総合評価 ⭐️⭐️⭐️(⭐️)
脚本 ⭐️⭐️⭐️(⭐️)
配役 ⭐️⭐️⭐️
演出 ⭐️⭐️⭐️(⭐️)
映像 ⭐️⭐️⭐️⭐️
音楽 ⭐️⭐️⭐️(⭐️)



ゴールデンウィーク、夫と予定があわず、結局一人でしたが、映画キングダムを観に行きました。

舞台は中国の春秋戦国時代。秦の始皇帝が生きたのは、紀元前259-210年。2250年くらい前の話でした。

少年よ大志を抱け、と言われても、大志など見つからず苦悩する若者も多いはずです。大志など抱いても、高すぎる夢を抱くほど叶わず傷つき、学習性無力に打ちのめされ、傷つかないよう初めから大志など抱かない。現代は、そんな現実的な時代にみえます。

このストーリーを眺めて、大志が無ければ生き延びられない若者が大志を抱くのだと気付き、大志の重要性を理解できました。

登場人物達が、力を合わせて実現不可能にみえる大志を実現しようとする情熱に、これから社会に出る少年達だけでなく、夢を諦めた大人達も癒されるかもしれません。

ドラゴンボール世代の私には久々の少年漫画らしい作品だと感じられました。バブルが崩壊して経済戦争のなか、頑張ってもうまくいかなくなっていた日本。時代と逆のニーズを捉え、世代を励ます作品だったのも、ヒットの要因でしょうか。



大志がなければ、その社会的地位のなか、生きることすら難しい青年たちが登場していました。

歴史上の李信大将軍は、老子を輩出した名門の出身と考えられていますが、根拠は少なく、ひょっとしたらこのストーリーのように戦争孤児で奴隷のような立場だったのかもしれません。

秦の始皇帝として有名なエイ政は、趙に人質として差し出された秦の王子と趙姫と呼ばれた元娼婦の芸妓との間に生まれた子供。いつ殺されてもおかしくない立場でしたが、呂不韋の陰謀により、エイ政は13歳で王にされます。キングダムで、エイ政は、信に母親を語る際、芸妓としか表現しようがありません。

そんな2人の少年が、エイ政に瓜二つの漂を介して出会い、助け合い、中華統一という夢を共に見ます。大義名分がなければ、社会から虐げられる立場の2人は、生き延びるため大志が必要だったのでしょう。



フィクションの多い主人公の信より、史実に基づいたエイ政のほうが、秦の始皇帝になるだけあり、王族の中では波乱万丈な人生を歩んでいて、そのキャラクター形成に興味をもちました。

キングダムではあまり描かれていませんでしたが、人質にされていつ殺されてもおかしくない王子と元・娼婦で呂不韋の妾との間に、敵国趙で生まれ落ちたエイ政。映画で描かれていたのは、エイ政の祖父である秦王が趙に何度も出兵し、捕虜40万人生き埋めにして趙の国民から恨みを買っていたことくらい。

しかも、秦王の寵愛を受ける楚出身の華陽夫人に子供がいないため養子に迎える話を韓の豪商である呂不韋から持ちかけられると、エイ政の父親は趙での処刑から逃れて、秦で子楚と命名され王になります。史実では、潜伏していた母子を趙側が秦に戻したという話になっています。

キングダムでは、残されたシングルマザーの母親が娼婦として生き延びたような描写で、エイ政は、趙の人々や母親から虐待を受けながら食べ物を盗みリンチに合う日々を過ごしていますました。

趙国の敵である秦国王子を生み、夫に捨てられ子連れで敵に追われ、娼婦として生き延び命を狙われる立場なら、子供を殺して逃げたくなるでしょう。しかも、母親は、呂不韋の元許嫁で、彼と結婚すると信じていたら、利用されて王族に嫁がされ子供を産まされたので、子供を愛せなかったのでした。

母親が売春をしていた場合、母親や本人のメンタルへの影響については、十分なエビデンスがないようです。ただ、暴力や薬物依存との関わりを指摘する少数の文献がありました。キングダムでは、後に涙する実母の姿が描かれていましたが、過酷な状況に不適応を起こす夫人もいただろう、と察しました。

他国で人質の立場で、幼くして父親に見捨てられ、母親に虐待されたエイ政の少年時代は逆境です。エイ政が、疑い深く慎重で、修羅の道を好んでしまう攻撃性のある非情なキャラクターに育つのを理解できる気がしました。秦に戻る前に、エイ政は、幻覚・妄想状態に陥っていました。

しかし、実は、エイ政や父親を配慮せず戦争を繰り返した祖父も、幼少期は人質という一家。

キングダムでは、凄惨な経験をしただけ偉大な王になれる、と紫夏は語り、大志の重要さを伝えていました。憑き物が落ちて瞳の色が変わり始めた、とエイ政の未来に明るい暗示をかけているかのような台詞が印象に残りました。過酷な環境が、エイ政に躁病のような性質と並外れた才能を授けたのでしょう。

幻想レベルの大志を抱ける才能は、心の病と紙一重なのかもしれないと感じました。



帰国したエイ政の父親は、即位3年で逝去し、エイ政が王位を継承しますが、エイ政は紫夏から学んだ光(大志)の大切さを理解し、準備が出来ていたのではないでしょうか。

韓の裕福な商人だった呂不韋が現れ、元娼婦で元妾の芸妓と王の子供である13歳のエイ政を王に掲げ傀儡政権を始めたら、国内が抵抗するのもうなづける気がしました。

日本で考えると、皇太子と海外娼婦との間に隠し子が現れた後、皇太子が天皇に即位してすぐに逝去し、その子が王位を継ぎ、後見人として国外企業の資産家が絶大な政治権力をもち支配を始めたら。。王位継承権をもつ国内で生まれた皇太子も居る場合、国内の抵抗勢力が生まれてもおかしくない気がしました。

エイ政に非はありません。ただ、この状況で大志がなければ、呂不韋のようにエイ政を利用して権力を握るのでなければ、誰がエイ政を守るのでしょう。史実では数回暗殺されかけたはずで、エイ政は生き延びるだけで大変な立場。怯えず挑み自己実現を果たす奇跡を2000年以上前に起こした人でした。

昌文君は、楚の公子でしたが、兄が秦の人質にされていたようです。策略では秦一と評された秦の公女と楚王の公子である昌平君が甥という血族。彼らがエイ政を支持したのは、楚出身者の後ろ盾がいたこと、権力追求、同じ人質親族の経験もあるはずですが、大志を共有したからではないか、と思いました。

キングダムでは、誰が王であろうと関係ない、と語り家柄を重視しない奴隷の信の立場では、家柄を重視する弟よりエイ政に肩入れできます。漂を失った痛みを理解し、信の危機を救い助言し、大志により信を味方につけ、人を動かすエイ政のリーダーシップをみてとれました。

成長したエイ政は、楊端和も同じように説得し、味方や武力を身につけると、呂不韋や実母から大王の地位を取り戻し、やがてその実権を握り国内の権力を掌握します。

まず、圧倒的な時の権力者である呂不韋による暗殺を逃れると、失脚させるまで時間をかけます。次に、呂不韋と愛人関係を持ち、宦官のフリをしたロウアイと子供を作り新しい国まで建国した大后も幽閉。大后との関係が発覚した呂不韋もここで追放でした。キングダムでは、大后の子殺しを割愛していました。

国内を平定したエイ政は、6国と戦い中華を統一し志を実現しました。人が人を殺さない平和な世界の構築を掲げる大志を魅せ自身を正当化し、誰かを脅して動かすのではない方法で、人を動かしたエイ政が描かれていました。

自分の受けた虐待を暴力的に周りへやり返すのではなく、自分の受けた恩を次の世代に返す自己犠牲は、大志を共有した人との繋がりに身を結んでいて、エイ政のトラウマの回復のようだ、と考えました。



李信、キョウカイ、楊端和、王キなど、史実上の武将を元に作られていましたが、ファンタジーな面が多く、河了貂はフィクションでしたが、名言があり、役者が魅力的で見応えがありました。

脚本では、一貫して、夢を持つことの大切さを熱く訴えていて分かりやすかったです。残忍な史実を柔らかくまとめ、感動あり笑いありの娯楽作品にまとめていました。

配役・演技では、王キを誰も演じられないと思いましたが、大沢たかおさん、不自然な役柄すら自然に演じられていて驚きました。楊端和も長澤まさみさんが美しく格好良く演じられていて目立ちました。キョウカイは、今回出ておらず、これも楊端和の美しさに注目が集まった理由かもしれません。

橋本環奈さんは可愛いですが、河了貂はゆるキャラなので再現不能でした。山崎賢人さんは、わざとらしすぎる演技もありましたが、信らしく演じられていました。吉沢亮さんの漂とエイ政の演じ分けが光っていました。

映像も、よくある日本映画の不自然なCGを眺めることを恐れていましたが、見やすく美しい映像でした。エイ政が逃走中に洞窟のなかで光に包まれる神々しいシーンも素晴らしかったです。それから、左慈を演じた坂口拓さんの太刀さばきが早く、アクションも見応えがありました。

音楽では、主題歌は印象に残りましたが、壮大さに欠け、BGMがあまり耳に残らず、少し残念でした。



李信は、大将軍を目指し、100人将、300人将、1000人将、3000人将、5000人将と出世を重ねていき、戦は人数じゃない、人だという主張をしていて、これは現代ならどんな組織に当てはまるのかを考えてしまいました。

現代の日本では、自衛隊や警察以外、武力を持ちませんが、似たような組織なのでしょうか。社によって人材管理の規模は違うはずですが、企業なら10人前後の部下をもつ係長、30人前後の部下をもつ課長、100人近い部下をもつ部長が人材管理を行うはずで、キングダムに似ている、と考えました。

政治なら、地域によって差があるはずですが、国会議員は5万票程度の支持を集めているはずで、地方議員は4000票程度から1万票程度の支持を集めているのかもしれません。投票者により一票の差はありません。地盤があるかどうかの現実の方が政治家には大事かもしれません。

しかし、沢山の人が共有したい大志の重要性について、この作品では考えさせられました。現代は、どんな社の目標、マニュフェストを耳にしても、奴隷にとって王様など誰でもよい、と信が捉えたような、過剰な期待に傷つくより現実的に暮らす、冷めた時代でしょう。

戦国時代に望まれた統一と平和のように、新資本主義社会の現代における大志も、グローバル化と平和なのだろうか、と現代についてふと考えさせられる、熱気を帯びた作品でした。



【参考文献】

Psychosocial Stress, Course of Pregnancy and Pregnancy Outcomes in the Context of the Provision of Sexual Services. Simoes E, et al. Geburtshilfe Frauenheilkd. 2017.



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