分の言葉で説明するエネルギーを持てない程度、消耗しています。

お互いに自由を尊重するはずのN.Y.で、競争的な職場環境や家庭生活、社交に適応して一見うまくいっているのですが、他者評価に依存して支配されてばかりいる支配欲依存の欲求不満のなか、主人公は自分を見失っているようでした。

結婚式の時から、主人公を愛していると正当化して夫は自分がやりたいことを優先する人でした。一見、美人な妻を迎え幸せな結婚生活を演出し優しい夫に見えますが、彼女はじわじわとストレスを溜め込みます。

学業を好む夫の自由くらい許容すればと考えることも男性目線ならできますが、これから子供を作り働けなくなる可能性がある年齢の妻をこの夫は配慮しておらず、セックスレスの夫は、明らかな身体暴力などのDVではないものの主人公を大事に扱えなくなっていて、彼女も夫をそう扱ってきたのかもしれません。

確かに結婚は恋愛と違います。長期に快楽を満たしてくれる恋愛を望むほうが無謀。しかし、若さや美貌が衰えるなかでの不妊は女性1人で解決できません。友人夫妻は出産して偉そうに説教しても、主人公の助けに甘えています。友人が赤ん坊より主人公のことを考える余裕を失い、主人公は孤独です。

管理者が労働者の立場を理解できないように、夫婦間という支配関係のなかでも夫は妻を支配できても、支配される女性の心を理解できるかといえば難しい部分もあるものかもしれません。

昔は確かに愛していた人達だったけれど、今は主人公の劣等感を刺激してそれ以上の愛情を感じられない人間関係になっていました。忍耐強く側にいる人もいるでしょうし、勇気を出して依存されすぎる対人関係に距離を置くという時期を迎える人もいるのではないかと思いました。



N.Y.でも、主人公は新しい恋だけで回復しないか、離婚すれば回復するのではないか、と奮闘しました。

離婚協議中、友人宅に居候し若い俳優と付き合ったのは欲求不満を本能に従って解消したかったことお愛情飢餓と孤独を癒すためでしょうけれど、セックスレスは自分のせいではないことも示したのではないかとも捉えられました。

しかし、若い俳優との交際を長年の結婚生活で夫とも繋がりのあるはずの友人の夫は主人公と若い俳優との交際を快く思わず、過干渉します。若い俳優は友人の夫から劣等感を刺激されると耐えられず、主人公に距離を置きたいと別れを告げます。

これまでのしがらみが新しい人生の足かせになる時、主人公は転地療養を決めました。



主人公はN.Y.を欲望の街だと形容しました。

欲望が強い労働者が集まり、沢山の労働者がいるなかの競争は激化するかもしれず、都会では代わりはいくらでもいる上、高品質の労働を労働者は求められるのかもしれません。

N.Y.に相応しい言葉や社交、年齢に応じた結婚や出産、家を持つなど誰かがたてた政策や都市計画に適応するのが常識とされる環境に住んでいると、自分の本心を自分の言葉で表現できず、過剰に束縛された人生を求められていることに窒息感を覚える人もいるのでしょう。

他者との競争のなかパワーを求めて、自由を求めて、欲望に導かれて辿り着いた都会に主人公は虚栄を感じるようになったのかもしれません。



主人公は離婚で家や預金を随分失ったそうですが、イタリア、インド、バリに一年間滞在できるほどの資産があるようで、ニューヨークの物価がそれだけ高騰していたということなのか。

イタリアでまず、過剰な抑制や欲求不満を解放されます。性欲を表現しても許容される仲間と出会い安心して過ごせる居場所に恵まれ、多忙な暮らしから何もしない快楽を味わう休息の必要性を学びとります。そして、食を楽しむ、イタリア語を学ぶという主人公が望んだ作業に取り組める自由を実感します。

インドで次に、結婚により自由を奪われる花嫁と接し規則正しい生活の寺院で規律に添い暮らします。元違法薬物中毒で自由を求めすぎて家族を傷つけ離婚を切り出された中年男性に出会い、失敗した自分を許すことを学びます。夫への愛情や恨みなど支配欲によるこだわりを手放し、罪責感から解放されます。

バリでさらに、DV夫から逃げたシングルマザーの民間療法士に家を寄付するという貢献によってバツイチ熟女という劣等感を埋めあわせると、同情した相手を癒すことで自分自身の傷つきも癒せたのか、自信をつけた主人公は臆病になっていた恋愛にも子持ちのバツイチ男性に癒され踏み出せます。

先進国で暮らす人が海外に出ればリスクも抱えるはずですが、美しい映像や料理、観光客向けプランのなかで守られていましたが、そのなかから主人公は現地の知人と関係を深めていきました。



しかし、恋愛の快楽でせっかく見つけた自己コントロールのバランスを一時的に失うと、不安にかられた主人公は身勝手なことに交際相手から逃げ出そうとします。

交際相手が強引に島へ連れ出そうとして主人公の意見を批判しようとした時だったので、文脈から交際相手に元夫や元の批判的な家族を重ねて主人公は逃げ出したのかもしれません。

完璧主義でルールに従いたくなる強迫的な主人公は、心霊師の師匠に大丈夫だと確認して、漸く安心して前に進めました。



主人公は交際相手と付き合うことでセックスレスも解消できて、愛情により孤立を癒され、バランスが一時的に崩れても大丈夫だと確認して悟ります。

交際相手を信じて、N.Y.に急遽戻る衝動的な計画を中止して、船で交際相手と見知らぬ島に乗り出そうと決めて、漸く新たな人生に挑めるようになる話は、主人公が成長する話というより、過剰な支配や組織の体制から逃れ本来の元気を取り戻した流れを描いているようでした。

しかし、規律のある暮らしから逃れれば不規則な生活リズムやアルコール多飲に戻るかもしれないだけではないのかと思いました。西洋文明ではないアジアの文化への興味が幻想にみえて、観客の羨望をひけば、食欲や性欲を刺激できれば、気分が上がれば、という快楽を抑制できない特徴が見えてきました。

主人公は離婚を繰り返しそうな予感も残るキャラクターで、過剰な支配から逃れて、お互いを大事にできる関係に辿りついたものの、まだまだ不安定な人生。ただ、それも一つの生き様なんだろうと思います。



この映画の評価の低さは日米の国民性の違いも反映しているかもしれません。

許されたい加害者感情を描くあたり、ドラッグへの依存が多い人々を想定したアメリカ人らしさを感じました。一方、隣国で阿片戦争を目撃した歴史的事情からか、日本では依存物質の使用は法律で禁じられていて快楽を追求してドラッグに手を出せば罪人とされます。

人を傷つけて許されたい気持ちに敗戦国でもある日本人は共感し難いかもしれません。人を傷つけたこと自体を受け入れる余裕はなく回避しがちかもしれません。欲しがりません勝つまでは、と刷りこまれた先祖をもつためか、日本人は主人公の忍耐力不足を批判するでしょう。

女性が男性並みに自由を尊重されるアメリカ映画を女性の活躍が少ない文化で暮らす日本人男性が観れば、当然の権利を侵害される感覚がするかもしれず、経済・社会的成功を収めた女性に反感をもち支配に従ってもらえないか、支配される立場に置かれている男性に同情するのかもしれません。



最後に思うのは、この話が単に離婚した女性が愛情を取り戻す回復ストーリーではない点です。

アメリカの資本家による過剰な支配と自由を求めすぎる文化自体が、不健康さを孕んでいるという構造に、外国から自国を眺めて主人公が気付いたという話なのだと思いました。

日本から離れた日本人が気付ける日本もあるはずで、ひょっとすると大事なことも描かれている映画だったのかもしれません。

sasa320 at 14:11│Comments(0)洋画 | ドラマ

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