2017年08月06日

「ベスト・キッド」イジメから抜け出す⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎

ベスト・キッド コレクターズ・エディション [DVD]
ジェイデン・スミス
ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
2011-04-22




総合評価 ⭐️⭐️⭐️⭐︎
脚本 ⭐️⭐️⭐️⭐︎
配役 ⭐️⭐️⭐️⭐︎
演出 ⭐️⭐️⭐️⭐︎
映像 ⭐️⭐️⭐︎
音楽 ⭐️⭐️⭐️



ベスト・キッドを観ました。

ストーリーは、父親を亡くしたアメリカ育ちの小柄な中学生が母親と中国に引っ越し、カンフーのできる中学生達に目をつけられて身体暴力を繰り返し受けてしまいます。

自宅アパートの管理人男性がカンフーの達人だと知り少年は弟子入りして、カンフー大会で優勝してイジメっ子達からの敬意を勝ち取るという喪失体験からの回復のストーリー。

学校のなかの犯罪イジメに向き合うことは難しいなか、自分の恐怖心と向き合いたいと語り戦う少年が、観客を含めた周囲の人達を変えていく爽やかな作品でした。



イジメはうつ病や不安障害、自傷に関わるという海外の研究が近年みられるようになってきました。

まず、Lancetに掲載されたレビューがあるようです(Lereya et al. 2015)。

アメリカの1000人規模の研究によると、9-16歳まで虐待や学校でイジメ被害を受けた子供は18-26歳までに不安障害を発症するリスクが約5倍、イジメ被害がない大人から虐待を受けていた子供よりリスクが高かったそうです。

イギリスの4000人規模の研究では、生後8週から8.6歳までに成人からの虐待を受けた児童と、8,10,13歳でイジメを受けた児童がうつ病や自傷を起こしたリスクは1.7倍。

また、オックスフォード大学による13歳までのイジメ被害と18歳までのうつ病に関する約7000人規模の思春期児童に対する縦断研究では、イジメ被害が少ない児童より被害が頻回な児童で、2倍うつ病を発症しやすかったとか(Bowes et al, 2015)。

さらに、小規模ですが。500人規模のアフリカでの思春期の学生に対する研究結果は、うつには、女子では家庭での感情的虐待が3.8倍、また学校の身体暴力が2.4倍関わっていました。男子では家庭での感情的暴力が2.9倍、DVが2.4倍、学校での身体暴力が2.5倍、うつに関わるそうです(Ameli et al, 2017)。

そのなかに、イジメ加害者は、女子で家庭での感情的暴力が4.5倍、男子でイジメ被害が2.9倍、学校での身体暴力が2.7倍という結果もありました。



この映画は、父親の死後、母親と中国に引っ越した一人息子の黒人の主人公が、中国人の同級生達から身体暴力を繰り返し受けるイジメ被害を受け始め、学校での身体暴力に対する恐怖感に向き合い、イジメっ子達が得意なカンフーの分野で彼らに打ち勝つ話でした。

イジメっ子達は、カンフー指導者に身体や精神の暴力を受けていましたが、家庭や学校でのそれまでの経緯は描かれていませんでした。

イジメがメンタルへ与える影響は侮れず、私も小中で経験したから興味がありますが、いったい何があれば乗り切れるのでしょう。



主人公ドレは、父親を失い、住み慣れた自宅や友人を失い、見知らぬ中国に母親の都合で連れて来られて、学校で制服を着ない日も分からず、身体暴力を繰り返し受け、母親や女性教師に気付かれていても十分に守ってもらえません。

片親や両親不在もイジメにあいやすい研究もあるようで(西田、2010)、中国社会とは違うデトロイト育ちの移民かもしれず、小さな体格のドレは弱い立場だったのでしょう。

ドレは、目立ち、好きな女の子にアプローチするなど積極的な性格でしたが、カンフーでイジメっ子に攻撃されると、初めは沢山のイジメっ子達に絡まれることに怯えて逃げ回り自宅でうつのように暮らします。



主人公は、反抗的な面もあり敵に人数や能力で及ばなくても歯向かってみることで事態が悪化するのですが、運命を切り拓いていきます。

結果、複数対1人でボコボコにされているところをジャッキー・チェン演じる自宅アパートの管理人ミスター・ハンがカンフーで助けてくれます。

そして、カンフー大会で戦うまではイジメっ子が少年に手を出さないようイジメっ子の師匠にミスター・ハンが話をつけてくれて、少年は求めていたかもしれない父性を感じさせる理想的な保護を受けます。



そこからミスター・ハンによる厳しい修行が続きましたが、同じ身体暴力でもイジメと格闘技の修行では違うでしょうし、同じ格闘技の修行でも主人公とイジメっ子達の環境も違いました。

暴力はただストレス発散の一時の衝動的破壊行為が多いかもしれませんが、格闘技の修行は新たな視点を得て自己鍛錬する日々の積み重ねのような筋トレに似た習慣なのかもしれません。

主人公の指導者はマンツーマンで技術や倫理観が高く、厳しさのなかに愛情がある父性でもって見守っていました。自らが選んだ厳しい修行に主人公は向き合うことが出来たのかもしれません。厳しくても成長に繋がるなら、その厳しさに主人公だけでなく多くの人が価値を見出せるものかもしれません。

一方、イジメっ子達は先にカンフーの修行を始めていましたが、格闘技やスポーツ業界のパワハラ的指導者が近年注目されたこともあるように、指導者が強さや勝利だけを求めたため彼らに身体・精神的暴力を振るっていました。

誤った信念に基づきイジメっ子達は、指導者にふるわれた暴力を学校で繰り返してしまっていただけかもしれません。厳しくても、勝つために彼らは師匠に従ってきました。

イジメっ子達は、戦いに負けると、ドレとミスター・ハンに敬意を示していました。彼らの目的は勝利だったので、あっさり彼らな愛情ある教育を望みながら受けることが出来なかったように見えました。



鍛えに鍛えて、友人や家族のため、自分自身の恐怖感に負けないため、敵側の師匠が反則技を指示したため怪我をしてしまいますが、主人公は苦難を乗り越え大会で優勝します。

そうして、主人公は周囲の中国人達からの敬意を勝ち取り、不安に打ち勝ち、中国を居場所に出来たのでしょう。

実はドレの師匠ミスター・ハンは、普段は無口でも、車を破壊して息子と妻を事故で亡くした悲しみを唐突に表現するなど危うさもある人でした。しかし、亡くした息子と同じくらいの年齢のドレを鍛えることに癒され、ドレの母親に付きまとわれ孤独から脱し愛情を伝えることが出来るように彼も成長しました。

イジメを傍観していても自尊心が低下するなど影響を受けるという研究も出典を忘れましたが、以前に読んだことがあります。主人公のイジメは、傍観する周りの友人や心配する家族への影響もあったかもしれませんが、その憂さを晴らすようなドレの課題解決が明快でした。

主人公の勝利が周りの友達や家族、周囲の大人、イジメっ子にすら希望を与えるところに勇気付けられました。



イジメを乗り切るのに大事な要素は何だったのでしょう。
 
まず、私はミスター・ハンとドレの出会いが、相互作用してお互いを成長させていて、出会いを大事だと思いましたし、誰にでも良縁は訪れうるので希望を持てました。はやし立てる観衆や見て見ぬ振りをする傍観者にならず、イジメを止める第三者の大人の存在を大事だと思いました。

また、今回は偶然発見されましたが、助けてくれる人もいると信じて暴力に抵抗し助けを求める希求援助の力や自信も大事なのかもしれません。自信がない人がイジメられているなら、周りが大人を呼びに行く方法もあるのかもしれません。

イジメを制止したり、加害者に呼び出されて関わったりすることは、力がない普通の人には戦えず、難しいことかもしれません。現実の日本に、ジャッキー・チェンはいません。ただ、子供向けの行政イジメ相談があるようですし、内閣府もイジメ相談を受け付けているとか。

戦う方法も、カンフーだけでなく、暴力をふるわれたら医療機関を受診して証拠を保持して、弁護士や警察と戦うこともできるかもしれません。争いが嫌なら、打ち込めることを探して達成感や成長を感じられれば1人でも充実して過ごせるので、イジメを機に心を耕すことも人生では勉強や仕事以上に大事なはず。

さらに、イジメられても、主人公は善良で、片親でも、教師、友人、彼女、管理人など支援者が多かったと思います。助けてくれる味方を見極めるのが難しかったり、誰かに相談して更に裏切られて傷つくことに被害者は怯えたりしがちですが、プロに相談して支援者になってもらうのが安全でしょうか。



周りの中国人がもっていないアメリカ人としての個性を持っていたから、イジメっ子達の目につき排除されかけた社会構造的なイジメという部分もあったでしょうし、小さなデトロイト育ちの黒人少年がそんな中国の共同体を打ち負かすから、アメリカ人には気分の良い話だったのかもしれません。




参考資料
国内 
http://www.coder.or.jp/hdr/24/HDRVol24.14.pdf
海外
https://medley.life/news/554b40fce7880cfa0070300e/
http://www.bmj.com/content/350/bmj.h2469
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/m/pubmed/28327416/?i=1&from=zomba+depression
http://sucra.saitama-u.ac.jp/modules/xoonips/download.php/KY-AA12318206-6501-06.pdf?file_id=35527
 

sasa320 at 10:00│Comments(0)洋画 | アジア

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