2017年08月28日

「ダウントン・アビー」貴族が所有できないもの ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎

ダウントン・アビー シーズン1 バリューパック [DVD]
ヒュー・ボネヴィル
NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン
2016-12-07



総合評価 ⭐️⭐️⭐️⭐︎
脚本 ⭐️⭐️⭐️⭐︎⭐︎
配役 ⭐️⭐️⭐️⭐︎
演出 ⭐️⭐️⭐️⭐︎⭐︎
映像 ⭐️⭐️⭐︎⭐︎(⭐︎)
音楽 ⭐️⭐️⭐️⭐︎


突然ですが、質問です。

このドラマの舞台であるダウントンアビーことハイクレア城は、チャールズ・バリー卿による設計です。彼が1つ前に設計した建物はなんでしょう? 上のDVDジャケットを参考にお答え下さい。

そう、何処となく似ていますよね。答えは、かのウィントミンスター宮殿(英国国会議事堂)。イギリスらしい建築ですよね。

こうした美しい建築に加えて、庭園やインテリア、その時代の実際に貴族が着ていたドレス、実際に流行ったその時代の髪型などのファッションに身を包む貴族達を眺めているだけでも魅了されるダウントンアビー。

音楽も印象に残るハイレベルでゴージャスなイギリスドラマでした。



この物語の始まりは、タイタニック号沈没事件の起きた1912年4月14日。日本では明治時代末で同年7月30日に大正時代へ移り変わる時。そこから第一次世界大戦を乗り切り第二次世界大戦前までの束の間の幸福な時代までをシーズン1-6で描いていました。

タイタニック号の沈没事故でダウントン・アビーの遺産相続人が逝去します。伯爵家は目論みが外れ、優雅な貴族としての生活や資産を手放さなければならない危機を迎えます。そこで、新しい資産相続人であるマシューを伯爵家は屋敷に迎え入れます。両親はマシューと娘との結婚に期待していたのです。

1stシーズンでは、伝統に従い貴族を演じ下僕を支配してきた伯爵家令嬢メアリーが、資産相続のためマシューとの結婚を両親に期待されて、両親に反発しながらも、マシューに惹かれていくストーリーでした。1918年はイギリスで女性に参政権が与えられた躍動ある時代でしたから女性を主役にしたのでしょうか。

ドラマを観ていると、貴族のような管理職であっても、使用人達を直ぐに従え、楽をできるわけではないことに気付きます。貴族の役割を演じ続けなければならない責任も貴族には求められると当然ながら気付き、何でも所有している憧れの特権階級、貴族が実は捨てなければならないものへ私は目が向きました。



まず、くつろぎや安心感を貴族は貴族なりに感じていました。しかし、屋敷の見学に訪れた少年が当主ロバートに語ったように、ダウントンアビーにはアットホーム感が少ないかもしれません。

常に屋敷の使用人や家族の期待に応えた貴族らしい振る舞いをして、しきたりのため1日に着替えを繰り返すなど、厳格なスケジュール管理を貴族達はうけていました。

そんな貴族を覗き見するようなTVの前の観客は気楽です。周りの目や常識に縛られて常に緊張感をたたえて、本当の自分をなかなか表現し難い貴族の役割を大変だと察しました。

メアリーは、親密な執事や侍女の前でだけ感情も表現することがありましたが、きっと安らぎに飢えていたのだろうと思いました。



また、貴族は家のため愛情を捨てなければならない立場だと思う部分もありました。

バイオレットお祖母様は伯爵と愛のない結婚してロバートを産み、一日一時間の育児生活を送ってきました。そんな夫婦生活のなか若かりし日の彼女は、迫られた男性と駆け落ちを企だてます。しかし、彼女は姑に捕らえられてしまいました。その後、彼女は地位に留まり伯爵夫人を誇り高く演じ始めます。

バイオレットはその時代が許した特権階級の傲慢さを体現した役。今では社会的地位の高いかもしれない医者や弁護士をマシな仕事と語り、労働者を休日以外は人ではないと語るブラックさに肝を抜かれます。悪役を飛び切りのユーモアで魅力あるキャラクターとしてマギー・スミスさんが演じられていました。

また、彼女の役柄は取り返しのつかない過去の失恋に実は心惹かれ続けている女性の役でもありました。二度のアカデミー賞受賞歴のある彼女の演技に、「天使にラブソングを」、「ハリー・ポッター」の演技より、年齢を重ねたためか、役柄か、更にインパクトを感じました。

主人公メアリーを差し置いて、権力を手にしたけれど不自由さのなかで生きたバイオレットお祖母様に私は1番惹かれました。ダウントンアビーは、この方の演技だけでも見応えがあると思いました。若い頃から美人で、オックスフォード大学の演劇学部卒の才能あるイギリスの大女優なのですね。流石です。

最もプライベートな質問は、「カーペットを買うか買わないか」だと語る彼女は人生のなかで恋愛を捨てました。しかし、バイオレットは責任をもちロバートを育て孫達から敬意を集め慕われて、ライバルが恋に悩めば一肌脱いで財産目当ての息子夫婦に監禁された恋人を拉致など人並み外れた行動力を示します。

高慢に見える彼女は、退職者や厳しい環境に置かれた身内へ配慮する観察眼や自負心をもっていて、恋愛を捨てなければならない生き方でも、家族や屋敷に勤めた下僕達への愛情や友情に魅力を感じました。



脱線しましたが、主人公メアリーの時代は、バイオレットの時代にも似ているところがあるものの、ずっと恋愛の自由が許されていて、むしろメアリーは恋愛を勝ち取っていました。

当初は、メアリーも両親に経済・社会的に必要な遺産相続人のマシューを押し付けられていました。メアリーは実の両親に反抗していたようで、マシューを拒み、レディの常識に抗い婚前にイケメン外交官と愛し合っていました。しかし、深夜に自室で外交官がまさかの腹上死。

侍女アンナと母親コーラに助けを求め、メアリーは死体を客間まで戻して恥を隠蔽します。しかし、スキャンダルになることを恐れる彼女は、目撃者から情報が漏れて何度か脅迫を受けてしまいます。注目を集めてしまう強者の立場は、多数の弱者に十分な理由なく狙われるため、大変だと思いました。

最終的に、メアリーは両想いになったマシューと結婚し子供をもうけました。マシューの死後、遺産を相続し管理者としてメアリーは、屋敷と領地の経営責任に縛られた分、無職の恋人ヘンリーとの婚前妊娠や再婚をして自由な恋愛を楽しむことで貴族の制約に従いつつ挑み続けているようにも見えました。

なお、スコットランドの知人から伯爵家が預かったローズは社交界デビュー前に黒人のジャズシンガーと結婚しようとしますが、メアリーは妨害します。母親が望まない相手と故意に付き合うローズの気持ちを理解して社交界デビュー、真実の愛に導けたのは、メアリーの生き方を眺めると理解できました。



さらに、貴族が平民に言い寄られることも少なくないようで、品位や家庭を守るため性欲を抑制する必要もあったかもしれません。今でも家庭の平和を守るためには必要なことでしょうか。

伯爵ロバートにはメイドが言い寄り、シビル亡き後のトムには女教師が言い寄り、伯爵夫人コーラには美術鑑定家が言い寄りました。富と権力を夢見る貴族ではない人達からの過剰な批判だけでなく、過剰な好意から逃れることも貴族には求められていたようでした。

皆、かろうじてかわしていましたが、伯爵家の三女シビルだけは政治活動に心血を注ぐアイルランド人の運転手のトムと駆け落ちして、もちろんメアリーに妨害され、結婚式に参列されないなど親に反対されましたが、娘をもうけて帰宅する自由奔放な行動を貫きました。

退職を申し渡されたトーマスが訪ねた転職先では、当主が使用人と結婚していました。管理者と使用人との間の恋愛も少なくなかったのかもしれず、玉の輿を狙う使用人も実際にいたのでしょう。

なお、そんな貴族の夫をもつ妻は、母親との付き合い、使用人からの妬みに巻き込まれかねない大変な役割だと思います。一度だけ親族関係にストレスを感じて使用人に当たり取り乱す場面があり驚きましたし、多額の持参金を持って嫁入りという強みはあるものの、コーラは忍耐強いと思い心惹かれました。

余談ながら、弱者の味方の美しい末っ子シビルはお産で子癇を起こし短い生涯を閉じました。亡くなった理由は、ロバートが小さい頃からシビルを知る家庭医より社交界で名声を集める高慢な医者を招いたためでした。富や権力があっても医師の選択を誤ることもあるでしょうし、難病には勝てないのでした。



最後に、男女の愛情だけでなく家族の愛情さえも、富と権力の前には風前の灯火のようでした。

妹とメアリーに姉妹の愛情が殆どありませんでした。イーディスは最後に公爵と結婚し地位逆転を果たしますが、権力争いのためか、繰り返しメアリーから虐められてきました。イーディスは反発したり、隠れて領地に住む妻子ある男性と不倫をしたり、厳しい環境のなかで誤りながら自由に生きていました。

イーディスは、母親としての愛情を貴族の地位を守るため捨てようとしました。結婚するためドイツへ移住したマイケルが殺人事件にあってしまい、彼女は伯母に助けを求め、隠れて彼の子供を出産しますが、世間体を気にして貴族として生き延びるためスイスで我が子を養子に出します。

イーディスが葛藤の末、公爵の婚約者に娘のことを打ち明けましたが、破断を覚悟した決死の決断でした。マイケルの遺した出版社や伯爵家令嬢の地位はあるはずですが、富や名誉、恋人、輝かしい未来を失う重みを感じる一幕でした。

イーディスと公爵との結婚をメアリーが妨害したようでしたが、最後にはメアリーも妹の幸福を引き立てる成長をみせました。ただ、これはバイオレットお祖母様から公爵家との婚姻関係破断は伯爵家の損失だとメアリーが諭された後の話。ダウントンアビー経営責任が姉妹の確執を凌駕したようにもみえました。

メアリーと父親ロバートは、マシューがメアリーに遺産を相続させるという遺言を巡って対立しました。ヴァイオレットお祖母様に取りなされ、ロバートはメアリーに隠さず遺言の存在を知らせます。一般的には強いと考えられる父娘間の愛情より権力闘争が起きかけてしまう遺産相続を大変だと眺めました。

しかも、資産を身なりやロンドンへの旅費など自由に使う部分はあるにせよ、生き延びるために貴族は節約も考えていて、美しいメアリーがダウントンアビー収益のため養豚を始め、泥まみれになりながら病の子豚を救命しているシーンもありました。

貴族がプライドを捨てて、生き残りのために何でもやれる逞しさの表現でしょうか。自分達の領地と城というより、自分達の城と領地の管理人であるたむた、貴族は資産を自由に使えない責任も担っていて自分のお金を自由に使えないもどかしさも感じました。



ファイナル・シーズンでは、侍女アンナがメアリーの部屋で産気づいて出産を許され、屋敷で自殺未遂を起こした同性愛者のトーマスが経験をかわれて執事に任命されるなど、「非常識」なことを貴族が許容している時代変化に驚きました。

彼らが必死に守ってきた、しきたりや貴族のパワーが落ちて手放すものも多いなか、城を手放さず生き延びるための貴族の忍耐強さに気付きました。

ドラマではダウントン・アビーを公開して城の維持費に回そうと話していたかもしれませんが、現実の世界でもカーナーヴォン伯爵が住むハイクレア城の維持費を賄うため、ドラマ撮影やヒュー・ロリーのバラエティ番組、アイズワイドシャットの映画撮影に協力したり、観光客に城を公開したりしているとか。

現代の貴族も、年間1億円を稼いで城を管理するためには、寛容性を求められるのかもしれません。



"Fact is stranger than fiction"は、イギリスの詩人バイロンの言葉。事実は小説より奇なり、と訳されています。このドラマは脚本も凄いと思いますが、実話の採用も欠かせない魅力でした。

まず、実在のハイクレア城の当主であるカーナーヴォン伯爵の初代はロバート、その子供がウィリアム、後世にジェイムス、ヘンリー、ジョージなど家系図があるようです。そんな実在の当主の名前を、伯爵だけでなく下僕に使っています。制作者がお金にモノを言わせているようで、貴族の寛容性を感じました。

また、ドラマの時代に生きた第5代カーナーヴォン伯爵は、ツタンカーメン王墓発掘のスポンサーとして有名です。ロバートは犬にエジプトの王の名前をつけていました。第5代伯爵は、ドイツで交通事故を起こし後遺症を負っており、マシューの交通事故死に影響したかもしれません。

さらに、外交官の腹上死も実話が元になっているようです。作者の父親は外交官でした。実母を早くに亡くし、継母が伯爵夫人という環境で育ちケンブリッジ大学を卒業したアカデミー賞脚本賞受賞歴のあるジュリアン=フェローズが手がけた脚本が面白いことを納得できる気がしました。

現実と架空を対比してみたり、今と昔を対比してみたり、管理者と使用人の人生を対比してみたり、色々な角度から楽しめる作品でした。イギリスの女王も好きなドラマだったようで、ドラマに使われたセットの誤りを指摘されていたようです。国内でも人気を集めた作品だったのでしょう。

日本には、もう殿様やお姫様、華族や武士はいませんが、今でも貴族と普通の国民が暮らしているリアリティあるイギリス文化に憧れてしまいました。

sasa320 at 10:00│Comments(0)tvドラマ | ドラマ

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